枠を越えて・商社の原料ビジネス(1)ビジネスモデルが変わる

2012年08月24日 (金曜日)

 商社が展開する原料素材ビジネス。その第1四半期は、厳しい事業環境を受けて苦戦している。長引く円高が利益を圧迫し、世界的に不安定な経済情勢も需要減退を招いた。これを受け、今後は従来型のビジネスモデルの転換が迫られている。得意とする分野における顧客との取り組み、またその中で各社が果たす機能の強化がポイントになる。

“機能強化”カギに

 円高による採算の悪化に加え、欧州債務危機が国内向け、海外向けの商社の原料ビジネスに影響を与えている。4~6月の各社業績は前年同期に比べ「売り上げはクリアしたが、利益が苦戦」(伊藤忠商事繊維原料・テキスタイル部)、「売り上げ、利益ともに前年同期比で横ばい」(三菱商事機能繊維部)、「再輸出用のアクリル原料で影響が大きかった」(丸紅機能素材部)といった状況だ。

 今期を通じて、厳しい事業環境が見込まれるなか、各社はビジネスモデルの確立を急ぐ。グローバルなネットワークを活用したサプライチェーンの構築と、得意分野での差別化商材のきめ細かい提案がポイントで、供給機能を高度化させる。

 伊藤忠は「機能を持った商材」とサプライチェーンの構築を組み合わせる。環境、エシカルといったコンセプトが注目を集めるなか、接触冷感素材「アイスコットン」やプレオーガニックコットンなど、同社独自の素材や取り組みが順調に販売を伸ばす。

 7月には、英国の大手アパレル製造・販売会社を買収し、カンボジアやスリランカなどアジア地域で生産背景を拡充した。糸から製品まで一貫生産に対応できるサプライチェーンに独自性の高い素材を組み合わせて、日本、中国、アジア、欧米といった世界の主要市場で販売を拡大する。

 三菱商事の機能繊維部は、得意とする綿糸ビジネスの強化を続ける。4~6月は国内の衣料品販売が低調だった影響を受けたが、差別化品が主力のため「ダメージは比較的少なかった」。グローバルネットワークを生かし、中国、インド、インドネシアなどのアジアはもちろん、エジプト、トルコ、欧州、南米など世界各地の綿産地から高級綿糸を含む特殊な原料供給拠点を増強してきた。

 変化する顧客のニーズに対応するため、価格やトレンドを見極めつつ、ストックポイントの設置なども視野に入れて素材をタイムリーに供給する物流体制も整える。強固な供給基盤を持った体制作りで、国内での素材メーカーとの関係を一段と深める。

 丸紅の機能素材部は「プロダクトアウト的な発想からの脱却」を重視する。総合商社としての多岐にわたる事業基盤を活用し、非衣料分野など、メーカーに知見の少ない分野のニーズを提供する。市場の要求を的確につかみ、オーダーメードの素材を開発することで、メーカー、ユーザーとの関係強化や知財による利益確保を目指す。

 同社では、現在、震災復興関連でメーカーと新素材の開発が最終段階に入っているという。

 独自性の高い商材を、どのようなネットワークを活用して提案・供給できるか。商社には、より高度化した機能が求められる。原料素材ビジネスでの各社の取り組みを追う。