2018春季総合特集Ⅱ(7)/top interview 三菱ケミカル/ECにもアプローチを/常務執行役員 福居 雄一 氏/大きくなる繊維の可能性
2018年04月24日 (火曜日)
化学系3社の統合による発足から1年。シナジー効果も見えるなど、三菱ケミカルは順調に歩を進めている。福居雄一常務執行役員高機能成形材料部門副部門長兼繊維本部長は「展開する素材の幅が広くなった。その連携や協業を深めることで、繊維事業の可能性がこれまで以上に大きくなっている」と手応えを示す。2018年度も「さらなる変革の実行とスピード」をキーワードに事業戦略を推進し、多くの差異化素材を有するメーカーとして国内外の市場に存在感を発揮していく。
――第4次産業革命の進展が指摘されています。実感はありますか。
モノのインターネットであるIoTやAI(人工知能)が技術的特異点に向かって加速している感覚は確かに持っています。その象徴とも言えるのが、モビリティー分野における自動運転だと思います。数年前から取り組みが始まっていますが、ここに来ての急速な進展には目を見張るものがあります。
もう一つはヘルスケア分野ではないでしょうか。三菱ケミカルホールディングスグループは「KAITEKI健康経営」を推進しているのですが、その取り組みを深化するための健康サポートシステム「アイツー ヘルスケア」を始動しています。従業員にはウエアラブルデバイスが支給され、活動量や睡眠データなどが確認できます。
モノ作りにおいても3Dプリンターが航空機のコアな部品にも使われるようになっています。第四次産業革命はまだまだ入口に立ったばかりですが、これからの5年間、10年間は以前では考えられなかったような速度で進展していくのではないかと思っています。
――三菱ケミカルの繊維事業に導入することは可能でしょうか。
繊維産業全体を見ると、まず店舗販売からEC(電子商取引)への変化が挙げられます。2016年の数字ですが、国内アパレル市場のうち、1兆5千億円がECで前年比10・5%増え、比率も10%を超えたといわれます。リユースやリサイクル、レンタル市場も拡大し、商流は確実に変わってきました。
こうした動きはわれわれメーカーにも大きな変化をもたらすことは間違いないでしょうし、この流れをうまく活用していくことが重要です。顧客とアパレル、産地、繊維メーカーがデータを共有していけば効率化を図ることも可能になります。既に一部のアパレルと顧客の間で取り組みが始まっています。
当社としてもモノ作りの高度化に生かしていきます。例えば長い生産プロセスでの改善では、従来は各工程での要因を洗い出して改善を図っていましたが、データを一元管理することによって全体を解析し、一気に改善することが可能になります。
モノ作りに加えて、ECにもアプローチしていく必要があります。それには顧客にとって魅力的な素材がこれまで以上に求められることになり、有力な顧客、技術力を持つ産地との連携を深めていきます。それによって素材力を高めてアピールしていきます。
――そのような取り組みを始めてきた中で、17年度の業績はどのように推移したのですか。
素材別で言うと、アクリル繊維は、中国市場の需要不振やアクリロニトリル価格の上昇など、環境は厳しい面がありました。ただ、中国以外の国への差異化素材の評価を得たことなどが奏功して、依然厳しい環境ですが16年度よりは改善の方向に進みました。トリアセテート繊維「ソアロン」はニット分野でベロアやベルベットが健闘し、輸出も中国と欧州が順調で全体で10%程度の販売増が見込めそうです。
そのほかでは、ポリプロピレン繊維は東京オリンピック・パラリンピックの開催を控え、インフラ用途や資材用途などが拡大しました。カーペット用途はホームが伸び悩みましたが、ホテルやオフィス向けが堅調に推移しました。防虫機能を持つ「クリーンライフネオ」など、本年新たに発売する素材も順調な立ち上がりを見せました。
――17年4月の三菱ケミカル発足から1年です。3社統合の効果は発現できたのですか。
シナジーは出てきていると思っています。例えばアクリルの極細繊維です。自動車の吸音材として高い機能を発揮することが分かり、三菱ケミカルホールディングスの自動車関連事業推進センターとコラボレートしてマーケティングを進めている段階にあるのですが、新会社発足以前よりもさらに強固に連携するようになっています。
もっと 言えば、幅広い素材を持つようになり、そのことを顧客にも知ってもらえるようになりました。複合やハイブリッドに関して大きな期待が寄せられていると実感しており、大きな強みになっていると思っています。複合やハイブリッドによる高機能繊維は資材用途で可能性が広がってくるのではないでしょうか。
――18年度の経済の見通しと事業の方針について教えてください。
昨年末から経済は底堅い動きを見せています。貿易や政治の問題、地政学的リスクなど、目を向けなければならないものもありますが、当面は堅調に推移すると予測しています。
その中で、さらなる変革の実行とスピードをテーマに収益の改善を目指していきます。
アクリル繊維はアクリロニトリル価格の高止まりなどがありますが、特殊アクリルメーカーとして差異化原綿の提案強化などに力を入れます。
ソアロンは持続可能性を生かした提案で素材価値を高めるほか、産地とのコラボレートによる展開も強化します。
〈私の記念日/人を思う気持ちを強くした〉
結婚して28年。親よりも長く一緒に暮らしていることもあって、結婚記念日は大事にしていると話す福居さん。その思いをより強くさせたのが、2011年3月11日に発生した東日本大震災だった。結婚記念日は3月10日だが、11年の3月10日は木曜日だったため、翌日の11日にレストランに予約を入れた。地震・津波による被害を目の当たりにし、予約はキャンセル。日本全体もそうであったように、考え方も大きく変わり、これまで以上に奥さんや家族を大切にしたいと考えるようになった。
〔略歴〕(ふくい・ゆういち) 1982年三菱レイヨン(現三菱ケミカル)入社。12年参与炭素繊維・複合材料技術統括室長、13年執行役員豊橋事業所長、16年取締役兼常務執行役員炭素繊維・複合材料ブロック担当役員、17年4月三菱ケミカル常務執行役員高機能成形材料部門副部門長兼炭素繊維複合材料本部長兼繊維本部長、18年1月三菱ケミカル常務執行役員高機能成形材料部門副部門長兼繊維本部長。