アパレル編/思わず“袖”通したくなる制服が充実
2016年05月30日 (月曜日)
少子化で市場が縮小するなか、学生服アパレル各社は新たな取り組みによって活路を見いだそうとしている。商品そのものの企画も、学校や生徒、保護者に受け入れやすいデザイン性、機能性などが進化する。思わず着て見たくなる、そんな心をくすぐるような企画が増えてきた。
〈トンボ/「140AMD」集大成へ/「イーストボーイ」発売〉
トンボ(岡山市)の今入学商戦は、全国の学校への入学者数が前年に比べ1・3%ほど少なく、市場の環境としては決して良くなかったが、制服をモデルチェンジ(MC)した全国の学校のうち、4割ほどを獲得し、堅調に推移した。
昨年6月から組織を再編し「MD本部」「販売本部」を設置し、これまでよりも「顧客の要求や要望に応えられる体制にした」(安田和弘取締役販売本部長)ことや、今年5月10日に創業140周年を迎え、昨年から「トンボ140thアニバーサリーマーチャンダイジング(140AMD)」プロジェクトを推進してきた効果が奏功。学校をはじめとした顧客とのコミュニケーションを強化し、「その積み重ねがMC校の獲得につながった」。
来入学商戦に向けては140AMDで打ち出した新ブランドの販売を加速。高校生向けの自由通学服ブランド「&be(アンビー)」は、制服があまり浸透していない地域を中心に開拓を進め、新しいアイテムを増やしながら、少しずつ市場を広げる。
学校別注用途へ打ち出す、人気の制服ブランド「イーストボーイ」は、来入学商戦から販売を本格化する。
知名度のあるブランドだけに学校への提案がしやすく、「反応がいい」ことから「学校に受け入れてもらえるようアピール」しながら5~10校の採用校を目指す。
6月から7月にかけて大阪、名古屋、東京、福岡で開く総合展示会では「制服検討委員会2016」をテーマとして、世界の制服や、最新MC校の展示、ロキャロン社のタータンチェックの新柄などの披露を予定。140AMDの集大成の年として今後も新たな動きも仕掛ける。来年の入学者数は今年より1・5%ほど減る見通しだが、「学校のニーズをとらえながら新商品を打ち出す」ことで、MC校の拡大につなげる。
〈菅公学生服/ニーズに応えるパートナー/大手SPAとも連携〉
菅公学生服(岡山市)は、今入学商戦のMC校の獲得について、東京や大阪など大都市部を中心に伸ばし、校数、獲得率とも前年を上回った。2013年から開く、異業種も参加し、制服だけでなく学校支援を多角的に提案する総合展示会「スクールソリューションフェア」を通じて、「企画力を高めてきたことがいい成果につながってきた」(問田真司常務)。
店頭商品も、家庭洗濯への不安を解消するために、縫製仕様や付属、生地の洗濯耐久性に特化した詰襟学生服「カンコードライウォッシュ」とセーラー服「カンコービューティーウォッシュ」の販売が好調。30回洗濯したものと新品との見た目がほとんど変わらないという「説明しなくても見ただけで分かる機能」(問田常務)に加え、昨年「グッドデザイン賞」を受賞したこともあって、「販売代理店、消費者ともに興味を持ってもらえた」。
来入学商戦では、「パートナーシップ契約」を結んだ大手SPAのストライプインターナショナルとの協業で打ち出す、「カンコー アース ミュージック&エコロジー」の学校指定制服の販促を本格化。社会貢献活動の「未来ちずプロジェクト」でも連携し、女子生徒向けのキャリア教育支援を今後進める。
また、昨年発表したアイドルグループ「ももいろクローバーZ」など、衣装デザイン・スタイリング担当の米村弘光氏との共同プロジェクト「世界にひとつのみんなの制服 スタイリング・バイ・ヨネムラヒロミツ」も採用校が決まりつつあるという。これまでに無かった新境地を開くことで業界に新風を吹き込む。
異業種とコラボするソリューションフェアについても、さらに参加企業を増やし、展示内容を充実させる予定で「学校のニーズに応えられるパートナー」を目指しながらMC校の獲得を進める。
〈明石スクールユニフォームカンパニー/“生徒が着たい”制服開発/これまでに無い企画強化〉
明石スクールユニフォームカンパニー(明石SUC、岡山県倉敷市)は今入学商戦、制服のMC校獲得が例年並みに推移し、とくに東海地区でのMC校の獲得が健闘した。ここ数年、宇部テクノパークアソートセンター(山口県宇部市)、倉敷和蔵アソートセンター(倉敷市)といった物流拠点を強化してきたこともあり、スムーズに供給できた。
