特集 ITMA2015/“アート”の革新へ/テーマは“サステイナブル”

2015年11月06日 (金曜日)

 世界最大級の国際繊維機械見本市「ITMA2015」(主催=欧州繊維機械製造者協会)が12~19日、イタリア・ミラノで開催される。4年に1度の一大イベントとして、日本や欧州の有力繊維機械メーカーが一堂に会するだけに、繊維の新時代を開く最新の機械やシステム登場への期待が高まる。

 ITMA2015には全世界47カ国・地域から1650社以上が出展する。4年に1度の開催であり、常に最新の機器やシステムを発表する場として圧倒的な存在感を維持してきたことは、まさに“繊維機械のオリンピック”と称される由縁だ。ITMAで発表された数々に技術が、その後の繊維の新時代を切り開いてきたと言っても過言ではない。

 このため注目が高まるITMA2015だが、今回のテーマは“マスター・ザ・アート・オブ・サステイナブル・イノベーション”。“アート”の原義は「社会に影響を与えるもの」だが、まさに繊維産業を持続可能なものとする“アート”の革新を目指すという考え方だ。ルネッサンス文化が花開いたミラノでの開催に相応しいテーマ設定である。

 このため今回も環境負荷低減に焦点を当てた機械が多数登場することになりそうだ。展示ホールの構成でも、染色・仕上げ機部分野からプリント分野を独立させたのは、その象徴だろう。近年、デジタルプリントの技術革新が目覚ましい。

主催者メッセージ/持続可能なソリューションを/欧州繊維機械製造者協会(CEMATEX)会長/シャルル・ボデュアン氏

 ITMAが1951年以来、グローバル市場でのワンストップソーシングプラットフォームを提供するというユニークな使命を果たしてきたことに変わりはありません。現在、サステイナビリティー(持続可能性)への注目が高まっていますが、ITMA2015でも責任ある調達と環境に優しい技術が大きなトレンドとなるでしょう。

 染色分野では農業廃棄物由来のバイオ合成による加工や無水染色技術などが出展されます。また、デジタルプリントなどは今回からサステイナブルなプリントとして別途インデックスしています。不織布や高機能なテクテキスタイル分野も成長市場であり、近年はITMAでもこの分野の最新ソリューションが披露されています。

 ITMAは持続可能なソリューションを実演も含めて総合的に見ることのできる展示会であることが重要です。

 また、併催するイベントを通じ、新たなビジネスネットワークを築くプラットホームでもあり、研究機関との開発プロジェクトにもつながる理想的な場と言えるでしょう。

期待大きいタオル織機

 織機では、新型のタオル織機への期待が高まる。日欧の有力織機メーカーが相次いで最新のタオル織機をITMA2015で実機披露する予定だからだ。また、タオル製織に欠かせない電子ジャカードでも新提案が用意されている。前回のITMA2011で具体的な姿が明らかになった完全独立駆動と電子デバイス、コンピュータプログラムによるシンクロシステムなどが、完成度をより高めた形で登場しそうだ。

 IoTやIoEの流れは繊維分野にも及んでいることから、今回のITMAでは従来以上に電装部品や管理システム・プログラムといったソフトウェアに関する分野の出展も重要性を増しているだろう。また、2000年代に入ってから産業資材分野は機械メーカーにとって無視できない領域だ。今回も高機能繊維や不織布の製造工程に革新をもたらす新技術の登場への注目も高い。

 アートの国であるイタリア・ミラノで、各メーカーがどういったアート(技芸)の革新を見せてくれるのか楽しみである。

有識者に聞く/注目は「インダストリー4.0」

 今回のITMAの見どころはどこにあるのか。日本繊維機械学会会長で繊維機械研究会委員長も務める金沢大学の喜成年泰教授に話を聞いた。

    ◇

  ――ITMA視察にも行くそうですが、どの辺りに注目していますか。

 近年、欧州ではドイツを中心に「インダストリー4・0」というプロジェクトが進められています。これは工場内の各機械だけでなく、異なる工程の工場の機械、さらには取引先企業までもネットワークで接続し、生産状況や在庫などを集中管理することで多品種少ロット生産を効率的に行おうという構想です。だからキーワードになるのは“マスカスタマイゼーション”。消費者のニーズに合わせた一品物をマスプロダクションと同じコストで作ろうという考え方です。

 なぜこういった考え方が出てくるかといえば、先進国は物が行きわたった社会です。そこでは個別ニーズを満たす商品が求められる。しかも低価格で。従来、高生産性と汎用性はトレードオフの関係にありましたが、これを両立するためにIoT(インターネット・オブ・シングス)やIoE(インターネット・オブ・エブリシング)の技術を積極的に活用するということになります。

  ――それが繊維機械にも導入されると。

 欧州メーカーは、恐らくそうでしょうし、日本メーカーも対策が必要になります。すでに準備を進めているメーカーもあります。そこでは機械単体ではなく、電装部品やプログラムシステムなどが注目されるようになるのでは。ルールやプラットホームを作った人が情報を一方的に独占する可能性がありますから、出遅れるわけにはいかないでしょう。そういう意味では、繊維産業もインテリジェント産業へと転換するきっかけになるかもしれません。