スクールユニフォーム(3)/進むLGBTへの制服開発

2018年05月29日 (火曜日)

 学校などの教育現場において、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)などの多様な性に配慮した取り組みが広がってきた。こうした中、学生服メーカーも、LGBTに対応した性差のない制服の開発を進めつつある。生徒全員が違和感なく着用できる制服の供給に取り組む一方で、LGBTに対する理解を広げる学校へのサポートにも力を入れる。

〈広がるLGBT対応の制服〉

 この春開校した千葉県柏市立柏の葉中学校は、「性別に関係なく生徒が自由に選べる制服」を導入、生徒がスカートとスラックス、ネクタイとリボンなどを自由に選択できる仕組みを取り入れた。

 同校は昨年、保護者らに制服の必要性を聞くアンケートを実施。約9割が「制服は必要」と回答したため、導入を決めた。教員や保護者、児童らでつくる検討委員会を立ち上げ、どのような制服にするか議論を重ねる中でLGBTへの配慮を求める声も上がった。

 福岡市では市立中学校の制服の見直しを検討しており、更新する制服には、LGBTに対応したデザインを取り入れる。新制服の検討委員会が、今年6月中に発足する予定で、同市の中学校長会の代表や、保護者代表、PTA関係者や大学関係者によって構成される見通し。今後は検討委員会を中心に、「慎重に協議を進めたい」(福岡市教育委員会)としている。

 同市内には69校の中学校があり、大半の学校で全面的に制服更新がされるようだ。福岡市中央区の市立警固中学校では、来年入学の新1年生から、男女共通のブレザーに切り替わり、制服の選択制を導入する。性の多様化に対して、学校側の意識も高まりを見せる。

 このようなLGBTへ配慮した制服は、いつから意識され始めてきたのだろうか。菅公学生服(岡山市)の原田季典スクール企画開発部長は「女子スラックスの採用は昔から北海道、東北であり、どちらかと言えば寒さ対策だった」と話す。

 東京の都市部でジェンダーフリーを意識した女子スラックスの採用が実際に出てきたのは「2002~03年のころ」(原田部長)と見られ、10年ほど前から他の地域へ浸透。文部科学省が2015年、学校生活における性的少数者への配慮を求めたことで、LGBTに対応した制服の開発が一気に本格化してきた。

 菅公学生服では16年の展示会から、LGBTに対応した制服を発表し、昨年は実際の採用校を紹介するなど、開発を強めている。原田部長は、「特殊なサイズや障害がある人へのユニバーサルデザインと同じで、着る人が快適に感じられる制服を提案する」と説明。性差を感じさせないジップアップタイプのジャケットや、テーパードのスラックスなどを展示会で打ち出した。

 柏の葉中学校の制服を企画したトンボ(岡山市)も、16年10月の展示会から、LGBT対応の制服を提案、17年にはユニセックス対応のジャケットを発表した。今年、LGBTへの理解を広げる活動を行う一般社団法人エリー(津市)の山口颯一代表とアドバイザー契約を結んだ。学生時代、性同一性障害に苦しんだ経験がある山口代表が、制服のデザインを具体的にアドバイスし、LGBT向けの新たな制服を開発する。

〈供給後のフォローも重要〉

 学生服メーカーによる、LGBT向け制服の開発が進む中、課題も見えてきた。通常の制服に比べ、デザインやパターンなどの企画が重要になる。

 トンボのLGBT対応の制服を担当する、スクールMD部スクール商品開発課デザイナーの奥野あゆみさんは、ジェンダーレスの制服では、男子と女子で同じシルエットを表現したり、柄を決めたりするにも男女での「バランスが難しい」と話す。ネクタイやリボンを含め、アイテムの種類が多くなる傾向があり、在庫や供給面の対応力が問われる。

 同社は毎年11月29日を「いい服の日」としてイベントを開催。全国から制服のアイデアを募っており、最近ではLGBT対応の制服のアイデアが増えていると言う。デザイン的に実現が難しい場合も多いが、奥野さんは「アイデアを活用できれば」と話す。

 中学校では現在、8割程度が詰め襟学生服を採用しているといわれ、女子向けセーラー服を採用する学校も多い。制服のトランスジェンダー化がより高まれば、これらがブレザータイプに切り替わることが見込まれ、生産体制にも影響が出る可能性がある。

 学生服メーカーでは供給する立場としてもLGBTへの理解が必要となる。明石スクールユニフォームカンパニー(岡山県倉敷市)の柴田快三常務は「社内でもLGBTに関する研修を検討している」と話す。

 さらに制服を供給した後のフォローも重要になってくる。トンボの奥野さんは、「性差のない制服は今後増える」と話した上で、「制服を導入した理由や社会的背景などの説明が欠かせない」と強調する。トンボは今後、エリーの山口氏に講演を依頼し、周囲への理解を促す取り込みも進める。

〈【ことば】LGBT〉

 レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(身体と心の性が一致しない人)の頭文字を取った総称で、性的少数者を限定的に指す言葉となる。学生服では主にトランスジェンダー向けに商品開発が進む。

 日本では人口の7・6%がLGBTで、約13人に1人いると言われる(広告会社の電通が2015年に行った調査)。例えば学校の40人クラスであれば約3人はLGBTで、左利きの人やAB型の血液型の人と同じくらいの比率となる。