特集 高性能繊維/日本が世界をリードする/開発力の証明、第3世代も

2015年09月10日 (木曜日)

 日本は高性能繊維で世界をリードする。高性能繊維と言えば炭素繊維を想像しがちだが、それだけではない。アラミド繊維をはじめ様々な素材がある。そして各種高性能繊維を生産するのは日本のみ。各素材は輸出比率も高い。つまり世界でその特性が認められている。「環境」「安全」「省エネ」「省力化」など世界的ニーズは高まる一方であり、これに貢献する高性能繊維は成長素材と言える。

 高性能繊維には高強力・高弾性を特徴とするパラ系アラミド繊維、高強力ポリエチレン繊維、高強力ポリアリレート繊維、耐熱性・難燃性に優れるメタ系アラミド繊維、PPS繊維、フッ素繊維、ポリエーテルイミド(PEI)繊維、さらに両方の特徴を持つPBO繊維などもある。

 こうした様々な高性能繊維を生産販売するのが日本企業であり、進化も遂げている。第3世代の開発が相次いでいるからだ。その一つが8月から本格生産を開始した帝人の新メタ系アラミド繊維「テイジンコーネックスネオ」だ。後染めできる点が訴求されているが、実は特殊な紡糸法による新プロセスを採用することで化学物質排出やエネルギー消費を削減できる特徴も大きな強みになる。

 例えば、欧州の化学物質規制であるREACHで溶剤が0・1%以上残っている場合、インフォームが必要になる。しかし、テイジンコーネックス ネオは0・1%以下のため不要。メタ系アラミド繊維では初めてという。

 第3世代はテイジンコーネックス ネオだけではない。例えばクラレのPEI繊維「クラキス」、東洋紡の溶融紡糸による高強力ポリエチレン繊維「ツヌーガ」など新たな高性能繊維が生まれている。これは日本が技術開発力に優れる証し。日本が世界の高性能繊維をリードしているのは間違いない。

帝人/染まるアラミド本格化/高性能繊維の総合メーカー

 帝人は4種類のアラミド繊維、高強力ポリエチレンテープ「エンデュマックス」、炭素繊維を生産する高性能繊維の総合メーカーだ。これだけの高性能繊維を持つ企業はほかにはない。

 アラミド繊維はオランダのテイジン・アラミドで生産するパラ系「トワロン」(年産2万6450トン)、国産で特殊製法のパラ系「テクノーラ」(2500トン)、国産によるメタ系「テイジンコーネックス」(2700トン)、さらにタイで本格生産を開始した新タイプのメタ系「テイジンコーネックス ネオ」がある。

 テイジンコーネックスネオを除く3素材はほぼフル生産状態。トワロンは自動車用が好調なほか、苦戦していた防弾用も回復した。テクノーラはホース、ベルトなどゴム補強を中心に伸長、増設検討にも入った。テイジンコーネックスはターボチャージャーホース向けが2けた%増。防護衣料やフィルター分野の輸出も伸びる。従来輸出は少なかったが、米国、中国市場の開拓が奏功した。

 そして難燃性・耐熱性に後染めもでき、化学物質排出やエネルギー消費を削減可能なテイジンコーネックス ネオが加わった。約45億円を投じた新工場(年産2200トン)が立ち上がった。販売はタイ子会社のテイジン・コーポレーション〈タイランド〉が担う。

 当面はわた売りだが、川中生産体制を順次整えてテキスタイル展開により防護衣料分野を強化する。現在、紡績、織布、染色加工の生産拠点をタイ、中国、インドで構築中。「2016年度以降にはテキスタイル販売を始めたい」(高機能繊維事業本部の籔谷典弘執行役員営業部門長)考えだ。

東レ・デュポン/開発案件さまざま/東レGの技術背景を活用

 東レ・デュポンが展開するパラ系アラミド繊維「ケブラー」は国内市場をメーンとしている。「国内向けで需要を掘り起こす余地はある」(圓尾哲朗ケブラー営業部長)として、きめ細かい要望に応える付加価値向上の開発に取り組んでいる。

 その一つとして事業化したのがケブラー加工糸使いの耐切創手袋だ。東レグループの加工背景を活用し、かさ高性と捲縮(けんしゅく)を与えた「ケブラーSD」による薄手手袋の展開を開始した。

 レギュラー糸による厚手のものに比べ、作業性が高まるほか、製造現場で増える女性にも扱いやすくなっている。ケブラー自体の差別化要素だけでなく、今後の顧客開拓は既存用途で蓄積したノウハウを生かした、仕様まで踏み込んだきめ細かい提案も必要となる。

 本体を含むグループ間の連携強化は東レの重点方針となっている。こうしたなかで、炭素繊維のコンポジットでの協業も、将来的な可能性として視野に入れており、話し合いも始めていく。

 新たな開発案件はこれだけではない。同社では、ケブラーの耐衝撃性を生かしたコンポジット商材の展開を「来年度には立ち上げる」とする。また、タイヤコード向けなどで実績がある表面処理糸による樹脂補強用途も重点開発テーマとする。ナイロン樹脂補強向けをすでに始めているほか、ほかの樹脂に向けた開発に着手しており、各樹脂に合った表面処理糸を開発するなどで「顧客の要望に適合する“テーラーメード”型の開発で付加価値を高めて行く」考えだ。

 衣料用途に向けた開発もテーマに挙げ、紡績やテキスタイル化などで東レグループの技術背景を活用していく。

クラレ/ベクトラン特殊品へ傾斜/航空機用に焦点、PEI

 クラレは高強力ポリアリレート繊維「ベクトラン」、ポリエーテルイミド(PEI)繊維「クラキス」の2種類の高性能繊維を持つ。ともに世界唯一の素材だ。ベクトランは高強力に加えて、低吸湿性、寸法安定性、耐摩耗性などに優れる。2007年の増設により年1000トンの生産能力を持つ。クラキスは13年5月、中量産設備(年産500トン)を導入した。

 ベクトランは15年度(1~12月)、特殊品シフトにより前期比20%弱の増収を計画する。販売量は2%増にとどまるが、付加価値の高い細繊度糸、紡績糸、原着、加工品など特殊品の拡大で、売り上げに加え利益も伸ばす。

 今上期は円安も追い風に売上高は20%増となった。輸出比率が高いベクトランだが、欧米向けロープ、スリングなどの荷動きが低調だったため、販売量は微減となったが、特殊品の拡大で2けた%台の増収増益だった。

 下期は前年同期並みの販売量を確保する。同時に特殊品へさらにシフトすることで利益を伸ばし「開発中の新製造プロセスによる次の増設につなげたい」(松尾信次繊維資材事業部長)との考えだ。

 一方、クラキスはサウジアラビア・サビックの非晶性熱可塑性エンジニアリング樹脂を繊維化したもの。低発煙性(燃えても煙が出にくい)点が最大の特徴で、もちろん、耐熱性、難燃性にも優れる。染色性も高く、細繊度化も可能という。

 当初はメタ系アラミド繊維が多い防護服もターゲットにしていたが、現在は低発煙性が生きる「航空機用内装材に絞り込んで開発」を進める。当初計画より遅れるが、16年度に一定の販売量を見込んでいる。