2019年秋季総合特集Ⅲ(9)/トップインタビュー 東洋紡STC/衣料のシーズを産資にも/東洋紡取締役兼常務執行役員 繊維機能材部門の統括 東洋紡STC 社長 西山 重雄 氏/下半期からの挽回

2019年10月30日 (水曜日)

 中期4カ年計画の2年目となる2019年度は4~6月期決算で苦戦を強いられた。しかし、元々春夏型の事業構造をしているため、下半期での挽回に手応えを示しており、機能素材の糸売り、生地売りで巻き返しに乗り出している。長く低迷した中東輸出の底打ちに伴い、紡織加工のいずれをも既にフル操業に回復させたと言う。出遅れた感のあったエコ素材の取り組みにおいては、バイオ素材を投入し、来年度からの新組織設立の準備を急いでいる。下半期以降の取り組みを聞いた。

  ――日本の繊維産業のポテンシャルはどこにあるとお考えですか。

 ユーザーから要求されるさまざまなニーズに応えられるシーズ、商品開発力が日本の繊維産業の強みではないでしょうか。これは繊維に限らず、日本の産業全般がもつ特有の強みだと思います。われわれはこれまで衣料繊維を中心に数多くの高機能素材を開発してきました。これからは、衣料で培ってきたシーズを非衣料や産業資材のような領域へ横展開していくことが日本の強みをさらに顕在化することにつながるのでは、と考えています。

 当社の富山事業所では、既に生産量全体の3分の1を衣料繊維以外の領域にシフトしました。当社は中国やインドに協力工場を構えており、海外の技術者がよく富山事業所の視察に訪れます。彼らが一様に感心するのは、買った状態のままのマシンが1台も存在していないことです。富山には独自の改造を加えたマシンしかありません。これらが当社独自の素材群を生み出してきました。こういうノウハウを非衣料や産業資材といった領域へも横展開することができれば、まだまだポテンシャルを発揮できると思います。

  ――2019年度上半期の業績見通しは。

 ユーザー側の在庫調整の影響などでちょっとしんどい、というのが正直なところです。特に昨年は好調だったユニフォームの荷動きが鈍くなってきました。東洋紡STCの売り上げは何とか前年並みになりそうですが、利益面で苦戦を強いられました。

  ――サステイナビリティー(持続可能性)への関心がますます高まっています。

 先に行われた「インターテキスタイル上海」はエコ素材一辺倒の様相を呈していました。当社はペット再生ポリエステル「エコールクラブ」をかなり前から販売してきましたが、ここに来て火を噴いているというのが実態です。

 しかし、リサイクル素材の生産には相応のコストがかかります。このコストアップを皆さんで分かち合うという形にもっていかないと、一過性のブームで終わってしまうのでは、と私は懸念しています。

 「エコールクラブ」では、バイオ由来の原料から生産するバイオポリエステル「エコールクラブ・バイオ」の販売を20秋冬から開始します。生分解性素材の販売も検討しており、外部から調達する原料を当社が糸にして、ユニフォーム向けなどにテキスタイルで販売していくことになりそうです。

  ――かねて検討していたサステイナビリティーに関する全社的な取り組みは。

 これまでは各部門がそれぞれで取り組んできたサステイナビリティーに関わる取り組みを統合し、新しい形で強化していくための準備を進めています。もちろん、これまでも力を入れてきたわけですが、もっと横方向に広がりをもたせることができる新しいやり方で研究開発に取り組んでいきます。

  ――下半期をどうみていますか。

 上半期の苦戦を挽回できると考えています。なによりも市況低迷が続いたトーブの復活が大きい。中東輸出の市況は既に底を打ち、回復基調へと転じています。年内の成約は既に取れており、トーブの紡織加工をいずれもフル生産へと転換しました。

 ユニフォームでは、大型の別注案件に向けたデリバリーが始まっています。スポーツでは、重要顧客に対する戦略素材群の販売が滑り出しました。あるユーザーが採用してくれたアスレ向けの素材がブランド横断型の大型素材に成長してくれそうです。インナーはかつての苦戦からは脱却し、中国の富裕層をターゲットとする量を追わない取り組みが伸びてきました。

  ――ウエアラブル「ココミ」の最近の状況は。

 当社は競走馬向けから「ココミ」の販売をスタートさせた関係で、今も動物中心に展開しています。家畜やペットをターゲットとする取り組みにも力を入れています。先日は、三重県の鈴鹿サーキットで行われた自転車のロードレースでサンプルを配布したり、ある大学との連携でオリンピック強化選手のようなアスリートを対象とするデータ収集も進めたりしています。「ココミ」は社長直轄のプロジェクトでもありますし、早く軌道に乗せたいと思います。

  ――海外展開については。

 旧・新興産業時代から懇意にしてきたバルドマンとの関係を深めていきたい。かつてはバルドマンから糸を買って、新興産業が日本国内で販売していました。バルドマンは現地の富裕層狙いの販促に意欲を示しています。富裕層の需要がどのくらいあるのかは分かりませんが、人口が十数億人の国家ですから、頂点ゾーンだけでもかなりの量を期待できます。当社からもちこんだ高機能糸や改質原綿で特化素材を開発する取り組みを本格的にスタートさせました。売り上げにつながってくるのは少し先の話になりますが、いずれは当社がインド国内で販売するオペレーションを検討していきます。

〈私のリフレッシュ法/早寝・超早起きが習慣に〉

 最近は「早寝、超早起きを心掛けている」という。普段は午後9時に就寝。土曜日は午後7時くらいになると「眠くなってくる」。翌日は午前3~4時に起床。コーヒーを飲みパンを食べながら本や新聞を読んだり、散歩に行ったり……。「ゴルフがある時は家で素振り」をして本番に備えるのだという。静寂に包まれた早朝のひと時がもたらす落ち着いた時間を楽しんでいる。「一人で静かに集中できる時間は何よりのリフレッシュになる」と西山さん、健康や仕事にも好影響をもたらしているようだ。

〔略歴〕

 にしやま・しげお 1983年4月東洋紡績(現・東洋紡)入社。2014年4月参与繊維生産・技術総括部長兼テキスタイル生産技術・開発部長及び東洋紡STCへ出向、16年4月参与繊維生産技術総括部長兼テキスタイル生産技術・開発部長及び東洋紡STCへ出向、17年4月執行役員、18年6月取締役兼執行役員、19年4月取締役兼常務執行役員。