2019年回顧

2019年12月24日 (火曜日)

〈紡績/深刻になった業績の低迷/SDGsに向けた可能性/革新プロセス登場に期待〉

 2019年は紡績にとって厳しい1年だった。繊維事業の業績低迷が一段と深刻になった。一方、SDGs(持続可能な開発目標)など新しい潮流の中で可能性を感じさせる明るい兆しも見える。

 紡績の19年4~9月期決算は繊維事業の低迷が深刻となり、繊維事業で営業赤字を計上する企業も相次いだ。糸・生地販売とも衣料品市況が低迷する中、カジュアル分野は海外企業との競争激化などが苦戦の背景にある。ユニフォームなど比較的安定した用途でも流通在庫の調整から一時的に勢いが鈍化し、染料・薬剤高騰などによるコストアップも響いた。

 一方、明るい兆しも見えた1年だった。世界的にSDGsやサステイナビリティー(持続可能性)への要求が高まる中、“脱プラスチック”の一つの方法として天然繊維や再生セルロース繊維の良さを見直す機運が高まっている。こうした流れを受け、クラボウ「ループラス」など裁断くずや廃棄綿布を反毛などで繊維原料に再利用する取り組みが本格化した。アパレルも加わり、サプライチェーンで繊維リサイクル・アップサイクルのサーキュラーエコノミー(循環経済)を作り上げようとする。

 革新的な生産プロセスも開発された。ダイワボウレーヨンは綿製古着や裁断くずをレーヨンの原料として再利用することに取り組み、オーミケンシは廃棄紙製品をレーヨン原料として再利用する構想が進む。

 染色加工でもダイワボウノイがカセイソーダ非使用の加工プロセスを開発するなど環境負荷低減への取り組みが加速した。こうした新しい技術が事業構造を再構築する鍵となる。

〈合繊/繊維減速が鮮明に/続々とサステ企画/エアバッグで布石相次ぐ〉

 景気後退の影響が顕著に現れた2019年度4~9月期の連結決算。19年3月期では、12月期決算のクラレを含む6社が増収を確保していたものの、当期は増収の旭化成、前年並みの帝人、東洋紡に対して、東レ、ユニチカ、クラレが減収と明暗が分かれる決算となった。国内の消費低迷や米中貿易摩擦の影響などで繊維事業でも減速傾向が鮮明になっており、各社は業績回復を目指したテコ入れを急いでいる。

 19年度、特徴的だったのは再生ポリエステルを中心とするサステイナビリティー(持続可能性)に配慮した素材、企画を浸透させようとする各社の取り組み。

 ユニチカトレーディングは「エコフレンドリー」をラインアップ。東レはトレーサビリティー(追跡可能性)にもこだわって開発した「アンドプラス」を繊維トータルの事業ブランドとして訴求する。帝人フロンティアは「エコペット」などエコ素材の占める比率を20年度で倍増させる。

 東洋紡STCはバイオ由来の原料から製造する「エコールクラブ・バイオ」、生分解性素材「ダース」を総合展で披露。クラレトレーディングは部分バイオ「バイオベース」を開発した。

 三菱ケミカルは「ソアロン」を、旭化成は「ベンベルグ」を前面に展開。旭化成アドバンスはエコ素材を集約した新ブランド「エコセンサー」の販売をスタートさせた。

 一方、非衣料・資材のゾーンでは右肩上がりを続けてきたエアバッグ事業が踊り場に。しかし、中長期的な需要増を前提に各社は次の飛躍をにらんだ対策を講じており、川下志向を強める東レ、旭化成はエアバッグの縫製事業にも進出。東洋紡はタイ・インドラマとの合弁で原糸工場を海外に建設する準備を進めている。

〈商社/サステ素材が定着/デジタル化対応が加速/進むOEMの構造改革〉

 商社にとって2019年は、サステイナビリティー(持続可能性)の取り組みが定着した年となった。一過性のブームに終わることを懸念する声も聞かれるが、欧米では取引の必須条件とされる現状を見れば、国内のアパレル業界を挙げて今後も取り組みを継続しなければならない。

 商社各社は展示会でも、リサイクル品を活用したり、環境負荷を低減する製法を取り入れた素材を強く打ち出した。蝶理は「もはやサステイナブル(持続可能な)素材は標準装備」と言い切る。

 豊島は、素材作りに対するサステイナブルな姿勢を「MY WILL(マイ・ウィル)」という言葉で表現した。WWF(世界自然保護基金)とも連携し、サステイナブル素材をサプライチェーン全体に浸透させる。

 デジタル化への対応が加速した年でもあり、商社の投資案件からもそうした状況が見て取れる。OEMの高度化を図りながら、新しいビジネスを模索する。

 伊藤忠商事は、会員制オンラインブティック「ミレポルテ」を運営するB4F(東京都渋谷区)、AI(人工知能)採寸技術「ワン・メジャー」を持つ中国・深センのTOZIテクノロジーと資本・業務提携契約を締結した。

 日鉄物産は、オンラインフィッティングサービスのメイキップ(東京都新宿区)や衣料生産プラットフォームのシタテル(熊本市)に出資した。

 主力のOEM事業については、構造改革を進める動きが目立った。伊藤忠商事は「主導権を持った原料起点のバリューチェーンの構築」を基本方針に投資を実施。蝶理は、受注先を絞り込みながら、作り場の集約に取り組む。

〈生地商社/販売数量は総じて低迷/海外販路開拓も“踊り場”/サステ潮流さらに強まる〉

 生地商社の2019年は、アパレル不況を背景に総じて苦戦を強いられた。一部を除き、主要生地商社の生地販売数量は落ち込み、伴って国内産地や染色加工場への発注数量も一気に減少。多くの産地で「19秋冬向け、20春夏向けの受注が激減」といった声が聞かれたのは、アパレルが店頭の低迷を理由に製品作りを控えたことに連動して生地商社の販売数量が減ったことが影響している。

 ここ数年明るい材料の一つだった海外販路開拓も、踊り場の様相となった。ドイツを筆頭に欧州全体のアパレル景気が冷え込み、百貨店の廃業・倒産が相次いだ米国向けも、全ての販路というわけではないが、苦戦を強いられた。

 資材やユニフォームなどファッション衣料以外の販路で業績を伸長させた生地商社や、柴屋(大阪市中央区)や川越政(同)のように開発商品の感度を高め、小回りを利かせて売り上げを拡大し続ける例もあるが、ほとんどの生地商社の19年は国内、輸出の両方で厳しい年だった。

 サステイナビリティー(持続可能性)の打ち出しが一気に強まった年でもあった。個展や総合展でこの切り口を訴求しない生地商社は皆無で、再生ポリエステル、同ナイロン、オーガニックコットン、和紙使い、天然由来染料、フッ素フリー撥水(はっすい)といった商品面からのアプローチが相次いだ。

 市場への浸透にはまだもう少しの時間を要するようで、「実際の販売は来年からか」といった声が出る。「価格面がネック」という指摘も多く、物流費、人件費、原燃料費などの上昇と合わせ、コスト問題の解消が今後の浸透の鍵を握りそうだ。