特集 染色加工(4)/厳しい環境を乗り切る各社の戦略
2019年08月30日 (金曜日)
〈引き続き生産体制整備/ナイロンムラ染め好評/みづほ興業〉
染色整理加工のみづほ興業(愛知県一宮市)は引き続き、生産体制の整備に取り組む。
今期(2020年2月期)は洗絨(じゅう)機と、小ロット対応の樹脂加工機をそれぞれ1台増設し、今秋にはイタリア製の風合い加工機を1台導入するが、来期は「省エネよりも省人化を重視した」(水谷吉孝副社長)設備投資を検討する。
省人化対策としては洗絨機2、3台の増設を検討するとともに、品質向上を図るため、検査装置の導入も視野に入れる。昨年導入した薬剤の自動投入装置の拡充も検討する。
今期は水流縮絨で毛織物をフェルト化し、繊維間の空間を多く作ることで、軽くてボリューム感のある風合いを実現する「リファイン」加工が好調。ウールガーゼへの加工が増加傾向にある。
一方、自然なむら染めで単色から複数色まで配色ができる「アーバン」加工はテキスタイルを自主販売するインパナ事業を中心に引き合いが活発化。これまではウールだけだったが、昨年から投入したナイロン100%使いが好評を得ている。
〈生産の効率化へまい進/工程の改善や見直しを/東海染工浜松事業所〉
東海染工浜松事業所は積極的な設備投資を進めながら、生産工程の改善や見直しを実施する。人材確保が難しい中、生産の効率化を推し進めることで、工場の稼働や回転を高める。
水洗能力不足を補うためインドネシア子会社にある水洗漕を1台移設。さらに、無駄な工程を省くため、1度水洗した生地に余分な染料が残ってないかをチェックするセンサーも導入した。
今後も生産性を突き詰めていく方針で、八代健太郎事業所長は「後ろの工程から改善していくことで、前の工程の課題が見える。そうやって効率化や能力の向上を図っていきたい」と語る。
さまざまな加工も開発している。「現代加工」は表面に光沢と滑らかさがあり、ハリのある軽さや反発感を表現した合繊ライクな風合いが特徴。綿100%や綿混の生地に対応する。
「ボリビア」は特殊加工処理で生地を縮絨(じゅう)させ脱脂・塩縮調のドライ感を出した。もみ込むことで硬すぎず、適度なハリコシを残したままナチュラルに仕上げた新感覚の加工だ。
〈豊富な起毛技術そろえる/素材、用途、季節問わず/田所起毛〉
田所起毛(愛知県西尾市)は起毛加工のパイオニア的存在で、バリエーション豊かな起毛をそろえる。顧客から評価の高い「ハイクール」や「ハイポリ」などがあり、あらゆる素材や用途、シーズンに対応する。
ハイクールはペーパーとブラシで糸一本一本に磨きをかけることで、光沢感や柔らかな風合い、独特のドレープ性を実現する。天然繊維や合繊などの素材を問わず対応できるのも特徴だ。
そのため、インナーはもちろん、アウターやボトムまでさまざまなアイテムに使える。薄地への加工が中心だが、裏側に針布起毛を施すことで秋冬素材としても使えるため、オールシーズン対応の加工だ。
ハイポリは生地の表面を磨くことで上品な光沢と滑らかさを表す加工で、厚手から中肉までの生地に対応する。秋冬向けが中心で、こちらも顧客からの人気が高い加工だ。
これらの加工は同社オリジナルの設備を生かすことで実現。針布起毛機は高密度な針を使用することにより生地を傷めず、ち密な起毛を施すことができる。
〈高齢化で人材確保に注力/来夏リクルート事務所開設/艶栄工業〉
艶栄工業(愛知県蒲郡市)は生産現場での高齢が進んでいることから、人材の確保に力を入れている。来年夏ごろをめどに東北地方に2カ所目のリクルート事務所を開設する方針を示す。
カーテン地に独特の膨らみ感を付与する「SHS加工」の人気が続いているため、一定水準の受注は確保できている。ただ、従業員の高齢化が著しく、嶋田義男社長は「現場の力が落ちており、思うように売り上げを作れないでいる」と述べる。
リクルート事務所は青森、秋田、岩手県にある高校の新卒を対象にリクルート活動を展開する。3年前には九州にもリクルート事務所を開設しており、嶋田社長自らが地元の高校を回るなどして若い人材の確保を進めてきた。
