〝団塊世代企画〟続々と登場/消費者の「不満」起点に

2001年02月05日 (月曜日)

 事業展開において、目指すべき方向性を明確にしなければ、立ち行かない。また、事業がスタートするタイミングも重要だ。逆風よりも追い風を受けてのスタートでありたい。安価な輸入品に押される紡績は、団塊ファミリー市場を生き残りの場に想定して動き始めた。

 「生活シーンに合わせたもので、開発テーマを決めていく」。クラボウは昨年四月、「団塊熟年プロジェクト」を発足した。従来の紡績の開発は、シーズが先行するプロダクト・アウト型。世界に冠たる紡績技術、加工技術を進歩させ差別化を進めた。どこまで細番手の糸を生産できるか、消臭性能をいかに高めるかといった開発競争である。だが、クラボウの同プロジェクトの視点は、生活者が何に困っているかというところからスタートする。

 九〇年代の大型ヒット商品といえば、「形態安定加工」。これも「ドレスシャツのアイロン掛けが大変」という主婦の声から生まれた。防縮性、防シワ性というメーカー側の言語を、「アイロン掛けが簡単」という消費者用語に置き換えたものだが、それが消費者の購買意欲を刺激した。

 「団塊世代はニューファミリー。核家族のはしり。家族、家庭を中心にした行動形態を初めてとった世代。今、五十代となり、旅行を楽しむ余裕もできた。それなら旅行着でどこに不満を持つのか。グループインタビューなどで調査すると、軽量・コンパクト、シワにならない服が望まれるのが分かった。開発素材はある。そこに動き易さを追求したカービンライン技術も盛り込んだ」(クラボウ)

 五十代の団塊世代を対象に、トラベルという生活シーンでのスタイル提案。機能を前面に出すのではなく、まず消費者の心をいかに引き付けるか、からの提案だ。昨年十月の内見会で、この切り口で素材提案すると、「小売りとの接点を持ったアパレルほど反響が大きかった」。

 「高機能、高級素材を団塊世代に落とし込みたい」――シキボウは「SAM(シキボウ・エイジング・マーケティング)~団塊世代版」(仮称)をスタートした。旅行、スポーツ、家という三つのシーンで価格と品質のバランスのとれた商品提案だ。

 「〝フィスコ〟が団塊ミセスに売れる。〝コンフニット〟が量販PBのポロシャツで伸びる。なぜ、を調べると、そこに消費者の既存商品への不満があった」とシキボウ。「団塊世代が満足する服は、潜在需要になっている。そこを掘り下げる企画」だ。

 ダイワボウも団塊世代向けに開発素材をグルーピングした。「年金支給年齢をシルバー市場としてとらえるのではなく、五十歳からの三十年間を一つの市場としてとらえ直すことで、初めて大きな市場が見えてくる」と、アクティブな高齢者をターゲットにした企画を設けた。

 東洋紡は「団塊世代だけでなく、団塊ジュニアも市場。団塊母とその娘が一緒に買物に行くことを考えれば、やり方次第でジュニア向け素材が団塊母の購買にもつながる」とみる。また、「日本でモノ作りする以上、欧州のように高級ゾーンでの生き残りしかない。団塊、団塊ジュニアへいかにアピールできるかが、紡績の今後の浮沈にもつながる」との危機感もある。

 国内でのモノ作りを支える消費者。その消費者が抱える不満をいかに解決するか。紡績の企画・開発の方向性は、そのターゲットを明確にし、より消費者サイドに立った提案に移行する。