環境、安全に貢献する高機能繊維/日本の高い繊維技術力 市場規模は拡大傾向に

2012年09月13日 (木曜日)

 日本ではアラミド繊維や超高分子量ポリエチレン繊維、ポリアレリート繊維など様々な種類の高機能繊維が生産されている。こうした国は世界的にも珍しく、日本の繊維産業が持つ技術力の高さを裏付けていると言える。

 高機能繊維の中でも、スーパー繊維は「非常に強くて伸びにくい」という特徴を持つ。一般的に強度が約2GPa以上、弾性率が約50GPa以上の繊維を指し、その特性を生かして様々な用途に使用されている。

 例えばパラ系アラミド繊維は強度や防弾性などが特徴で、日本では帝人グループが「トワロン」と「テクノーラ」、東レ・デュポンが「ケブラー」を展開している。

 引っ張り強度はスチール繊維同重量の8倍で、しかも重量はスチール繊維に比べて非常に軽い。環境、安全、軽量化などのニーズが高まるとともに市場規模も拡大傾向にあり、今後も年率7~9%の成長が見込まれている。

 超高分子量ポリエチレン繊維は、東洋紡が「ダイニーマ」を展開している。高強力・高弾性率が特徴で、強さはピアノ線の8倍を誇り、理論上は直系10ミリの「ダイニーマ」ロープで約20トンを吊り上げることができるという。加えて比重が1以下と水に浮く軽さであり、耐摩耗性、耐薬品性、衝撃吸収性などにも優れる。

 これらの特徴を生かして船舶用ロープ、釣り糸、防護手袋などの用途に展開しているほか、最近ではFRC(繊維補強コンクリート)やFRP(繊維強化プラスチック)などの用途でもニーズが高まっている。

 昨年秋からは帝人グループが高機能ポリエチレンテープ「エンデュマックス」の商業生産を開始しており、防弾プレートや高圧ガスパイプの配管補強、ロープ・ケーブル用途など幅広い用途展開を図る方針を打ち出している。

 ポリアリレート繊維は、ポリエステル系液晶ポリマーを原料にしたスーパー繊維で、クラレが世界で唯一生産し「ベクトラン」の商標で展開している。

 高強力・高弾性率に加え、水をほとんど吸わない、耐磨耗性、優れた寸法安定性などの特徴があり、ロープや魚網、海底ケーブルなど幅広い用途に使用されている。同社では今後のさらなる拡大に向けて細繊度糸や原着、短繊維など高付加価値品の展開を拡大しているほか、FRPなど新規用途の開拓にも力を注いでいる。

帝人/高機能繊維を重点分野に/強み生かして新用途開発

 帝人グループは、2月に策定した中長期経営ビジョン「チェンジ・フォー・2016」で高機能繊維・複合材料事業を重点戦略事業に位置づけ、投入資源を重点・優先配分していく方針を打ち出した。このうち高機能繊維はパラ系とメタ系のアラミド繊維を事業化しているほか、高機能ポリエチレンテープの商業生産を昨年秋に開始した。これら3つの製品群を持つ強みを生かし、「軽量」「安全」「省エネ」「メンテナンスフリー」という市場ニーズに合った新規用途開拓を加速していく考えだ。

 パラ系アラミド繊維はテイジン・アラミドが「トワロン」、帝人テクノプロダクツが「テクノーラ」を展開しており、この2製品で世界の約50%のシェアを持つ。強度や防弾性などに優れるのが特徴で、主力用途は防護衣料、自動車ブレーキパッドなどの摩擦材、タイヤや光ファイバーケーブルの補強材などがある。

 今後は年率7~9%の市場成長を見込むなか、市場成長に合わせたタイムリーな生産設備増強や新規用途開発、新興国における基盤強化などに注力する方針だ。新規用途開発では、軽量で高強力、腐食しないなどの特徴を生かし、耐震補強資材などの防災・インフラ関連資材や海底油田関連資材、ロープ・ケーブルなどの用途に向けた開発を進めていく。このうちロープ・ケーブル用途では、重量物運搬船の海上用クレーンの特殊ケーブルに採用されるなど新規用途開発が進んでおり、今後も主にスチールが使われている用途での拡大を目指す。