今期(2019年11月期)は減収減益と見通す。人材不足による生産性の低下をはじめ、染料や原燃料費、物流費などのコスト高が影響した。中でも染料の高騰が響いているため、加工料金の改定を進めている。今期は5カ年計画の初年度で、最終年度は12億円の売上高を目指す。
〈ピークに合わせた体制/基本の納期対応強化/艶清興業〉
ポリエステル・レーヨン混織物の染色加工を主力とする、艶清興業(愛知県一宮市)は、受注の山谷が大きくなる中で「顧客から求められる品質安定や納期対応」(大島清司社長)に力を入れる。そのために設備の増強や更新を行い、受注のピーク時に合わせた生産体制を整備する。新鋭機導入による効率化も図る。
2020年3月期は「省エネルギー投資促進に向けた支援補助金」も得て、排熱回収システムなど省エネ設備も導入。8月から稼働させている。
19秋冬向けは早くから指図が入り、昨シーズンよりも堅調に推移したものの「期中での追加がなく、昨シーズンよりも早くに終了しそう」とみる。これによって受注の山谷がさらに大きくなっており「その傾向が今後も強まる」と分析する。その中で基本とする品質安定や納期に対応するために生産能力を整える考えだ。
同社は婦人ファッション衣料向けが主力。ポリエステル・レーヨン混によるストレッチ織物の加工など「3者混、4者混による複合素材の手間暇かけたモノ作りを行う」点に特徴がある。
〈段落ち抜染で技術発信/商品イメージ提示で市場開拓/山陽染工〉
山陽染工(広島県福山市)は、強みのインディゴ染め段落ち抜染で技術の発信力を高め、新たな市場を開拓する。「抜染=山陽染工のイメージを広げる」(戸板一平取締役)考えで、トートバッグやスニーカーなど「具体的な形にすることで、製品に生かすイメージを提示する」。
部分的に色の抜け具合を変えることで濃淡を付け、味わいのある模様を表現できることが段落ち抜染の魅力。昨年のクラウドファンディングで段落ち抜染のスニーカーが目標金額を大きく上回る資金を集めるなど手応えを得たことから、製品ブランド「バッセンワークス」で推し進める。
7月15日にオープンした福山市のモノ作りブランド「ザ・フラッグ・シップス」の常設店では、段落ち抜染の商品を販売。参加する11の企業が各社持ち回りで月に3、4回ほど販売を担当しており、戸板取締役も商社との売り方の共有などを通して「(B2Cのみならず)B2Bのきっかけにもなれば」と話す。
近年は需要の増減が激しく、月ごとの繁忙・閑散の波も大きくなっている。同社は、中国紡織(同)や山陽染工児島ファクトリー(岡山県倉敷市)などグループ間の連携・設備導入、他社との技術協力も進めており、その努力が実って加工量は比較的安定しているが、技術力で新たな受注を確保する。
今後、自社のインターネットサイトでの販売や、「ミラノ・ウニカ」への継続的な出展による販路拡大も図る。
〈天然繊維に機能を付与/サステの加工として注目/鈴木晒整理〉
鈴木晒整理(浜松市)は天然繊維に合繊の機能を付与した加工の開発を続けている。世界的にサステイナビリティー(持続可能性)の声が高まる中、潮流に合った加工に注目が集まる。
同社は10年以上前から天然繊維への機能加工を手掛けてきた。これまでにもさまざまな機能加工を開発しており、国内はもちろん海外からの実績も出来始めている。
防シワ加工の「クリーズケア」はイージーケア性やW&W性に加え、シワの回復率向上、速乾性といった機能性を備える人気の加工。綿をはじめとしたセルロース系繊維に対応する。
アレルゲンを沈静化する効果がある加工「アレルアタック」は生地の表面に花粉やハウスダストなどが付着すると、アレルギー反応を引き起こさない性質に瞬時に変化させることができる。寝装品やインテリア向けなどにも訴求しており、現在この加工を施したマスクも開発中だ。
ほかにも水分と反応して涼感を付与する「ニュー・クールマスター」などもそろえており、中国語版のパンフレットも作成し提案を強めている。
〈長年培った技術が強み/染料高騰 生産性の向上を/日本形染〉
日本形染(浜松市)は創業100年以上の歴史を誇り、長年培った技術でさまざまなプリント加工を手掛けている。染料価格の高騰などで苦戦するが、その対策として生産工程の地道な見直しを進め生産性の向上を図る。
