2018新年号 トップが語る今年の展望(1)/2018年新春アンケート調査報告
2018年01月04日 (木曜日)
本紙繊維ニュースは昨年11月から12月にかけて、2018年の繊維業界を占う「新春アンケート調査」を実施し、川上から、川中、川下まで幅広い業種の118社に回答を頂いた。その結果を、過去との比較、トップのコメントとともに紹介する。なお、コメント紹介の際は社名、個人名は伏せ、業態のみの記載とする。用意した設問は以下の10項目。①2018年の景況はどうなるか②デジタル技術の導入によって以下の項目について何らかの変化が生じるか a.工場生産 b.物流 c.小売手法③繊維製品の売り上げ規模が拡大する業態④店頭価格はどうなるか⑤国内生産数量が拡大する工程⑥海外生産・調達を拡大するか⑦拡大する場合、重視する国・地域はどこか⑧中国生産・調達を拡大するか⑨海外販売(輸出もしくは内販)を拡大するか⑩拡大する場合、重視する国・地域はどこか。
〈回答企業(社名五十音順)〉
AOKI、青山商事、明石スクールユニフォームカンパニー、旭化成、旭化成アドバンス、アスワン、アツギ、飯田繊工、イトキン、インテリックス、宇仁繊維、大阪染工、岡本、オンワードホールディングス、カイタック、カイハラ、蔭山、カジグループ、カネカ、川越政、川島織物セルコン、菅公学生服、京都西川、清原、クラボウ、クラボウインターナショナル、クラレ、クロダルマ、桑村繊維、グンゼ、ケイテー・テクシーノ、コーコス信岡、コスモテキスタイル、コッカ、コナカ、小松精練、小森、澤村、サンウェル、三共生興、サンコロナ小田、サンペックスイスト、三陽商会、ジーベック、シキボウ、信友、島田商事、ジャパンブルー、成願、昭和西川、スタイレム、スミテックス・インターナショナル、スミノエ、セーレン、双日ファッション、そごう・西武、ソトー、第一織物、タキヒヨー、タビオ、チュチュアンナ、蝶理、津田駒工業、TSIホールディングス、帝人、帝人フロンティア、デコーレ、デサント、東亜紡織、東海染工、東洋紡、東レ、トーソー、豊島、豊田自動織機、豊通ファッションエクスプレス、トンボ、ナイガイ、ナガイレーベン、ナクシス、ナストーコーポレーション、西川産業、西川リビング、ニッケ、ニッシントーア・岩尾、日清紡テキスタイル、日繊商工、日繊商事、日鉄住金物産、日東紡、日本形染、日本バイリーン、ハネクトーン早川、はるやま商事、バロックジャパンリミテッド、広撚、福助、フジボウテキスタイル、フランドル、フレックスジャパン、ペガサスミシン、北高、ボンマックス、丸井織物、丸ホームテキスタイル、三井物産アイ・ファッション、三越伊勢丹ホールディングス、三菱ケミカル、三菱商事ファッション、森菊、モリリン、ヤギ、山喜、ユナイテッドアローズ、ユニオン工業、ユニチカトレーディング、ワールド、ワコールホールディングス
〈景況予測「変化しない」が最多/「好転する」過去最少に〉
一つ目の設問は「2018年の景況はどうなるか」。「好転する」と答えたのは15%で前々回の25%、前回の17%と年を追うごとに減少している。「悪化する」も同じく15%で、前回の19%と比べて4ポイント減少した。最も多かったのは今回も「変化しない」で70%。前々回の62%、前回の65%よりもやや増えた。
最多回答の「変化しない」の中では、「全般市況は引き続き穏やかな回復傾向を示すとみているが、繊維産業においては最終消費の低迷に加えて原料価格の上昇、朝鮮半島の不安定化による地政学的リスクを抱えるため楽観できない」(メーカー)、「自動車関連用途やインフラ用途の需要増に対して衣料用途は厳しい環境が継続する」(商社)など、全体景況や産業資材分野の好調に比べて衣料品分野に力強さがないといった言及が目立った。
