特集 スクールユニフォーム(1)
2016年09月30日 (金曜日)
〈制服が毎日を楽しくさせる〉
日本で本格的に学生服の生産が始まって、間もなく100年がたとうとしている。時代とともに紆余曲折(うよきょくせつ)がありながらも制服文化は着々と根付き、今もまた新しい制服の文化が広がろうとしている。これまで制服はどちらかと言えば「着せられる」という認識が強かった。しかし、少子化で生徒数が減っていく中、これからは「着たくなる」制服の開発が学生服業界にとって求められる課題となっている。
〈大手4社は増収基調に/MC校拡大がけん引〉
学生服アパレル大手4社の2015年度決算は、前年度から一転し、多くの企業が増収を確保した。値上げが進んだこともあるが、昨年のような消費増税に絡む反動が無かったことに加え、モデルチェンジ(MC)校数はニッケ調べによれば前年より34校増え、201校と全体的に増えている。
明石スクールユニフォームカンパニー(明石SUC、岡山県倉敷市)の16年5月期決算(正確には明石被服興業の決算)は、売上高248億円(前期比6・6%増)、経常利益15億円(35・9%増)と増収増益で、売上高、利益とも過去最高だった。
人気アニメ「ワンピース」を起用した詰め襟学生服の新入学キャンペーンが販促に貢献したことに加え、スポーツ衣料は「デサント」、自社ブランドとも例年以上に採用校を獲得できた。
トンボ(岡山市)も16年6月期決算は、売上高が265億円(前期比4・0%増)、経常利益が17億円(26・4%増)と増収増益となり、いずれも過去最高だった。全体のMC校のうち約4割(トンボによる試算)を獲得、生徒数でも前の期に比べ約7500人増えたことで、初めて学生服の売り上げが200億円を超えた。スポーツは「ヨネックス」が過去最高となる107校の新規採用校を獲得した。
10月中旬に決算発表を控える菅公学生服(岡山市)も、期初に掲げていた売上高340億円、経常利益5億円の目標を達成し、増収増益になる見通し。今年の入学商戦のMC校の獲得が校数、獲得率とも前年を上回ったことに加え、店頭商品についても、洗濯耐久性に特化した詰め襟学生服「カンコードライウォッシュ」などの販売が拡大。スクールスポーツも「カンコー×ファイテン」「アディダス」など順調に販売を伸ばした。
瀧本(大阪府東大阪市)も大手間を中心とするシェア争いや、生徒数減少といった厳しい環境にあったものの、MC校の獲得が例年通り推移し、16年6月期決算は増収になりそうだ。
〈まだまだ進化する学生服/“着たくなる”心くすぐる〉
6月から8月にかけ、学生服アパレルの多くが今後の入学商戦に向け新商品の展示会を開いた。「軽くて着心地がいい」というキーワードを中心に学生服の進化を垣間見ることができる商品が多く見られた。その一つがニット化だ。シャツではシワになりにくい、着心地の良さからニットシャツを採用する学校が既に増えている。
明石SUCは、5年前から企画し、黒さや強度の研究を重ねながら「素材の進化に挑戦」したニットの詰め襟服「ラクラン」を開発。
着やすさはもちろん、“母親目線”の開発として、イージーケア性を高めた。実際、体操着のように丸めて袋に入れても、シワ回復性が高く、丸洗い洗濯もできる。「詰め襟服の歴史に新たな一歩を踏み出す」商品として市場に広げる。
デザイン性という面でも進化が著しい。トンボは6~7月の総合展で、“アップデート”をテーマに最新の制服を披露。中でも「イーストボーイ」では大都市部でのMC校の開拓を意識し、学校のイメージ向上にも貢献するような目新しいデザインやスタイリッシュな制服を豊富にそろえた。スポーツでもウオーミングアップ用に人気のピステを改良した「ピストレ」を新たに打ち出し、市場への浸透を進める。
瀧本はスポーツのミズノとコラボした「ミズノ」の店頭販売向けの詰め襟服、学校別注向けの販売を本格化している。ミズノのスポーツ衣料で培った技術や独自の機能素材に、瀧本のこれまで学生服の生産で培ってきた技術も融合させ、高付加価値の制服に仕上げたことで、スポーツが強い学校から注目され、堅調に採用校を増やしつつある。「カンゴール」では、スコットランドのチェック柄やブリテッシュ風スタイルなど新作を打ち出し、採用につなげる。
展示会での見せ方もここ数年で変わってきた。菅公学生服は3年前から開始した異業種と連携しながらの総合展「スクールソリューションフェア」を開いてきた。制服をはじめ現場の様々な課題を解決するための独自調査やサービスを紹介。生徒、学校、保護者の意識調査から抽出した制服の「デザイン、清潔、動きやすさ」を、エリア別や年代別の採用傾向を視覚化するなど、見せ方を工夫する。今年も11月頃に開催を予定し、スポーツの「リーボック」で新しい打ち出しを計画するなど、より見応えのある展示を創出する。
新たな試みに取り組む企業もある。オゴー産業(倉敷市)は、昨年に続き、11月1、2日に東京で展示会の開催を予定するが、今回、店頭商品は一切出さず、学校向けの提案に絞った展示を想定。メーカーと共同開発で、原料からこだわったウール素材を使った制服など提案し、改めて自社商品の魅力を発信する。
〈将来を見据え設備投資/多品種小ロット化に対応〉
納期が入学シーズンに集中するという特殊な事情から、学生服アパレルにとって生産拠点の確保が重要となってくる。少子化で市場が縮小しているといっても、学校別注の増加による多品種小ロット化などで、ここ数年、工場の新設や増設が続く。