1900年創業で当初から綿を中心とした天然繊維へのプリントを手掛けきた。新たな加工の開発や従業員のモチベーションアップを目的に近年は自販も手掛ける。遠州の生地デザイナーとコラボするなどして“オール遠州”のモノ作りを訴求している。
自販に合わせ3年前からは展示会「プレミアム・テキスタイル・ジャパン」にも出展。最近では柄に透明感と凹凸感を付与する「オーガンジーワッフル加工」が人気だ。元々あった「オーガンジー加工」と「ワッフル加工」を組み合わせた。
現況はここ数年続く染料高騰が利益を圧迫しており、加工料金の改定を進めるも、価格はそれを上回るスピードで上昇。生産性向上を図るため、柄を変える時の段取りの時間を短縮するなどして地道な取り組みを進める。
〈広幅メディア開発/コーテック〉
インテリア、産業資材、不織布などの染色加工を行うコーテック(岐阜県大垣市)は、広幅(180センチ)の両面インクジェット捺染による織物メディア(屋外広告)を開発した。
初出展する「第61回サイン&ディスプレイショウ」(29、30日、東京ビッグサイト青海展示棟Aホール)で「来場者の反応を探り、自主販売に結び付けたい」(小野浩一常務)と言う。
出展を通じて知名度の向上を図り、現状4~5%にとどまる自販比率の引き上げを目指す。
〈独自染色技術を海外へ/設備の増強も推進/川合染工場〉
製品染色の川合染工場(東京都墨田区)は、独自の染色技法である「東炊き染」を世界に広げる。生地商社との連携を深め、米国や中国企業への提案を行う。国内では独特の風合いなどが評価を得て、2013年に生産を開始して以来安定した受注を得ており、海外アパレルなどからも受け入れられるとみる。
東炊き染は、江戸時代に「釜入れ」と呼ばれていた技法を再現したもの。釜入れは、五右衛門風呂(釜)に石灰や植物あくを混ぜて炊きながら生地を染める技法で、独特の柔らかな風合いなどが表現できる。「古い文献を調べるなど、試行錯誤を重ねることで再現に成功」(川合創記男代表取締役)した。
同社は丸編み製品の染色・加工をメインとする企業だが、東炊き染は布帛の染めが主体となり、リネンなどの天然繊維を中心にさまざまな織物に対応する。婦人のワンピースやブラウス、スカートなどの用途で安定した受注を獲得し、国内の有名ブランドにも採用されている。
海外への提案を強めるが、本格的な受注に応えられるよう、生産能力を増やす。東炊き染の日産能力は現状約千㍍だが、1500㍍に強化する。9月上旬に一部設備を入れ替えるほか、協力工場の活用も進める。海外企業からの注文はまだないが積極的に伸ばす。
〈販路拡大が成長戦略の柱/海外市場への進出も視野/内田染工場〉
製品染めを主体に事業を展開する内田染工場(東京都文京区)は、販路拡大を戦略の柱に据える。国内既存顧客との商売を継続強化するのと並行して、メインであるアパレル以外の売り先の開拓にも乗り出す。これらによって持続的成長につなげる考えで、海外市場への進出も視野に入れている。
製品の染色・加工が売り上げ全体の約90%を占める。ビンテージ調の表現が可能な加工と染めの組み合わせ、グラデーション染めのバリエーションが人気を獲得しているほか、数年前に導入したコンピューターカラーマッチングシステムによる迅速で正確な対応が評価を集めている。
国内展開ではボールウオッシュ機などの保有設備を生かした提案を進めるほか、「染色関連で新規の設備投資も検討」(内田光治代表取締役)の段階に入っている。環境対応にも積極的に取り組む構えで、草木染めなどの積極提案のほか、排水装置も拡充する。
国内だけでなく、海外市場への進出も狙うとし、今秋に上海で開催される展示会に参加する。単独出展ではなく、関係省庁らが構える合同ブースに名を連ねる。海外の展示会での商材披露は2回目となり、今回は「someーzome(そめぞめ)」の商品を厳選して提案する。
〈海外縫製品の染め強化/仏・伊の開拓に力注ぐ/大染〉
製品染色を主力とする大染(東京都墨田区)は、海外縫製品の染めを拡大する。国内縫製の大きな回復が見込めない中で事業を成長させるには、「海外縫製品を積極的に取り込む必要がある」(大屋實代表取締役)と捉えているため。日本企業が海外で生産している縫製品の活用が先行しているが、今後は欧州企業の開拓にも力を入れる。
