特集・差別化ヤーン大全2012/これが最新の差別化糸だ!/個性的モノ作りを支えるソリューション

2012年08月20日 (月曜日)

 繊維製品の差別化の基本は原糸にある。これは繊維のモノ作りの“イロハのイ”。織布・編組、染色加工の差別化も、個性ある原糸と組み合わさってこそ、その真価を発揮する。だからこそ、現在でも産地企業などテキスタイルメーカーは、ユニークな糸に関する情報収集に余念がない。ユーザーは、常に糸の情報を欲している。

 一方、日本での原糸販売ビジネスの縮小に伴い、産地では原糸に関する情報不足が深刻化している。かつてのように産地に原糸の情報が頻繁にもたらされる状況ではなくなった。そこで今回の特集では、素材メーカーから商社、全国の糸加工メーカーなど有力サプライヤーを網羅し、保存版「差別化ヤーン大全2012」をまとめた。また、とくに注目すべき企業と商品をピックアップ。モノ作りのヒント集として、ぜひ活用して欲しい。

近泉合成繊維/人気高まる「パオ」シリーズ

 最近のニット糸では、機能を必須とする要望が高まる。このため近泉合成繊維が三菱レイヨン、旭化成せんいと共同開発したアクリル・キュプラ混梳毛紡績糸が「パオ」「パオW」。機能性能を前面に打ち出した商品として3月に発表し大きな反響を呼んだ。スポーツ、セーター、靴下などの各メーカーが12秋冬で採用を決めるなど順調なスタートを切った。

 「パオ」は、三菱レイヨンのアクリル短繊維「ボンネル」のソフトな風合いとハイバルキーによる軽量性を組み入れ、旭化成せんい「ベンベルグ」の吸湿発熱・制電・調湿・保温機能をミックスした高機能商品だ。UVカット機能を組み入れた「パオクール」も来春向けに販売する予定。

 このほかセーター分野では抗ピル機能も必須条件。ここでも近泉合成繊維の「ビクトリー」は、三菱レイヨンの抗ピルアクリル50%・防縮ウール50%混のハイレベルな抗ピル機能糸として、見本帳販売を中心にセーター、靴下、マフラー、帽子などでロングセラーとなっている。引き続き同社の主力商品として提案する。

新内外綿/注目集まる竹繊維「バングロ」

 新内外綿がこのほど開発した竹繊維「バングロ」への注目が高まっている。デニムなどで採用する動きが出ており、人気が再び高まりだした植物原料繊維の有望株として人気を集めそうだ。

 竹を開繊して紡績した竹繊維「バングロ」は、京都のベンチャー企業、ETエイトク(京都市北区)と福井産地で竹による商品開発研究を行っていたバンブーグローバル(福井市)との共同開発。特殊な前処理と開繊処理を行うことで竹ながら柔らかな風合いが可能だ。

 中国・四川省を中心に群生する慈竹をETエイトクが中国で前処理・開繊し、新内外綿が紡績。バンブーグローバルを加えた3社で共同販売する。新内外綿では現在、竹55%・綿45%混の12番手での紡績に成功しており、検査機関の試験で抗菌性、消臭機能があることを確認した。竹30%・綿70%混で20番手まで紡績することも可能だ。今後、竹・精製セルロース繊維「テンセル」混の開発も進める予定。

 通常、竹繊維は繊維長が短く、可紡性が低い。風合いも硬く、その克服が課題とされるが、慈竹は節間が長いことから繊維長も長く、前処理によって柔らかな風合いとなる。製織後に晒し加工すれば、さらに柔らかな風合いが可能だ。

泉工業/特殊立体ラメ糸を開発

 京都金銀糸産地のラメ糸メーカー、泉工業が特殊立体ラメ糸「3Dジョーテックス」を開発した。熱セットすることでラメが湾曲状に変形する。これを使うことで、例えばラメ糸による刺繍やジャカードで従来では不可能だった立体的な柄表現が可能になる。

