繊維企業の先端環境事業/世界でも貢献
2013年12月09日 (月曜日)
「環境対応」は企業にとって重要な経営戦略の一つになっている。しかも、日本の環境関連技術や環境ビジネスは世界的にも優位性があり、国内だけでなく、海外も含めた全世界に貢献できる可能性を持つ。繊維も同様で、植物由来による環境負荷低減素材、さらには環境配慮型の製造法の開発などが進む。繊維各社による最先端の環境関連事業を紹介する。
帝人グループ/体操服をリサイクル/「tiopro」展開
帝人のポリエステル製品の循環型リサイクルシステム「エコサークル」は、世界で初めて開発されたポリエステルのケミカルリサイクル技術から成る。製品を化学的に分解し原料に戻すことで、品質を劣化させることなく新たな製品として再生することができるのが特徴だ。
循環型ということは、半永久的に資源を循環させることができ、ゴミを減らし、石油資源の使用を抑制。石油からポリエステル原料を製造するよりもエネルギー消費量、CO2排出量とも大幅に削減できる。
同社グループの帝人フロンティアはエコサークルを生かし、旭化成せんいと共同で学校体操服のリサイクルプロジェクト「体操服!いってらっしゃい、おかえりなさいプロジェクト=通称、「tiopro(ティオプロ)」を展開している。
同プロジェクトは第1弾として、京都市立の学校が参画し、それを京都市が支援。児童・生徒への環境教育の一層の充実を図っている。帝人フロンティアによると、学校数も増えており「ほかの自治体からの問い合わせも多い」と言う。
その他、環境負荷削減活動に積極的な企業がエコサークルで再生可能なポリエステル繊維を使用したユニフォームや一般衣料を販売しており、一般衣料ではアパレルメーカーから「ポリエステルのような耐久性の高い合成繊維をさらにリサイクルすることは地球環境を守るうえで大きな意義がある」との評価を得ている。
こうしたエコサークルは海外にも広がりを見せる。海外アパレルとの取り組みに加え、中国では浙江省紹興市の精工控股集団と合弁でポリエステルのケミカルリサイクル事業を行う浙江佳人新材料を設立しており、2013年度末から操業を開始する予定だ。
クラレグループ/環境が主要経営戦略/国際貢献活動も推進
クラレは2012年度からの中期経営計画「GS―Ⅲ」で技術革新、地域拡大、外部資源活用、グローバル経営基盤強化と並び「環境対応」を主要経営戦略に掲げている。
「環境対応」とは環境に貢献する製品・システムに欠かせない素材・中間材を低環境負荷で提供することを使命と認識し「環境効率」(環境負荷当たりの売上高)の向上を目指すもの。
その環境に貢献し、低環境負荷素材の一つが人工皮革「ティレニーナ」だ。ティレニーナはCATS(クラリーノ・アドバンスド・テクノロジー・システム)による無溶剤の環境配慮型人工皮革。軽量で薄く、天然皮革に近い外観と風合い、高強度、寸法安定性などの特徴もある。
また、商事子会社のクラレトレーディングでは商品やサービスの中で、CO2削減効果の高いものや環境の改善に役立つものに「エコトーク」ブランド名称を付けて、09年度から展開する。
基幹素材は低温可染ポリエステル繊維「ピュアス」。通常のポリエステル繊維と同じ分散染料を使いながら、レギュラー糸の130℃よりも25℃低い105℃の低温で染色できることから、染色加工におけるCO2発生量を20%削減できる特徴がある。
また、クラレではティレニーナではないが、人工皮革「クラリーノ」使いのランドセルを使った国際貢献活動も行っている。
それが「ランドセルは海を越えて」。同社が中心となり、使い終わったランドセルをアフガニスタンの子供達にプレゼントするという活動だ。04年からスタートし、今年10年目を迎えた。これまでに海を越えたランドセルは8万個以上になる。
三菱レイヨン/4大悪臭の消臭素材/KAITEKIを追求
三菱レイヨンは2011年度からの中期計画「ニュー・デザイン15」において、ステップ2と位置づける13~15年度は「KAITEKI」活動のレベルアップを重要課題の一つとする。KAITEKIは人間にとっての心地良さ、社会にとっての快適、地球にとっての快適を合わせ持った、真に持続可能な状態を意味する。
