ひと/クラレの執行役員に就いた・豊浦 仁氏/成功イメージ心掛ける

2013年06月24日 (月曜日)

 「資材一筋」。しかも転勤が1度もなく、大阪本社では「1人もいない」と笑う。しかし、31年間で海外出張は250回以上と国際派。語学は入社後に勉強した。「海外でも商売の話は主題がハッキリしているので楽」という水準。先ごろドイツ・フランクフルトで開催された産業用繊維・不織布の国際見本市「テクテキスタイル2013」でも、欧米人とフランクに話す姿を何度か見かけた。そんな豊浦さんでも食事しながらの会話は苦手らしい。「例えば米国で野球やバスケットボールの話をされても」と言う。

 資材一筋だが、25年間はショートカットファイバー(SCF)や同繊維を使った機能紙を担当した。同社の機能紙と言えば電池セパレーターが代表格。機能紙メーカーへの原料販売が主力だった事業を、自社での機能紙展開へ広げた。

 そのために、電池メーカーを訪問するのだが「当初はなぜ、原料メーカーのクラレが来るのか?」といぶかられたそうだ。そこは自らを「気が強い方。いや確実に強い」と表現する豊浦さん。「原料メーカーだからこそできることがある。最終ニーズを聞いて原料の繊維を改良することができる」と返す。

 そこで電池メーカーから一言。「ならばこういうセパレーターを作ってみろ」と。それを自社の試験機で製作。電池メーカーに持ち込むことになる。これが機能紙展開のキッカケになった。結果、電池メーカーと秘密保持開発契約を結び、ある企業の単3アルカリ電池に採用された時は「本当にうれしかった」と振り返る。

 昨今はSCFや機能紙強化を掲げる合繊メーカーは多いが「この分野は品質管理がシビアでクレームと背中合わせ」。長年の実績を持つ同社でも「年に1、2回はヒヤッとする」と言う。

 2010年からビニロン、ポリエステル短繊維、高強力ポリアリレート繊維「ベクトラン」、さらに新規事業であるポリエーテルイミド繊維「ウルテム」、もちろん機能紙などを扱う繊維資材事業部長として、陣頭指揮に当たっている。心掛けているのは「何か行う際は成功するイメージをしながら話す」こと。需要家との交渉も一歩間違えれば水の泡。「大丈夫と言い聞かせている」と常にポジティブ思考でハードなネゴに臨んでいる。

とようら・ひとし

 1982年早大・政経卒、クラレ入社。2003年生活資材カンパニー不織布原料部長、10年繊維カンパニー繊維資材事業部長、13年6月執行役員に就く。兵庫県出身。54歳。