技 新素材登場
2015年01月20日 (火曜日)
クラレ/「CNTEC」繊維でヒーター
クラレ子会社のクラレリビング(大阪市北区)が開発を進めてきたカーボンナノチューブ(CNT)使いの導電繊維「CNTEC」。2015年から販売業務をクラレ本体に移管し、ついに本格展開に入った。開発から用途開拓まで中心となって携わってきたクラレリビングの秋庭英治研究開発部長は「マーケティングにより拡大する段階に入った」と感慨深げ。秋庭氏がCNTに着目して10年。ようやく動き始めたCNTECのこれまでの歩みと将来性を探る。
<融雪分野で本格化へ/カーボンナノを応用>
カーボンナノチューブは鉄の数十倍の強度と弾力性を持ち、金属並みの導電性や電磁波の吸収性などにも優れる次世代の材料として登場したが、繊維への応用はまだ少ない。しかも、CNTECのような「糸へのコーティングは当社が唯一」で、特許も日本と中国で取得済みと言う。
元々、カーボンパウダーを練り込んだクラレの導電ポリエステル繊維「クラカーボ」を上回る高性能の導電繊維を開発したいと考えた秋庭氏がCNTに着目し、開発をスタートしたもの。当初は練り込みを試みたが、ナノサイズのCNTでは繊維にならなかった。
そこで北海道大学の古月文志教授の協力を得て、CNTを水に均一分散したCNT水溶液をポリエステルにコーティングする手法で、糸染め企業と共同開発に着手する。そして帯電防止に適する電気抵抗値(1センチ当たり510Ω)を持つCNTコーティング糸を開発し、07年にクラレリビングが発表する。
しかし、欧州輸出を中心に08年から糸販売を目論んだものの、同年3月に一般紙がCNTに発がん性の可能性があると報道。「安全性を検証しながらの研究開発に立ち返る」ことになる。発売目前でふりだしに戻った形だ。
そこに救いの手が。同年経済産業省の「地域イノベーション創出開発研究事業」に採択された。北大、糸染め企業やコーティング前の前処理や織布を行う企業などと再度研究開発に取り組む。
そのなかで生まれたのが、CNTコーティング糸を使った布、CNTECになる。電気抵抗値を1000Ω下げて、410Ωにして通電すると、程よい発熱を起こすことが分かったからだ。
しかし、ナノリスクが解消されたわけでない。そこで考えたのがCNTECをシール体でカバーすること。その試作品を09年、ドイツで開催された産業資材・不織布の国際見本市「テクテキスタイル」のクラレブースで出品する。
この試作品はファブリックによるヒーター。記者も目にしたこの試作品に「来場者の反応も上々」だったことから、09年から商品化するパートナーの探索と量産化技術の確立に取り組む。
しかし、電気毛布などに使われるニクロム線を使った商品と同じでは「価格面で対抗できない」。そこでターゲットに置いたのが融雪分野だった。ニクロム線では均一発熱、低ワットのシート製作は技術的に難しいからだ。
CNTECは(1)布製であるため、柔らかく薄く、軽い(ニクロム線使いの3分の1)(2)一本一本の糸に電気が通るため全面が発熱する(3)全面発熱のため、速温性、省エネ性に優れる(4)糸の電気抵抗値、布幅、布密度の組み合わせで発熱温度を設計できる(5)ニクロムなど金属線を使用したヒーターに比べて屈曲疲労性に優れる――などの特徴を持つ。
これを生かせる分野として融雪に狙いを定め、10年北大で実証実験を実施。ニクロム線使いの融雪マットに比べて約20%効率が良いことが分かった。
これを踏まえて融雪マットで商品化するパートナーを探した。それがシナネングループの太陽光サポートセンターで、同社がCNTECにシールを施した融雪マットを14年11月に発売する(業務用で価格は3万9800円、サイズは85×130センチ)。