丸編み製品と布帛製品、一部横編み製品の染色を手掛ける。国内の縫製拠点の疲弊が続いており、海外縫製品の扱いを積極的に増やす。日本企業以外では、韓国企業との取り組みが増えているが、「日本市場向けの布帛シャツを染めている」と言う。こうした取り組みをフランスやイタリアの企業にも広げる。
顧客獲得のための施策の一つとして、イタリア・フィレンツェで開催される国際見本市「ピッティ・イマジネ・ウオモ」(20年1月展)への出展を検討中で、生地商社や縫製企業と連携して、“加工感”が出やすい製品を作る。東京ニットファッション工業組合の合同ブースに参加する。
海外縫製品拡充を含めた成長戦略の一環では設備投資も進める。生産能力拡大のため、今年1月に愛知県一宮市の製缶鈑金企業が展開するパドル染色機を2台導入し、20台体制にした。ボイラーも取り替える。
〈岡山県織物染色工業 協同組合理事長 篠原 功一 氏/倉敷染のサプライチェーンを〉
染色加工ブランド「倉敷染」を、国内産地の組合として初めて安全基準を軸に展開する岡山県織物染色工業協同組合。2018年4月の発足当初から倉敷染推進委員会の委員長を務める堀江染工(岡山県倉敷市)の篠原功一社長は、今年5月に組合理事長にも就任。世界の要求水準が高まる中、組合の方針と倉敷染のアピールについて聞いた。
◇
――理事長就任の経緯を教えてください。
理事長を2期4年務められたニッセンファクトリー(倉敷市)の難波眞社長からバトンを引き継ぎ、組合と委員会を並行して運営し効率化することになりました。ブランドが始まって1年、一層の普及に努力していきます。
――委員会内部の取り組みはどうですか。
今年から委員会6社で広報・サプライチェーン構築・個社の方針を協議し、倉敷染のマイスター制度も始めました。3カ月に1度、各社の染色技術者が品質向上の議論をしています。制度では管理をブラッシュアップさせ、3カ月に1度の検査で問題に対処しています。
――普及のための活動状況は。
地道な周知に努めています。カジュアルではSDGs(持続可能な開発目標)の潮流が強まるものの、国内アパレルはコスト増大などを理由に全体的に腰が重いです。ユニフォームでは企業のCSR活動の一環として安全性の高い製品が求められ、倉敷染に対する関心も高まっています。
倉敷染の「安心・安全」の要素に「エコ」を追加、有害物質が入っていない染料や薬剤を使用し、環境負荷低減をうたいます。11月には国内最大のテキスタイル見本市「JFWジャパン・クリエーション」(JFW―JC)に組合で出展しますが、「セーフティ&エコ」としてブランドイメージをリニューアルしていきます。
――今後の展望はいかがですか。
SDGsがアパレル業界で進められるには、2、3年は必要。ただ、欧米の意識の高まりを受けて、国内でも取り組みが始まっています。将来は生地から製品まで一連のSDGsに関するサプライチェーン構築を進め、海外の展示会への出展も検討、活動を広げます。
〈展開商品の幅に広がりニットも提案可能に/「some―zome」〉
日本のニット産業を支えてきた東京都の染色加工場が共同で立ち上げた「そめぞめ(some―zome)」が次のステージに進む。吉田染工(和歌山県紀の川市)が新たにメンバーに加わったことで横編み製品の提案が可能になり、展開の幅が広がった。今後も一層の成長に向けた取り組みを加速する。
そめぞめは、東京都内の染色加工場(内田染工場、川合染工場、黒沼染工場、大染)が共同で作ったブランド。日本製の肌触りの良い生地や縫製品を、「江戸」をテーマにした和モダンなデザインに仕上げている。「すみだモダン」2016認証ブランドにも選ばれた。
ブランドの発信は定期的に行っている。毎年、東京都墨田区の東京ソラマチ・すみだまち処で「そめぞめ展」を開催しており、今年も6月に実施した。これまでの展示・販売はTシャツやワンピース、ストールなどがメインだったが、今回から横編み製品も加わった。
東京に事務所を構えた吉田染工がメンバーに入ったことで実現した。同社が持つ「ホールガーメント」(WG)横編み機で編み立てた製品を、内田染工場が染め上げた。内田染工場の内田光治代表取締役は「WG製品を染めたことはなかったが、問題はなかった。新たな商材として展開を増やせれば」と今後の可能性を示唆した。