2019年秋季総合特集Ⅱ(6)/トップインタビュー 三菱ケミカル/課題解決型のビジネスモデルが必須/執行役員 高機能成形材料部門 繊維本部 繊維素材事業部長 河﨑 隆雄 氏/中国Tモールとのコ

2019年10月29日 (火曜日)

 三菱ケミカルの繊維素材事業部は2019年度上半期、「ソアロン」で苦戦を強いられ、「ボンネル」「パイレン」も伸び悩んだという。しかし、中国市場で「ソアロン」の認知が進み対中輸出が拡大基調にあるほか、「ボンネル」で中国内需開拓のため、電子モールとのコラボに乗り出した。「パイレン」ではナイロンに次いで、このほどポリエチレンもラインアップ。先を見据えた取り組みが着々と進んでいる。河﨑隆雄執行役員繊維素材事業部長に下半期の見通し、当面の戦略を聞いた。

  ――日本の繊維産業が持つ潜在力はどこにあるとお考えですか。

 ありきたりに言うと、技術力であり高品質、高機能素材の開発力ではないでしょうか。これは加工技術も含めてです。しかし、これからの時代はいい素材の提供だけでは不十分です。素材の特性を生かし、社会の課題解決につながるビジネスモデルをいかに構築できるかにかかってくるのではないでしょうか。

 社会が抱える大きな課題の一つにサステイナビリティー(持続可能性)があります。サステイナビリティーに貢献できるビジネスモデル作りをいろいろと検討している段階で、当社単独で取り組みますし、さまざまな企業と連携するケースも考えています。

  ――上半期の業況はいかがでしたか。

 トリアセテート「ソアロン」では、国内外とも上半期は多少の苦戦を強いられました。中国向けは引き続き順調に推移しましたが、中東や欧州連合(EU)向けがもうひとつで、輸出トータルは伸び悩みました。

 先日のインターテキスタイル上海の当社ブースには多くの来場者が訪れ、入場制限をするくらいの大盛況でした。新しいお客さんが増えているほか、スポーツ系のアイテムで採用されることが決まりました。純スポーツではなくアスレジャー系のお客さんのため、カジュアルなどへの波及効果を期待しています。この間、ソアロンの販促を強化してきた結果、中国ではオンリーワン素材としてのプレステージが評価されています。

 ほかにもソアロンはEU高級ブランドの制服に採用されたり、中国の航空会社がユニフォームに使ってくれたり、海外の制服・ユニフォーム市場の開拓が順調に進んでいます。

  ――アクリルの市況が低迷しているようですが。

 暖冬の影響や低価格なポリエステルへの代替などで苦戦を強いられ、世界的な需要低迷が続いています。上半期のボンネル事業はほぼ前年並みとなり、まあまあ健闘した、といったところでしょうか。この間、中国のインナー・肌着市場に売り出してきたマイクロアクリル「ミヤビ」の販売が順調に拡大しています。

 制電アクリル「コアブリッド」も引き合いを集めており、米国のセーター、マフラーといった手芸用途への販売が滑り出しました。高機能繊維との複合素材が特殊な環境で着用されるユニフォームにも流れ出しており、これは海外へも広がっていきそうです。

  ――中国で電子モールとの連携に乗り出しました。

 傘下のブランドとの共同でミヤビや制電コアブリッドの販促に取り組んでいくため、先にアリババグループの電子モール・Tモールと覚え書きを締結しました。共同で開発した素材「セルウォーム」をプラットフォーム共通の戦略素材とし売り込んでいきます。4社7ブランドがセルウォームで企画した高級婦人肌着、保温肌着などを19秋冬から発売します。来年からはメンズやキッズ、スポーツへも用途を広げるとともに、春夏向けにソアロンを生かした取り組みを検討しています。

  ――超極細アクリル「XAI(サイ)」で不織布への参入を計画していました。

 自動車用吸音材をターゲットに国内外の自動車メーカー、パーツメーカーに提案し、それぞれとの取り組みがステップバイステップで進行中です。「サイ」を吸音材用の不織布に少量、混入することで吸音性能を上げることができ、あるいは吸音材トータルを軽量化することができます。どちらかというと、軽量化へのニーズの方が強いようです。自動車メーカー数社が吸音材でテストを続けており、当社としては何とか今年度中に実際の販売を立ち上げ、来年以降の拡大につなげていきたいと考えています。

  ――ポリプロピレン「パイレン」はいかがですか。

 主力のカーペット向けは良くありません。一方、土木資材、建築資材向けは堅調です。カーペットでは、ナイロン「キラビス」が順調に育ってきました。このほどポリエチレンとナイロンを複合した新素材も導入しました。冷感繊維として春夏狙いの販促をスタートさせたところです。パイレンの落ち込みをキラビスやポリエチレンでカバーし、全体を高度化する途上にあります。

  ――下半期の課題をどう見ています。

 ソアロンでは、ユニフォームやアスレジャーなどへの用途拡大を強化していきます。それと、エコ素材としてのステージをもう一段、高めていきたいと考えています。認証機関としっかり連携しながら、ストーリー作りに力を入れていきたい。ボンネルではTモールとのコラボレーションを重視しています。中国では、これまで個々のアパレルとの連携はありましたが、今回のような取り組みは初めてです。相当量を販売できると期待しています。パイレンでは資材や土木向けを伸ばします。このほど土木用に開発したネットの生地売りを立ち上げました。

〈私のリフレッシュ法/週一のテニスで発散〉

 週末に自宅近くのテニスクラブでテニスを楽しむのが最近の習慣になっている。ボールを追い掛けている時は「仕事のことを忘れられるし、気持ちの切り替えにもなる」。テニスを始めたのは中学生の時の軟式から。その後、高校、大学と硬式テニスを続けた。結婚し子供が生まれ、その子供の小さい頃くらいからテニスをする頻度は「多少、減ってしまった」と言う。このところ「忙しさも重なり週に1回のペースに落ちてしまった」が、今も元気にテニスクラブ通いを続けている。

〔略歴〕

 かわさき・たかお 1985年4月三菱レイヨン入社。06年6月アクリル繊維第一部長、07年6月アクリル繊維部長、14年4月アクリル繊維事業部長、16年4月執行役員、繊維事業部長、17年4月三菱ケミカル執行役員高機能成形材料部門繊維本部繊維素材事業部長。