春季総合特集(6)/東洋紡 社長 楢原 誠慈 氏/新中計はメリハリをつける/横連携で社内の技術融合
2017年04月24日 (月曜日)
東洋紡の2016年度は想定外のマイナスが膨らむ一方、成長戦略が本格的に進み出すという成果も得た。17年度は現中期計画の最終年度であるとともに、来年度からの新中期計画を策定する時期。新中計の策定においては「メリハリ」をキーワードとし、「コスモシャインSRF」を中心とするフィルム、エアバッグ、膜など成長を狙う事業をさらに拡大する。
――半歩先を見て、繊維で注視すべき状況変化とは何でしょうか。
繊維は以前から変化が起きており、突然起こったわけではありませんが、気をつけるべき事象があります。一つは日本があまり関与しなくても良いモノができるようになったことで、メード・イン・ジャパンあるいはメード・バイ・ジャパンでなくてもよいモノが増えてきました。また、消費者の購入場所が百貨店からSPAやネットなどに移っています。昨年と比べてではそうでもありませんが、3年前と比べるとずいぶん変わりました。これからどうなるかしっかり見ていかなければなりません。
プラスの変化ではインバウンド需要で、「マンシングウェア」もその恩恵を受けています。アジアの所得が上がり、良い品質、良い機能のモノを購入するようになったこともチャンスで、メード・イン・ジャパンだけでなく、メード・バイ・東洋紡でリーズナブルな商品も提供していきます。現にインドネシアでは海外↓海外のビジネスも出てきました。
ハイテクの分野が繊維にまで広がり、ウエアラブル端末などは可能性があるとみています。合繊でバイオ原料が台頭してきたこともプラスの変化。こういった分野は先進国が得意ですからチャンスと捉えています。
――繊維をハイテク分野に展開していく。
かつてハイテクと言えば金属の世界でしたが、それがプラスチックに行き、柔らかくソフトな繊維にも広がってきました。今はピラミッドの上の領域で規模は大きくありませんが、市場が広がっていくときはいつもそこから始まる。繊維が得意としていたベターゾーンが厳しいなら、先端の部分で取り組む必要があります。衣料繊維は全体の25%になりましたが、それ以外の事業を伸ばしていくことも必要です。
社内では、社内オープンイノベーションと話しており、技術の融合を進めていきます。これまで当社は縦割りが強く、横の連携が少なかったのですが、各分野の技術を組み合わせることで新しい可能性を生み出す。例えばウエアラブルでは競走馬用での展開が始まりましたが、これは繊維をベースに、接着剤やフィルムなどの技術も融合しています。
――繊維から生まれた技術は多くあります。
いろんな事業を展開していますが、元の技術は繊維というものも多いですね。樹脂を溶かして引っ張れば繊維ですが、広げればフィルムになり、物性を変えればエンプラになります。レーヨンの廃液処理からバイオの技術も生まれました。これまでは繊維から分かれていったのですが、次はそれを融合して新しいものを生み出していきます。
人事面では4月から香山和正代表取締役専務執行役員が化成品、繊維・機能材、ヘルスケアの全営業部門を1人で見る形にしました。事業に横串を入れて見ていくためで、東洋紡では新しい試みです。例えば機能材とフィルムは原料のPETは一緒なのですが、これまで接点が少なかった。まずは顧客の視点に立ち、社内にある技術を見渡して組み合わせることが大切です。
――研究開発の体制も変わりますか。
研究開発ではある程度、融合が進んでいます。例えば数年前にフィルムの新しい機台を立ち上げる際に苦労した時は、他の部門からも入って原因をチェックして解決しました。結構参考になるものが出てくるもので、現場管理のノウハウなども共有できます。敦賀工場ではかつて部門ごとに言葉が違いましたが、まず言葉を統一しました。それによりノウハウを共有し、生産革新運動を進めています。
――ところで前年度はいかがでしたか
