「コットンの日」特集/幅広い分野で人気、活躍するコットン
2001年05月08日 (火曜日)
コットンは実用衣料の世界で不可欠の存在だ。とくに、肌着、シャツ、デニム、そしてタオルはコットンが主要素材であり、その地位は崩れていない。なぜなら、コットンがもつ素材特徴がそれら用途に合致するからだ。いかに、ポリエステルなど合繊が機能性を高めたとしても、コットンを上回ることは不可能。コットンを必要とする各用途の動向を追った。
*綿不織布/国産綿100%で拡大続く
国産の綿紡織素材が縮小の一途を続ける中にあって、需要が急増している商品がある。綿100%スパンレース不織布(SL)がそれだ。他の化合繊を原料とする短繊維不織布に比べ高コストというハンデを持ちながら、コットンの良さが認知され、新たな市場を構築している。国産メーカーであるユニチカの「コットエース」、日清紡の「オイコス」とも先ごろ、増設を決定するなど事業拡大に動き出した。
ユニ・チャームの女性用ナプキン「ソフィボディフィット」、小林製薬のパンティライナー「サラサーティコットン100」をご存知だろうか。タレントを起用したTVCMでよく知られている商品だが、両商品とも肌に優しい天然コットンを全面に打ち出している。
綿紡績が当たり前過ぎて訴求ポイントにしない、天然繊維というコットン最大の強みをセールスポイントにする。両商品の表面材(肌に触れる部分)に使用するのが綿100%SLで、コットンを紡績同様、カードに通した後、高圧水流で繊維を絡合し不織布化するもの。世界でユニチカ、日清紡、丸三産業の三社しか本格生産していない。
3社よりもSLでは歴史があり、規模も大きいダイワボウやクラレなど大手は綿100%を手掛けていない。商品の良さは大手も認めるが、綿100%SLは生産スピードが遅い上、晒し綿を使用するか、後晒しが必要。さらに検反に人手も掛かるため、化合繊使いのSLに比べ高価格という弱点をもつ。一般的にはレーヨン・ポリエステル混に比べれば二倍近い生産コストとも言われる。
そのハンデを持ちながら綿100%SLはナプキン、パンティライナーという新市場を創造した。その他ではおしぼりやワイパー類、さらにガーゼなど衛生材料、産業資材用でも着実に需要を広げる。
こうした動きは健康快適性や環境問題に対する意識の高まりも皆無ではない。天然繊維である肌への優しさ、生分解性をもつコットンへの注目が高まっていると言えるだろう。
これに対応し、両社は増設を決めた。ユニチカは垂井工場において、02年5月をめどに倍増設を行い年産5000トンに、日清紡も藤枝工場に同じく倍増の同2500トンに増強を決めた。
ユニチカは事業化8年目、日清紡は10年目に当たり、これまでの道のりは決して平坦ではない。事業化当初、ユニチカは当初の狙いであったベビーウエット(赤ちゃんのお尻拭き)がコスト問題からうまくいかず、日清紡は不織布への参入が初めてもあって試行錯誤を続けてきた。
両社とも約10年をかけて、ようやく2号機導入に踏み切ったわけだが、不織布の基本である地道な商品開発と用途開拓が実を結んだ形だ。
さらに、コットンでも国産品で生きる方策があることも証明したと言える。
両社もユーザー同様、綿100%の良さを訴え続けてきた。綿紡績が忘れ去ったコットンという素材の本質を追求しており、今後もその基本方針に変わりはない。
*タオル/根強い無撚糸ブーム
タオル市場では、純綿無撚糸使いの商品が根強い人気を見せている。昨年から盛り上がったが、今年も続きそうだ。全国の百貨店を対象に本紙が行ったアンケート調査でも、過半数の店が、無撚糸人気は今年も続くと予想した。
無撚糸には、毛羽が出やすいという欠点がある。このため、タオルケットを扱う業者の間では、無撚糸使いの企画を控える傾向も出てきた。しかし、通常糸使いに比べて、明らかに軽く柔らかいという長所があるのも事実。要は、この長所と欠点のどちらを重視するかの問題だ。タオルの場合、長所の方を重視する消費者が少なくないということだろう。
支持者が定着してきたとの読みからか、無撚糸使いの商品は多様化する方向にある。例えば、柄の部分だけで無撚糸がループを形成するようにジャカード織りした商品。この場合、地色の部分のループは普通の糸だけで形成されることになる。最近、その地色部分のループを刈り取って、立毛状にした商品が注目されている。
無撚糸が部分的に表面に出ているタオルを蒸すと、無撚糸の部分だけが縮むと言う。その状態で表面を刈り取ると、沈み込んでいる無撚糸はループのまま残る。その後に湯洗いしてやると、縮んでいた無撚糸が開放され、浮き上がってくる。このため、無撚糸のパイルで描いている柄が浮き上がって見える格好になるそうだ。
無撚糸使いのタオルは、来秋冬商戦でさらに多様化するだろう。例えば、ガーゼ組織と組み合わせた無撚糸タオルも登場しそうだ。
二枚のガーゼを重ねて縁かがりしたハンカチは以前から和装小物などとして販売されていた。これに一ひねり加えたガーゼ・タオルが今春夏商戦でたぶん、ヒットアイテムに踊り出るだろう。例えば、三重になるように織ったガーゼ・タオルが店頭に並ぶ。来秋冬商戦では、このガーゼ・ブームと、昨年から続く無撚糸ブームを両取りすることを狙った、無撚糸使いの片面ガーゼタオルが店頭に並ぶはずだ。
*肌着/綿肌着に機能性付加
