特集 秋季総合 Ⅴ/特別対談/ダイバーシティーが未来を創る/多様性を生かす働き方のサポートとは/出席者/帝人人事総務部ダイバーシティー推進室長/日高乃里子氏/グンゼCSR推進室室長人事・総務部女性きら

2015年10月30日 (金曜日)

 経営環境のグローバル化や女性の社会進出促進などを背景に、企業の成長にとってダイバーシティー(多様性)経営が不可欠な要素となってきた。女性が開発した商品が業績に貢献するなど、多様性が生み出す可能性は大きい。そこでダイバーシティーを積極的に推進する帝人とグンゼの担当者に登場いただき、その具体的な取り組みや現状、課題などについて語り合っていただいた。

〈経営の観点でスタート〉

  ――帝人の「ダイバーシティ推進室」はいつ、どのような経緯で発足したのですか。

 日高氏(以下、敬称略) 2000年、安居祥策社長(当時)のもとで設立されました。海外企業との合弁事業などグローバル化を積極的に進めていた時期です。相手側は役員として男性も女性も出てきますが、当社は男性ばかりです。グローバル経営には女性の活躍が不可欠だと強く思われたようです。

 その前年、「男女雇用機会均等法」が改正された1999年には「女性活躍委員会」を発足しています。女性が活躍できる土壌を作ろうと、男性は主要部門の部課長級、女性は管理職や一般職のワーキングマザーなどの構成です。そのころ、子供が小学1年生だった私も呼ばれました。

 半年後の2000年にダイバーシティ推進室の前身である「女性活躍推進室」となり、07年に現在の名称に改められました。社会政策的なものやCSR的な発想ではなく、経営の観点から女性の活躍が必要と判断し設立された組織です。「グループダイバーシティ委員会」を有し、年1、2回開く同委員会で、当推進室の事業を議論し決定しています。

  ――ダイバーシティーの範囲は幅広いですが、帝人ではどこまで対象にしていますか。

 日高 ダイバーシティーとは何かという話にもなりますが、性別や年齢、国籍など“外から見える属性”も、宗教やLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)など“本人に聞かないと分からないこと”まで、すべてを含めています。

 ただ、一度にすべて取り組むのは不可能です。まずはその発端である女性、また数年前から新卒で10%以上の採用基準を設けた外国籍の社員に関して具体的に取り組んでいます。ワークライフバランスの観点から、介護者や育児者など時間的制約がある社員の働き方の多様化も進めています。

 ――グンゼはどうですか。

 林氏(以下、敬称略)  「女性きらきら推進室」が誕生したのは2013年です。その前年にスタートした「女性きらきらプロジェクト」を発展させる形で発足しました。12年6月に就任した児玉和・現社長が、ブランドや人材、個性、団結力など、目に見えない資産「無形資産の充実」を掲げ、女性きらきらプロジェクトもその一つとして始動しました。

 目的は3つです。まず今いる女性社員の力をもっと活用すること、二つ目がグローバル化に対応したダイバーシティー、多様な価値観を受け入れる風土を醸成すること、三つ目が女性の視点を生かした商品開発・売り場提案です。

  ――グローバル化に対応したダイバーシティーでは、海外の生産工場も対象ですか。

 林 現段階ではまだ対象になっていません。まずは国内、グループ会社全体というよりはグンゼ本体から推進しているところです。またダイバーシティーのなかでも、まず身近にいる多様性として女性活躍に焦点を当てています。

〈まず女性の活躍推進から〉

  ――帝人では具体的にはどのようなことをしていますか。

 日高 先程、新卒採用の10%以上を外国籍の人でという話をしましたが、01年の時点で「新卒総合職の女性採用比率30%以上」という目標を設定し、以来15年間取り組み続けています。

 女性が活躍する状態とは、一つには女性が経営のジャッジに加わることだと考えています。そのためにも女性社員を増やし、職域を拡大することが前提です。01年入社から同期の3割は女性となり、また15年の時を経て女性管理職の43%に子供がいるという状況に変わってきました。

  ――当初は社内に抵抗感などありませんでしたか。

 日高 抵抗感というか、戸惑いはあったと思います。私は92年に出産したのですが、当時、女性の総合職で妊娠する人はほとんどいませんでした。出産予定日の1カ月前も出張するなど、大きなお腹を抱えて働いていると、周囲の戸惑いを私自身が肌で感じていました。妊娠中も産後に職場復帰してからも、仕事の内容や出張の是非など、上司と相談しながら一歩ずつ乗り越えてきた感じです。

 男女雇用均等法が施行され15年ほどたった01年以降は、社会も当社も、女性が働き続けるのは当たり前という雰囲気になってきました。とはいえ、女性の配属は企業や部署によって異なりますから、初めて女性がやってきたところは、今もまだ戸惑いがあるでしょう。

 ――女性社員は現在どれくらいいますか。

 日高 国内グループ会社全体で約2割、女性管理職は全体の4%(90人)です。女性役員は今年3月で1人退任したため現在はオランダ在住のドイツ人1人、また社外監査役で1人です。

