特集 アジアの繊維産業Ⅱ(2)/東レの中国繊維事業/高度化、多品種化を加速/連携強化で内販拡大へ
2018年10月05日 (金曜日)
東レが中国繊維事業でグループ連携を強めるなどし、素材の高度化、多品種化を加速している。狙うのは中国内販の一層の拡大。展示会や自社ショールームで、東レグループの総合力や中国での一貫型事業の拡大を訴求する活動にも乗り出した。
〈18年度も増収増益へ/原糸の高度化を重視/在中国東レ代表 東麗〈中国〉投資董事長兼総経理 首藤 和彦 氏〉
東レの中国繊維事業は、長繊維テキスタイルを生産する東麗酒伊織染〈南通〉(略称TSD)がけん引し、2018年度も増収増益を計画する。原糸を中心に素材の高度化を進めることで、成長が続く内販市場を今後も開拓していく構えをとる。在中国東レ代表で東麗〈中国〉投資董事長兼総経理の首藤和彦氏に、事業の現状や成長戦略を聞いた。
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――東レの中期経営課題「プロジェクト AP―G 2019」の基本戦略の一つが、グローバルな事業の拡大・高度化です。中国の位置付けは。
これまでと同様、大変重要な市場という位置付けです。今後ますます、その重要性は高まっていくと思います。
中国は巨大なボリュームゾーン市場が広がる半面、高付加価値品市場も成長しています。繊維製品にも高品質、高付加価値を求める動きがあり、われわれの商機が拡大しています。
こうした中、TSDを筆頭に内販を伸ばしています。衣料用素材だけでなく、日本から輸入する自動車内装材用途の人工皮革「ウルトラスエード」なども好調です。
――18年度業績の見通しは。
増収増益を計画しています。第1四半期(18年4~6月)は順調に立ち上がっており、最低でも中国経済並みの成長率を実現できそうです。
――業績をけん引しているのは。
TSDです。同社は今年も堅調に推移しており、10期連続で最高益を更新できそうです。商事会社の東麗国際貿易〈中国〉(略称TICH)のコンバーティング事業も拡大しています。合繊長繊維を生産する東麗合成繊維〈南通〉(略称TFNL)は高付加価値品や、多品種を生産できる工場に改造中で、来年以降に期待しています。
――足元の懸念材料は中国と米国の貿易摩擦ですね。
今後を見通すのは難しいですが、長期化を懸念しています。長引けば共倒れになりかねません。また両国間の問題にとどまらず、日本や欧州などにも波及していくことを心配しています。当社への影響はいまのところほとんどありませんが、早い段階で双方が矛を収めてほしいです。
――ところで、グローバルな事業拡大のため、中国でパートナーの開拓を進めています。昨年7月には、香港のニット・染色・プリント生地製造販売会社のパシフィック・テキスタイルズ・ホールディングス(略称PTHL)に資本参加しました。
東レの海外でのニット生産拠点はこれまで、TSDとタイに一部ある程度でした。そこでPTHLに出資し、拡充することにしました。同社の生産背景と、われわれの付加価値原糸や日本で培ってきたモノ作りのノウハウを組み合わせれば、シナジーを発揮できると考えました。資本参加から1年強を経て、成果が徐々に表れているところです。
今後もグローバル事業の拡大のため、ウィンウィンとなれるパートナーシップを積極的に結んでいきます。
――一方、ニット大手の青島即発集団との合弁で、ポリエステル綿混(T/C)織物を生産する東麗即発〈青島〉染織(略称TJQ)の保有株式を今年1月末、即発グループに譲渡し経営移管しました。
TJQは、T/C織物や綿100%織物の紡績・織布・染色一貫生産、販売を行い、輸出を中心に事業を拡大しましたが、賃金上昇やASEANシフトの影響で近年は業績が低迷していました。今後も収益改善は困難と判断し、中国内需中心のビジネスモデルへの転換を通じて収益改善と事業継続を図りたいとする即発グループの強い意向を受けて、即発グループに経営権を移譲しました。
その後、T/C織物事業のASEANへの集中を進めるとともに、内需向けでは中国とASEAN拠点が連携し商品の高度化に取り組んでいます。
――今後の中国事業の成長戦略は。
原糸、生地の高度化、付加価値化をさらに図ることで、現地企業の汎用品と差別化していきます。中でも原糸の高度化が重要だと考えています。同時に品質、安全・安心な商品、納期の厳守、環境対応といったこれまでの強みを一層磨いていきます。そうすることで、高付加価値品市場だけでなく、ボリュームゾーン市場の一部も開拓できると考えています。
