高機能繊維特集/日本が世界をリードする

2014年09月11日 (木曜日)

 高機能繊維の世界は日本がリードする。パラ系アラミド繊維、メタ系アラミド繊維、高強力ポリアリレート繊維、高強力ポリエチレン繊維、PBO繊維など様々な高機能繊維を生産する国は世界的にも珍しい。これには日本の合繊メーカーの優れた技術開発力が背景にある。そして高強力・高弾性、耐熱性、難燃性など、汎用繊維を大きく上回る素材特性は「環境」「安全」「省エネ」「省力化」など世界的なニーズにも合致する。その面で将来的な成長が見込める素材であり、日本の合繊メーカーは重点事業の一つに位置づける。

環境、安全などに貢献

 1965年、米国のデュポンがパラ系アラミド繊維「ケブラー」を開発してから約半世紀。現在では日本の合繊メーカーにおける高機能繊維の重要性は非常に高い。もちろん、韓国・中国企業も高機能繊維に参入するが、デュポンを除けば、豊富な品種、品質、生産量とも日本企業が抜きんでている。

 帝人のパラ系アラミド繊維「トワロン」(オランダのテイジン・アラミド=年産2万6450㌧)はデュポンと世界市場を二分し、東洋紡の高強力ポリエチレン繊維「ダイニーマ」(3200㌧)は連携するオランダ・DSMも含めれば世界市場で圧倒的なシェアを持つ。また、同社のPBO繊維「ザイロン」(年産300㌧)、そしてクラレの高強力ポリアリレート繊維「ベクトラン」(1000㌧)は世界唯一の高機能繊維だ。

 各社の高機能繊維はこれだけではない。帝人はトワロンと製法の異なるパラ系アラミド繊維「テクノーラ」(2500㌧)、耐熱性が特徴のメタ系アラミド繊維「コーネックス」(2700㌧)を持ち、高強力ポリエチレンテープ「エンデュマックス」も事業化する。さらに、タイで新製法によるメタ系アラミド繊維の新工場建設(2200㌧)も進めている。

 また、東洋紡はダイニーマと異なる製法による高強力ポリエチレン繊維「ツヌーガ」(300㌧)、PPS繊維「プロコン」(3100㌧)を展開。クラレは耐熱・難燃性が特徴のポリエーテルイミド(PEI)繊維(500㌧)を開発している。東レはデュポンとの合弁会社、東レ・デュポンでケブラー(年産2500㌧)を生産販売するほか、耐熱性に優れたPPS繊維(3200㌧)、フッ素繊維(国内270㌧、米国350㌧)を展開する。

 高機能繊維も汎用繊維同様、中国や韓国でもパラ系アラミド繊維や超高分子量ポリエチレン繊維が開発され、競争は激しくなっている。しかし、日本企業には一日の長があり、事業規模、技術開発力とも日本がリードしている数少ない繊維の一つと言える。

 (本文中の生産能力は日本化学繊維協会の繊維ハンドブックを参照)

クラレ/ベクトラン特殊品 強化/PEIは輸送機器に重点

 クラレは高強力ポリアリレート繊維「ベクトラン」で細繊度糸や紡績糸、織物のような加工品など特殊品比率を現在の20~30%から引き上げる。「ロープ用など太繊度の定番品で量を確保しながら、特殊品で付加価値を高める」(繊維資材事業部の福島健機能素材部長)ことで収益向上を目指す。

 ベクトランは1990年、同社が世界で初めて工業生産を始めた高機能繊維だ。高強力に加え、低吸湿性、寸法安定性、耐摩耗性などに優れる。輸出比率が7~8割と高いため円安効果も受けているが、特殊品へのプロダクトミックスなども奏功し、2013年度は増収増益を達成した。

 特殊品は防護材、防護衣料など向けを強化する考えで、細繊度糸使いの織物や他素材との混紡糸使いなど加工度を高めながら展開。FRP(繊維補強プラスチック)も難度は高いものの、継続開発案件として取り組む。

 ベクトランは07年の増設で、現有能力は年産1000㌧。「中長期的な増強は視野に入れる」が、現在はまだ生産余力があることから、当面は収益重視の姿勢で臨む。

 昨年5月に年産500㌧の中量産設備を導入したポリエーテルイミド(PEI)繊維はサウジアラビアのサビックが製造する非晶性の熱可塑性エンジニアリング樹脂を繊維化したもの。耐熱性、難燃性、低発煙性、低吸水性、熱可塑性のほか、易染色性、細繊度化などの特徴を持つ。現在、不織布メーカーと連携した航空機用内装材など「輸送機器分野の開拓」(繊維資材事業部の荒牧潤市市場開発チームリーダー)に重点を置いている。