  ――これまで最も難しかったことは。

 日高 実は今が一番難しいと感じています。15年たち様々な表彰も受けたせいか、社内に「できている」という思い込みがあるようです。実際には女性が配属されてうまく機能している部署と、そうでない部署との温度差がありますし、当社の根幹である製造は女性が少なく、営業もまだ十分とは言えません。

 営業では、当社の看板でもある高機能繊維で女性が活躍するようになりました。子供を2人抱えながら海外出張もこなすなど、精力的です。周囲の男性社員も彼女たちを盛り立ててくれています。

 またグループに製薬関係の会社がありますが、その営業職であるMR(メディカル・リプレゼンタティブ=医薬情報担当者)でも活躍しています。

 以前、女性MRに子供ができると内勤スタッフに配置転換していましたが、そこがいっぱいになったこともあり、出産後もMRを続けてもらうようにしました。勤務地や就業時間、担当先など、こちらで細かくフォローして取り組んでいます。そうすると短時間勤務でも営業成績が上がり、昇進する女性も出てきました。

 前期は、短時間勤務の女性MRが、新薬の販売納入先件数で全国1位に輝いています。周囲のサポートもよかったと思いますが、短時間勤務でありながら実績を伸ばす女性が出てくると、周りにも良い刺激になります。

〈具体的なフォローが重要〉

  ――日高さん自身がMRという仕事に精通しないと、できないフォローですよね。

 日高 MRに関しては私自身がヘルスケア出身で元々詳しかったのです。過去12年間でできることは全部終え、この3年間は難しい課題ばかりが残っています。その一つが「どうしたら女性が営業で活躍できるか」ということでした。私が推進室に来た意味も含め、やっと前向きに進み始めたところです。

 一方、製造に関しては私自身の経験がないうえ、2交代や3交代など勤務形態の問題もあり、対応が難しい。ただ当社の根幹は製造業です。そこで女性がそれなりの地位に就けるよう、取り組んでいきたいと思っています。

  ――林さん、女性きらきら推進室の取り組みはどうですか。

 林 当社の経営戦略の一つである女性総合職の拡大に基づき、女性社員の比率向上に向けた目標を設定し推進しています。将来的な管理職、経営層への女性進出を視野に入れながら、まずその前提である総合職の女性社員の増加に焦点を当てています。

 

 12年当初、総合職の女性比率は5%でしたが、13年の女性きらきら推進室発足後、少しずつ増え、現在は7%になりました。スタートから5年後の2017年度には11%まで引き上げる計画です。当社の新卒採用は年平均25人前後ですが、そのなかで当初15%だった女性比率を17年度の目標である40%に向けて、徐々に増やしているところです。ここ数年は3割前後で推移しています。

  ――17年度に総合職の女性比率11%という目標数値は細かいですね。

 林 定年退職や新規採用などのシミュレーションをして設定しました。女性総合職を増やそうとしていますが、40代で子供がいる人が少ないという現状があります。この点、ワークライフバランスの視点から改善を図っているところです。現在のボリュームゾーンは20代後半から30代前半の人たちですが、この数年で結婚する人や出産する人が増えてきました。

 いずれ管理職や経営層になるという選択肢を持つためには、女性自身がまず会社を辞めずに実力を発揮するとともに、その女性たちを正当に評価する仕組みが重要です。今はそのための整備の段階ととらえています。一人でも多く働き続けられるように、在宅勤務のトライアルを始めるなど、多様な働き方の導入を検討しています。

 ローテーションの問題をどうクリアするかも課題です。やはりワークライフバランスの観点で、仕事とプライベートを両立しやすい環境をいかに整えるかがポイントになります。結婚や出産などで新たなライフステージに入った20代後半から30代前半の女性たちが、両立を超えてイキイキと活躍できるようにするために何が必要か、追求していきたいと思います。

〈職場も男性も意識改革を〉

  ――産休・育休明けの職場復帰はどうですか。

 林 総合職の場合は基本的に元いた部署に復帰します。ただ当社でも「前と同じように担当を持ってできるのか」「戦力ダウンになるのではないか」という不安が、復帰する女性と受け入れる部署の双方にあります。そこをどうクリアするか、具体的に見ていかなければなりません。

 半面、職場復帰の時期をキャリア・チェンジの機会と、とらえることもできるのではないでしょうか。育児に手がかかる時期は元の営業職にこだわらず、他の部署を経験するチャンスにできれば新たな展開も開けるでしょう。まだその仕組みは整っていませんが、継続か転換か選べるようになると、より良い方向に進むと思うのですが。

 日高 当社の高機能繊維では、出産後もまず元いた職場に復帰します。営業を続けている女性も結構いますよ。先輩の女性たちが実績と信頼を築いてきてくれたからです。

 まず何事も本人と話して進めています。出張の多い担当やエリアもありますが、上司が無理だと決めつけるのではなく、本人に選択を任せています。会社としては、少額の個人負担(残りは会社負担)で利用できるシッター制度などを整えていますので、これを利用するなど工夫をしています。

