繊維街道 私の道中記/コーコス信岡 会長 信岡 正郎 氏(5)/受け継がれるDNA

2017年04月28日 (金曜日)

 伊藤忠商事でユニフォームを担当していた塔本泰広が2010年、4代目の社長に就任した。「ディッキーズ」ブランドの導入などで、さらに市場が広がり、16年3月期単体決算は、過去最高となる売上高141億円となった。

 彼は本当によくやってくれたと思っています。何よりこんな環境が厳しい中でも、売り上げを過去最高にまで伸ばしてくれたんですから。

 14年、N&Cカンパニー(広島県福山市)を設立し、自社普通株式のTOB(株式公開買い付け)を進め、MBO(経営陣買収)が成立。15年3月には上場を廃止した。

 上場廃止した理由としては、株式を非公開にすることで、上場維持のためのさまざまな制約に左右されず、経営を自分の考えで進めていけるメリットがあります。安定的な収益体質の基盤作りと、収益改善による強固な財務体質の構築を進めていくためにも、経営の意思決定を迅速化する必要がありました。

 もう一つの理由としては、次世代の後継者がまだ若く、当時の塔本泰広社長、平川隆専務の体制がしっかりしている間に決断しておこうという思いもありました。

 上場していた時の経験は決して無駄にはなりません。上場していたからこそ現在の売上高まで伸ばすことができたと思っています。

 上場廃止になっても、継続すべき部分は継続していきますし、必要性を感じればまた上場すればいい。われわれの世代ではできることに限界があります。次世代に向けて新しい体制へつないでいくためにも、上場廃止は通過点に過ぎません。

 今年4月には娘の映子が5代目社長に就任。新たな体制がスタートした。

 父の英一郎は、「憂きことのなおこの上につもれかし 限りある身の ちから ためさん」という熊沢蕃山の言葉が好きでした。「つらいことがこの身に降り掛かるなら降り掛かれ。限りある身ではあるが、自分の持てる限りの力で、どこまでできるか試してみようではないか」という意味です。映子にはその言葉を胸に刻みながらしっかり経営に当たってほしい。

 思えば、入社して60年、まさにその言葉通り、挑戦の連続だったと思います。創業以来、ずっと培われてきた「創造と革新」のDNA精神は、次の世代にもずっと引き継いでいってもらいたいと思っています。

 来年4月には映子の息子で、孫に当たる修一が大学を卒業し、コーコス信岡に入社する予定だ。今は孫の成長が一番の楽しみとなっている。

 この夏には当社の工場で研修を受ける予定です。インドをバックパッカーで一人旅するところなんかは、親父の可修(よしなり)に似ているところかもしれません。入社したら、どんなことを教えてやろうかと、今から本当に楽しみです。

(この項おわり、文中敬称略)