「業種、業態により伸びる分野、厳しい分野がまだらになりそうだが、総合的に見れば大きな変化はないのではないか」(アパレル)、「プラス要因とマイナス要因が混在」(メーカー)など、良い要素と悪い要素による相殺により「変化しない」を選択する傾向も強かった。
「好転する」と答えた15%の中では、「店頭(の在庫)調整が一段落したと見られる」(商社)、「店頭の悪さをネットがカバーして国内消費は横ばいとなり、海外市場開拓が進むため全体としては好転する」(総合商社)といった指摘のほか、「株価上昇、東京五輪を控えての景気改善により好転を期待」(商社)、「市場全体の景気は底堅く、繊維製品に関しても、新鮮味があるという注釈付きながら購買が伸びるのではないかと期待している」(商社)など期待を込めた予測も目立った。
「悪化する」では、少子化やモノからコトへの消費志向の変化、衣料品需要に対し供給量が多すぎるという意見があった。
〈デジタル技術導入による変化〉
《a.工場生産/「する」「しない」が等分》
二つ目の設問は「人工知能やロボット、IoTの発達により何らかの変化が生じるか」というもので、変化の対象を三つに分けて聞いた。
「工場生産が変わるか」の問いへの回答は「する」と「しない」が50%ずつと意見が真っ二つに分かれた。「する」とした中には、「人手不足のために海外労働者の奪い合いになるとともにロボット化が進む」(産地企業)、「人手不足の中でデータやテクノロジーを活用した効率化が進む」(商社)など人手不足がその背景にあるとの指摘が目立った。「衣料よりもシューズで革命が起きる」(アパレル)、「大手からオートメーション化が進む」(メーカー)など分野や規模による濃淡への言及もあった。
「しない」との回答では、「一部では進むだろうが、18年中に急激に変化するとは考えにくい」(産地企業)、「中長期的には変化があると予想するが、18年に限定すればないと予想する」(メーカー)、「時期尚早」(アパレル)など、変化は急激には起きないが将来的には必ず起こると見る向きが多かった。
《b.物流/ネット販売拡大を背景に》
一方、「物流が変わるか」の問いには、「する」が62%で「しない」の38%を上回った。デジタル技術の導入は、工場生産よりも物流の変化をより促すだろうという回答結果となった。
「する」とした中では、「Eコマースの進展によりネット販売による宅配形態がさらに拡大する」(素材メーカー)や、「ネット販売が増える中で配送料が増加し、人員不足が顕著に表れるため、物流の自動化は必須だし、18年も変化する」(産地企業)などネット販売の産地企業その背景だとする指摘が多く見られた。
「RFIDの導入が進む」(アパレル)、「ビッグデータをAI活用した需要予測が始まりMD検証に使用される」(アパレル、など変化の手法を具体的に指摘する回答があったほか、「今後のSCMの鍵を握るのは物流であり、変化が必要条件」(素材メーカー)など変化の必要性を説く意見もあった。
「しない」という回答でも、「いずれは変化するが、18年中にはそれほど進まない」という読みが大勢を占めた。
《c.小売手法/8割弱「変化する」》
「小売手法が変わるか」の回答は、「する」が77%と三つの設問の中で最も多い結果となった。
この設問でもネット販売拡大への言及が多かった。「店頭からネット通販への移行が加速」(素材メーカー)、「ECサイトでの販売がさらに加速していくと思われる」(素材メーカー、「インターネット販売比率が増加し、アプリを利用した物販も増える」(小売り)などの予測が圧倒的に多く、17年も急速に進んだネット販売へのシフトが18年も引き続き加速するのは確実な情勢だ。
「問い合わせへの対応や店頭接客でも人工知能を活用したロボットの導入が進んでおり、さらに盛んになる」(商社)、「VR(仮想現実)やAR(拡張現実)を駆使して体験やシーンを訴求する手法が進む」(アパレル)、「無人レジや無人スタイリング提案が増える」(アパレル)など、具体的に小売手法の変化を予測する声も目立った。