KAITEKIを実現する製品の一つとして位置づけるのが、消臭素材である「キュートリー」だ。キュートリーは独自技術により、汗臭・加齢臭の原因となる4つの臭気に効果を発揮する。
キュートリーはアクリルとジアセテートを複合紡糸した指定外繊維で、これまで難しいとされていたアンモニアとノネナールを消臭する性能を成り立たせている。
海島構造からなり、海成分がアクリル、島成分がジアセテート。多孔質な構造のため、におい成分を繊維内部に取り込みやすいほか、わた段階で消臭成分を練り込んでいるため、繰り返し洗濯後も優れた消臭力を維持する。ジアセテートとの複合紡糸のため、通常のアクリルに比べて吸湿保湿性が高い。
また、抗菌防臭機能を持つキトサンも練り込んでいるため、微生物の繁殖を抑えて不快なにおいを防ぐ。30%の混率で消臭機能を発揮するため、他素材との組み合わせで幅広い用途に展開する。すでにインナーやシャツ、帽子に採用されるが、ユニフォームやスーツ、シーツ、まくらカバー、不織布分野の中わた用途などへも拡大する。アクリルは秋冬中心だが、キュートリーは春夏向けにも対応する。
東洋紡グループ/「エコ」認定製品25%/VOC回収装置で環境に貢献
東洋紡は「2020年ビジョン」で「環境、ライフサイエンス、高機能で、社会に貢献する価値を創りつづけるカテゴリー・リーダー」を目指している。大東照夫環境・安全部長は「環境はCSR(企業の社会的責任)とビジネスチャンスを生む成長戦略の一つ」と強調する。
同社では、CO2や有害化学物質、廃棄物の削減、省資源など独自の評価項目をクリアした製品を「エコパートナーシステム」製品として認定している。累計登録数は333件で、全売上高に対する売り上げ率は2012年度で25%となった。「繊維」のエコパートナーシステム認定製品は、13年4~9月で26・2%、「機能材」は27・9%となっている。また製造工程で出る産業廃棄物の埋め立ては、ゼロエミッション基準としている埋め立て率2%以下を12年度グループ全体で達成し、さらに削減率を高める。
環境分野の主力製品の一つが、活性炭素繊維「Kフィルター」を用いた排水中のVOC(揮発性有機化合物)回収装置(以下、KW装置)。従来の吸着式排水処理装置では定期的に吸着材を交換する必要があったが、KW装置は一定の間隔で吸着(VOC除去)と脱着(吸着材の再生)をその場で繰り返し行う方式を採用し、少量の吸着材で排水処理を可能にした。さらに「Kフィルター」はVOCの分子サイズと同等の直径1㍍以下の微細孔(ミクロポア)が繊維表面に多く形成されているので吸着速度が速い。このため、コンパクトで省エネルギーのVOC排水処理装置と言える。
また海水淡水化用逆浸透(RO)膜エレメント「ホロセップ」は、サウジアラビアのラスアルカイル地区に建設する世界最大級大型海水淡水化設備「ラスアルカイルプラント」の逆浸透膜法の海水淡水化設備(日量34・5万立方㍍)へ採用されるなど、拡販している。RO膜素材はトリアセテートの中空糸膜で、中空糸膜の外側に圧力を加えた海水を流すと真水だけが中空糸膜を通過し塩分や不純物は通さない。微生物の増殖を防ぐために使用される塩素殺菌に優れた耐久性を持ち、安定した淡水化を実現する。
ユニチカ/「テラマック」新展開/金沢美術工芸大と連携
ユニチカは「バイオマス素材」「リサイクル」「環境配慮型素材」「省エネ素材」「資源有効活用」など幅広い分野にわたるエコ素材・環境関連製品を製造販売している。
バイオマス素材の代表的なのはポリ乳酸(PLA)素材「テラマック」である。
植物のデンプンから作られるPLA(米国のネーチャーワークス製)を原料とし、生分解性や燃焼時のCO2排出量も少ないなどの特徴がある。
現在、繊維、不織布、樹脂、フィルム・シートに至るまで幅広いアイテムを製造販売しており、年間1500㌧の規模にある。
内訳は繊維・不織布、フィルム・シート、樹脂がそれぞれ3分の1。繊維では土のう、タオル。不織布ではティーバッグなどの生活資材、防草シートや軟弱地盤安定材など土木資材に投入している。
