世界が認める日本の生地/PVアワード受賞者の声

2019年01月01日 (火曜日)

 世界最高峰の服地見本市「プルミエール・ヴィジョン」(PV)は年に1度、「PVアワード」として、出展者の中から出品された生地を審査し、選りすぐり、発表している。日本企業はこれまで数多くこの賞を獲得してきた。グランプリを獲得したことも2度ある。「日本の生地は面白い」。世界がそう認めている。

〈小松マテーレ/受賞ねらい、有言実行/「ムニュ」でグランプリ〉

 かねてからPVアワードの受賞を重ねてきた日本企業。ただ、昨年9月で10回を数えた同賞で、グランプリを獲得したのは、第9回のエイガールズと第5回の小松精練(現・小松マテーレ)の2社だけだ。栄えある日本企業初のグランプリに輝いた小松マテーレの生地の名は「ムニュ」。

 「本気で狙いにいった」と話すのは小川優寿国際営業部長(当時)。長年の出展によって世界的に知名度を高める同社だけに、グランプリ発表と同時に会場は熱狂的な歓声に包まれた。

 生地は、同社のデジタルプリント技術「モナリザ」を用いて捺染した二つの素材でウレタンフォームをボンディングした3層構造。見た目からは想像できない低反発枕のような独特の触感と再現性を備えており、審査員らからは「新しく、未来的な素材」と評価された。

 実は同社がアワードに出品したのはこの回が初めてだった。「狙いに行こう」との方針を掲げ、急ピッチで独創的な生地を作り上げた。766社の出展者が約4千点の生地を出品し、その中からグランプリ候補の97点が選出。そのうち10点が日本企業のもので、うち3点が同社の生地だった。その中の一つ、ムニュが頂点に立った。

 独創的すぎたため実売には至らなかったが、同社の知名度は一層向上したし、日本の技術力、発想力を改めて世界に認めさせた功績は大きい。

〈スタイレム/製織困難なこだわりの品/次は実売に目を向ける〉

 スタイレムには、PV出展許可をなかなか得られなかった過去がある。その理由は「メーカーではない」ことと「PVにとってバイヤーである」ことだったが、コレクションの披露という付帯機能を携え、ようやく出展審査を通過した。瀧隆太会長は「出展までの経緯を踏まえるとなおさら(今回のアワード獲得は)感慨深いものがある」と喜びを語る。

 2018年9月のPVで、同社の生地がファブリック部門の「イマジネーション賞」を獲得した。商品は、資材に使われてきた特殊なレーヨン長繊維を経糸、緯糸に使った先染め織物。糸の風合いを生かすために無撚りとしたが、そのため「織るのが難しかった」。提携工場の協力を得て試行錯誤を繰り返し、なんとか完成にこぎ着けた。

 バルキー性、光沢感、シャリ感などが特徴で、単なる先染め織物かと思っていると、触ればその風合いに驚くという“仕掛け”が審査員の評価につながった。

 開発者の川本健太郎氏は「アワードを狙って毎年開発に力を注いできた。仕入れ先さんとチームの勝利だと思う」と喜びを表す。

 次は実売に目を向ける。「開発した生地をどう売るか。どのように新しい市場を創造していくか。当社はそれを繰り返してきた会社」と谷田修一専務グローバル事業統括部長は話す。レーヨン100%だけでなく複合バージョンも投入予定。早速、国内外で引き合いが強まっていると言う。

〈エイガールズ/欧州市場を再深耕/ブランディングも奏功〉

 再び欧州市場の深耕に取り組み始めたエイガールズ。きっかけは2017年の「第9回PVアワード」ファブリック部門グランプリ受賞だった。

 受賞したのは、特殊なクオーター編み機を使い、表面はポリエステルの横巻き糸で8ゲージ、裏面は綿糸32ゲージで編み立てたもの。ポリエステル加工糸のシルキーな光沢感とハリのあるドレープ性を生かしつつ、綿で優しい着心地を備える。

 丸編み復活の潮流とも合致し、以来「バレンシアガ」「ルイ・ヴィトン」「ジバンシー」「ジョン・ガリアーノ」など、欧州を代表する世界的なラグジュアリーブランドからの問い合わせが相次ぐ。国内でもスポーツアパレルの新規開拓や既存取引先とのビジネス拡大などにつながった。

 売上高の約4割を占める海外向けはしばらく米国主体に韓国、中国へと広げてきたが、これを機に欧州向けを再強化。山下智広社長は「04年のPV初出展から経験を重ね、海外バイヤーの多様なニーズに即応できるようになった」と自信を見せる。