23%だった「しない」の回答では、先の二つの設問と同様、「18年度中には急激な変化は起こらないのではないか」という内容が多かった。
〈拡大する小売業態は/「ネット通販」が圧倒的〉
設問3は、「繊維製品の売り上げ規模が拡大する小売業態は」。設問2のcで回答者の77%が「小売手法が変化する」と答えたが、本設問ではその拡大対象を具体的な業態で聞いた格好だ。
圧倒的大差で1位に輝いたのは、やはりというべきか「ネット通販」だった。113件と2位に大きな差をつけ、ネット時代を如実に反映したアンケート結果となった。
2位は29件のSPAで、以下、13件の専門店、5件のカタログ通販、2件の百貨店、1件のGMSという結果だった。
「高齢者のネット参入」(アパレル)、「シニア層への浸透が進む」(素材メーカー)とまだまだ需要拡大の余地が残っていることに加え、「スマホの普及とアプリなど物販サービスの充実」(商社)によってより身近で便利な存在になったのがネット通販だと言え、「百貨店やGMS、専門店の低迷は18年も継続する」(素材メーカー)など既存のリアル店舗には厳しい年になるとの予測も多かった。
ネット通販がなぜここまで浸透し、今後もしていくのかについては、「圧倒的な利便性」「価格比較の容易さ」「欧米と比べて日本がまだEC比率が低いこと」「リアル店舗にはできないサービスや付加価値」――などの意見が挙がった
少数ながらネット通販以外を挙げた理由には、「百貨店は円安基調でインバウンド需要が増える」(商社)、「既存小売業態が自ら急激に悪化した要因を反省し、再構築していけば再び拡大する可能性はある」(商社)といった分析が見られた。
〈店頭価格/相殺により「変化しない」〉
設問4は、「店頭価格はどうなるか」。63%と最も多かったのが「変化しない」で、「低下する」は21%、「上昇する」は16%となり、大差ない結果となった。
「変化しない」との回答理由で目立ったのが、「一部差別化品は上昇するが、全般的にはデフレから脱却できない」(素材メーカー)、「低下するものと上昇するものとが二極化」(製造卸)、「デフレ傾向と高付加価値傾向とで価格も両極化するが、平均すると変化しない」(アパレル)など、二つの要素による相殺を指摘する声だった。これらの声からも18年は価格と価値の二極化が不可避の情勢と言える。
「低下する」の中では、「国内消費に力強さがなく、買い控えも継続。よって価格も下がる」(産地企業)などの意見があり、「上昇する」では「人件費や原油価格といった生産コストの上昇により上げざるを得ない」(商社)、「物流コストの増大」(アパレル)などコスト高をその理由に挙げるトップが多かった。
〈オピニオン/高島屋 常務 営業本部副本部長 MD本部長 日本橋再開発担当 亀岡 恒方 氏/お客さま起点の買い場を〉
――2017年の百貨店業界はどうでしたか。
株価の上昇やインバウンド需要の拡大により高額品や化粧品などが売れ、追い風となりました。衣料品も、店によっては春先から前年実績を超える月が出始め、秋以降は例年より気温も低下し、コートが好調に動くなど、少しずつ明るい兆しが見えてきました。
――18年のポイントは何でしょう。
当社は今、衣料品の単品集積売り場やベビー用品売り場など、かつて国内外のブランドショップの面積拡大と共に取り扱いが極端に減った“買う場がない商品”を自主編集売り場の形でもう一度提案しようとしています。専門店チェーンや電子商取引(EC)サイトでは何でもそろいますが、当社としては、より品質の良いモノ、安心・安全を求めるお客さまの声にコンサルセールスも合わせ幅広く応えたい。
衣料品は働く女性への対応などライフスタイルの変化を捉え、お客さまの声を起点に編集した売り場が好調です。売り手が決めた売る物にお客さまが合わせる“売り場”ではなく、お客さまの声を聞き欲するものを提案する“買い場”を創出していきます。
