帝人フロンティア/他のメーカー系と一線/原糸の稼働責任持たず
2012年10月25日 (木曜日)
「似て非なるもの」。10月1日、NI帝人商事と帝人ファイバー(TFJ)の衣料繊維事業が統合し、帝人フロンティア(TFR)が発足した。衣料繊維事業を商事子会社に移管・統合するのはクラレ、東洋紡、ユニチカと同じ手法のため、TFRも同様に考えられがちだ。しかし、決定的な違いがある。それはTFRが原糸や紡績糸など糸製造設備の稼働責任を持たない点にある。
合繊メーカーではクラレが、衣料繊維を商事子会社に移管する先駆けとなった。2001年、衣料用テキスタイル事業をクラレトレーディング(クラトレ)に移管するとともに、ポリエステル長繊維を生産する西条工場をクラレ西条として分社化した。続いて東洋紡が08年、衣料繊維の開発・販売事業と、商事子会社の新興産業を統合し、東洋紡スペシャルティズトレーディング(東洋紡STC)を設立。翌09年にはユニチカが動く。商事子会社であったユニチカ通商に、分社化していたユニチカファイバーの衣料部門、綿紡織加工のユニチカテキスタイル、そして北陸産元子会社、ユニチカサカイを統合。ユニチカトレーディング(UTC)を発足した。
一見、この3社とTFRは同じに見える。しかし、クラトレはクラレ西条のポリエステル長繊維設備、東洋紡STCは紡織加工を行う東洋紡の富山事業所(入善、井波、庄川3工場)や敦賀事業所のナイロン長繊維設備、UTCは岡崎事業所のポリエステル長繊維設備、綿紡績の常盤事業所の稼働責任を持つ。稼働責任を持つということは、例えば稼働率が低下した場合のコスト増がそのまま跳ね返る。これは重い。
本体で繊維事業を維持する東レが掲げる「売り抜きの徹底」は、売れるものを作ることで生産を維持するというもの。市況が悪化すれば収益性が落ちても汎用品にシフトすることも視野に入れて、量を確保する戦略も組む。「減産による影響が大きい」(田中英造副社長)との判断からだ。
設備稼働という重しがある一方「クラレ西条がなければ、繊維事業の存在意義はない」(クラトレの片岡史朗社長)、「技術力が当社の基盤」(東洋紡STCの佐野茂樹社長)、「国内工場を持つことが強み」(UTCの松永卓郎社長)など、原糸設備を保有することはメーカー系商社の強みでもある。
これに対し、TFRは原糸工場を持たない。それは「新会社設立の前提だった」と同社の竹中哲嗣社長は明かす。そして、旧TFJの原糸生産拠点であったタイのTPL、TJTは帝人本体傘下となり、TFRには2社の稼働責任がない。ここが、上記3社とは決定的に異なる。
TFRの竹中社長が「ポリエステルに限らず、他素材との組み合わせも含めて、あらゆる素材に対応する意識を醸成する」と語るように、稼働という重しがなくなった分、旧TFJの衣料繊維事業も自由度が高まる。つまり、TFRは旧NI帝人商事が進めてきたコンバーティングを軸にした専門商社ということ。現在、来年4月に向けて様々な統合プロジェクトが進行する。これが具現化されれば、メーカー系ながら一線を画すTFRの今後がより鮮明になる。