光沢回帰か、需要拡大/繊維断面が円形の綿糸

2001年11月19日 (月曜日)

綿紡績に久々の朗報/婦人服用途で引き合い活発

 綿の断面は円形ではない。そら豆に似ている。繊維がねじれているからだ。これを苛性ソーダ溶液に浸してやると、膨らんでねじれが取れ、断面が円形になる。円形になると、光沢が増し、染料の吸収量も増え、かつ強くなる。そんな処理を施した綿糸への需要が増えてきた。婦人服用途での需要増がとくに目立つようだ。婦人服一次卸の間で、「きれいな生地」を求める動きが目立ってきたとされる。その現われの一つなのかもしれない。この種の綿糸の供給能力では、日本が世界で最も優れている。需要がこのまま盛り上がり続ければ、日本の綿糸産業にとっては久々の明るい話題になりそうだ。

 苛性ソーダで処理するこの方法を業界では“シルケット”と呼ぶ。糸をシルケットする方法は、カセに巻いた状態で処理する“カセジル”と、連続的に処理する“連続シルケット”に大別される。世界的にはカセジルが主流だが、連続シルケットの方が処理単位が大きいため、ロット間の品質差を軽減するには有利だとされる。カセジルの処理単位は、日清紡ヤーンダイド(日清紡の子会社)の場合で500キロ。これに対して連続シルケットのそれは、フジボウ小山(富士紡の子会社)で4・8トンだ。

 日本では、フジボウ小山、シキボウの江南工場、東洋染色工業(東洋紡の子会社)の岐阜工場の3工場が、糸を連続シルケットするための設備を有している。このほかでは、韓国の1、2社が保有しているだけといわれる。しかも、業界の推定によると日本側の年産能力は3500トン前後、韓国側のそれは1200トンあるかないか。日本は、連続シルケット綿糸の希少かつ世界最大の供給国であるわけだ。日本の紡績糸産業の国際競争力が失墜したとされる今でも、日本から同糸が輸出され続けていることがそのことを裏付ける。

 フジボウ小山の連続シルケット糸供給能力は、2000トン。世界最大だ。ここで作ったシルケット糸を富士紡は「レンシル」の商標で販売している。フル稼働には至っていないが、2年前から注文が増え始めた。「この2年間は毎四半期20%の増加率で推移している」(企画開発部の羽生伸也課長)。今年4~9月も20%の増加率で推移したそうだ。

 ここへきて、シキボウの江南工場の連続シルケット糸への需要も増え始めた。同工場の同糸年産能力は960トン。この糸をシキボウは「フイスコ」の商標で販売している。バブル景気の崩壊後、同糸への需要は落ち込んだままだったが、今年度上半期に入ってにわかに増え始めた。4~6月の生産量は、「前年同期比2割増」(坂野和男衣料第二事業部長)で推移したと言う。

カセジルには、連続シルケットでは難しいとされる細番単糸や超強撚糸の処理が可能だという利点がある。日清紡ヤーンダイドは、このカセジル糸を年間で600トン処理する能力を持つ。しかし、高価格帯向けが主体の同糸への需要はこの間、減り続けていた。ところが、ここにきてその減少傾向に歯止めがかかった。今年10月以降は「前年並み」(日清紡の藤田雅明加工綿糸課長)の水準を維持していると言う。

近年、苛性ソーダ溶液ではなく、液体アンモンニアに浸すことで、綿の断面を丸くした糸も生産され始めた。この糸への需要も増えている。苛性ソーダには綿を硬くしてしまうという欠点がある。ところが液体アンモニアを用いると、硬くすることなく、綿断面を丸くすることができる。さらに苛性ソーダーは、羊毛や絹などの繊維を損なってしまう。このため、これら繊維との混紡糸を処理するには適さない。ところが、液体アンモニアは、これら混紡糸にも適用できる。

 フジボウ小山と日清紡の美合工場が、この液体アンモニア処理糸を生産する設備を有している。この設備を持つのは世界的に見ても両工場だけだそうだ。フジボウ小山の同糸への需要は右肩上がりで推移。今年9月までの1年間の生産量は前年比10%増の150トンに達した。

 日清紡の美合工場の同糸年産能力は60トン。2000年度から急に注文が増えた。その結果、同年度の生産量は前年比5割増しとなり、設備の稼働率は60双糸換算で80%へ高まった。「今の採用の状況でいくと、今年度はさらに増えそうだ」(藤田課長)と言う。