――ECサイトにない実店舗の強みですね。
実店舗の強みを生かし、ネット販売と融合させたビジネスモデル、オムニチャネル化を加速します。在庫の見える化による欠品防止など、店頭のお客さまの不満解消や利便性追求の手段として、ITの導入なども積極的に検討していきます。
〈国内生産/「拡大しない」が大勢〉
五つ目の設問は「国内生産数量が拡大する工程は」というもの。最も多かったのは17ポイントの「化合繊」で、以下、編み立て(10)、不織布(9)、縫製(同)、織布(6)、染色整理加工(5)、紡績(4)、高機能原料・素材(2)、無縫製(1)という結果だった。
複数回答可としたこの設問の選択社数が極端に少ないのは、「なし」という回答が大勢を占めたため。このことから、18年の国内生産の増減に対する大方の見方が悲観的であることが分かる。
回答なし、あるいは「なし」との記入があったコメントでは、「国内生産はさらなる高度化、高付加価値化が進むが、量的な拡大は想定しにくい」(素材メーカー)、「国産でトレンド的に顕著な拡大となる分野は考えにくい」(産地企業)、「国産が拡大することはないと思う」(小売り)など国産が量的に拡大することに対する否定的な見方が多かった。
一方、実に五つもの工程が拡大するとした素材メーカートップは「17年が過去最低で、底入れしたと思っている」と答え、四つの工程を選択した商社トップも「国産回帰、輸出拡大というトレンドが吹く中、設備投資が可能であれば生産拡大は可能」と国産拡大に対して好意的な見方を示した。
最多回答だった「化合繊」については、「機能性や快適性のニーズが増えていることから、化合繊の需要は継続する」(産地企業)、「17年ほどではないが、手入れの簡単な合成繊維を使用した洋服は増加すると思われる」(小売り)など、衣料品分野でアスレジャーやイージーケア性の浸透・定着が進む中でその担い手は化合繊であるとの指摘が目立った。「スマートテキスタイルの開発に伴い拡大する」(素材メーカー)、「自動車資材や産業用途で化合繊は活況になる」(商社)といった指摘も見られた。
こうした指摘は17年秋から北陸産地の生産統計が再び拡大に転じていることからも説得力を増す。
ユニチカや旭化成など一部合繊メーカーが国内での増産計画を表明していることも、今回のアンケート結果に反映されたと言える。
〈オピニオン/宇仁繊維 社長 宇仁 龍一 氏/流行変化を国産の追い風に〉
――北陸産地など一部を除き日本の繊維製造業の苦境が続いています。
確かに全体総論としてはしんどい状況が続いています。しかし、個々の企業に目を向ければ、独自性や新たな取り組みによって未来を開いているところがあるのも事実。ポイントは、自分で作って自分で売るというやり方になると思いますね。全てを否定するわけではありませんが、指図されたものを作り、販売も人任せという手法では生き残ることは難しいでしょう。
――アパレル店頭不況が顕在化しています。
当社の生地販売にもそれは表れていますが、希望はあります。その一つは、トレンドの変化です。ここ数年のアパレル市場はとにかくトレンドの変化が乏しかった。節約志向が浸透した消費者たちはたんすにあるものは買いません。したがって、たんすにないものを開発し、打ち出すことが重要になります。
トレンドの変化を作るのはわれわれ生地メーカーや生地コンバーターの役割だと思います。目新しい魅力的な生地を作って、アパレルの製品製作意欲をかき立てることが今求められていることであり、当社が今もっとも力を入れているテーマです。
日本での無人縫製工場も現実味を帯びています。そうなれば国内生産にも再び脚光が当たるでしょうし、その先のステップとして生地から縫製までの純日本製の製品を海外に売っていくという未来図も描けますよね。