このテラマックの新たな可能性を求めて、金沢美術工芸大学美術工芸学部デザイン科(石川県金沢市)と共同で製品開発に取り組んだ。
その成果として、学生の柔軟な発想から生まれた「テラマック砂時計」「街のオブジェプランター」「まゆだまプランター」3作品を今回のエコプロダクツ展に出品する。
同プロジェクトは2013年4月にスタートした。半年間にわたる議論を重ね、数十のアイデアの中から12製品に絞り込み、その中でもコンセプトやデザイン性などとくに優れた3作品を決定した。
今後は、3作品を含めたアイデアの製品化に向けて検討していく予定という。
同展ではまた、“ユニチカタウン”をコンセプトにしたブースで、子供から大人まで楽しくエコ製品について知り・触れることができる展示を行う予定としている。
プレゼンテーションにはユニチカマスコットガールの松田莉奈さんも登場する。来場者と一緒にエコについて学び、ユニチカグループのエコ素材・環境関連製品をPRする。
オーミケンシ/機能、草本原料で貢献/平和折り鶴からの再生も
オーミケンシは基幹素材であるレーヨン短繊維をベースに、環境に貢献するビジネスを展開する。
レーヨン短繊維は、木材パルプを原料とする再生産性や土中に埋めてもバクテリアにより分解するという生分解性を持つ環境対応繊維だが、同社では各種機能剤を練り込んだ機能レーヨンでクールビズ(CB)、ウオームビズ(WB)に対応した製品作りに貢献する。さらに草木原料を使用した「リ・テラ」も事業化している。
CBに対応する快適素材はキシリトールを練り込んだ涼感レーヨン「リフレール」、遮熱効果を持つ「サーモベール」などをラインアップ。WBでは温度調節機能が特徴の「97・6<TAG_BEGIN TYPE="TAG_UNICODE" SHIFTJIS="0" UNICODE="8457" GLYPHID="8305" FONTNAME="I-OTF新聞明朝Pro M" TAG_END>」、発熱性を持つ「ソーラタッチ」などをそろえる。
また、リ・テラの原料となる草本原料はケナフ、竹、ジュートなどの一年草が多く、短期間で再生できるうえ、CO2の吸収量も多く、繊維化することで長期間固定化できる。綿花などに比べて農薬や肥料の使用量も少ないという特徴もある。
現在、ケナフを使用した「リ・テラ ケナフ」が先行しているが、このほど広島平和記念公園の折り鶴を古紙パルプに再生し、オーミケンシが繊維化することになった。
「エコプロダクツ2013」に出展する日誠産業(徳島県阿南市)ブースでは折り鶴から再生したレーヨン短繊維使いのポロシャツが展示される。
また、エコプロダクツ2013では東京商工会議所による「eco検定」合格者に進呈されるタオルも同社が提供しており、このタオルにもリ・テラ ケナフが使用されている。
素材開発だけでなく、工場や生産工程での環境対応も強化する。その一つとして、レーヨン短繊維を製造する加古川工場(兵庫県加古川市)では今年2月から太陽光発電をスタートした。7200枚の太陽光パネルを配し、月15万~20万㌔㍗の発電を行い、売電する。
ダイワボウノイ/原料、加工で環境配慮/「エコフレンド」を推進
ダイワボウノイは環境配慮型商品の開発と普及を進める「エコフレンド」プロジェクトを2008年から推進している。エコロジー原料の活用、人と地球に優しい商品、安心・安全、省エネルギーを切り口とした素材開発を進める。とくに最近では独自性のある原料と加工を活用したクールビズ・ウオームビズ素材の開発が加速する。
ダイワボウノイのウオームビズ素材としてとくに注目されるのが「ウォームプロ」シリーズ。なかでもポリプロピレン(PP)・セルロース複合タイプ「ウォームプロPC」だ。PPは焼却処分時に有毒ガスが発生せず、軽量性や熱伝導率の低さによる保温性、疎水性を生かした速乾性などの特徴から、早くから環境負荷の小さい合成繊維と認識されていたが、衣料用途では普及が進まなかった。原着法以外では染色が難しかったからだ。
これに対しダイワボウノイではダイワボウポリテックと連携し、可染タイプPP「ウォームプロPS」を開発するなど開発を加速。さらに発火の危険性があることから日本化学繊維協会の自主規制で事実上製造禁止だったPP・セルロース複合でも安全性の高い素材の開発に成功した。このため化繊協会の自主規制が緩和されたことを受けて発表したのがウォームプロPCだ。PPとセルロースの機能・風合いが融合した素材として注目度が高まる。
