2018秋季総合特集(8)/top interview 三菱ケミカル/サステイナビリティー打ち出す/執行役員 繊維素材事業部長 河﨑 隆雄 氏/対中アクリル輸出に底打ち感
2018年10月29日 (月曜日)
三菱ケミカルの繊維素材事業部は2018年度上半期、下半期とも「業績を改善できる」と手応えを強めている。対中アクリル輸出が底を打ち、「ミヤビ」のような付加価値品が受け入れられる機運が高まってきているという。トリアセテート「ソアロン」でも、中国富裕層のマーケットに「高付加価値素材としてのイメージが浸透してきた」。三菱ケミカルの誕生後、約1年半が経過。繊維素材事業でも、統合効果を発揮させるための取り組みが非衣料・資材分野を中心に動き出している。上半期の見通し、下期以降の展望を河﨑隆雄事業部長に聞いた。
――今後の繊維業界に大きなインパクトをもたらす外的要因を何だとお考えですか。
やはりサステイナビリティー(持続可能性)になるのではないでしょうか。SDGs(持続可能な開発目標)を意識したモノ作りが国内でもトレンドになってくると思います。全社方針にサステイナビリティーの向上を加え、グループ全体の方向性として打ち出しています。
当事業部は原料のトレーサビリティー(追跡可能性)の向上、3R(リデュース、リサイクル、リユース)の推進、エネルギー原単位の圧縮、CO2の排出量削減などに取り組み、環境に関連するさまざまな認証取得も目指していきます。既に、トリアセテート「ソアロン」でFSC(森林認証)を取得しました。
――2018年度上半期の状況はいかがでしたか。
ソアロンは7月くらいまで国内販売が苦戦を続けていました。主力の中肉織物やフォーマルのゾーンが低調でした。8月からは回復基調にあり、その中でも来春夏展でPRした「アイアス」などの麻調素材が好評です。
輸出は国内不振をカバーする好調を続けており、米国向けは先の読めない状況ですが、全体としては堅調です。ヨーロッパ向けでは、特にフランスが良くないですね。
一方、対中輸出は好調で、プレミアムテキスタイルとしてのイメージが浸透してきたと見ています。富裕層からの旺盛な需要に支えられ、数量ベースで10%以上の拡販になりそうです。
ポリプロピレン長繊維「パイレン」はオリンピック関連のインフラ整備に伴い、建築資材向けの販売が堅調ですが、カーペット向けが今一つです。
――アクリル事業は。
去年は冬が寒かったため、国内や東アジアの秋冬需要は総じて良かったといえます。中国輸出はダンピング課税後、かなり落ち込んでいました。しかし、18年度は抗ピル性に優れたマイクロアクリル「ミヤビ」の機能性、高品質を見直す中国ユーザーの機運が顕著で、中国や海外勢に取って代わられていたのが相当量、回帰してきました。
マイクロアクリルの場合、品位にばらつきがあると、生地段階で段が発生するなど製造工程の管理が難しい。安価なマイクロアクリルではトラブルが起こりやすいため、中国のしっかりしたブランドには当社素材を指定する動きが広がっています。アクリル事業としては販売数量、収益とも改善の方向にあります。
――下半期以降の戦略は。
森林認証の取得で、ソアロンがサステイナブルでエコな素材であるという国内外の評価が高まっています。これにさらに磨きをかけ、ソアロンの価値を高める戦略を強化していきます。昨年から、改めて販促を強化してきたことが奏功し、ここに来てソアロン100%使いの「TIS」に対する海外の評価も高まり、荷動きが活発になってきました。日本国内へもこの流れが波及してくれば、と期待しています。
――パイレンでは昨年、BCFナイロンの新素材をラインアップしました。
BCFナイロン「キラビス」の拡販に取り組んでいます。キラビスはホテルや店舗向けカーペットへの販売が順調です。今後もナイロン絡みの新素材開発には力を入れていきます。
パイレンの新素材である防虫繊維「クリーンライフNeo」は自動車用の防虫ネットに採用されました。用途拡大のため家庭用や店舗用カーペットで企画提案に力を入れています。
――アクリル原料の高騰が続いています。
昨年の下半期から上げ基調に転じました。18年度上半期もじわじわと上がり続け、現在のAN価格(1トン当たり)は2100ドル前後です。これまでも順次、進めてきましたが、19年シーズンに向けてしっかり価格転嫁に取り組んでいきます。
アクリル事業では下半期以降、中国におけるミヤビの拡販を強化します。制電防止「コアブリッド」に寒くて乾燥した気候の中国北部から引き合いが入り出しました。ミヤビとコアブリッドとの複合素材に対するニーズが高まってきており、この組み合わせを今後、定番企画として育成していきます。
――アクリルによる資材強化も課題でした。
アクリルに占める繊維資材の比率は10%前後です。当社の総合力を発揮させ、非衣料・資材向けを増やしていきたいと考えています。アクリルでは、超極細「XAI(サイ)」で自動車資材(吸音材)に参入したい。XAIを10%混入した不織布は吸音率を維持したまま目付けを半分まで軽くすることができます。大量に混入すれば、低周波の吸音率を引き上げることができます。不織布メーカーへのワタ売りを考えていますが、原反売りを否定するつもりはありません。当社が川下に踏み込むことに価値を見いだすことができるのかがポイントになります。
三菱ケミカルに統合されて1年半が経過しました。自動車関連事業推進センターなどとの連携によって急速に自動車メーカーや部品メーカーとの取り組みが深まっています。エンプラの原料を活用した繊維化にトライしていますし、土木・建築分野で他の事業と連携し重点顧客を囲い込む戦略に乗り出していければ、と考えています。
〈私のお気に入り/腕時計と馬皮のかばんにぞっこん〉
「死んだ親父が使っていた」40年前のセイコーの腕時計と「10年くらい前に買った馬皮のかばん」がお気に入り。腕時計の方は、「なかなか止まらないし、何よりも正確なのがいい」とのこと。かばんは1泊の出張時に愛用しているもので一度、使い込んでボロボロになったものを店にもっていったところ、「ビンテージ感を残しながら、奇麗にオーバーホールしてくれた」という。腕時計にもかばんにも、「日本のメーカーはこうでなくちゃ」と国産ならではの品質の高さにぞっこんの様子。
〔略歴〕
(かわさき・たかお)1985年三菱レイヨン入社。2006年アクリル繊維第一部長、07年アクリル繊維部長、14年アクリル繊維事業部長、16年4月執行役員繊維事業部長、17年4月から三菱ケミカル執行役員高機能成形材料部門繊維本部繊維素材事業部長。