 メタ系アラミド繊維「コーネックス」は長期耐熱性や難燃性に優れるなどの特徴を持ち、耐熱フィルターや消防服などに使われている。とくに消防服市場では国内で60%以上の素材供給シェアを持ち、軽量性と遮熱性を両立した次世代消防服などの開発にも取り組んでいるという。中国やインドの市場拡大を背景に年率4~5%の市場成長が見込まれるなか、今後はさらなる拡大を狙う。

 新商品としては世界で初めて量産可能なアラミドナノファイバーを開発した。「コーネックス」をベースにした直系数百ナノメートルの均一な極細繊維で、シート(不織布)形状で市場開拓を進め、2014年の商業生産開始を目指している。耐熱性や寸法安定性、耐酸化性などの特徴を生かし、リチウムイオン二次電池のセパレータ向けで用途開発を進めるほか、キャパシタ用セパレータ、高性能耐熱フィルター、耐熱OAクリーナーなどへの用途展開も図る。

 昨年秋に商業生産を開始した高機能ポリエチレンテープ「エンデュマックス」は、防弾プレートや高圧ガスパイプの配管補強などへの用途展開を図る。ロープ・ケーブル用途向けでは、幅2ミリ、薄さ55ナノメートルのサイズに加工した細幅・薄型テープを開発するなどニーズに応じたソリューション提供を行っていく。15年にはターゲットとする用途で15~20%のシェア獲得を目指す。

東レ・デュポン「ケブラー」/ハイブリッド展開進める/軽量化の代替も

 東レ・デュポンのパラ系アラミド繊維「ケブラー」はリーマン・ショック前の水準には至っていないが、着実に回復しているようだ。

 昨年は東日本大震災の影響で4~6月期が厳しかった。その後、自動車関連が回復していったが、「この上期も好調に推移している。とはいえ、秋にはエコカー減税が終わる。下期以降は慎重に見ないといけない」と、原健太郎ケブラー営業部長は語る。

 ケブラーは鋼鉄の約5倍の引っ張り強度があり、軽く、伸びにくく、熱や摩擦、切創、衝撃にも強く、電気を通さないなどの特性がある。こうした特性から復興需要も期待されるが、「復興需要はまだ時間がかかる」見通しだ。

 それでもこの4~6月期の防護衣料は前年同期に比べ150%強の伸びを示した。グローブや機能ユニフォーム分野での展開が進む。

 また、今後の様々な商品開発では“軽量化”がポイントになる。既存商品分野でも軽量化が可能なケブラーに代替される場面を期待できる。ケブラーの特性が理解されれば、新市場開拓につながるという。

 さらに、「ケブラー100%だけでなく、他素材とのハイブリッド化によるテキスタイル展開も、産業市場分野や衣料分野で新たな用途開拓につながる」と複合化を進める。

 現在、生産は世界4拠点体制となっているが、東海工場のユーザーニーズに対する対応力、ブランド力、日本式生産管理力に対する評価も高く、国内生産に注力していく考えだ。

東洋紡/増設分もフル稼働に/ザイロンも好調に推移

 東洋紡の超高強力ポリエチレン繊維「ダイニーマ」は昨年12月に4ライン目となる年間800トンの新設備を稼働させ、3200トンの体制とした。今上期は増設分を合わせてフル稼働が継続。数量面では耐切創手袋用途が自動車産業の稼働率上昇などを背景に伸びたほか、ロープ・ネット用や接触冷感性を生かした寝装用途なども順調に推移した。

 ただ、利益面では手袋用途を中心に、中国企業の増設と欧州景気減退などを背景とする需給の緩和、円高、韓国など競合国におけるFTA進展などの影響を受けている。このため今後は商品ポートフォリオの転換を進める方針で、軽量性や高弾性率などダイニーマの特徴を生かせる新規用途の開拓を加速する。新用途としてはFRC(繊維補強コンクリート)やFRP(繊維補強プラスチック)などに力を注ぐ。

