特集 メディカル・介護ウエア/16年は競争激化か
2016年03月15日 (火曜日)
医療機関向けのメディカルウエア、介護・福祉業用のユニフォームは2016年も活況を見せる。メディカルウエアでは看護師の増加を背景に女性向け提案の進化が著しい。介護産業は人材不足や人件費の低さなど市場として厳しさはあるが就労人口が確実に増える業種であり、アパレルメーカーは差別化に注力する。市況と商品傾向を追った。
〈メディカルウエア/白衣へ回帰、イメージ刷新も〉
医療従事者のうち医師は約30万人、看護師約150万人規模とされる。カタログ商品を手掛けるメーカーは約20社。対象はドクターコート、ナースウエアのほか手術衣、技師用、病院事務にも及ぶ。慢性的な人手不足であり、福利厚生の一環としてユニフォームに予算をかける医療機関は少なくない。1着数万円のドクターコートなど高価格帯のウエアが売れるのもこの分野の特徴といえる。
なかでも看護職員は毎年増加傾向で2025年までに約200万人に増えるとの予測もある。人員増のため男性看護師の採用に積極的な医療機関もみられ、こうした事情を受けてアパレルメーカーの提案も進化している。(6、7面参照)
16年のカタログ商品では「白衣」の回帰が目立つ。オンワード商事の「ラフィーリア」は優しい印象の乳白色を前面に、差し色にグレーを配し知的なイメージを演出する。「ホワイトにネイビーを組み合わせたウエアが増えており、差別化のため最新カタログでは白衣を巻頭にした。現場から集めた要望に応える色柄、デザイン、機能」と自信をのぞかせる。
ラフィーリアのカタログ発刊は隔年ペースで商品量は他社製品に比べ多くないが総合病院、中規模病院、クリニック、介護施設向けと職場別のコーディネートを提案するプレゼン力や、大手通販との取り組みで採用実績を伸ばしているのが特徴。
知名度の高いブランドを冠したシリーズは、商品のリニューアルや提案の変化が見られる。サンペックスイストは「トリンプ ナースセンセーション」を、女性用インナーの役割や機能性をユニフォームに置き換え、独自色を高める。「ミズノ」との共同企画を展開中のチトセは女性看護師向けの提案を強化する。これは、有名ブランドの認知度だけに頼らない、高付加価値化に向けた工夫である。
医療機関側の調達方法の変化も見逃せない。東京商工リサーチが実施した「看護師向け通販市場調査」では14年度の看護師向け通販の市場規模は前年度比3・8%増の138億円。かつては靴などの消耗品が買われていたが、売上高のトップを占めるアンファミエ(売上高60億円)、ナースリー(同17億円)はいずれも通販大手ベルーナのグループ会社で、独自企画のウエアもラインアップしている。売り上げを拡大するうえで、販売チャネルへの対応も課題だ。
〈介護ウエア/逆風下も積極提案〉
在宅や施設で介護サービスに従事する職員数は15年に約130万人と看護師とほぼ同じ規模だが、高齢者の増加とともに必要な人員数も増え、25年には220万人の職員が必要という試算がある。しかしユニフォームの需要も倍増する確証はない。介護施設で多く着用されているのがポロシャツ、チノパンツ、ジャージ。動きやすく洗濯の簡単な衣類が制服として取り入れられた経緯がある。エプロンだけ支給するケースもあり、ユニフォームアパレルが作ったウエアのシェアがどの程度伸ばせるかは未知数。15年は介護報酬のマイナス改正に加え、中小事業者の倒産増や施設での虐待問題など暗いニュースが続出。メーカーにとって逆風が懸念される。
そのなかで健闘するのが学生服メーカー。学生服・体操服で培った技術と企画力、広範な営業ネットワーク、ユーザーとのコミュニケーション力が生きている。トンボは「栗原はるみ」ブランドを15年秋より展開。「普段着感覚ユニフォーム」として訪問系、通所系、特養施設から順調に受注している。ベーシックな「キラク」、上質感の「ケアリュクス」と3つのテーストをそろえ、提案の幅、奥行きを出す。
明石スクールユニフォームカンパニーは「ルコックスポルティフ」をメディカル、ケアの2ラインで展開中。ケアは今年2月で4年目、スポーツウエアの動きやすさと仏ブランドらしいデザインが人気で介護報酬改正の影響もほとんどなかったという。「ウエアでできることは限られているが、利用者に安心感のある施設・サービスをしっかり訴求し、スタッフのモチベーションを上げる役割は今後高まっていくはず」とみる。
メディカル・介護ウエアは着用が長時間に及ぶ場合もあり、スポーツウエアのように機能性の効果を体感しやすい。「ソロテックス」や「ダストップSP」などの機能素材の提案に注力する帝人フロンティアは「商品のバリエーションは充実してきているが施設におけるウエアへの投資費用がどこまで確保できるかが、市場拡大のカギ」(ユニフォーム部)と予測。「快適・安心・安全」をキーコンセプトとした素材を開発、提供していくとともに、リーズナブルな商品提案も併せて取り組んでいく。
介護ウエアの需要は段階的に増えていく。サプライヤーが今からスタイルや一般衣料に無い価値を訴求していくことが重要だろう。
オピニオン/「なぜ必要か」に応える/ナガイレーベン 常務 経営企画本部長 斉藤 信彦 氏
ユニフォームの市場として医療・介護それぞれを見ると、医療は4月からの診療報酬改正で診療報酬はプラスとなるが薬価がマイナスで、医療機関の経営環境は依然厳しい。ただし需要は堅調。以前は同じデザインのウエアが長く着用されていたが、今は様々な商品が出ているためか、古さを感じて変更するケースが増えている。病院も競争の時代、ユニフォームを生き残りのための投資ととらえる考え方だろう。従来型の白衣への飽き、次いでスクラブが流行したが、こうした意識の高まりで新しい需要が出てくる。今後の新商品「ハイブリッドチュニック」は、機能一辺倒のスクラブから、視認性や看護師のプロ意識に応える提案だ。
介護は医療と違い参入障壁が低く、ユニフォームメーカーの参入も多い。しかし白衣のような定番商品が無いうえ、着用率は事業者によってバラバラで市場としては安定していないという現状がある。ただし国は高齢化対策として在宅医療の充実と医療との連携を進めているところで、体制が整うに従って、視認性やイメージアップなどの必要性が見直されていくのではないか。働きやすさ、職場の一体感、安心や信頼感など、ユニフォームに求められる条件は時代の流れとともに多様化してきた。「何のために着るのか」という本質的な問いかけに応える一着を提供していきたい。