東海産地特集/産元/力の源泉はモノ作りの技
2014年03月24日 (月曜日)
産元とは、産地で元請け役を担う商社を意味していた。「産地元売り」が語源だとする説もある。産地の縮小に伴い、彼らの作り場は全国、全世界へと拡散しつつあるが、モノ作りの技が彼らの力の源泉であることに変わ
作り場が頭に浮かぶ
コヤマグループの生機産元、古山(静岡県浜松市)には、企画を見ただけで「どこの機業のどの織機にかけて、テンションはこれくらいで」などいったことが即座に頭に浮かぶ匠が2人いる。1人はこの道31年の古山達也社長。もう1人の匠は40年の経験を持つ。この2人の匠の存在が、多様な注文に的確に対応するうえでの力になっている。小口の注文にスムーズに対応できるのも、モノ作りを分かっている匠がいるからだ。
同社の2014年1月期売上高は、7億2000万円だった。うち4億2000万円は泉州、九州、さらには中国の工場に委託して作ってもらった生機によるもの。2億円は、遠州産地の機業7、8社に糸を支給して織った生織によるもので、残りは顧客の要望に対応して染色加工した生地によるものだ。受注生産に加え、96年から備蓄販売も行っている。現在、40~50種の生機を備蓄している。
同グループは、04年設立のコヤマインターナショナル(同)を通じて、加工反も販売している。同社の13年7月期売上高は5億8000万円。売上高の90%が加工反、残りが生機によるものだ。
生地工房のチーム力
先染め織物産元のテキスタイルベガ(静岡県浜松市)は、エジプト産超長綿「ギザ」単一混綿糸「フィンクス」使いの生地を製造販売している唯一の企業だ。生地企画会社のデザインワークス1965東京(東京都渋谷区)などが要求する生地を、モノ作りにこだわる工場と組んで形にしてきた。
フィンクス糸は、KBツヅキの高知工場に委託して年間80生産する。それを、浜松の機業5社と組んで織る。糸染めは、尾州の茶利染工と滋賀の澤染工を、無地染めは主に地元の鈴木晒整理に委ねる。そうやって作られる生地は、綿100%で1㍍当たり1000~1500円、交織品なら2000円にも達する。生地工房と呼んでもいい業態の企業だ。15春夏に向けては、ギザを素材とする160双糸使いの350本生地の生産にも挑んでいる。
欧米でも好評
森菊(愛知県蒲郡市)の売上高の40%を稼ぎ出す基幹部門、テキスタイル第1部は、主に婦人トップス向けに、綿を中心にレーヨン、リネン使いなどの生機を約200種備蓄販売している。その80%は国内で生産したもの。国産の70%を、遠州、三河の機業30社で織っている。遠州には同社専属に近い機業が20社あるという。遠州では主にドビ、ジャカード織物を生産しているが、衣料用にこれらの生地を生産している機業が少ないこともあって、生産スペースはこの1年、満杯の状態が続いているという。遠州、三河の他に、知多の機業3~4社、泉州の機業2~3社も活用している。
また、備蓄販売する生機の60%ほどを、2社に委託して加工し、製品染め用の下晒生地としても備蓄している。このうちの1社で、製品染め後にナチュラル感が残るように晒した生地も展開しており、これが特に好評だと言う。
同社は、テキスタイル第1部の生機に色を付け、ジェトロが1月に開催したニューヨーク展と、2月に開催したロンドン展、パリ展で披露し、好評を得た。今後、これら海外展での反響も、新たなモノ作りにフィードバックする方針だ。
売れ筋を作る力
売れ筋商品を作り出すことで定評のあるカーテン地専門産元、松坂(愛知県蒲郡市)。同社は毎年、オーダーカーテン地を約80柄試作する。これら試作品の中から比較的高い確率でヒット商品が登場する。
同社の中心商品はオーダーカーテン地だが、かつてかなりの規模で既製カーテンを展開していた。現在も、ウエートは低下したがそれを扱っている。
既製カーテンを通じて蓄積してきた売れ筋情報収集ノウハウが、オーダーカーテン地の企画にも生かされている。
同社の松永明久社長は、この道30年からなる経験を持つ。「私と付き合う紋紙屋さんは大変です」と苦笑する。織組織の作り方は、専門家である紋紙屋さんに任せているものの、完成品の色柄については一切妥協しない。そこへのこだわりが、同社の魅力の一つだからだ。
商品に「隠し味」