 14年からPEI繊維と他繊維複合のニードルパンチ不織布を熱成型したものが、小型機を中心に販売が始まった。来年以降大型機への採用を目指す。そのため不織布製造子会社のクラレクラフレックス(大阪市北区)や国内外の不織布メーカーと連携した開発を進める。

 PEI繊維は当初、防護服も狙ったが、メタ系アラミド繊維との競合が激しいことから、当面は航空機、自動車、船舶、鉄道などの開拓に重点を置く。また、PEI繊維に加え、耐熱ポリアミド樹脂「ジェネスタ」繊維でも同分野の開拓を行う。

東レ・デュポン/用途開拓、広がる展望/ケブラーの特性生かす

 東レ・デュポンはパラ系アラミド繊維「ケブラー」販売で、特性を最大限に生かせる用途を、顧客との話し込みを深めて開拓する。平井陽常務取締役ケブラー事業部門長兼ケブラー技術開発部長は「国内向けは、まだまだ伸び代がある。国内企業と一緒に新用途を開発することが世界で勝つことにつながる」と強調する。

 ケブラーは鋼鉄の約5倍の引っ張り強度があり、軽く、伸びにくく、熱や摩擦、切創、衝撃にも強く、電気を通さないなどの特性を持つ。今上期業績が4~6月の好調がけん引する形で「数%の増収増益」となったのも、ケブラーのこうした特性が生きる用途を伸ばしてきた結果だ。

 主力の自動車関連ではブレーキパッドやクラッチペーパーで耐久性の改善や薄くすることによる軽量化などの開発を続けてきた。タイヤコードも他素材との組み合わせで自動車の高機能タイヤでの採用を増やし、航空機用タイヤでもケブラーの特性を適応させ、スチール製コードからの代替提案を進めている。

 自動車関連で今後、開発を強化するのが、小型エンジンの燃焼効率を高めるターボチャージャー用のホースだ。摩擦係数の低減、他素材を傷つけないなどケブラーのメリットがトータルコストの削減につながるという。

 このほか、防護具用途も安全性の向上と軽量化を念頭に、顧客との話し込みで開発する。すでに実績がある耐切創手袋のほか、溶接時に使用される前掛け、工事現場の防炎シートといった製品に向け、細繊度化などによる技術開発に注力しながら取り組みにつなげる。また、木造建築向けの耐震補強用ケブラーシートも今後の展開の仕方を検討していくという。

帝人/直販、加工品強める/新メタ系15夏から生産

 帝人はパラ系アラミド繊維「トワロン」「テクノーラ」、メタ系アラミド繊維「コーネックス」、高強力ポリエチレンテープ「エンデュマックス」など様々な高機能繊維を製造販売する。

 トワロン(年産2万6450㌧)、エンデュマックス(非公表)はオランダのテイジン・アラミド、テクノーラ(2500㌧)、コーネックス(2700㌧)は国内生産し、来夏にはタイで新規メタ系アラミド繊維設備(年産2200㌧)を稼働させる。

 2014年度のアラミド繊維販売量は前期比5~6%増となる見通し。12年度を底に回復基調にある。トワロンはタイヤコード、ゴム資材、摩擦材用パルプなど自動車向けが好調で、光ファイバー用もアジア向けが拡大する。防弾など防護衣料向けも底を打ったという。

 テクノーラはゴム資材のほか、海底油田用ロープなど向けの輸出が堅調。コーネックスはバグフィルター用が苦戦も欧州車のターボチャージャー用ホースや国内外の防護衣料用が伸びる。13年から本格販売をスタートしたエンデュマックスも防弾中心に14年度は計画を上回るペースで推移しているという。

 今後の課題はパラ系、メタ系アラミド繊維によるアジアへの直接販売や加工品展開。これまでアジア地域は代理店販売が多かったが「今後は直販を強化する」と高機能繊維事業本部の籔谷典弘執行役員営業部門長。

 アラミド繊維の中国販売は用途開発・技術サービスを行う「テクニカル・センター・アジア」を持つ、上海販売会社のテイジン・アラミド・アジアが担い、アセアン地域はタイのテイジン・コーポレーション〈タイランド〉が担当する。

 さらにアセアン地域では帝人フロンティアのインドネシア子会社、テイジン・フロンティア・インドネシアに担当者を出向させるなど成長地域での販売活動を強化している。

 同時に加工品比率も高める。とくに、タイで生産する新規メタ系アラミド繊維は防護衣料向けで織物展開も予定。現在、国内の試験設備で生産したわたをタイ、インド、中国の協力企業やグループ企業に送り、紡織・加工の試作も進める。