2019年秋季総合特集Ⅳ(1)/サプライチェーン再構築への挑戦

2019年10月31日 (木曜日)

〈辰巳織布/連携の力を海外に披露〉

 大阪南部綿織物産地の織布企業、辰巳織布(大阪府岸和田市)は以前から、染色加工の発注まで自ら采配する生地自主販売の一環で、他産地企業や染色加工場などとの連携に力を入れてきた。「2017年度補正・ものづくりサプライチェーン再構築支援事業」に採択され、補助金を受けて進めたのが、多岐にわたるモノ作り企業との連携による商品開発と、それを披露する場としての海外服地見本市への出展だ。

 事業名にあるように、同事業の趣旨は、他社との連携によりサプライチェーンを再構築するというもの。辰巳織布の事業案に名を連ねたのは、石原撚糸、のりつけや、東海染工、岐セン、東松織物整経、艶清興業、三陽染工児島ファクトリー、旭化成アドバンス、三菱ケミカル、丸辺繊維、村瀬整経、大長、東北精練、みづほ興業、東播染工という面々。

 「チームJ」の一員としてコラボレーションしていた東海染工など以前から取引のある企業もあれば、同事業で初めて協業した企業もあった。辰巳雅美社長は同事業の趣旨である「モノ作りの幅を広げる」という点で「成果があった」と振り返る。

 協業によりさまざまな生地見本を数十点作った。一般的に中小の織布企業が自らの意思でサンプル反を作る機会はほとんどなく、作ったとしても費用がかさむためその点数は多くはならない。今回は補助金を得たことで「思い切った発想で数多くのサンプル反を作ることができた」。

 披露の場に選んだのは、19年1月の「ジェトロ・ニューヨーク(NY)展」と、2月の「ミラノ・ウニカ」(MU)。直接的な補助は受けていないが、その勢いで3月の「インターテキスタイル上海アパレルファブリックス」にも自前で出展した。

 ジェトロNY展とMUでは実際の成果も出た。ロットは小さいながら成約にも至り、今後の大ロット成約にも期待がかかる。

 辰巳社長は「産地企業が生き残るには連携しかない。その点で、時間の制約があるとはいえ補助事業は非常に有効」と話す。今夏には連携をキーワードにした別の補助事業の採択も受けた。品質安定性や開発力、納期管理といった自社の機能を磨きつつ、今後も連携やサプライチェーン構築に力を入れ、将来を開く。

〈播「ブルールーム」/究極の“日本製”海外へ〉

 播州織産地の播(兵庫県西脇市)は尾州、遠州、児島の各産地と共同で立ち上げたテキスタイルプロジェクト「ブルールーム」に参画する。毛織物の尾州の御幸毛織(名古屋市西区)、綿織物の遠州の成和第一産業(浜松市)、そして綿先染め織物の播州の播の3社で構成する。児島産地はロープ染色で協力する。

 立ち上げのきっかけとなったのは3社と取引関係にあったフリーデザイナーの野田仁氏から「産地の力を集結して、究極の“メード・イン・ジャパン”の生地ブランドを作り海外進出を目指そう」と持ち掛けられたこと。

 その第1弾がセルビッヂに特化したファブリックブランド「Mr.33」だ。Mr.33では播州が20品番、尾州が18品番、遠州が12品番、児島が2品番を展開。その中には染色は播州、織布は遠州といった“コラボ素材”も数多くある。

 2018年11月の「プレミアムテキスタイルジャパン2019秋冬」で初めて単独でブースを構え、産声を上げた。今年2月に「ミラノ・ウニカ」に初出展、7月も継続出展した。初回は着分オーダーのみだったが、2回目ではセルビッヂコーデュロイなどで少しずつビジネスに育ちつつある。

 今後も威風を感じさせる、日本の伝統色を持ったテイストを維持しながら、アパレル製品用途だけでなくソファーなどインテリア向けの素材開発や製品提案も視野に入れる。現在のコレクションではシャトル織機を使った高価格帯しか提案できないため、経年変化を価値とした新たなテキスタイルも開発している。

 播でこのプロジェクトを担当する笹倉健二さんは、「横のつながりをさらに増やし、新たなサプライチェーンを構築したい」と話し、これからさらに異業種も含め“日本製”を強みとする企業に参画を呼び掛ける方針だ。

〈ニイヨンイチ/社内改革で生産性向上〉

 ジーンズカジュアル製品OEMのニイヨンイチ(岡山県倉敷市)は、2017年に「ものづくりサプライチェーン再構築支援事業」に採択され、著名ファッションブランドとのコラボレーションなどに継続的に取り組んでいる。

 ブランドとの協業では「オーダーに対して採算ラインに乗らなかったり、永続性がなく単発案件だったりと困難も多い」(藤井英一社長)が、工場の中身を強化することの必要性に改めて気付かされるなど、現在推進する事業改革へつながっている。

 昨年12月に、別会社で縫製工場のスラッシュエイト(倉敷市)内に本社業務を移し、事業運営を一体化させた。自動車会社の技術者を顧問として招き、外注部分の内製化や多能工化を進めたことで、想定以上に効率化が進展。短納期で適時適量による生産の仕組みも確立できつつあり、生産性が大きく向上した。

 縫製OEMもボトムが主体だったが、バッグや雑貨などの生産も増やし、多品種小ロットに対応しながら生産力を高めている。縫製担当の従業員を7人、来春には新卒を3人採用し、さらに生産体制の強化を図る。

 大手を中心に取引先が増えるとともに、既存の取引先でも「サンプル依頼を増やしてくれるケースも出てきた」。前期(2019年7月期)の売り上げの半分に当たる受注を9月半ばの時点で獲得するなど、事業改革が奏功している。

 今後もブランドとの協業によってサプライチェーン構築に取り組んでいくが、「当社と考え方のベクトルが一致し、ブランド価値を互いに高められる企業と取り組む」。縫製とは違う技術開発や、これまでと違った分野でのウエア開発も進めながら売り上げにつなげる。