そのほかにも独自性のある原料や加工を応用した商品を多数ラインアップする。例えばグループ会社である王子ファイバーの紙糸「OJO+」を活用し、カイハラと連携して紙糸・綿交織のデニムを開発し、大手カジュアルチェーンのジーンズに採用された。従来のデニムとは異なる軽量性・ドライタッチが評価されている。
綿の吸湿性を極限まで高めることで高い皮脂汚れリリース機能を実現した「エコリリース」「ミラクルリリース」も洗剤・水使用量削減などに貢献できる環境配慮型素材だ。白度を高めた「エコリリースW」「ミラクルリリースW」は繊維評価技術協議会の「SEK防汚加工マーク」も取得した。エコフレンドのラインアップがますます拡大中だ。
ダイワボウレーヨン/WB、CBに貢献/豊富な機能レーヨンで
ダイワボウグループのダイワボウレーヨンはレーヨン短繊維製造専業メーカーだ。
レーヨン短繊維は秋冬向け保温肌着の素材の1つとして知られている。レーヨン短繊維が持つ吸湿発熱性などを生かした保温肌着は暖房温度を下げ、電気などエネルギー使用量削減に加え、CO2排出の削減にもつながるもので、環境省が2005年度から展開する冬の地球温暖化対策「ウォームビズ」(WB)にも役立っている。レーヨン短繊維がその一翼を担っている形だ。
WBだけでなく、同社ではレーヨン短繊維が天然産出される木材から再生したセルロース繊維であり、土中に放置すれば、土に還り、しかも微生物の作用により生分解することから「地球環境に非常に優しい繊維」と位置づける。
同社はレーヨン短繊維に様々な機能剤を練り込むことで各種機能レーヨンも開発、販売している。秋冬向けの保温肌着だけでなく、春夏の「クールビズ」(CB)に適した豊富な素材も揃えている。これらは夏の冷房温度を上げる衣料品の開発につながることになる。
その一つがUVカット機能を持つ「スキュータム」。機能性セラミックスを練り込むことで紫外線・可視光線に対して優れた遮蔽性を発揮するほか、可視光線の反射率が高く、透け防止も期待できる。
熱線シールド性が特徴の「レイシールド」は繊維内部に練り込んだ機能剤が、太陽光中の近赤外線(熱線)をカットし、衣服内の温度上昇を抑制する。同社によればレギュラーレーヨンに比べて最大5・4℃の遮熱性があるという。
phコントロール、消臭性、吸放湿性が特徴の「パラモス」はカルボシ基を含む機能材を練り込むことで、弱酸性が特徴。phコントロール機能に加え、アンモニア・酢酸・ホルムアルデヒドに対して優れた消臭性も発揮する。
また、コットンと比較して保湿性にも優れる。
大正紡績/“顔の見える”モノ作り/ペルー綿糸「タキーレ」を
オーガニック綿糸など環境に優しいモノ作りを推進してきた大正紡績。改めて原点に回帰し、トレーサビリティーを確立した“顔の見える”モノ作りを強化する。新商品としてペルー綿糸「タキーレ」シリーズも打ち出した。
同社が重視するのが、「トレーサビリティー」「サスティナビリティー」「エンバイラメント」「ドラマチック・ストーリー」そして「メードイン・ジャパン」。これが消費者を感動させるモノ作りにつながるというのが変わらぬ基本方針だ。近年、食品の誤表示問題など消費者の信頼を裏切りかねない事件が起こっているだけに、大正紡績では改めて原点に立ち返り、綿花栽培農家らとの連携を深めることで消費者に“顔の見える”モノ作りを進めている。
こうした取り組みから新商品も登場した。ユネスコの世界無形文化遺産にも指定されているペルーの伝統織物「タキーレ織」に使用される綿糸をモディファイした「タキーレ」だ。白度に優れるペルー産超長綿であるデルセロ種を使用したもの。原綿の白度を生かし、染色後の鮮やかな発色が特徴だ。獣毛調の膨らみ感やタッチも特色となる。
デルセロ100%の単一混綿タイプ「ピュア100」、同じペルー綿のアスペロ綿を綿糸の中心部に配した「チチカカ70」、デルセロとアスペロの混綿タイプ「ラパス65」の3種類をラインアップする。