オーダーカーテン地を主力とする小森(愛知県蒲郡市)のインテリア部。オーダーカーテン製造卸の要望を的確に把握し、その要望に合致する生地を製造卸の企画担当者と一緒になって作るというのが、同部のスタイルだ。もちろん、製造卸が要求するコストの範囲内でモノ作りするが、コスト以上の商品に見えるように作ることにこだわっていると、この道30年の安藤克敏部長は言う。同社のモノ作りの姿勢を理解している意匠撚糸メーカーが3、4社、合繊加工糸メーカーが2、3社あり、彼らの協力を得て糸作りから入ることなどが、同社のモノ作りに付加価値を与えている。
同社生活資材部は、寝具製造卸へ、カバー、肌掛け、綿毛布などの軽寝具を供給している。高級品から低価格品まで、顧客の要望は様々だ。顧客が何を求めているのかを的確に把握し、それを具現化するのが同部の使命だ。ただ、それだけでは十分ではないと星野滋之部長。商品に「隠し味」を入れるという。その隠し味に後で気づいて喜んでもらったこともあると語る。
産地機能を支える商社/豊島・浜松支店/生機・加工反を備蓄
豊島の浜松支店は、生機を200品番ほど備蓄して販売している。また、無地染め生地も30品番平均各20色を備蓄し、「HTシリーズ」として展開。さらに、プリント生地も受注生産する。生機とプリント生地が同支店の売上高のそれぞれ40%を占め、残りが無地染め生地という構成だ。
備蓄販売する無地染め生地、HTシリーズは、サービスユニフォームやスモック、帽子、エプロン素材などとして採用されることが多い。同シリーズの半分以上は、遠州産地を中心とする国内で織っている。国内生産が多い理由の一つは、同シリーズに、綿糸とポリエステル紡績糸の交織品が多く収録されていること。この種の生地は、染色すると欠点が露わになりやすい。このため、品質管理が確かな国内工場に織布を委託している。加えて糸にもこだわる。ポリエステル紡績糸は、品質管理が徹底されている工場の糸でないと、毛羽やネップが出やすい。このため、30年以上に渡ってテイジンのオープンエンド糸を使ってきた。生地幅や生地耳の有無にこだわる顧客が少なくないことも、HTシリーズに国産が多い理由だ。スモック用途などでは、92㌢幅の生地への要求も多い。ここまでの狭幅で織ってくれる工場は海外にはないという。
同支店はこれら生地に加え、サクラクレパスの「クレパス」の色彩を採用した生地2品番を各12色、商標使用権を得て備蓄して販売している。
信友/多種多様な糸を提供
信友の浜松支店は、綿糸やポリエステル・綿混糸、レーヨン紡績糸を備蓄している。綿100%糸については、製造元別でカード糸を22種、コーマ糸を25糸備蓄し、ケース単位で販売している。
撚糸も備蓄しているという。もちろん、備蓄していない糸の受注生産にも応じる。これら糸を、遠州産地の産元や糸商をはじめ、北陸産地へも販売する。衣料用途の需要は減少傾向にあるものの、資材向けは堅調だと言う。
開発室訪問/公大/モノ作りを刷新
寝具製造卸の公大(愛知県蒲郡市)は、モノ作りの刷新に取り組んでいる。これまでは、ふとんカバーを40柄ほど備蓄し、毎年5~6柄を更新してきた。売れ行きの良いモノを残し、悪いモノを新柄に切り替えてきた結果、似たような柄が増えた。このことへの反省から、快眠セラピストの三橋美穂さんと組んで、消費者目線でのカバー作りに取り組んでいる。
商品開発を強化するために今春、同社本社内に「おもてなしねむり研究所」を開設する。ここを中心に、「最高品質・最低価格」の商品を開発するという。このコンセプトの商品を登場させるために「最高素材」の開発に既に着手した。11月に商品として発表する予定だという。
同社カバーの生機の90%は中国製だが、残りは和晒ガーゼ、タオル地カバーなど同社独自企画の国産品だ。プリントと縫製はすべて国内で行う。縫製の80%は三河産地の6社に委ねている。
産地ウオッチ/二喜商事/小売事業を拡大
生地産元の二喜商事(愛知県蒲郡市)は、生地だけでなく縫製品や糸も扱っている。3年前に、婦人服の小売りも開始した。今後、この小売事業を拡大する方針だ。
同社は2011年9月に、婦人服専門店「オバメイ」を東京都港区で開店し、婦人服の小売り事業に乗り出した。大手アパレルの商品などを消化仕入で展開している。店舗運営ノウハウの蓄積が進み、今期に入って黒字化した。
今後、婦人服企画会社のコンフェット(東京都渋谷区)と組んで、店舗数を増やす方針だ。
コンフェットは、独立を前提に入社した二喜商事の元社員が設立した企画会社。二喜商事がOEM展開する製品の企画業務などを請けている。