融雪マットの発売を機に本格的な拡大に備え、加工を受け持つ川中企業において順次、設備体制を整えるとともに、販売業務を15年1月からクラレの繊維資材事業部に移管した。
同事業部原料資材第二部の平林秀民第二課長は「CNTECの用途開拓ではクラレリビングと共同で行ってきた。今後はターゲットを絞って拡大していきたい」と述べ、15年度(1月~)からの新中期経営計画「GS―STEP」の最終年度、17年度には売上高10億円を目指すと言う。
ターゲットとは融雪マットのほか、屋根融雪、太陽光パネル融雪。「この3分野を柱に拡大したい」と話す。この数年、大雪による様々な被害が日本全国で生じている。その面で従来のニクロム線を使った融雪マットに比べて均一発熱が可能で、広い面積をカバーでき、取り扱いも容易なCNTECを使った融雪分野のニーズはある。
さらに、このCNTECの技術を生かした新たな用途開拓も進めている。静電容量の変化を捕らえる布センサーとして、アキテック(兵庫県猪名川町)が採用し、介護用ベッドのおむつセンサーとして商品化するなど、ヒーター以外にもCNTECの可能性はまだまだありそう。果たして、今後どのように化けるのか。クラレグループの開発力が注目される。
クラボウ/「バイオペレット」コットンを強化繊維に
樹脂の強度を高めるために複合させる強化繊維。これに天然素材である綿(コットン)を使用するというアイデアを実現したのが、クラボウがこのほどトヨタ車体と共同開発した射出成形用材料「バイオペレット」だ。コットンを複合材分野で使用するという新しい試みである。
<トヨタ車体と共同開発/環境に優しく低比重>
自動車の燃費向上や二酸化炭素排出量削減には内外装部品の軽量化が重要な要素となる。このため金属部品を樹脂で代替する方法が一般的。なかでも比重が小さい熱可塑性樹脂であるポリプロピレン(PP)をベースした材料開発のニーズが高まる。そこでPP樹脂の強度を高める方法として環境に優しく低比重で一定の強度を高めることのできる植物由来繊維の複合が検討されていた。こうしたニーズに対応してクラボウとトヨタ車体が開発したのがPP・コットン複合の射出成形用材料「バイオペレット」だ。
通常、熱可塑性樹脂ベースの成形品は射出成形で生産し、樹脂の強度を高めるために樹脂ペレットの中に繊維長の長い強化繊維を混合する必要がある。しかし、射出成形用材料の一般的な製造方法である溶融混練押出製法では、混練時に繊維が短く切断されてしまうため、繊維長を長く保ったままで製造することが困難だ。
これに対してバイオペレットは、コットンとPP繊維を紡績工程で混綿した後に、連続的に熱プレスし、裁断してペレット化する方法で製造する。このためペレット樹脂中の強化繊維の繊維長を長く保ったままにすることが可能だ。さらにコットンには「原料自体が撚りの掛かった形状を持つ」「柔軟性がある」などの特徴があるため、PPと複合することで強度とともに曲げ物性や耐衝撃性も高まる。
さらに繊維比率を50%まで高めることが可能だ。必要に応じて添加剤を含むPP樹脂ペレットを射出成形時に後添加することで繊維含有率や樹脂流動性の調整もできる。また、天然繊維であるコットンを強化繊維に採用することで、石油由来のPP樹脂使用量を削減できるなど環境負荷低減にも貢献する。
クラボウでは自動車や家具、スポーツ、日用品、各種産業資材など軽量性と剛性が求められる様々な用途への提案を進め、2016年には売上高1億円を計画する。昨年10月には「国際プラスチックフェア2014」に出展し、バイオペレットを披露した。自動車関係をはじめ、オフィス用品、音響機器、日用品、文具など様々な分野から引き合いが寄せられるなど反響も大きかった。今後、さらに具体的なニーズを把握し、それに応じた性能や特性を持った商品開発を進める。