特集 小学生服(2)/多様性認め合う社会へ/求められる心のケア
2020年02月18日 (火曜日)
学生服業界で、LGBT(性的少数者)への対応が求められている。大手学生服メーカーは、当事者の心のケアや制服作りなど多様性を認め合うための活動を続ける。最近では明石スクールユニフォームカンパニー(明石SUC)の取り組みに、LGBTへの対応の第一人者であるGID(性同一性障害)学会の中塚幹也理事長(岡山大学大学院保健学研究科教授)が共感。昨年末には同社の展示会に併せて講演し、周囲の理解、小学校時代からのケアが重要との視点を示している。現状の課題にはどんなものがあるのだろうか。セミナーの詳細を振り返る。
〈社会的理解は着実に進展/単一の方法では難しさも〉
中塚理事長は冒頭、LGBTの人々を受け入れる社会的な動きを紹介した。性同一性障害は2000年代はじめにその存在が取り上げられるようになり、当然ながら医療関係の世界では対応が早く進んでいる。助産師などは、12年ごろから試験で知識が求められるようになったと言う。
20年近くが経過したことで、最近では国内でも大学の入試問題に出題されるなど一般的な社会課題としての認知が高まってきている。高知では受験票に希望する性を記載することを認める動きもある。
その他、自治体が専門職員として採用するなど、着実に社会的な受け入れが進む。
ただ、単一の方法だけでは対応や理解が難しいことも事実。海外に目を向けると、米国の一部の州では公衆トイレの使用などについて議論が分かれ、保守的な州では「体の性に従って使用すべき」といった判断も出ている。こうした中、日本では大手総合ディスカウントストアのドン・キホーテ(東京都目黒区)や大阪大学などがオールジェンダートイレを設置する動きがある。
〈幼少期の対応が特に重要/教育現場の受け入れも〉
「トランスジェンダーは障害ではない」と中塚理事長は話す。性には「生物学的性」と「社会的性」の二つがあり、その間でのバランスが問題になりやすい。社会的性では周囲から“割り当てられた性”が存在し、それが心の性と一致しない場合に強い違和感を覚えることになる。
性同一性障害と同性愛・両性愛も実際は異なるものであり、性自認や性志向は十人十色で「安易にひとくくりにすべきではない」と指摘する。
独自アンケートで調査したところ、トランスジェンダーの人々は、およそ9割が小学生から中学生までに心と体の性について違和感を覚えると言う。小学生時代について9割が「人に言えなかった」、6割が「伝えなかったことを後悔した」などと回答。助けてくれる人については「いない」6割、「母」2割などの声がある。小中学校で自殺未遂を考えた人は3割超に上る。周囲の理解とサポートが必要であることを物語っている。
小中学校では、10年ごろから生徒の自認の性を尊重する動きが見られている。埼玉の小学校では1年生の男子を2年生秋から女子、鹿児島の中学校では1年生の女子を年度途中から男子として受け入れた例がある。文部科学省が同年、各都道府県教育委員会に心情などへの配慮を正式に要請したことがきっかけとなっている。
〈「普通」が一番/社会が尊重する姿勢を〉
理解や受け入れが求められる一方、トランスジェンダーの人々の苦痛を緩和するためには、状況に応じてホルモン治療などの医療行為が必要になる。中塚理事長自身も、性転換手術など体の性を心の性に近づける取り組みを進めている。
少数派とはいえ、性的少数者は全体の8・9%程度を占めるとされる。それほど小さい数字ではない。LGBTなど言葉の認知度も7割にまで高まっている。今後、精神面や医療面での幅広い対応が急務となってきている。
「日本は公表しやすい社会だろうか」。中塚理事長は疑問符を投げかけつつ、周囲の対応やLGBTの人々の存在が「普通」となり認め合える社会が重要と指摘している。
〈大手各社の取り組みは/小学校でも制服の変化が〉
小学生服市場でも、制服によってLGBTの人々に対応する動きがある。今年1月、福岡県みやま市の瀬高小学校が男女兼用のブレザーの採用と、半ズボン・スカートの選択制を発表。4月に入学する新1年生を対象とする。多様性に対するニーズを受けた取り組みが広がりを見せつつある。
大手学生服メーカーの直近の取り組みも振り返る。中高生では先行して制服のブレザー化やスラックス・スカートの選択制が進み、トンボや菅公学生服、オゴー産業がジェンダーレスな制服を提案。ユニセックス仕様で性差を感じないブレザーや、体が女性の人の着用を想定した細身のスラックスなどが投入される。
それぞれの個性を認め合うための活動も広がっている。菅公学生服はLGBTQ(Qはクエスチョン、自身の性自認や性的指向が定まっていない人々)に、GID(性同一性障害)学会への出展などで対応。意見交換やアンケートによって、制服作りに期待することなどを調査している。
明石SUCは、当事者の「心のケア」を前提として寄り添う。日本セクシャルマイノリティ協会とフレンドリー契約を結び、「レインボーサポート」を進める。研修を受けた全国30人の専任スタッフ「レインボーサポーター」が各教育現場のニーズを抽出し、課題に対応。状況によってはオーダーメードの制服も生産する。