2017秋季総合特集(26)/top interview/三菱ケミカル/川中連携で独自性追求/執行役員 繊維素材事業部長 河﨑 隆雄 氏/新素材投入し、市場開拓

2017年10月24日 (火曜日)

 2017年4月にグループ3社が統合し発足した三菱ケミカル。その相乗効果は繊維においても用途開拓、商品開発などさまざまな形で発現しつつある。社内連携による効果に加えて、繊維では「川中企業のエキスパートと協業し、糸やテキスタイルで独自性を生み出す仕組み作りも重要」と河﨑隆雄執行役員繊維素材事業部長は強調する。同社は独自の繊維素材が多いが、それにとどまらず、各段階と連携することで付加価値を高めるという戦略を組む。これをさらに推進する。

  ――今後を生き抜く上で貴社の独自性とは何だとお考えですか。

 当社はアクリル短繊維、アセテート長繊維「ソアロン」、ポリプロピレン長繊維「パイレン」と独自性のある繊維素材を製造販売しています。全素材とも量を追求するのではなく、それぞれが一層独自性を高めることに重点を置いています。ただ、素材としての独自性だけでなく、川中企業のエキスパートと協業し、糸やテキスタイルで独自性を生み出す仕組み作りにも力を入れています。

 糸・わたが持つ独自性も、糸加工や紡績、織布、編み立て、染色加工があってこそのもの。その面では川中のパートナー企業との連携は欠かせませんし、その取り組みが当社の特徴です。例えば、ソアロンならば北陸産地企業になります。ソアロンは世界唯一の素材ですが、糸を売りっ放すだけでは価値は生まれません。パートナーがソアロンを料理、調理して魅力あるテキスタイルに仕上げてもらえる。だからこそ、価値が生まれます。他素材でも追求しています。アクリル短繊維は紡績やニッタ―との協業で独自性を図っています。島精機製作所が「ホールガーメント」をはじめとする横編み機に当社の湿式芯鞘構造アクリル短繊維「コアブリッド」を使うことで、制電性を持つ製品ができることを訴求して頂いているのも一例です。

  ――今年4月1日付でグループ3社が統合し三菱ケミカルとして新スタートを切りました。繊維にどのような効果が生まれていますか。

 さまざまな情報がありますし、発信力も違います。例えば、旧三菱レイヨンで開発した0・1デシテックスの極細アクリル短繊維は自動車吸音材向けに開拓を進めていましたが、三菱ケミカルとなって以降、自動車関連事業推進センター(AMS)との連携により国内外の展示会への出展などを通じて、引き合いが活発化しています。また、さまざまな樹脂を持つことから繊維状にできないか、あるいは他事業部の機能材を繊維に使えないかなど他事業からの提案も活発です。

  ――さて、2017年上半期(17年4~9月)の繊維業績見通しはいかがですか。

 繊維全体としては各素材とも前年同期に比べると健闘しました。アクリル短繊維はインナー、アウターなど衣料用が堅調に推移しました。量を稼いでいたフェイクファー向けは中国のアンチダンピングにより落ち込みましたが、現在ポートフォリオの転換も進めており、下期から本格化できる予定です。さらに生産の効率化も行っており、アクリル短繊維全体として好転しています。

 ソアロンは国内衣料用が苦戦しましたが、ニットベロアがトレンドに乗り、織物の落ち込みをカバーしました。輸出は欧米向けが4~6月低調も、7月以降は回復基調で、10月も好調を維持しています。中国向けも伸びています。日本、欧米も同様ですが、ソアロンはいかにファンを多く作るかが基本方針の一つです。その面ではファンになって頂けるバイヤーが増えていると実感しています。また、サステイナビリティー、トレーサビリティーなどが今後大きなキーワードになっていますが、9月に富山事業所のアセテート工場がFSC認証(森林認証)を取得。9月の仏「プルミエール・ヴィジョン」でも紹介しましたが、好反応を得ることができました。

  ――下半期(17年10月~18年3月)の事業環境をどのように見ていますか。その上で課題は何でしょう。

 国内の衣料用は厳しいとみています。商流が変化している点も注視しなければなりません。その変化にどのようにアプローチすればよいのか。ストーリー性も重要になりますが、素材ごとにどのように訴求していくかは検討課題だと考えています。

 アクリル短繊維は原料のアクリルニトリルが上昇していますので、コスト上昇分の転嫁に取り組みます。ただ、原料価格に左右されるビジネスをいかに減らすかが基本的な考え方です。独自性や差異性を評価してもらえる需要家との取り組みを強化しポートフォリオの転換も進めて、独自性をより追求することに力を入れます。

 アクリル短繊維ではポリマーから改良した新素材の開発にようやくめどが立ちました。現在、需要家段階で評価を進めています。この素材はセーター用が主体ですが、極細タイプでよりソフトでありながら、ハリ・コシ感もある。抗ピル性も従来の極細タイプよりも高い。今後、コア素材として育成していきたいと考えています。

 ソアロンは今年50周年を迎えましたが、主力の婦人服地に加え、ユニフォームなど機能衣料分野に力を入れます。ユニフォーム向けは着心地の良さや吸湿性などの特徴が評価され採用が増えていますが、さらに拡大するために11月開催の展示会でUVカット、透け防止、遮熱など機能性を持つ新素材を提案します。

 パイレンも軽量性、保温性、疎水性などの特徴がある面白い素材です。それを生かした用途開拓に取り組んでいます。三芯中空断面を持つ「ライブエア」による衣料分野での展開がスタートしたほか、カーシートでも引き合いがあります。

〈25年前のあなたに一言/モノにするまで徹底的に〉

 25年前、ちょうど30歳だった河﨑氏。ポリエステル長繊維の糸売り担当として、全国を飛び回っていた自分自身を「めげずによくやっていた」と振り返る。後発メーカーとして厳しい環境を強いられる中で、一つ一つの仕事にまじめに取り組んだという。その中で海外営業をしてみたいとの思いから、秘かに中国語を勉強した。「これからは中国の時代がやってくる」と英語ではなく、中国語を選ぶ当たり、先見の明もあった。だから「若さもあるが、当時の向上心や意欲は今も失わないようにしたい」と語る。ただし、中国語は身に付けるまでに至らなかったのが反省点。それだけに、「モノにするまでは徹底的に取り組むべき」とは言っておきたい。

〔略歴〕

 かわさき・たかお 1985年三菱レイヨン入社、2006年アクリル繊維第一部長、07年アクリル繊維部長、14年アクリル繊維事業部長、16年4月執行役員繊維事業部長、17年4月から三菱ケミカル執行役員高機能成形材料部門繊維本部繊維素材事業部長。