特集 アジアの繊維産業Ⅰ(5)/現地ルポ インドネシア/内販と輸出いかに伸ばすか

2019年03月28日 (木曜日)

 2019年に入っても5%台の安定した経済成長が続くインドネシア。2014年から実質GDP成長率は毎年5%と安定している。来月行われる大統領選挙で、現職のジョコ・ウィドド氏が再選すれば、投資環境が一層改善し、引き続き安定した成長率を維持するとの見方もある。日本市場の縮小を想定すれば、現地の経済成長を追い風にできる内販拡大、そして第三国への輸出をいかに伸ばすかが課題となっている。

 同国の強みは人口2億6千万人のうち75%以上の2億人という豊富な生産年齢人口(15~64歳)だろう。賃金もバングラデシュ、ミャンマー、ラオスなどと比較すると高いが、それでも政治的な安定感や徐々に整いつつあるインフラを考慮すれば、ポストベトナムとしての競争力はある。

 これまで働き手の多さと比較的低い人件費を背景に、汎用的な素材を大量に作る拠点として位置付けられてきた同国だがここに来て、従来の生産の在り方やビジネスモデルに変化の兆しが見られる。年8%台という最低賃金の上昇や日本の衣料品消費の低迷が影響しているもよう。

 日系の素材メーカーやメーカー系商社の間では、同国内での工業用・衛材用繊維に力を入れ始めたり、生産する糸や生地にこれまでよりも付加価値を付けたりする動きが顕著になっている。

 蝶理インドネシアや帝人フロンティアインドネシアの主力は、生地輸出や衣料品OEMといったアパレル関連だが近年、底堅い経済成長を追い風に、車両向けや工場用の繊維の現地販売が少しずつウエートを拡大している。東洋紡グループも車両向け樹脂が好調で、繊維でも産業資材用繊維の販売強化を打ち出す。

 他方、衣料品向けの糸・生地メーカーでは、素材の高付加価値化への動きが盛ん。汎用品ではなく高付加価値品をいかに割安で作るかという考え方にシフトし始めている。シキボウグループのメルテックスは、汎用糸の生産を徐々に減らし、代わりに2層構造糸「ツーエース」を増産する。ユニチカのユニテックスも、2層構造糸「パルパー」に加え、パルパーの綿素材の代わりにレーヨンを使った商材やスラブ糸やミスティヤーンといった特殊糸を使った高級ゾーン向けのドレスシャツ地も開発している。

〈東洋紡/繊維は選択と集中進める〉

 インドネシア東洋紡グループは、現地事業統括・販売の東洋紡インドネシア(TID)、編み立て・染色加工の東洋紡マニュファクチャリングインドネシア(TMI)、縫製のSTGガーメント(STG)で構成する。

 TIDは車両向けの樹脂販売が好調な半面、繊維事業はスポーツウエアなどニット縫製品の対日輸出が不振。欧米などへの第三国輸出、内販も盛り上がりを欠く。ビジネスニットシャツは対日、内販で底堅く伸びた。

 3社の社長を兼任する清水栄一社長は「来期も収益率を重視し、アイテムの選択と集中を進める」方針を示し、繊維事業は、TMIの独自素材をSTGで縫製した高付加価値品の拡販に力を入れる。

 TMIは、日本から差別化機能素材の技術移転を進め、現地での素材開発のスピードアップを図る。衣料品以外に、産業資材用繊維でも新たなビジネスを模索する。

 STGはビジネスシャツ縫製が堅調な半面、スポーツ関連は苦戦しており、ユニフォーム縫製を始めるなど新たな商流を開拓する。人件費上昇による経費増に対応するため、自動化、省人力化を進める。

〈UTID/前期比2倍の売上高めざす〉

 ユニチカトレーディングインドネシア(UTID、ジャカルタ市)の熊谷英樹社長は2019年12月期に前期比2倍の売上高を目標に掲げる。主力のスポーツ衣料用生地の拡販に力を入れる。日本のスポーツウエア市場と、底堅い消費が続くインドネシア市場の両方で売り上げ拡大を狙う。