 ポリバラフェニレンベンズオキサゾール(PBO)繊維「ザイロン」は好調で、今上期の販売量は前年比50%増で推移している。前期に黒字化するとともに設備はフル稼働になっており、今期も増益となる見通しだ。

 ザイロンはとくに消防関連が好調なほか、ベルト補強用などが伸びている。「耐熱性に関しては有機繊維の中で世界トップクラスであり、景気の影響も受けず順調に推移している」(藤井俊哉スーパー繊維事業部長)という。消防関連はこれまで米国向けが主力だったが、現在は欧州でも増加傾向にあるほか、韓国などにも広がっている。今後も消防関連をさらに伸ばす方針で、経済発展が進む新興国への展開にも取り組む。

 このほか、溶融紡糸による高強力ポリエチレン繊維「ツヌーガ」も堅調に推移している。耐切創用手袋や寝装などの用途が堅調で、今後も手袋などの用途をさらに拡大していく方針だ。

クラレ/高付加価値品を重点拡大/FRPなどで新用途開発

 クラレの高強力ポリアレリート繊維「ベクトラン」の今上期(4~9月)は前年比5~10%増(数量ベース)で推移している。4~6月は全般的に順調だったが、7~9月は先行きの不透明感が増し、レギュラー品の一部では失速懸念も出つつある。このようななか、下期は高付加価値品の拡大と用途開発に力を注ぐ。

 ベクトランは高付加価値品を重点的に伸ばしており、とくに細繊度品や短繊維、原着糸、加工品などの拡大に注力している。前期には短繊維を外注から自社加工に切り替えるなどの投資も行っており、今後もさらなる拡大を目指す。

 このなかで、原着糸はスーパー繊維の中でも数少ない溶融紡糸である特徴を生かし、小ロットで小回りを利かせながらニッチな用途を中心に拡大しており、今後も顧客へのカスタム対応を強化していく。織物の展開にも注力する。かつては川上に集中する方向だったが、今期からスタートした中期計画で繊維カンパニーが川中・川下を見据えた展開を重視していることなどが背景にあり、今後は織物のバリエーション拡充も視野に入れて拡大を狙う。短繊維はこれから本格拡大を狙う考えで、防護関連を中心に伸ばしていく。

 新用途開発では、とくにFRP(繊維強化プラスチック)での引き合いが増えているという。背景の一つには炭素繊維のコンポジット製品が市場を拡大していることがあり、炭素繊維では実現できなかった新たな特性を出すためにベクトランへの注目が高まっている形だ。とくに(1)電気特性(2)強度とモジュラス性(3)水を吸わない――などの特徴を生かしてこれまでにない機能の実現を狙う動きが増えており、拡大している用途にはゴルフシャフトやラケットなどスポーツ用品の衝撃吸収材がある。

東レ/新規用途開発に注力/1ランク上の素材開発を

 東レのPPS(ポリフェニレンサルファイド)繊維「トルコン」は、主力市場である中国や米国での環境規制強化などを背景に販売を拡大している。今後に向けては商品の高度化や新規用途開発にも注力する考えだ。

 PPS繊維は耐熱性(融点285℃)や耐薬品性などが特徴で、東レは樹脂から繊維まで一貫で生産している。主力用途は石炭による火力発電やボイラーなどに使う高温用バグフィルターで、石炭による火力発電が多い中国では、大気中への粉塵排出量規制強化の中でこれまでの電気集塵機の対応が難しくなり、バグフィルターの需要が拡大している。

 しかし一方で、競合が激化し、「過当競争の様相を呈してきた」(永島健司産業資材事業部長)という懸念材料も出ている。このようななか、今後に向けて一ランク上の素材開発や新規用途開拓に注力しており、「耐熱性や耐薬品性などの特性を生かした用途開発を進めているが、新しい芽が出てきつつある。用途を広げ収益的にも磐石にしていく」とする。

 耐熱性、耐薬品性、摺動性などが特徴のフッ素繊維は今後に向け、「リニューアルを含めて新たな展開を図る」とする。海外拠点とも連携を強化しながら事業を再構築する考えで、「ポイントは用途開発。テキスタイル展開を含めて取り組みを加速する」としている。