2017秋季総合特集(27)/top interview/クラレ/“素材の力”引き出す/取締役常務執行役員 繊維カンパニー長 豊浦 仁 氏/次期中期計画で設備投資
2017年10月24日 (火曜日)
ビニロン繊維や高強力ポリアリレート繊維「ベクトラン」、いろいろな樹脂を活用したメルトブロー不織布、面ファスナー「マジックテープ」など多様な独自素材を擁するクラレ。豊浦仁取締役常務執行役員繊維カンパニー長は「糸、織物、不織布などさまざまな形態にすることで“素材の力”を引き出す。そこに当社の独自性がある」と指摘する。2017年12月期も終盤に入ったが、各素材とも堅調な販売が続く。このため来期から始まる次期3カ年中期経営計画では生産設備の増設を実施する構想である。
――クラレの繊維事業にとって今後を生き残るための独自性とは何でしょうか。
当社はビニロン、「ベクトラン」、メルトブロー不織布など独自性の強い商品を強みとしてきました。「マジックテープ」もその一つです。これらに共通するのが、“素材が持っているパワー”をどのように引き出すかという観点です。そこにこそ当社の独自性があります。素材を糸、織物、不織布といったさまざまな形態にすることで素材の力が最も発揮できる用途や市場へとはめ込むことに成功してきました。
例えばビニロンは衣料用途では普及しませんでしたが、耐アルカリ性の強さ、親水性、接着性の良さという特徴を生かすことでセメント補強材、電池セパレーター、ゴム資材といった用途を開拓してきました。セパレーターならショートカットファイバー、あるいはペーパーで販売するなど最適な形状を追求してきたのです。ベクトランも同様です。アラミド繊維などと競合するのではなく、低吸湿性や振動減衰性の良さを生かした用途で採用を拡大してきました。“素材の力”を超えることはできません。だからこそ素材の力が最も発揮できる用途や分野を見極めることが必要なのです。
その時に重要になるのが、ユーザーのところに必ず頻繁に足を運ぶことです。そこで求められる性能が何なのかを見極め、それを素材の力で実現する。それがクラレの繊維事業のやり方です。歴史的に見れば当社はポリエステル繊維が縮小する一方で、ビニロンやベクトランといった他社がやっていない素材に力を入れてきました。ポリエステル短繊維もショートカットファイバーなど強い用途に特化することで利益がしっかりと出ている。さらにエチレンビニルアルコール共重合体「エバール」や高耐熱性ポリアミド樹脂「ジェネスタ」といった独自の素材を繊維分野で活用することにも取り組んでいます。つまり、マーケットで強いポジションを確保できる商品作りを進めてきたのです。
――2017年12月期もあとわずかですが繊維事業の業績はいかがですか。
上半期(1~6月)は売上高264億円、営業利益29億円となり順調に推移しました。下半期(7~12月)も売上高256億円、営業利益26億円を計画していますが、ここまで計画通りに推移しています。通期で売上高520億円、営業利益55億円という数字は達成できるのではないでしょうか。特にビニロンの販売数量拡大が進みました。セメント補強材用途は欧州市場が好調ですし、米国も市況は悪くありません。GDPが2~3%成長している国ですから建材分野でコンスタントな需要があります。セパレーター用途も順調に伸びました。「クラロンK―Ⅱ」は水溶性タイプと高強力タイプがありますが、水溶性タイプがやや伸び悩んでいるので高強力タイプを補強材用途で伸ばしています。
不織布も健闘しました。特徴のある商材をコスメやメディカル、自動車などの分野に投入することができています。メルトブローでフィルターといった新しい商材も出てきました。メルトブローとスパンレースの複合タイプなど面白い商品も増えています。カウンタークロスも好調が続いています。国内だけでなく日系企業の進出でアジア市場の可能性も高まります。マジックテープはバックコート剤非使用のエコタイプが市場に受け入れられています。
――来期以降の戦略についてお聞きします。
当社は今期が中期経営計画の最終年度ですので、18年度から20年度までの次期3カ年に中計を策定しているところです。繊維事業の課題として、全ての素材で供給能力が限界に達しつつあることから、増設に向けた投資が必要な段階に入りました。このため次期中計期間中の設備投資に向けた計画の骨子はできました。増設の工期を含めると3年では不十分ですから23年度までの6カ年タームで計画を立てています。
ビニロンは新プロセス製法「VIP」のテストプラントがありますが、20年度までに量産ラインを実用化します。問題は時期と、どこに作るのか。ビニロンは現在、中国を除くと当社しか生産していませんから、BCP(事業継続計画)も考慮する必要があります。このため海外も含めて立地を検討しています。ベクトランも供給能力は限界ですから、次期中計中に増設します。欧米やアジアでの需要が拡大するでしょうから、さらに次の増設をどうするかも考えなければなりません。ベクトランも新プロセスの開発を進めていますから、実証プラントを作る必要があります。メルトブロー不織布もキャパが埋まるのが見えていますから、20年度までに増設が必要でしょう。
増設する以上は、それだけの需要の掘り起こしが必要です。次期中計では生産・開発・販売が一体となってマーケット・用途の幅を広げることも重要なテーマになります。環境は常に変化しますから。現在の市場での強いポジションを維持しながら、それを広げていく。エバールやジェネスタ、ポリエーテルイミド(PEI)といった独自ポリマーを繊維分野で販売拡大することも売上高を拡大することにも重点的に取り組みます。
〈25年前のあなたに一言/まるで“ビニロン教”の伝道師〉
1992年当時、機能紙・不織布原料としてビニロンの輸出を担当していた豊浦さん。「当時はパソコンもあまり普及しておらず、海外出張に行くとホテルに毎日、ファクスの束が届く。資料も紙ばかり。毎回、手荷物が25㌔ぐらいあった」とか。まだビニロンはマイナー素材。ひたすら営業先で説明し、紙の資料を配った。「出張後半になって荷物が軽くなってくるとホッとしたもの。当時はまるで“ビニロン教”の伝道師のようだった」と振り返る。そんな豊浦さんだからこそ、今の若手や中堅社員にも「商品やマーケットについて徹底的に勉強してほしい」と願う。「営業はお客とコミュニケーションが全て。何を聞かれても会話できるようにならないと」と言う。
〔略歴〕
とようら・ひとし 1982年クラレ入社。2010年繊維カンパニー繊維資材事業部長、13年執行役員、15年1月生活資材事業部長、同年3月クラレファスニング社長兼任。16年1月繊維カンパニー長、3月から取締役常務執行役員。