特集 快適素材・加工/高まる社会的ニーズ
2016年05月26日 (木曜日)
快適性は繊維製品にとって最も重要な機能である。このため素材メーカーも様々な商品開発を日夜続けてきた。また、快適を支える要素として清潔や衛生にまで観点を広げれば、その社会的ニーズは一段と高まったといえるだろう。今回の特集では、そういった快適素材や清潔・衛生素材に焦点を当てた。
抗菌防臭や消臭など清潔に焦点を当てた機能素材にとって重要になるのが信頼できる公平な評価基準である。現在、その一つとして認知度を高めているのが繊維評価技術協議会(繊技協)の認証する「SEK」マークだ。現在、抗菌防臭、制菌(一般用途と特定用途)、光触媒抗菌、消臭、光触媒消臭、抗かび、防汚、抗ウイルスの9マークの認証を行っている。とくに2015年から認証をスタートした抗ウイルス加工マークへの注目度は高く、認証開始から1年ですでに17社がマークを取得するなど社会的関心の高さをうかがわせる。
SEKマークが評価される一つの要素が、厳正な評価基準が国際標準化されていることだろう。現在、抗菌防臭、消臭、抗かび、抗ウイルスの試験方法・評価基準はいずれも国際標準化機構(ISO)に日本から提案されており、ISO規格として国際標準化されている。
国際標準化された評価方法・基準を生かし、繊技協ではSEKマークの海外展開にも着手した。中国、韓国(防水衣料のみ)、ベトナム、シンガポール、トルコ、タイ、マレーシア、インドネシア、インド、欧州連合(EU)でSEKマークの商標をすでに登録しており、これらの国・地域で抗菌防臭加工マークと抗かび加工マーク付製品の販売を許可している。
さらに今年から海外法人にも条件付きでSEKマークの取得申請を認めることになった。8月に開催する認証委員会で海外法人に対してもマーク認証される可能性がある。海外企業がSEKマークを取得することで国際市場での一段の認知度向上が期待できる。そうなればマークを取得している日本企業にもメリットになる可能性を秘める。
もちろん海外法人にマーク取得を認めることは、繊技協がこれまで行ってきた厳しいサーベランスなど管理面でのハードルも高い。こうした課題も含めて繊技協は段階的に国際化を進めていく考えだ。
〈繊維評価技術協議会 理事 須曽 紀光 氏/今年は“海外戦略元年”〉
繊維評価技術協議会ではこれまで様々な「SEKマーク」を創設、認証してきました。とくに2015年4月から「SEK抗ウイルス加工マーク」の認証を開始しましたが、非常に反響が大きく、マーク取得企業も増えています。SEK抗ウイルス加工マークは、病気の治療や予防を目的とした機能を認証するものではなく、あくまで繊維上に付着した特定のウイルスを減少させる機能を評価したものですが、やはり社会的関心が高かったということでしょう。
今後、抗ウイルス加工マークも含めて、SEKマークの海外展開を進めます。昨年6月の総会で新たに海外企業にもマーク申請を認めることを決議しました。段階的に実施する方針ですので、まずは第一段階として海外法人の日本法人、海外法人の日本支社、海外法人の日本取引法人(商社・販売先など)を代理人としてマーク取得を申請することを認めることになりました。また、将来的には同じような認証制度を持つ海外の認証機関とも連携する構想もあります。これは時間をかけて検討することになるでしょう。
こうした取り組みを含めて、今年はSEKマークの“海外戦略元年”と位置付けました。世界戦略を見据えた活動を進めていく考えです。(談)
〈帝人フロンティア/汗の不快感大幅軽減〉
帝人フロンティアの「トリプルドライカラット」は汗による不快感を大幅に軽減する快適素材の一つだ。
肌面にポリエステル撥水糸を用いた三層構造を持つ特殊織・編み物で、吸汗速乾性に加えて、汗冷え防止やべとつき防止機能を持つことからオールシーズンに対応、スポーツウエアに加え、ドレスシャツにも展開している。
発汗による不快感を解消するには吸水速乾性の向上に加え、着用時に汗を感じさせないことが必要。それには汗冷え、べとつきを防止することが重要になる。
トリプルドライカラットは三層構造による毛細管現象で、汗を素早く吸い上げ、拡散する一方、生地の肌側に配置したポリエステル撥水糸の疎水層が、いったん吸い込んだ汗を肌に濡れ戻るのを抑えて汗冷えを防止する。
さらに大量発汗時でもウエアは肌に密着することなく、快適な肌離れ性を保つ。これにより、優れた“着用快適性”が得られる。
また、ポリエステル撥水糸は原糸に撥水剤を練り込んでいるため、耐久性もある。
〈大和化学工業/無臭の防蚊加工剤を開発〉
大和化学工業(大阪市東淀川区)は、従来のトルアミド系とは全く異なる組成のピペリジン系防蚊加工剤「アニンセンPCR―M」を開発、2016年2月に発売した。
PCR―Mは、ピペリジン系防蚊加工剤は世界的に見ても新しい技術となる。目新しさや希少性だけでなく、人体への皮膚刺激性が低いこととトルアミド系防蚊加工剤では解決できなかった加工後のにおいがほぼ無い点が大きな訴求点となる。
加工段階では、従来の薬剤や設備で新しい防蚊加工が付与できることから製品提案の幅が広がる。
同社によると、トルアミド系防蚊加工剤も安定した効果や安全性は確認されており、「アニンセンCLC―3600S」として販売してきた。
しかし、より高い安全性を求める市場の声への対応や需要家の選択肢を広げるため、原料調達ルートの開拓や開発を長年にわたり進めて来た。
