特集 人工皮革/素材の強み、広がる用途

2017年11月16日 (木曜日)

 繊維素材の中でもひときわユニークな位置を占めるのが人工皮革である。天然皮革の品位や風合いを代替するだけでなく、最近では独自の繊維構造体としての特徴を生かした新たな用途開拓でも注目が高まる。近年、環境負荷の観点からも天然皮革の供給量には限界があり、動物愛護の観点からも天然皮革を忌避する動きもある。一方、繊維材料としての要求は一段と高まる。こうした動きを背景に、人工皮革の用途はさらなる拡大が期待できそうだ。そこで今回の特集では、有力メーカーの最新動向をまとめた。

〈販売量は微増で推移/環境対応型が伸びる/クラレ〉

 クラレのクラリーノ事業部の2017年の販売量は前年比微増で推移している。環境対応型人工皮革「ティレニーナ」が強度や熱成形性などが評価され、約10%伸びている。

 輸出の多い同事業部にとって前年よりも為替相場は追い風だったものの、天然皮革原料の値下がりなど厳しい面もあった。国内向けではシェアの高いランドセル用途は堅調なものの、身の回り品などの市場環境は良くはなかったという。

 今後は引き続き、ラグジュアリー分野や強みである熱成形性の良さが生かせる分野の開拓を進める。バッグや靴など高級天然皮革代替としてのラグジュアリー分野に向けてはイタリアで開かれる国際的な皮革展へ出展してきたが、今後は個展に切り変えて訴求していくことも検討している。

 国内では今年で15回目を迎えた「クラリーノ美脚大賞」などで継続してアピールする。ラグジュアリー分野に向けては手触りの良いものなど付加価値品の開発に取り組む。

 高温で伸びやすく熱成形性に優れる特徴を生かし、スポーツシューズや情報通信機器関連での拡大にも取り組む。スポーツシューズでは縫製工程の省人化が求められていることから、熱成形性の良さが評価されている。

 さらに、スポーツシューズは市場の拡大とともに高度化も見込まれ、機能性やラグジュアリー感へのニーズも高まり、同社にとって商機になるとみる。

 中国の合弁会社、禾欣可楽麗超繊皮〈嘉興〉は中国内需を取り込み順調に拡大している。現在は靴や家具用途が中心だが、銀付タイプを拡充するなどで自動車用途も開拓する。

〈自動車やCE けん引/下半期は15%強の増収へ/東レ〉

 東レの人工皮革「ウルトラスエード」の今年度上半期(17年4~9月)は前年比10%強の増収となった。自動車用途やコンシューマエレクトロニクス(CE)用途が順調に拡大し、インテリアなども堅調だった。下半期(17年10月~18年3月)も自動車用途を中心に更なる拡大を狙い、同15%超の増収を計画する。

 カーシート用を柱とする自動車用途は北米と中国がけん引役で、日本も堅調だった。高級車市場の拡大に加え、天井材やインパネなど採用箇所の広がりも寄与した。EVなど環境対応車種が広がる中、バイオ原料素材への関心が高まっていることも追い風となった。

 CE用途はスマートフォンやタブレット用が主力だが、ヘッドホンやヴァーチャルリアリティ機器などにもアイテムが広がった。今後はアイテムをさらに広げるとともに、取り組み先も増やす。

 インテリアは同20%弱の増収で、カラーストックオペレーションが成功する日本や米国が堅調で、韓国での拡大も貢献した。椅子張りなど従来用途に加え、インテリア雑貨なども拡大した。

 ファッション衣料は市況低迷の影響を受けたが、引き続き開発における重点分野とする。ここで新素材開発を加速し、他用途にも広げていく流れを作る。例えばスエード調のタッチと銀付の光沢感を併せ持つ「ウルトスエード ヌー」はファッション衣料から展開を始めたが、現在は家具・インテリアや航空機内装などに広がりつつあり、カラーストックオペレーションも開始する予定。今後に向けてブランド価値の更なる向上を重点課題の一つとする中、「ファッション衣料はグローバルに認知度を上げる上でも重要な分野」(川田昌史ウルトラスエード事業部長)と位置付けている。

〈増設へ全用途を拡大/新設備は解析、IoTも重視/旭化成〉

 旭化成の人工皮革「ラムース」の好調が続く。このほど生産設備の増設も決めた。増設によって既存全用途での拡販を目指すと同時に、新設備には最新のデータ収集・解析技術やIoT関連システムも積極的に導入し、さらなる商品開発の高度化を進める。

 ラムースは2017年度も好調が続く。自動車用途はシート向けの販売が拡大していることに加えて、天井材やインパネ周りとしての販売も伸びた。インテリア用途も耐候性の良さなど機能を高め、質感の良さを打ち出した。不織布構造体としての特徴を生かしたフィルター用途も拡大。3層構造体という特徴を生かし、原料の組み合わせなどでフィルターとしてさまざまな機能を発現させている。

 堅調な需要に対応するため、このほど生産設備の増強も決めた。年産能力は現在の約600万平方メートルから約900万平方メートルへ拡大する。9月に着工し、19年度上半期に稼働を開始する予定。「増産分に関しては、自動車、家具・インテリア、フィルターという現行ポートフォリオの全てで拡販する」(関淳平ラムース営業部長)ことになる。

 新設備には製造工程や生産品質などに関するデータ収集・解析のための装置やIoT関連のシステムも積極的に導入する計画である。データ蓄積・解析を重視し、それを生かした生産の高度化を進める。ラムースは製造手法の関係からさまざまな原料を使用することができるため、原料軸での開発にも力を入れる。表面感のさらなる微細化など高品位に焦点を当てた商品開発も進める。

〈独自の強み打ち出す/産業資材用途も拡充/帝人コードレ〉

 帝人コードレは、帝人素材の活用や島根工場の加工技術、豊富な商品バリエーションなどを生かし、独自の強みを打ち出す。産業資材用途の開拓なども進める。

 帝人コードレの2017年度上半期(4~9月)は、ランドセルや鞄向けが堅調な販売となり、家具など生活資材用途も販売量を増やした。一方、主力のスポーツシューズなどスポーツ分野がやや軟調だった。このため「次に向けた仕掛けで通期では増収を確保する」(阪井宏史社長)として、開発力強化によるソリューション型提案、再生原料活用や溶剤フリー化による環境対応、天然皮革に無い機能・性質の実現に取り組む。

 このため帝人グループが持つ再生ポリエステル「エコペット」などの活用や島根工場が持つ豊富な加工技術を生かした開発に力を入れる。

 さらに産業資材用途の拡大にも取り組む。自動車関連のほか、研磨材、エレクトロニクス関連などがターゲットとなる。こちらも原料や加工の組み合わせでユーザーニーズに合わせた素材物性や機能を実現することがポイントとなる。

 「商品バリエーションが広いのが『コードレ』の強み。それを生かし、ユーザーのニーズに合った商材を提供する。そのためには設備投資も継続的に実施する」ことで競争力を発揮する戦略である。