 生地の調達地である北陸産地の生産キャパシティーがタイトなため、UTIDのインドネシア協力工場に生産を振り替えて増産体制をとる。「キャパシティーの制約から売りたくても作れないという状況もあったが、インドネシア生産を増やすことで販売の機会損失をなくす」。

 生産する生地は、ユニチカ独自の機能糸を使った高付加価値品。糸は日本から現地の協力工場へ輸出する。これまでニットがメインだったが、織物も充実させる。

 ニットではUVカット機能素材、接触冷感素材、吸放湿性ナイロン素材があるが、織物のUVカット素材、ノンコーティング透湿防水素材、耐久撥水(はっすい)素材といった機能織物もインドネシアで生産できる。

〈ユニテックス/高級シャツ地の内販強化〉

 ユニチカのインドネシア紡織加工子会社、ユニテックス(西ジャワ州ボゴール)は2019年12月期、ドレスシャツ地の内販を強化する。

 強みであるユニチカ独自の複重層紡績糸「パルパー」を使ったシャツ地に加え、これまで開発してきた新素材も昨年末、現地シャツアパレルに採用されたという。新素材には40番双、50番双のスラブ糸使い、ミスティヤーン使いなどがある。いずれも高級ドレスシャツ地用途で実績を作った。

 本田一馬社長は「現在、今年のレバラン(断食月明けのイスラムの大祭)商戦に向けて作り込みを進めているが、この商機が重要になる」と強調し、「ここでしっかりと供給できれば前期比増収増益が期待できる」と話す。

 同社のもう一つの主力である、日本のユニフォームアパレルに向けたポリエステル65%・綿35%の生機輸出は前期に引き続き好調を見込む。東京五輪・パラリンピックに向けた建設需要や新規開業するホテルの増加などユニフォーム市場の拡大が背景にある。ただ、営業利益は圧迫されている。繊維原料と薬剤の高騰、人件費・物流費の上昇といったコストアップの影響を受けている。

〈駐在員事務所を現法化/島田商事〉

 島田商事(大阪市中央区)はこのほど、インドネシア・ジャカルタ市内にある駐在員事務所を島田商事インドネシアに現地法人化した。

 現地で営業活動ができるようにし、島田商事グループの海外拠点と連携しながらインドネシアへのアパレルパーツの供給量を増やす。3月1日に営業をスタート。社長は日本法人の島田昌建社長が兼務し、現法責任者(ディレクター)には、直近まで駐在員事務所長を務めた阪上啓氏が就いた。

 阪上氏は、「まずは日系アパレルの縫製工場を中心に提案を強化する」方針を示し、「数年かけて日系企業へのパーツ供給を収益の柱に育て、それから欧米アパレルにもアプローチし第2の柱に育てたい」と意気込む。

 カットソーなどインドネシアの縫製工場が得意とするカテゴリー用途のパーツ供給を増やし、人件費の比較的低く、新たな縫製拠点として注目される中部ジャワを中心に受注拡大を見込む。

 中国縫製工場の人件費高騰や米中貿易摩擦を背景に、アパレル生産のベトナムシフトが進む中、阪上氏は現法化の背景について「中国、ベトナムのキャパシティー不足、不測の事態に備え、先行してインドネシアでの供給体制を整備しておき、いざというときにアパレルの選択肢を増やす狙いもある」と説明する。

 阪上氏は1997年に島田商事に入社、香港で5年、上海で10年と海外での営業実績が豊富。中国のみならず、今回のインドネシア現法開設前から現地での副資材ビジネスに関わっている。

〈縫製品輸出が始動/蝶理インドネシア〉

 蝶理インドネシア(ジャカルタ市)は2019年12月期に、縫製品輸出事業をスタートする。田中裕司社長によると、生地販売、資材用途の繊維原料販売というこれまでの2本柱に、縫製品輸出が加わることで、繊維事業は増収増益となる見通し。化学品事業も現地の経済成長を追い風に好調を維持しそうだ。

