検査機関・新試験がスタート

2019年02月12日 (火曜日)

 カケンテストセンターは1月から感染症対策に寄与する「防蚊性試験」の受付を開始した。ケケン試験認証センターは昨年12月に「カシミヤ産地判別システム」の実証実験をスタートしている。カシミヤの産地を推定するトレーサビリティー(追跡可能性)を支援する。

〈カケン/防蚊性試験方法/信頼性高い機能評価が可能に/誘引吸血装置法がJISに採用〉

 近年、蚊を媒介とした感染症が日本でも発生するケースが増えてきた。このため防蚊性を付与した繊維製品への注目が高まっている。ただ、従来は防蚊性を評価する公定法がなく、中立的で公平な機能評価ができなかった。こうした中、このほど日本工業規格(JIS)で「生地の防蚊性試験方法」が定められた。これに採用されたのが、カケンテストセンター(カケン)が開発した誘引吸血装置法。信頼性の高い機能評価が可能になる。

 このほど制定された「JIS L1950 生地の防蚊性試験方法」は誘引吸血装置法と強制接触法で構成する。誘引吸血装置法は、生地を介して蚊にどれだけ吸血されないかを測定するのに対し、強制接触法は生地に触れた蚊をどれだけ活動停止・死亡させるかを測定する。このため吸血を防ぐ衣料品の防蚊性は誘引吸血装置法で、蚊帳や網戸など居住空間への蚊の侵入を防ぐアイテムの防蚊性評価には強制接触法が適している。

 このうち、誘引吸血装置法を開発したのがカケン。カケンは早くから防蚊性試験方法の研究開発を進めていたことから、2015年にいち早くJIS開発に参画。長崎大学熱帯医学研究所の川田均准教授の協力も得て誘引吸血装置法を開発した。

 誘引吸血装置法は、衣服の着用を模した血液入り餌容器を接続した試験ゲージ内にヒトスジシマカ30匹を10分間放ち、その間の試験蚊の吸血数を測定して吸血阻止指数を算出する。どれだけの蚊が試験片にとどまったかという係留率も測定することが可能。蚊は温度と二酸化炭素濃度によって吸血行動を起こすが、これを再現する環境を装置内に作り上げたところに技術的なポイントがある。

 人工的に蚊の吸血行動を再現できることで、人間が実際に蚊に吸血されるような実験が不要になる。人体を用いた実験は個人差による測定精度の低さに加えて、倫理面での問題も多いだけに、誘引吸血装置法の開発の意義は大きい。

 今回、誘引吸血装置法など防蚊性試験方法がJIS化されたことで、より信頼性の高い性能評価が可能となり、防蚊性繊維製品の普及への期待が高まる。日本だけでなく、アフリカなど蚊を媒体とした感染症の蔓延(まんえん)が深刻な問題となっている地域での貢献も期待される。このためJISをベースに国際標準規格(ISO)への提案の動きもある。

 カケンは1月7日に防蚊性試験の受付を開始した。日本衛生動物学会でも試験方法について発表したほか、セミナー開催や展示会出展も行う。日本発の試験方法として今後の普及に向けて積極的な情報発信に取り組む。

〈ケケン/カシミヤの産地判別システム/NTTと共同開発〉

 獣毛といっても、羊毛、カシミヤ、モヘヤ、アンゴラ、アルパカ、キャメル、ヤクなど20種類以上ある。ケケン試験認証センター(ケケン)はそうした獣毛の鑑別や混用率試験などを行う。獣毛検査のエキスパートとして、昨年12月からNTTと共同で「カシミヤの産地判別システム」の実証実験を開始した。製品から産地へのトレーサビリティー(追跡可能性)の確保、産地のブランド化にもつながりそうだ。

 ケケンは中国の内モンゴルの五大産地と新疆、チベット、さらにモンゴル、中央アジアから約130の土毛(土の付いた毛)サンプルを直接収集し、繊維長、繊度、色を光学顕微鏡で目視検査してきた。しかし、「外見の特徴からでは産地を推定することができなかった」(ケケン)。

 一方、NTTのデバイスイノベーションセンタは、レーザガスセンシング技術を確立し、食品の産地推定を行っている。「水素と炭素の質量で産地特定は可能」とし、新たな取り組みとしてカシミヤの分析をケケンと2017年の春から着手してきた。

 今回の共同開発では、カシミヤ(わた)を燃焼し、水蒸気や二酸化炭素などのガスにする。これに高性能の半導体レーザ光を照射し、同位体(質量の異なる原子)の違いによるわずかな吸収波長の差、その吸収量をモニタリングすることでガスに含まれる元素(水素と炭素)を同位体レベルで分析する。カシミヤ山羊の生育地や飼育環境によって元素の同位体比に相関関係のあることが明らかになっている。

 産地情報と関連付けた科学的なデータベースを構築することで「従来の光学顕微鏡と併せて産地を推定するめどがついた」(ケケン)。

 昨年11月に同システムを発表したが、カシミヤ関連のアパレル、メーカー、小売業などからの反響は大きかった。12月から協力会社を集め、既に7社が70サンプルを提供している。他にも参加予定企業が2社ほどあるという。

 今後は原毛の採集を行いながら、蓄積データの拡充を図って、産地推定の精度を向上させる。また、市場のカシミヤ製品での実証実験を行い、最終的にはカシミヤ産地の見える化につなげる考え。「サンプルでの産地判別を行うとともに、産地ブレンドされた商品の検出限界値も探る」。

 ケケンは「産地を判別できれば、消費者にとって安心・安全のトレーサビリティー、牧羊家はフェアトレード、産地ブランド化につながる」とし、エシカルファッションを含めたサステイナブル(持続可能性な)認証事業も視野に入れている。

 中国のカシミヤ工場も関心は高い。「海外に向けても産地判別システムを紹介していく」と、情報発信にも力を注ぐ。