店頭商品も、「富士ヨット学生服」ブランドとアニメーション「ONE PIECE(ワンピース)」とのタイアップキャンペーンの効果もあって、ストレッチ性・機能性の向上で着心地を高めた全社共通の企画「スマートワン」や、詰め襟服の「ナノウェイブ・プレミアム」など新商品の販売も好調だった。
昨年6月から製販分離の体制となり、商品企画についても新しい取り組みを進めている。昨年、創業150周年を記念し、英国の老舗キルトメーカーのキンロック・アンダーソン社とオリジナルコーポレートタータンを開発。キンロックのタータンチェックは今入学商戦で2けた以上の学校に採用され、私学だけでなく公立でも採用があった。
昨年11月に発表したAKB48グループの衣装制作など手掛けるオサレカンパニー(東京都千代田区)と共同企画の制服「O.C.S.D.(オサレカンパニー・スクール・デザイン)」についても来入学商戦ですでに私学を中心に4校で採用が決まった。「360度カワイイ&カッコイイ制服」をコンセプトに開発したもので「これまでに無い取り組みだが、学校の関心が高く、“生徒が着たい”と思える制服の要望に応える」(榊原隆営業本部スクール第二販売部長)ことで今後も採用校の獲得に向けた動きを一段と強める。
〈オゴー産業/大手に無い視点で攻める/制服への理解広げる〉
オゴー産業(岡山県倉敷市)は今入学商戦、モデルチェンジ校の獲得よりも、「従来の制服をブラッシュアップし、大手と違ったアプローチによってマイナーチェンジする需要を多く取り込んだ」(片山一昌企画開発部長)ことで、堅調に推移した。
小学生服市場についても「業界のなかで最先端を走りたい」と、セコムとの共催で地域の安全な環境作りに貢献する「安全マップコンテスト」をはじめ、「長年、啓発してきた成果が出ている」。実際、これまで自由服だった大阪市立榎本小学校で制服(標準服)が復活、「地域への密着、経済的な特性、安心・安全といった制服への理解を深めてきた」ことが採用実績につながりつつある。
防災ずきん付きの多機能ランドセル「プレセーブ」の販売も本格化する。京都教育大学付属桃山小学校(京都市伏見区)ですでに指定を受けたほか、鹿児島県の5校の小学校で推薦されるなど、販路が広がってきた。テレビでも紹介されるなど反響が大きく、「年配者から防災用として使えないかとの問い合わせも多い」と言う。
6月から始まる来期は、2006年末に明石被服興業(倉敷市)の傘下に入り、新生オゴー産業としてスタートして10年がたち、節目となる。安全マップコンテストも10回目となり、認知を広げるため、イベント開催なども検討。これまで学校、地域での参加が多かったが、最近では個人参加も増えていることから、「認知度を高めて新たな関係構築に活用したい」。
4年前から着心地、着やすさを追求したニットシャツ「楽スクール」をはじめ、独自性のある商品群を充実させることで、「競合する大手企業と同じ土俵に乗らず、視点を変えながら市場を広げる」考えだ。
〈児島/特徴ある商品開発を強化/小さな物件も積み重ねる〉
児島(岡山県倉敷市)は今入学商戦、「4月までを見ると3%ほどの増収となっている」(石合繁則常務)状況で、人口が少ない地方については生徒減の影響もあり、厳しい状況にあったが、MC校の獲得が例年通り推移した。
店頭商品の商況も地域によって違いはあるが「販売は悪くない」と堅調に伸ばす。
来入学商戦に向けて引き続き、MC校の獲得に注力し、生徒数の減少で厳しい環境にあるが、「小さな物件も1物件として、積み重ねる」方針。
店頭商品では2014年に「キッズデザイン賞」を受賞したニット素材の学生服の販売が少しずつ拡大しており、「キッズデザイン賞を通じて、プラスアルファのイメージ作りをしていくとともに、特徴ある商品開発で付加価値を高めていきたい」とする。
他社では自社生産が少ない通学用のバッグ関係も、中国の青島にある自社工場を活用し、「品質や納期対応に一定の評価をもらっている」ことから、着実に物件を拡大。今後は店頭商品の企画を充実しながら、市場を広げる。