明石SUCは、詰め襟服を中心に生産してきたアクシーズソーイング(沖縄県糸満市)を拡充し、1キロほど離れた同じ西崎工業団地内に第2工場を建設し、7月から操業を開始した。敷地面積は約6100平方メートル、建屋の建設面積は約2950平方メートルで、事務所や倉庫も併設し、既存工場に比べ1・5倍以上の大きさとなり、自動裁断機(CAM)も導入した。学校別注による多品種小ロット生産が増えており、ジャケットやスラックスなど詰め襟服以外も生産できる体制にし、将来的には従業員の増員も見据える。
菅公学生服は、学生スラックスを生産する高城工場(宮崎県都城市)の近隣へ移転増設を進めている。新工場は敷地面積が2万3140平方メートル、建物面積が3150平方メートルで、従来に比べ4倍ほど拡大し、11月末に開所式を開く予定。初年度の生産量は年間12万8000点で、来年度以降は14万点に増やす。第2期計画として隣接地に裁断センター(建設面積約6100平方メートル)の建設も進め、南九州全体の裁断業務を一手に担う計画を構想する。
トンボは14年から稼働するトンボ倉吉工房(鳥取県倉吉市)での生産が軌道に乗りつつあり、ブレザーを中心に3万点以上を生産。生産ラインを増やし、2ラインで増産を図りつつある。美咲工場(岡山県美咲町)には昇華転写プリントの設備も導入し、スポーツウエアを中心にデザインの差別化を進める。
〈来入学商戦も堅調に推移/新たな仕掛けで市場広げる〉
8月に発表された文部科学省の2016年度「学校基本調査」(速報値)によれば、在学者数は小学校が638万6000人、中学校は335万6000人でそれぞれ前年度より約6万人ずつ減り、過去最低を更新した。高校も326万1000人で前年度より9000人減少した。来年度も減少する可能性があるが、大手アパレルのほとんどが、今期(16年度)決算で増収を見据える。
理由としては地方の制服を供給するメーカーがいまだに減っている状況がある。縫製工場では今年に入ってから最低賃金の上昇で利益を出せず、倒産や廃業するケースが増加。“縫い場”が無ければ制服を供給することができないだけに、当然生産基盤を持つ企業がシェアを拡大することになる。
スポーツ分野も一部専業メーカーの規模縮小があり、採用校拡大のチャンスが広がる。東京五輪に向け、さまざまなイベントが活発化するなかで、スポーツチームの支援や協賛によって、認知を広げようとする動きも増えてきた。
制服のない学校でも制服に似た服装で通学するケースが増え、いわゆる“自由通学服”の市場の拡大もある。そういった市場の掘り起こしに向け、トンボが「&be(アンビー)」、菅公学生服が大手SPAのストライプインターナショナルと共同開発した「アースミュージック&エコロジー カンコーレーベル」といったブランドの販売を強める。菅公学生服は22日、東京の原宿に「カンコーショップ原宿セレクトスクエア」をオープンした。ファッションの最先端の街で、これからの新しい制服を発信する。
ただ、18年以降も入学者数が減っていく傾向にあり、「今より厳しい情勢になってくる」との見方が多い。一部の企業では介護やワーキングなど、スクール以外のユニフォーム事業の拡大や、犬の歩行補助ハーネスの販売(トンボ)、学童保育事業(菅公学生服)など新しい事業を立ち上げ、市場を広げながら、将来的な事業の柱に育てる。
〈“買わされる”前提だけに/尽きない「制服高い」の声〉
10年ぶりに制服の値上げが進んだことによる反動か、春先から一般紙による「制服の価格が高い」という論調が尽きない。「値上げしたときに、そういった声は少なからず湧き上がる」(アパレル関係者)と、もはや“風物詩”ととらえる向きもあるが、学生服アパレルをはじめ、そういった声を決して無視しているわけではない。
なぜ「高い」と言う声が尽きないのか。一つは消費者が自由に選んで買うことができないという点がある。また、制服を購入する際、カード決済ができない、一括払いしかできないなど旧態以前の商慣習が根強く残っているところもある。どうしても「買わされる」ものであり、特に義務教育の中学校の場合、制服に対する出費が高くなるのはなおさらおかしいという論調だ。
よく「父親のスーツが1万~2万円程度なのに」とスーツと制服を比較するケースもあるが、学生服アパレルが販売する制服は基本的に3年間着用することを前提に、品質面で相当厳しく検査をしている。学生服を専門に取り扱う中古ビジネスが成り立つのも、そういった品質面の良さがあるためと言える。1年ほどで買い替えるようなスーツを一緒に論じるのはそもそも無理がある。
共働きの家庭が増える中、最近では家庭洗濯が可能な制服も増えている。そういった高品質なモノ作りができるのは、日本にしっかりとした生産基盤を持つためと言える。4月の入学シーズンに納品を間に合わせるために、学生服アパレル各社はずっと知恵を絞ってきた。
日本で制服の生産が始まってから約100年。制服文化がなぜここまで続いてきたかを改めて業界全体が検証していく必要がある。価格以上に“何か”良さがあるからこそ制服が根付いてきたともいえる。高いという声に向き合いながらも、制服の良さを訴え、制服文化をさらに進化させていく努力をしていかなければならない。