――女性一人ひとりが自覚を持つことも大切ですね。

 日高 高機能繊維で女性の技術営業が活躍しているのは、結婚を機に愛媛県・松山の研究所から夫のいる東京へ転勤し、一緒に暮らしたいという理由が多いですね。東京に研究所は無いので職種は変わりますが、同じモノを扱う技術営業に就く。彼女たちには元々技術の知識があるので、お客さまにとっても安心感となり、うまくいっています。

 林 本人の意思を確認し柔軟に対応することが大切ですね。そのためには「大変だろうから」と上司が勝手に決めつけずに、よく話し合える企業風土が不可欠です。

 最近、若い女性のなかには「会社が何で女性活躍をやるのだろう?」「もう男性と同じように働いているけれど……」と思う人も少なくありません。ただそれは、結婚や出産前の人が大半です。自分がいざ直面して初めて考えたり、悩んだりするのだと思います。その時に話し合える企業風土があるのとないのとでは違ってきますね。

  ――総合職の女性にとっても、まだ結婚や出産は大きな節目ですか。

 日高 大きいのではないでしょうか。とくに日本では生物的役割分担がクリアで、長い間、育児も家事も女性の役割と刷り込まれてきました。ですが最近は、子供のころから家の手伝いをして一通りの家事を身に着けてきた“刷り込み世代”とは異なり、勉強優先で手伝いをせず家事が身に着いてない。男性と同じです。

 ですから、育児休職に入る人には「家事を身に着ける時期よ」とアドバイスしています。そうすると職場復帰した後がラクです。今は料理もし、育児に協力的な男性も出てきましたが、まだ少数派ですから。

  ――男性の意識改革も必要ですね。

 林 当事者はもちろん、上司など一定の世代以上の理解が重要です。当社では「男性が育児休職を取得することをどう思うか」など、社内報の座談会などで徐々に話題にしてもらい、浸透させる試みもしています。

〈外国人も一個人として〉

  ――先程グンゼでは、女性目線のモノ作りも推進しているとおっしゃっていましたが。

 林 例えば婦人インナーの「キレイラボ」は無縫製の技術を生かし、肌が敏感になる更年期の女性に向けて開発しました。今では敏感肌の人全般や術後の人など幅広く訴求しています。

 また婦人レッグウエアの「コスメディカル」は骨盤やリンパの流れなどを考慮し、姿勢を整え足がむくみにくくしています。

 いずれも女性社員を事業部横断的にモニタリングして、女性ならではの経験と視点から誕生したもので好評です。パッケージも工夫しています。

 日高 当社とニトリで共同開発した「ひもなしらくらく掛け布団カバー」も女性が企画開発したものです。当社のナノファイバー「ナノフロント」が摩擦を発生しストッパーの役割を果たすことで、ひもをなくし、カバー交換時の煩わしさを解消しました。生活に密着した女性ならではの視点だと思います。単身赴任の男性や一人暮らしの高齢者など、多くの人に好評のようです。

 ――外国籍の社員についてはどうですか。

 林 まだ少ないのですが、ここ2、3年、新卒採用の約1割を外国籍の人にし、中国人を中心に増えてきました。人事部の採用担当にも中国人女性が1人います。彼女はニュートラルな視線で私たちとは違う見方をしており、学ぶことも多いです。彼女の存在で中国籍の方が受けやすいなどの効果も出ています。各部門に外国籍の方が増えてくると、またさらに変わるのではと期待しています。

 また、工場では外国人技能実習生も多く、日本人と同じ寮で共同生活をしています。言葉の問題をはじめ、風呂の入り方など生活習慣の違いによる小さなあつれきは日々あります。

 相互のコミュニケーションをどう図るか課題は大きい。同じ国の方でも一人ひとり性格も違います。工場の現場や会社としても、十把ひとからげで見るのではなく、一人ひとりと話すことを大切にしています。

 日高 自分の部署に外国籍の方がいないと分からないものですよね。当社も中国人の採用担当者がいて、助かっています。中国人就活生には安心感があるみたいですね。

 林 率直にいろいろ聞けますしね。

  ――日本人と外国人の両方のことが分かる調整役が必要ですね。

 日高 当社では私が、日本に帰化していない35歳未満の外国人約30人全員と毎年面談しています。やはり中国人が多いのですが、中国人は上司に逆らわない、意見しない傾向が強いようで、上下関係のない人間が面談すると素直に話せるようです。「次はいつ来てくれますか」などと心待ちにしてくれています。

 話した内容は上司にフィードバックして、余計なコンフリクトを生まないよう調整役に努めています。そうしていると個人的な話もしてくれるようになります。一息つける場があるというのが重要でしょう。

  ――今後に向けて一言ずつお願いします。

 林 まず女性の両立支援策を中心に、キャリア意識の醸成や管理職・職場の理解促進など、一歩ずつ取り組みを深めていきます。

 日高 今年は異文化セミナーの第1回研修も検討中です。外国人や女性など多様な人が働きやすく、異なる価値観を企業の成長や、より充実した人生に生かせるようにサポートしていきます。

  ――本日はありがとうございました。