〈TSD、TFNL、TFRC/インテキ上海で総合力を訴求/3社共同で高度化を加速〉
江蘇省南通市に拠点を置くTSD、TFNL、東麗繊維研究所〈中国〉(略称TFRC)の3社が、中国市場の開拓に向け、東レグループの総合力による事業展開を加速している。きっかけはTFNLの設備改造による製品の高度化。3社は今後連携を強め、素材の高度化や多品種化を進め、研究開発から製品投入までスピード感を持って取り組んでいく。
3社は9月末に上海で開かれた「インターテキスタイル上海アパレルファブリックス2018秋」に共同ブースを設け、情報発信に取り組んだ。ポリマーから原糸、生地、製品までの一貫型事業を中国でも展開していることや、東レグループ単独ではなく現地パートナーと連携してもの作りに取り組んでいることを訴求したほか、3社連携により開発したストレッチ素材などの最新製品も披露し、来場者の耳目を集めた。
同展にはこれまでTSD単独で出展してきたが、今回TFNLの特品製造が拡大し、高度な開発や短期間での商品化が可能となるタイミングで、3社共同で出展し、その総合力を発信することにした。
TFNLはこの数年、設備の改造に取り組んでいる。「これまでの大量生産型マシーンを開発に対応するものに改造し、課題だった開発品量産化のスピード向上を図っていく」とTFNLの山田浩之董事長は話す。
今後はTFRCで研究開発した原糸をTFNLが迅速に量産化し、TSDが生地を開発する体制が整う。
今回の改造が実現した背景には、TFNLの特品率の高まりによる収益性の向上がある。同社はこれまで、ポリマーの開発と、原糸・加工段階での技術と素材の組み合わせによる特品化に力を入れてきた。近年求められる製品が高度化する中、糸加工や複合紡糸関係の設備を新規導入するなどして、成果を上げてきた。
3社の連携で、重要性がさらに高まりそうなのがTFRCのハブ機能。これまでもTFRCをハブにした開発で成果を上げてきた。例えば、近年はTFNLの特品原糸を活用したTSDの吸汗速乾生地「速爽」に、機能性付与による高度化をTFRCが行い、顧客から高い評価を得ている。こうした成果が今後さらに増えていきそうだ。桑原厚司董事長は「フレキシブルになったTFNLの設備を生かす技術開発をタイムリーに推進する」と力を込める。
一方、TSDは3社連携により、ニット生地とナイロン織物の高度化に取り組んでいきたいとの考え。秦兆瓊総経理は「機能性ニット生地の市場は今後中国で大きくなる。2社と連携し、機能性ニット生地を積極的に開発していきたい」と述べる。ナイロン織物では、ダウンウエア用途向けを中心に超高密度織物を展開してきたが、今後はダウンウエア用途以外にも広げていく。3社連携により、ナイロンの新商品開発も早期に実現したいという。
〈TICH/コンバーティング事業が好調〉
TICHの17年度取扱高は約1千億円で、うち半分を繊維事業が占めた。繊維事業ではトレーディングからコンバーティングへのシフトを進め、取扱高=売上高になりつつある。売上高の半分が縫製品で、残り半分が紡績糸とテキスタイル、産業資材だ。
紡績糸は日本とマレーシア、インドネシアで生産する短繊維を日本、中国ほかの顧客ニーズに合わせTFRCで開発し、現地の協力工場で紡績する。以前は紡績管理が中心だったが、近年は原綿構成から紡績手法、糸設計まで深く関与するコンバーティングが大勢を占めている。
「紡績糸はこの1年、ビジネス手法を変え、国内外の顧客への提案を加速している」と沓澤徹総経理は話す。これまでは、原糸原綿での提案だったが、紡績糸のブックやセーターの編み地を作成し、昨年9月に設立した自社のショールームで展示会や商談を行い、徐々に成果を上げている。
一方、特品紡績糸を使用した短繊維織物とニットが中心のテキスタイルも好調。売り上げはコンバーティングビジネスの開始後、約10倍に拡大しており、特にこの5、6年で急成長している。テキスタイルは、東レグループの原糸原綿とその他の原糸原綿を組み合わせ、現地の協力工場約10社で生産し、国内外の顧客に販売している。TFRCと連携して開発を行っていることが強みとなっている。
「われわれの生命線であるコンバーティングが好調だ。現地企業との取り組みが深まっている」と沓澤総経理は述べる。それを裏付けるように、自社ショールームには川上から川下までのさまざまな現地企業が頻繁に集まり、商談している。