すでに16夏の製品から採用が始まる。デング熱やジカ熱などの発生で、消費者の防虫に関する意識が急速に高まっていることもあり、今後の採用拡大に期待を寄せる。
〈クラボウ/「クレンゼ」を多彩な分野に〉
クラボウが重点戦略商品の一つと位置づけるのが抗ウイルス繊維加工技術「クレンゼ」による機能加工素材だ。これまで課や関係会社を横断した提案を進めたことで多彩な用途への採用が進みつつある。
クレンゼは広島大学大学院の二川浩樹教授と共同開発したもの。二川教授が開発した抗菌成分「Etak」を繊維加工に応用した。Etakはもともと口腔消毒剤として開発されたものだけに、高い安全性も特徴である。繊維評価技術協議会の「SEK抗ウイルス加工マーク」も取得した。
クレンゼはSEKマークの試験対象ウイルス種であるインフルエンザを含めて多くの細菌・真菌(カビ)・ウイルスに対する抗菌・抗ウイルス性を確認していることも特徴である。例えば部屋干し臭の原因菌であるモラクセラ菌の増殖抑制機能も確認していることから部屋干し臭対策加工としても打ち出す。
こうした特徴を生かし、白衣、子供服、子供用寝装品、肌着、ベビー用品など多彩な用途への提案を進める。
〈シキボウ/衣料から資材まで〉
シキボウは清潔や衛生に焦点を当てた機能加工素材に力を入れてきた。とくに「フルテクト」「ノロガード」は抗ウイルス加工素材のパイオニアの一つ。SEK抗ウイルス加工マークも取得し、衣料から資材まで幅広い用途への提案を進めている。
フルテクトはインフルエンザウイルス、ノロガードはネコカリシウイルス(ノロウイルス代替)をそれぞれ試験対象ウイルスとしてマークを取得した。衣料用途だけでなく衛生関連資材など幅広い用途に提案している。とくにノロガードは宿泊施設や食品関係施設向け嘔吐物処理シートなどで販売量が拡大している。
そのほか、独自性のある快適加工の開発にも取り組む。とくに最近力を入れるのが天然由来成分による加工剤を使った機能加工だ。ヤシの実成分によるフッ素フリー撥水加工「ヤシパワー」、国産孟宗竹成分による抗菌・消臭加工「竹フレッシュ」、グレープフルーツの種子から抽出した成分を使った抗菌加工「グレフルフレッシュ」、綿実油を使った柔軟加工「メンミーユ」などを開発し、“ボタニカル・パワー”として打ち出している。
〈ダイワボウレーヨン/開発営業でニーズに応える〉
ダイワボウレーヨンは、得意の練り込み技術による機能レーヨンの拡販に取り組む。ユーザーである紡績や不織布メーカーとの取り組みで、後加工では出せない独自性を発揮することを目指す。
同社はこれまでも練り込み技術による抗菌防臭レーヨン「バクトフリー」やモラクセラ菌の増殖を抑える部屋干し臭対策レーヨン「ビスクリーン」などをラインアップしているが、開発の大きなウエートを占めるのがユーザー企業との取り組み型開発だ。
汎用的な加工剤を使用した後加工では独自性を発揮することが難しい分野で、練り込み技術によるオリジナルの機能原綿の開発を進める。例えば現在、防蚊・防虫といった機能の研究開発も進む。また、不織布向けではコスメ用途などを中心に機能原綿の開発に力を入れる。
開発部門も増員し、益田工場だけでなく大阪にも技術者を駐在させることで開発営業型の体制を整備している。これまで以上に需要家の細かなニーズに対応した機能レーヨンの開発と提案を進める考えだ。
〈ダイワボウノイ/「SEK」を積極活用〉
ダイワボウノイは、繊維評価技術協議会の「SEK」マークを積極的に活用することで独自性のある機能素材の拡販を進める戦略を推進する。
同社は抗菌防臭を中心に多数の商材でSEKマークを取得しており、SEK抗ウイルス加工マークも「クリアフレッシュV」で取得している。こうした機能素材の中でも、安全性の国際規格「エコテックス認証」を取得しているものや、天然由来加工剤を使用したものなど特色のある商品を重点的に打ち出す考えだ。
繊維評価技術協議会がSEKマークの海外展開を進めていることも活用する。すでに海外での展示会でSEKマークに関する資料を配布するなど海外市場でのマーク認知度向上にも取り組む。
SEK防汚加工マークを取得している皮脂汚れリリース生地「エコ理リース」「ミラクルリリース」も根強い人気がある。ここにきて海外からの引き合いも出てきた。従来は綿100%の「エコリリース」とポリエステル綿混の「ミラクルリリース」をラインアップしていたが、それ以外の素材での開発も進めている。
〈富士紡ホールディングス/綿100%で機能追求〉
富士紡ホールディングスは、綿100%で様々な機能を実現する開発に力を入れてきた。綿100%の接触冷感加工「レフィナード」や防汚加工「ワンダーフレッシュ」などだ。また、自家ニット加工場であるフジボウテキスタイル和歌山工場が風合い加工などで大きな役割を果たしている。
レフィナード加工は、グループのインナーアパレル、アングルが「アサメリー」ブランドでいち早く採用。加工はフジボウテキスタイル和歌山工場が担当することで、グループとして新規開発素材を積極的に市場投入することに成功している。
新たな開発にも取り組む。その一つとして力を入れているのが消臭加工だ。汗臭、加齢臭、そしてミドル脂臭という三つの臭いに対応した商品開発を進める。なかでもミドル脂臭は原因物質であるジアセチルに対する消臭機能を実現することが目的だ。さらに、たばこ臭に対する消臭機能の実用化にも取り組む。また、加工プロセスの開発にも取り組み、コスト競争力も含めて綿素材の可能性を広げることを目指している。