 マツオカコーポレーションが主体となる4社合弁縫製工場、マツオカインダストリーズインドネシア(MII、西ジャワ州スバン県)で生産した縫製品を中国、日本、韓国へ輸出する。アイテムはカジュアルウエアが多いとみられる。

 MIIはマツオカコーポレーション(出資比率51%)、ファーストリテイリング(25%)、蝶理(20%)、東レ(4%)の4社で18年5月に発足。10月にテスト生産を開始し、今年1月に本格稼働した。蝶理インドネシアが縫製品の輸出販売を担う。

 一方、繊維事業の主力となる生地販売は蝶理を含む3社合弁染色加工場、ウラセプリマを活用した付加価値の高い生地で新たな売り先を開拓する。これまでブラックフォーマルなどの無地染めや風合い加工を手掛けており、従来の日系スーツ・フォーマルウエアメーカーへの提案に加えユニフォームアパレル向けで取引先を増やす。

 繊維原料販売では自動車などの部材用、布巾などの衛生材料用の不織布原料の動きが現地の底堅い消費を背景に堅調、今期も拡販を続ける。

〈TYSMインドネシア/内販や第3国輸出強化〉

 豊島のインドネシア法人、TYSMインドネシアは今期(2019年12月期)、内販の拡大や日本市場に向けた新規売り先の開拓、第3国への販売に力を入れている。

 インドネシアは約2億6千万の人口を抱え市場規模は大きいが、日本の品質レベルを求める層はまだ少なく、商取引のルールも不透明な面が見られる。ただ今後の経済成長に期待し、そうした壁を乗り越えて地道に内販を拡大する考え。日本向けでは引き続き、紡績メーカーと共同開発した糸使いのニット製品やスポーツ衣料向けをメインに訴求する。第三国への販売では近隣国だけでなく、主力の生地を主体に欧州向けも視野に入れる。

 18年は生地、糸の販売が前年比約2割増と伸び、内販向けも同程度増えた。既存顧客に対する地道な営業強化に加え、生地部隊先行で実施した営業スタッフ2人の増員が実を結んだ格好。製品OEMもカジュアルセーターやスポーツ衣料向けで17年実績を超えたが、納期遅れも起こしてしまった。

 雨季にもかかわらず1カ月以上雨が降らずに発生した水不足、環境規制強化による一部染色工場の操業停止で、取引先工場の稼働が不安定だったことが主な要因だが、言い訳はできない。今期はそうした事態に備えて事前に生産ラインをおさえ、早期発注体制を整えるなど再発防止に努める。

〈TTI/改めて輸出拡大目指す〉

 東海染工のインドネシア子会社であるトーカイ・テクスプリント・インドネシア(TTI)は2018年12月期も好調を維持した。現地市場向け加工・販売がリードし、無地染めとプリント合わせて年間430万~500万¥文字(G0-9396)の加工となるなどフル操業が続いている。特にプリント生地が販売をリードしている。

 インドネシア内販が好調だが、ローカル市場向け偏重が課題となる。このため19年度は改めて輸出の拡大に取り組む。そのため18年はパリで開催された国際服地見本市「テックスワールド・パリ」にも出展し、既に引き合いがあるなど成果も出ている。こうした取り組みも生かしながら、欧米市場への輸出拡大を目指す。

〈街角/どうなる!?大統領選〉

 インドネシアで最もホットな話題といえば、大統領選挙。投票日は4月17日、あと2週間ほどだ。現職のジョコ・ウィドド氏(57)と野党グリンドラ党のプラボウォ・スビアント党首(67)の一騎打ちという2014年と全く同じ構図。現地の新聞やテレビでは連日のように、両候補の動向や発言を取り上げ、批判や憶測が飛び交う。下馬評の多くはジョコ氏のリードを伝える。ある日系繊維企業のトップは「もし野党側が勝つようなことになれば繊維産業にも大きな影響がある」と話し、「建設中の大規模インフラ工事のストップ、産業政策が大きく転換する可能性もある」と予測する。写真は、急ピッチで進められていたジャカルタ市内の地下鉄駅工事。今月24日に開業したが、運賃未定で乗車無料の見切り発車となった。焦っているのは、そういう事情もあったのだろう。