春季総合特集(7)/三菱ケミカル 常務執行役員 福居 雄一 氏/繊維の可能性に期待感/統合の効果は初年度から
2017年04月24日 (月曜日)
化学系3社の統合によって4月1日付で発足した三菱ケミカル。繊維事業も新しいスタートを切ったが、福居雄一常務執行役員高機能成形材料部門副部門長兼炭素繊維複合材料本部長兼繊維本部長は「多分野との連携によるシナジーで、繊維の可能性が広がる」と大きな期待を寄せる。スピードと変革をキーワードに戦略を進め、「統合初年度から成果を上げていく」と強調する。
――4月1日付で三菱ケミカルが発足しました。新体制で事業を進めますが、繊維事業の半歩先を考えたときに見過ごせない状況変化とは。
厳しいと言われる繊維産業ですが、合成繊維の世界生産に目を移すと、2016年は前年比2・8%増となるなど成長を続けています。繊維の需要は20年には1億トンを超えるとの観測がありますが、このうちの7000万トン以上を合成繊維が占め、15年から年率で3・6%の成長が見込まれています。
このように底堅い拡大が見込める合成繊維ですが、コモディティーから高付加価値・非衣料へのシフトという大きな流れの中にあります。それに向けた対策は必要不可欠な状況と言えます。
もう一つ感じているのは商流の変化です。店頭販売から電子商取引への移行という潮流が明確になりつつあり、その対応も求められます。当社もトリアセテート繊維「ソアロン」などで、ネット展開を強化している米国のアパレルとの連携を深めています。さらに付け加えるとするならば、環境やサステイナブルなどのキーワードはこれまで以上に重要視されることが予想されます。
――米国のパリ協定離脱問題など、各国の政策によって戦略が変わる可能性は。
ドナルド・トランプ米大統領がどのような施策を打つのか注意を向ける必要はあるでしょう。実際には、環境保全に対する世界的な考え方が大きく変わることはないと予測しているのですが、予断を持つと柔軟な対応が難しくなります。
欧州に関しても不透明感が漂っています。英国の欧州連合からの離脱、フランスやドイツでの国政選挙によって政策が転換することも想定されます。中国については、経済が一時の勢いをなくし、アクリル繊維では厳しさを増しています。今後も世界の動きに注意を注ぎ、リスクに対応できる体制を整えておかねばならないでしょう。
――16年度の業績を振り返ると。
素材によって状況が違うのですが、アクリル繊維は中国向けを中心に厳しい1年間になりました。エコファー関連などが勢いをなくしたほか、アンチダンピング問題などの影響があったためです。このため、中国以外の国・地域へのカーペットや毛布、インナー・肌着の提案強化を図りました。カーペットでは風合いや発色性の良い素材を、インナー・肌着でも差異化素材を積極的に打ち出しました。
トリアセテート繊維のソアロンは、中東の民族衣装は期待ほどではなかったものの、日本国内と欧米向けが堅調でした。国内取り組み先に加え、ネット関連やSPAに対する拡販への取り組みも実を結んできました。用途は婦人衣料をメインとしているのですが、スポーツや学生服向けも増えています。
ポリプロピレン繊維も建築用途を中心に堅調です。カーペット用途はホームユースで伸び悩みも見られましたが、オフィス、自動車向けなどの動きが活発でした。繊維の事業環境は、総じて厳しい状況ですが、特徴を持った素材は健闘しました。
――17年度は三菱ケミカルの初年度になります。事業戦略を教えてください。
最初にお話しした通り、合成繊維自体の生産は拡大を続けており、需要も伸びています。ただ、われわれは量では勝負ができないため、差異化と非衣料をキーワードに取り組んでいくことになります。非衣料用途の比率は確実に高める方針で、そのための種まきは実施していますし、非衣料用途向けの面白い素材も出てきています。
素材別では、アクリル繊維は、大きなマーケットである中国での劇的な需要回復は見込めない状況にあります。やはり中国以外の国・地域への提案強化と差異化素材での拡販が重点となるのですが、同時に電子商取引に力を入れている企業との連携を深めることができればと考えています。
アクリル繊維の非衣料向けでは、超極細繊維の技術による自動車関連用途の開拓が既に始まっています。複合紡糸技術を用いた機能繊維では、スマートフォンを操作できる手袋などへの展開もスタートを切りました。ポリマーを含めて技術を生かした展開が当社の武器の一つであり、今後積極的に拡大を図っていくつもりでいます。
堅調な動きを見せているトリアセテート繊維は、北陸の協力先やアパレル企業などとの連携をさらに深め、ソアロンのブランド価値の一層の向上に力を入れます。ポリプロピレン繊維は素材特性を生かして、用途開拓に取り組んでいきます。
――新会社の強みはどこになるのですか。
3社統合で10部門に集約され、繊維は高機能成形材料部門の中に組み込まれています。高機能成形材料部門は、繊維と炭素繊維複合材料、高機能エンプラ、機能成形複合材、アルミナ繊維・軽金属などの本部で構成されています。3社統合による三菱ケミカル発足には、これらの領域の連携によるシナジーの発現が期待されています。
例えば、炭素繊維複合材料分野と高機能エンプラ分野は自動車関連などで強みを有し、ここに繊維の技術を組み合わせることで軽量化を実現したものなど新たな材料の創出につながります。これまでも取り組んできたことですが、一層の強化・拡大・深化を目指します。
高機能成形材料部門内での連携だけでなく、高機能化学部門や高機能フィルム部門、環境・生活ソリューション部門、新エネルギー部門をはじめとする他の部門とのコラボレーションにも力を入れます。フィルムでは、エンプラなどと複合すると成形性や耐衝撃性を高めることが可能です。
自動車、航空機、エネルギー、建築材料などが重点用途になりますが、繊維は深くて広がりのある技術であり、再成長への好機だと思っています。素材や技術面での連携はもちろん、マーケティング面でのコラボレートにも期待をしています。
――人の融和など課題はないのですか。
画一化する必要は全くなく、それほど心配はしていません。それぞれが良いところを発揮しながら、同じ目標に向かって進んでいければいいと考えており、むしろ、これからどのように成長していくのか楽しみや期待感の方が大きいです。人材の教育にも一層力を入れていく考えでいます。
新会社の発足によって、繊維をはじめいろいろな可能性が出てきています。これを収益に結び付けることが大きな課題です。スピードと変革の二つをキーワードに17年度から成果獲得を求めていきます。
ふくい・ゆういち 1982年三菱レイヨン入社。2005年豊橋複材工場長、09年参与経営企画室、12年参与炭素繊維・複合材料技術統括室長、13年執行役員豊橋事業所長、16年取締役兼常務執行役員炭素繊維・複合材料ブロック担当役員、17年4月三菱ケミカル常務執行役員高機能成形材料部門副部門長兼炭素繊維複合材料本部長兼繊維本部長。
〈思い出の味/こくと深みにはまる〉
岡山県出身の福居さんは、三菱レイヨン入社後に、中央研究所(広島県大竹市。現大竹研究所)へ配属されるなど、中国地方での生活が長かった。30代の半ばで豊橋に異動となるのだが、その地で、「みそ煮込みうどん」を初めて食べたと言う。岡山では雑煮でも白みそが使われることが多く、八丁みそは未知の味だった。最初はおいしいと思わなかったらしいが、食べる機会が増えるにつれて、「どんどん好きになっていった」と語る。特に引き付けられたのは八丁みそ。こくや深みのとりことなり、とんかつもみそかつを選ぶ。が、やっぱり「真夏に汗をかきながら食べるみそ煮込みうどんが良い」と話す。