企画・生産面も強化しており、昨年9月末に「岡山デザイン室」を本社に移転し、社内で一貫して企画できる体制を構築した。2年前から品質向上のため、人材育成を強化し、「コジマクオリティー」の確立に力を注いでいる。
〈瀧本/MC校獲得が順調に進む/「カンゴール」など本格化〉
瀧本(大阪府東大阪市)は今入学商戦で、モデルチェンジ(MC)校の獲得が例年通り推移した。値上げをしてきたことで6月期決算は増収を確保しそうだ。
2017年入学商戦から「ミズノ」「カンゴール」の2つのブランド商品の販売が本格スタートする。
英国のファッションブランドのカンゴールは、同社にとっては「ベネトン」以来、10年ぶりとなる導入。昨年4月の発表で、本格的な採用校が決まってくるのは来入学商戦からとみる。
カンゴールはバッグなどから採用する動きもあり、そのブランド力、品質の良さ、感性の高さに関心が寄せられているようだ。
また、ミズノでも店頭販売向けの詰め襟服や学校別注向けのブレザーの展開を始めた。軽さ、動きやすさと保温性や高耐久性などの高機能が特徴で、スポーツで培った技術が生かされている点と、瀧本の学生服で培った技術が融合し、高付加価値の制服を実現、問い合わせも多いという。
一方、スクールスポーツは、イタリアのスポーツブランド「ロット」の採用校数が増えている。累計で120校になっている。スポーツは後発だけにシェアを一気に広げるのは難しいとしているが、地道に開拓を進めて行く方針だ。
同社はタブレット型多機能端末でコーディネートやデザイン変更をシミュレーションできる新たなシステム「ティーピット」の活用も進めている。
今6月期の見通しについては、「昨年は消費増税による駆け込み需要の反動で、売り上げが落ちたが、今期は順調にMC校の獲得ができたことや値上げ効果で増収になる」としている。
〈佐藤産業/7月に学校むけ展示会/独自性強め訴求〉
ニッケグループのユニフォームメーカー佐藤産業(東京都千代田区)は7月14、15日に展示会を国際ファッションセンターKFCホール(墨田区横網)で開催する。同社が展開するスクール、ビジネス事業のうち学校向けの提案を主軸に打ち出す。
同社のスクールユニフォーム事業は「よい制服は、よい人間、よい環境をつくる」を理念に首都圏を中心に実績を持つ。主力ブランドは素材・仕立て・デザインにこだわった「エッセスコラ」とベーシックな「グリーンメイト」が2本柱。
エッセスコラは高品質ウールを使用し風合い・清楚さとスタイリッシュなデザインでコーディネート、高級感を演出する、私学向けのラインアップ。グリーンメイトはベーシックの長所を追求し、機能性・快適性をプラスした。
今春商戦は製品の値上げ分の転嫁が一部進み、前年比微増となった。生産、納入まで滞りなく進ちょくしたが、生産現場では従業員の高齢化が進んでおり、人材確保と技術の継承が中長期的な課題だ。
傾向として、小学校から同社の商品に関心を示すようになってきている。東日本は西日本に比べ小学校での制服採用は限定的だが、少子化のなかでスクールユニフォームの規律性や視認性などの効果に関心が寄せられることは追い風といえる。「ウール素材をメーンに独自性の強い企画で需要を掘り起こしていきたい」としている。
〈ハネクトーン早川/進化するスクールネクタイ/工場と技術がカギ〉
スクールネクタイ、リボンは学校制服の重要なアイテム。専門メーカーであるハネクトーン早川の今春商戦は前年比微増となった。採用校自体は前年より少ないが、募集人数を増やした学校が多かったという。素材価格の上昇に伴う値上げがひと段落し「今期から転嫁を進めていきたい」意向だ。
ビジネスシーンではクールビズによるノーネクタイ化が進んだが、学校制服では盛夏対応で軽装になることはあってもネクタイ、リボンは欠かせない。アパレルメーカーと連携した企画・生産力・品質が同社の強みである。発刊するカタログの掲載商品がそのまま採用されるのは2割程度で、あとは定番を基本にした特注に柔軟に対応、素材や仕様を進化させてきた。
一方で、純国産のコストや技術者の高齢化という課題は避けられない。とくに良質なネクタイ、リボンは繊細な工程や検品など、人の手が欠かせない。同社では国のモノ作り補助金を活用した設備投資を行うとともにウェブ受注やメールEDIなどICTも積極的に導入、「理想の工場を目指す」とともに、若手の採用と技術の継承というソフト面の強化にも取り組む。少子化が進むなかでも、小学校や通信制など新しい需要が見込まれる学校も少なくない。「守るべきは守り、攻めるところは攻めてさらにシェアを上げていく」と意欲を見せる。