 3Dジョーテックスは、高収縮ポリエステルと低収縮ポリエステルのフィルムをサイドバイサイドに配置することで熱セット時に収縮率の違いからラメフィルムが立体形状となる。すでに特許も出願済みだ。もちろん泉工業のラメ糸「ジョーテックス」の特徴である純銀蒸着であり、アルカリ減量加工など後加工に対する耐性も持つ。

 刺繍やジャカードに3Dジョーテックスを使うことで、立体的な柄表現が可能になる。また、熱セットすることで形状記憶機能も発揮することから、デザインによっては無縫製で生地形状を保持することも可能だ。泉工業の福永均社長は「完全にプロダクトアウト型の商品。ユーザーと一緒に用途開拓を進めたい」と話す。価格面の要望に対しては、純銀蒸着ではなくアルミ蒸着タイプによる廉価版も用意する考えだ。

永井織布/“手作りの味”にこだわる

 ファンシーヤーン専業紡績の永井織布は、“手造りの味”にこだわったムラ糸で高い評価を受けてきた。とくにセルビッジデニム用糸などはプレミアムジーンズ分野で機業からの指名買いの対象となっている。最近では絣用にも販路が広がるなど、幅広い用途への提案が加速する。

 同社は、日本でも数少なくなった機械式スラブ糸・ネップ糸紡績。経験豊富な熟練技術者集団であり、ネップ糸のネップも外注に出さず自社生産するなど、まさに“匠が作る手作りの糸”が最大の魅力だ。取引先である川中企業だけでなく、一部アパレルからも「永井のファンシーヤーン」使い生地が指名買いの対象になるほど。

 最近では、オーガニック綿を使用した「エコオーガニック」(コントロールユニオン認証)の販売にも力を入れるなど環境に配慮したモノ作りと提案を行っている。また、昨年10月には九州営業所も開設。筑後産地など九州・沖縄地区の産地に対して提案するなど地域密着の姿勢を強めた。同社では引き続き、デニム以外にもタオルや絣、服飾資材など幅広い用途への提案を進める考えだ。

モリリン/「セルティス」など好評

 モリリンは、8年続けてきたロングラン商品の「プロビスコース」(レーヨン・リヨセル混)や、7年目の「セルティス」(モダール・キュプラ混)などセルロース系差別化素材を軸にした複合糸に特徴を持つ。

 プロビスコースでは今秋冬用に先染めで「プロビスコース・アクリル」の134色をニット用に用意した。

 このようにシーズンごとに旬の素材を加えた新しい提案をするのがモリリンの面目躍如たるところだ。

 一方、ポリエステル・レーヨン混のカラートップヤーン「トップランナー」へのユーザーの信頼も高い。

 このほか、トップ糸のジャンルでは、「シャングリア」(リネン)、「オデッセイ」(ウール)、「トルファンロード」(コットン)、「ボヘミアン」(モダール)、「バンビーナ」(レーヨンのMVS方式による紡績)など繊維素材ごとに自社ブランドを設けての選びやすいカラー展開を提案している。

豊島/「オーガビッツ」広がる

 豊島は差別化素材チームである「グリーングリン」が、「オーガビッツ」「アドバンサ・サーモクール」「テンセル」など差別化糸を打ち出す。

 オーガニックコットン商品である「オーガビッツ」は、「展開するブランド数が今年さらに増えて60ブランド以上になった」(菱川純治三部部長)と予想以上の広がりを見せている。

 環境に配慮するばかりでなく、社会貢献も増えていることが背景にある。

 インドの農村自立支援、子供の教育支援「ピース・バイ・ピース・コットン・プロジェクト」も進めた。

 13春夏向けでは紫外線防止ポリエステルとオーガニックコットンを組み合わせた「サマーオーガビッツ」を繰り出すなど、差別化展開にさらに磨きを掛ける。

 吸水速乾ポリエステル長繊維「エアロクール」は、紳士肌着用に小売りまで見据えた差別化展開。吸水性と抗ピリング性を持たせたMVS方式による「グリンエア」や、接触冷感を打ち出した「グリンフィル」も持つ。