 社名のA―GIRL’Sには、「女性に“トップクラス=A”の商品を!」との思いが込められている。この原点を再認識するとともに、約10カテゴリーのファブリック・ブランディングで独自性の高いモノ作りを追求する「企業/生地のブランディングも成果が表れ始めた」。今後はインテリア分野への拡大や、最終製品までできる強みを生かした新たな仕掛けで、ブランド価値の向上と新規需要の創出を図る。

〈東レ「ウルトラスエード ヌー」/サステイナブルに評価集まる/スマート・クリエーション・プライズ受賞〉

 東レが展開する人工スエード「ウルトラスエード ヌー」が19秋冬向けの「プルミエール・ヴィジョン」(PV)で表彰された。

 この年、初めて設けられた「ファッション・スマート・クリエーション・プライズ2018」を受賞した。

 ウルトラスエード ヌーは銀面やスエード、ヌバックといった従来のカテゴリーの枠にとらわれない新感覚の質感、光沢を併せ持ったレザー調の戦略素材。

 基布の極細繊維をケミカルリサイクルによる再生ポリエステルで商品化したエコバージョンが今回、クリエーションとサステイナブル(持続可能な)を高度に両立させた素材として注目を浴びた。

 PVだけでなく、昨年は「ミラノ・ウニカ」でも、「『ヌー』のサステイナブルな持ち味が高く評価された」と言う。

 最近、欧州では多くのブランドがリサイクルや植物由来、オーガニックコットンといったサステイナブル素材への意識を強めているといい、東レは「この流れが日本へも波及してくる」とみている。

 先に、植物由来の原料によるウレタンで開発した「ウルトラスエードBX」を発表。「環境に配慮したサステイナブルな素材であることをウルトラスエードの大きな柱としたい」との意欲を示しており、今後もエコバージョンの商品ライン拡充に力を入れる。

〈ショーワ「ウールデニム」/感覚に訴えて感動呼ぶ/ハンドル賞受賞〉

 「突然、携帯電話がかかってきて最初は参加賞でももらうのかと思った」と、ショーワ(岡山県倉敷市)の高杉哲朗社長は当時を振り返る。2009年、新たに創設したばかりの「PVアワード」でハンドル賞を受賞、その時は「まさか受賞するとは思ってもいなかった」と言う。

 ハンドル賞を受賞したのはウールデニム。尾州産地の企業が何社か開発に取り組んだが、「デニムのようにならず、カジュアル感が出なかった」。「それなら当社が開発すればどうなるのか」。ウールなど獣毛はアルカリに弱い。インディゴは強いアルカリ性で、何度も染めると組織が弱り、製織工程で糸切れがどうしても発生してしまう。

 そこで防縮性を付与したオーガニックのタスマニアファインメリノウールの特殊ムラ糸を使用。ウールの弾力性が生む風合いに加え、ムラ糸とロープ染色で表現した自然な色調濃淡による立体的な質感を出すことに成功した。製織ではテンションのかけ方に細心の注意を払い丁寧に織り上げた。

 ウールデニムは上質感があるが、見た目は地味かもしれない。しかし、触ると驚きの感触を体験できる。ハンドル賞選定の際、「最後に審査員が目をつむって生地を触った感覚から選んだ」という逸話があるくらいだ。まさに審査員が評した「優れた触感と驚きの性質を持ち感覚に訴えて感動を呼び覚ます」の言葉通り、本質的な価値の追求から生まれた逸品と言える。

〈ニッケ/ウールの既成概念を覆す/蓄積した技術と先端加工が融合〉

 毛織物の本場、欧州。そこに乗り込む形で「PVアワード」を2度にわたって受賞しているのがニッケ。2010年にウールマーク賞、12年にはイマジネーション賞を受賞した。ウール素材に対する固定概念を覆す表情や風合いを作り出すことでウールの可能性を広げたことが海外の有名ブランドの間でも高く評価されている。

 ニッケは120年以上に渡って毛織物を生産してきた。そこで蓄積されたノウハウは、現在でも膨大なテキスタイル・アーカイブとして残る。「これを生かしたビンテージ・コレクションに先端の加工技術を融合することで、ウールの未来をイメージするようなモノ作りを目指した」と企画を担当した衣料繊維事業本部戦略推進統括部戦略企画部の大野正博専門部長は話す。

 その成果が12年にイマジネーション賞を受賞した毛織物。超高密度織物への加工によってウールとは思えない高反発のハリ・コシ感に仕上げた。ウールといえばソフトさが常識とされていた欧州のバイヤーたちに衝撃を与えた。

 PVでの実績は、実際の欧州向け生地販売の拡大にもつながった。現在、有名ブランドとの取引が安定的に続いており、中には1マーク千反規模の取引もある。機能素材や反染品などの販売にもつながった。ウールデニムなど新しい開発も進む。ウールのイメージと用途を広げる挑戦が続いている。