〈金原/地域密着で提案/安全・防災の問い合わせにも〉
金原(横浜市保土ヶ谷区)は神奈川県を中心に地域密着型の事業を展開している。学校の特性に合わせたデザイン、機能素材を取り入れた設計、自社工場の縫製、きめ細かなフォローが強み。今春までの商況は前年比数%の微増で推移した。値上げの影響で買い控えもあり「学校側が『おさがり、お譲り』を奨励する例もある」なかで、制服本体の動きは例年並みだが、ベストやカーディガン、夏服のポロシャツなどを採用する学校が多かった。
同社はスクールとビジネスの2つのユニフォーム事業を展開しており、スムーズな供給には生産計画が要となる。少子化でスケジューリングが難しくなる傾向だが、同社は備蓄商品の前倒しなどでスムーズな生産、納品に注力している。
金原グループでは消防服、防火服の製造や関連商品を取り扱う。熊本地震を機に再び問い合わせが増えており、安全・安心の面からも学校側の要望に応えていく。
〈吉善商会/「感性工学」を発信/企画・営業・生産が連携〉
吉善商会(東京都中央区)は今期(7月決算)増収増益で推移している。昨年から商品開発室を中心にデザイン提案力を強化しコンペに積極的に参加しており、早速新規案件を獲得。企画に営業が連携し、業績に貢献した。吉村善和社長は、「守るところは守り、攻めるところはしっかり攻める体制としたことで成果を出せた」と語る。
ベーシックな学生服業界で、同社は10代のファッション発信地である渋谷区に本社を置いていたこともあり、時流を適度に取り入れ革新的なモノ作りをしてきた。商品開発室は「市場はこの20年ほどで変化している。生徒の体形や着こなしが変わり、ブランドやトレンドより制服本来の価値を求める声が増えてきた」とみる。
制服本来の価値とは品質やデザイン、そして「集団美と個性美の表現」が挙げられる。こうした要望に対して、同社は校舎のデザインや地域の環境も考慮し、学校の象徴にふさわしい1着を形にして見せる。吉村社長はこれを「感性工学」と名付け、自社の強みとして発信を強化していく方針だ。
生産面では例年7月~10月に繁忙期となるため、計画を早めることで工場にかかる負荷の軽減に成功した。縫製工場が減少していくなかであえて協力工場の数を絞り、モノ作りのパートナーとして連携をより深める。引き続き受発注のシステムの精度を高め、効率化と安定供給に注力していく。
日中の文化交流事業では「ユネスコスクール」の制度の活用を目指している。「ユネスコ憲章」に示された理念を実現するために平和や国際的な連携を実践する学校であり、人権や民主主義、異文化の理解や環境教育の拠点としての役割を担う。「国内では参加校がまだ少ないので、加盟校を増やすための啓発活動も行っていきたい」としている。
〈光和衣料/リードタイム大幅短縮/自社ブランディングも注力〉
光和衣料(埼玉県久喜市)は自社工場を拠点に企画、生産、製造、納品まで一貫して行うアパレルメーカー。セーラー服を中核商品とした「スクールパール」、男子制服のほかサンリオのキャラクターをデザインしたオリジナル制服を展開中だ。
2015年に新商品「スクールパールタフ」がグッドデザイン賞を受賞した。
力がかかる部分を補強仕様、メタルファスナーやドットボタン、三重閂(かんぬき)補強など強度の高い副資材を採用し、縫製方法も二重縫製で従来の制服にはない耐久性・強度を実現した。定番のセーラー服に新しい魅力を吹き込んでみせた。
今春までの商況は増収増益。商品の売れ行きだけでなく、自社工場のスマート化で品質を維持しながらリードタイムを大幅に短縮したことが数字に表れた。
「生徒数は減っているが、縫製工場も減っている。当社にはむしろ追い風だ」と伴英一郎社長は話す。
自社のブランディング事業にも並行して取り組んでいる。「トーキョー・コーワ・スクールエンターテインメント」のコピーで10代の感性に響く商品を開発、さらに毎秋実施する工場見学会では生産ラインをキャットウオークに、生バンド演奏を入れた制服ファッションショーで話題を集める。「縫製工場のイメージを上げ、若い人がやりがいと夢を持てる職場にしたい」ためだ。今年は10月8日、会場を商業施設「モラージュ菖蒲」に移して開催予定。