2017秋季総合特集(3)/事例研究/綿紡、毛紡だけじゃない!/合繊紡 特性生かして生き残る
2017年10月23日 (月曜日)
日本の紡績業界は海外との競合から縮小均衡の道を歩み続けてきた。その中にあって綿紡績や毛紡績のようにメジャーではないが、独自性を生かしてしぶとく生き残ってきた紡績企業がある。それが合繊紡だ。もちろん、縮小は余儀なくされてきたが、合繊100%紡績糸、混紡糸だけでなく、アラミド繊維など高性能繊維の生産も手掛け、原着わた使いなどによる多品種小ロット対応可能など同じ紡績でも、綿紡績や毛紡績とは一味違う。合繊紡の生き方を追った。
〈国産40%が合繊紡績糸〉
経済産業省の生産動態統計年報によると、日本の紡績設備(運転可能錘数)は1986年に約1097万錘だった。しかし、徐々に減少し、90年には1千万錘を割り込み、2016年には約88万錘と86年に比べて10分の1以下にまで縮小した。この5年間だけでも22%強も減っている。それに伴い国内の紡績糸生産量も5年間で17%減少した。
16年の紡績糸生産は7万2979トンだが、その内訳(混紡を含む)は綿糸3万4206トン、毛糸(梳毛・紡毛計)9037トン、再生・半合成繊維紡績糸3366トン、合繊紡績糸2万6004トン。つまり、再生・半合成繊維と合繊を含めた紡績糸は国内生産の約4割を占める。
この再生・半合成繊維、合繊による紡績糸を主に生産するのが、2インチ紡などの合繊紡になる。業界推定によると、大垣扶桑紡績(岐阜県大垣市)、フクイボウ(福井市)、丸一繊維(新潟県糸魚川市)、ユニチカスピニング(長崎県松浦市)、北日本紡績(石川県白山市)など大手合繊紡だけを合わせた紡績錘数は12万錘強といわれ、最大手とされる大垣扶桑紡績は3万8千錘強の規模を持つ。国内だけで見れば富士紡の紡績設備を上回り、シキボウの規模に近い。
〈梳毛・紡毛複合が登場〉
合繊紡は繊維長が38ミリと短い綿紡績や、逆に繊維長が76ミリ以上と長い梳毛紡績との中間に位置する。ちなみに、繊維長が長いと撚り係数を落としても糸強度を維持することができるため、同じ原料でもソフトな風合いになるとされる。
全ての合繊紡ではないが、原着わたなど多品種小ロットに対応し、アラミド繊維など高性能繊維も手掛けるなど、汎用繊維の紡績にとどまらない点も特徴と言える。
合繊紡には51ミリクラスの繊維長に適した2インチ紡から、64ミリクラスの3インチ紡、76ミリクラスまで対応できる4インチ紡もある。
この2、3、4インチ紡全てを有するのが、東レ子会社でもある大垣扶桑紡績だ。1948年設立で来年には創業70周年を迎える。03年に大垣紡績(現本社・大垣工場)と扶桑紡績(現・扶桑工場)が合併し、現社名に変更した。
紡績設備は大垣工場が2万2776錘(月産108トン)、扶桑工場が1万5336錘(94トン)。合わせて3万8112錘(202トン)。ポリエステル、アクリルなど合繊100%糸のほか、ウールなどとの混紡糸、さらに原着わた糸やアラミド繊維の紡績糸も生産する。同社は学生服やユニフォーム向けの賃紡を主力とするが、用途、商流など事業領域を広げるため、昨今、自主販売にも取り組む。小林弘明社長は「最終製品をイメージした商流を作る。そのためには前に出る必要がある」と話す。川下企業に提案することで、精度の高い商品開発にも結び付ける。
その一つが梳毛用と紡毛用の原毛をハイブリットしたウール高率混(ウール90%・ナイロン10%)の新紡績糸「レヴォール」だ。
2~4インチの紡績設備を持つ強みに加え、前紡工程と仕上げ工程を工夫。混打綿技術により混紡むらを抑え、新技術「ノーカットウール方式」により、チクチク感を軽減し商品化した。既にアパレルに採用されており、さらに裾野を広げたい考えだ。
〈高性能繊維も紡績できる〉
一方、帝人グループと関係が深い2インチ紡、北日本紡績も1948年の設立だ。一時期、仮撚加工糸(1963年から2010年)も手掛けていた。
東証2部上場会社でもある同社は2インチ紡のみで1万1328錘(82~96トン)の紡績設備を有し、ポリエステル、アクリル、ポリ塩化ビニル繊維、そしてアラミド繊維など高性能繊維の紡績を行う。細番手を得意とし、綿番手で100番まで生産可能だ。
同社の特徴は「高性能繊維が全体の50%強を占める」(仲治文雄社長)点にある。その面で汎用繊維から、防護服向けをはじめとする高性能繊維への事業転換が進んでいる。今上半期は高性能繊維紡績の受注量は前年比15~20%増と好調だった。
同社も自販を模索するが、紡績以外での取り組みになる。それが特殊パウダーをポリエチレンに練り込んだ「カラム」。ホテルや大浴場、プールなどのろ過装置や水質改善に向けた環境素材だ。15年に環境部門を新設し、用途開拓に取り組む。
紡績=綿紡績、毛紡績とのイメージは強いが、多品種小ロット対応、アラミド繊維など高性能繊維も紡績するなど、合繊紡は独自性を持つ。
ある面、量を追えない国内での紡績に適した事業体とも言えるかもしれない。