肌着では消臭加工や保湿加工、遠赤外線加工、ストレッチ性で着やすさを追求した商品、軽量など機能商品の位置付けが高まっている。ただ安価なだけでは購入しない時代だけに、各社が特徴的な商品を打ち出している。
内外衣料製品の下着事業部は今秋冬の主力商品「グットらくインナー」の中で綿100%の厚地素材やポンチョ素材に保湿加工を付与した商品を新しく打ち出す。これらは遠赤外線加工の当て布付きの商品群だが、このような機能を打ち出した商品は好調に動いている。価格は1300~2000円で、年間100万枚の販売を狙っている。
また、同社の肌着事業部では遠赤外線加工に立体裁断を取り入れて暖かさとはきやすさを追求した紳士タイツを主力商品と位置付ける。「パリス」「ジャンニバレンチノ」「USポロ」などのブランドで展開し、年間100万枚の販売を狙う。参考上代は1000~2300円。ボクサーブリーフなどとのセット提案で打ち出す方向だ。
また、グンゼのアパレル事業本部メンズ&キッズ部は今秋冬「軽量保温」をテーマに軽さと暖かさを訴求する。従来のブランド別多素材展開から、ブランド横断型で機能性を提案する形への変更である。
このテーマに沿って打ち出すのがクラボウと共同開発した中空糸「ソフトスピン」を使った商品群。これは中空糸の弱点であった空洞部分が着用や洗濯によって潰れてしまうといった点を、バルキーアクリルでガードすることによってカバーした素材。「YG」「ボディワイルド」のほか、遠赤外線加工をプラスした「快適工房」、デオドラント加工を施す「デオグリーン」など様々なブランドで展開する。
*ジーンズ/綿中心に広がる素材
デニムといえば綿100%素材が中心となる。とくに97年のビンテージジーンズブームを頂点としてムラ糸使いによる独特な表面感のある14オンス綿100%デニムが重要視された。
そのビンテージブームが過ぎ去り、6900円以上のベーシックジーンズも失速したことからジーンズ業界にとって、新素材の開発投入が活発化し、素材に広がりが出た。
「ユニクロ」に代表される低価格ベーシックジーンズが大きく売り上げを伸ばしたが、このゾーンは引き続き綿100%の14オンスデニムが主力とされる。一方、NBによるメンズベーシックジーンズは低迷が続き伸び悩んだが、レディースジーンズは積極的な新商品提案によってシーズンごとにヒットアイテムが生まれた。
ビンテージブームの後、カラーストレッチパンツがブームとなった。綿・ポリウレタン混素材によるタイトなシルエットと、赤や黄色などのビビッドなカラーが女性に受け入れられた。
このカラーパンツブーム以後、レディースはタイトシルエットのパンツが定着、さらに細身になっていく。ビビッドカラーブームが一段落すると濃紺インディゴブルーのストレッチデニムパンツが消費者の支持を集めた。シルエットはさらにタイトフィットに進化した。
濃紺インディゴブルーのストレッチジーンズがある程度、消費者に行き渡り、今春夏は股上が浅めのローライズジーンズが大ブームとなっている。色はこれまでと違い、洗い加工による淡いブルーが主流となっている。素材は綿100%デニムが中心だ。
しかし、ストレッチ綿混デニムも定着していることに加え、ポリエステル綿混デニムを使用するアパレルも増加している。紡績・加工技術の発達から綿100%に近い風合いを持つ合繊デニムも出現している。さらにアラミド繊維混の強化デニムやコーティングデニムなどの素材も違和感なく市場に受け入れられている。デニムのバリエーションはまだまだ広がりそうだ。
*ドレスシャツ/高まる高級純綿志向
この数年、ドレスシャツは綿・ポリエステル混素材を基調に形態安定加工を施した素材が主流を占めていた。低価格化に歯止めをかける目的からシーズンごとに機能加工の付加が行われた。99年夏から冷房28℃対応素材、昨年春夏は抗菌消臭加工が登場。今春夏は防汚加工が一つの目玉となる。
その一方で、高付加価値素材として綿100%素材が見直されている。ノーネクタイスタイルの登場によって、シャツ自体のインパクトを高める目的からファッション性を強める傾向にある。
明るい色使いやチェック・ストライプ柄の提案に加えて、襟腰を高くしたり、前立てを比翼仕立てにしたりとデザイン性も高める。こうした商品に求められる素材は風合いの良い細番手の綿100%素材が中心となる。カネボウ繊維によると今春夏向け素材の商況は「綿100%の高級感のある素材に強い引き合いがあった」という。
綿100%素材に注目が集まることから、紡績各社は綿100%形態安定素材を開発した。東洋紡はトミヤアパレルとスーピマ綿100%形態安定シャツ「メイケア21」を共同開発し、昨年秋冬から展開を始めた。販売計画はシーズン30万着、年間60万着。
こうした綿100%形態安定素材のほかに、コンフォート志向の高まりから、ニット素材にも注目が集まる。東洋紡は「Zシャツ」を昨年秋から本格販売した。2001一年度に10万枚、2003年度に50万枚の販売を見込む。
ニットシャツの利点は(1)吸水速乾性、肌離れ性、通気性に優れる(2)動きやすく圧迫感がない(3)イージーケア性――にある。
変化が少ないといわれるドレスシャツだが、機能性のさらなる追求、風合い重視の風潮、ファッション性への傾斜など様々な切り口が表れ始めた。