創・新製品情報/シキボウと山本香料が共同開発した「デオマジック」/悪臭を芳香に変換する新発想
2011年08月08日 (月曜日)
究極の悪臭である糞便臭。こうした悪臭を芳香に変化させてしまう消臭加工素材が登場した。このほどシキボウと香料メーカーの山本香料(大阪市中央区)が共同開発した「デオマジック」だ。香料の調合によって悪臭を芳香に変換するという従来とは根本的に異なる発想から生まれた消臭加工繊維である。
共同開発のキッカケはテレビ番組だった。昨年7月、シキボウでは糞便臭など悪臭に対する消臭加工の可能性を検討していた。直腸癌などの治療でオストメイト(人工肛門保有者)となった人から、パウチ(便を収容する袋)の臭いを抑える消臭カバーができないかという要望が寄せられていたからだ。
これは難問だった。通常、消臭機能は繊維ににおい成分を吸着する加工を施す方法が一般的だが、これでは100%の消臭は不可能。糞便臭はもっとも強烈な悪臭のため、ごくわずかでも悪臭成分が残存すると、強烈なにおいとして感知されてしまう。また、別の芳香で悪臭をマスキングする方法もあるが、やはり糞便臭が強いため、芳香でマスキングしても、両者が混ざり合った異臭として感知される危険性がある。
開発に行き詰まっていたとき、たまたまあるテレビ番組で山本香料の山本芳邦社長が糞便臭など悪臭を見事に消臭する様子が放送された。これを見たシキボウの開発担当者は「従来とは、まったく異なる発想の消臭方法だった」(開発技術部の辻本裕次長)と振り返る。すぐに山本香料に連絡をとり、繊維加工への応用に向けた共同開発が始まった。そして生まれたのがデオマジックだ。
香水など芳香品は通常、何十種類もの香り成分を調合して作る。実は、このなかには微量ながら単独では悪臭となる成分も含まれる。ジャコウネコの分泌液から抽出した成分などが代表的。「こうした単独では悪臭となる成分が含まれることで、より芳香が冴える効果がある」(山本香料の山本社長)。
デオマジックでは、この仕組みを応用した。あらかじめ糞便臭など悪臭を含む形で芳香成分を山本香料が調合。ここから悪臭成分を除いた成分をシキボウが繊維に加工する。こうすることで繊維に悪臭成分が付着した際、付与加工された香り成分と合わさり、悪臭が芳香に転換される仕組みだ。
調合した芳香成分は、マイクロカプセルとして繊維に固着させた。織物、編み地ともに加工が可能だ。丁寧な使用なら洗濯30回程度でも機能が持続する。ボーケン品質評価機構での官能試験でも高い効果を確認している。シキボウでは今後、介護用品や病院向け商品のほか、ペット用品などへの展開を進める。
従来とはまったく異なるコンセプトの消臭加工繊維であるデオマジック。今後、汗臭や加齢臭、足裏臭などの悪臭を芳香に転換する香料調合にも取り組む考えだ。悪臭を芳香に転換するという新発想が、消臭機能繊維の新しい方法論を切り拓いたといえよう。