これまでの東洋紡は改革は得意だが、新しいモノを創り出して成長につなげることが苦手と言われていましたが、それが進み出したことが良かった点ですね。フィルムでは10年先を見据えて新商品、新体制を作る大改革を行ってきましたが、その成果が出てきました。新しいタイプのSRF(超複屈折タイプ)が、これまでの投資の時期を経て本格的に離陸し、東洋紡のPETフィルムが液晶テレビの革新を起こしたと高い評価を受けています。その前の24億~25億円から50億円超に拡大し、次年度は150億円を目指せるところまで来ました。エンプラも収益を伸ばし、13番目の海外拠点としてインドにも開設しました。海水淡水化膜では次世代の技術とされるFO(正浸透)膜が世界的に注目を集めています。数千㌧、1万㌧規模のプラントが動き出していますが、そのほぼ全てに当社の膜が使われています。
エアバッグはPHP社の買収で原糸から織物までのグローバル体制を整え、ユーザーからの期待が高まっています。時間がかかっていた認証作業も終え、17年度後半から伸び始め、来年度は大きく拡大する見通しです。エアバッグでは17年度から20年度にかけて100億円規模の投資を計画しています。織りは日本、中国、タイ、米国にありますが、次は欧州を検討します。
――成長戦略が進み出した。
一方でマイナスの材料もあり、相殺してほぼ前年並みの業績となった見込みです。想定外のマイナスが20億くらいは出るという前提で計画を立てるのですが、前期は50億円超に膨らんだもようです。主因はアクリル短繊維やPPS素材の苦戦、ブラジルの繊維事業の撤収などです。日本エクスラン工業はこれを機会に中身を変えていきます。得意な分野に集中し、改革を進めて効率を高めていく。特にアクリレート系繊維を拡大します。
――来年度、新中計が始まります。
17年度は現中計の最終年度ですが、ゴールして力を使い果たすのではなく、次に向けてすぐに走り出せるようにしなければなりません。次期中期計画は芽が出始めたフィルム、エアバッグ、膜などの事業を花開かせるとともに、研究開発に注力して次につなげる新しいモノを創り出していきます。キーワードはメリハリをつけること。現中計では17年度に営業利益300億円を目指していましたが、達成が難しくなりました。その反省点としてはエアバッグなどの遅れた部分、想定外に落ち込んだ部分があったことに加え、伸ばせない事業でも無理に成長の計画を立てたことがあります。次期中計ではそういう事業は売上や利益を伸ばすのではなく、資産効率や人の効率を上げていく。一方で成長ができる事業は幅を広げ、点から線に、線を面にしていく。そのために重点的に経営資源を投入します。加えてオール東洋紡という大きな枠組みでみて、社内のいろいろな技術、ノウハウを融合していくこと。横串で見ると資源の再配分も可能となります。人事も縦割りでなく他の分野も経験することが大事で、外を見ることで仕事のやり方が一つではないことも分かります。
ならはら・せいじ 1980年九州電力入社、88年東洋紡績(現・東洋紡)入社、2006年財務経理部長、09年財務部長、10年執行役員、同年経営企画室長、11年6月から取締役兼執行役員、12年からグローバル推進本部長を兼務。14年4月から社長。
〈思い出の味/インドネシアの懐かしい味〉
楢原さんの思い出の味は1992~96年の駐在時に食べたインドネシア料理。中でも「カルチャーショックを受けた懐かしい味」というのがソプブントッド(牛テールスープ)や蒸し海老など。蒸し海老は小エビを蒸しただけのシンプルな料理だが、辛味のあるサンバルソースをかけて食べると「実に美味い」という。日本に帰ってからも食べたくなり、店を探してみたが見つからなかった。日本では高級料理になって海老も大きく、「似て非なるもの」なのだそうだ。現地で食べた味を日本で求めるのはすでに断念したため、今もインドネシア出張時には食べたくなるそうだ。