シリーズ・事業戦略を聞く/東洋紡社長・坂元龍三氏/ポートフォリオ改革し、拡大ステージへ

2011年06月07日 (火曜日)

 東洋紡は中期経営計画の最終年度となる2013年度に向けて拡大ステージに入った。10年度はそのために、増資も含めて体制を整備した。坂元龍三社長は今後、スペシャルティ事業を中心とする新商品開発と海外展開を強化することで、ポートフォリオを改革。同計画で目指す「環境、ライフサイエンス、高機能で新たな価値を提供するカテゴリートップ企業」の実現にまい進する考えを示す。

新商品開発と海外展開を強化

――10年度は増収大幅増益となりました。

 坂元 拡大への手応えを得ることができました。液晶・電子部品、自動車関連など向けが量的に回復したことに加えて、期後半からは新製品の投入によるポートフォリオの改革が進み、収益改善に結び付きました。利益増のうち、販売量の拡大による部分は半分強を占めますが、その3分の2が期前半によるものです。そして、その大部分がフィルム・機能樹脂と産業マテリアルです。また、商品構成の転換による部分は利益増加要因の2割強にとどまりましたが、11年度以降、本格的に利益貢献してくるとみています。

 ただ、大幅増益も当初の営業利益目標220億円に比べると11億円の未達です。原料高騰と期後半の東日本大震災の影響を受けました。

――構造改革を進めてきた衣料繊維も増益となりました。

 坂元 スポーツやインナーなどの機能衣料分野が順調に拡大しました。東洋紡STCと連携したバリューチェーンの構築に成功したと言えるでしょう。一方でアクリル繊維は原料高騰と円高で収益が悪化し、羊毛の一部、中東向け輸出なども低迷しました。この3事業については構造改革に着手しており、11年度は回復する見通しです。

 ただ、衣料繊維は使用資本759億円に対して営業利益6億円(前期)では効率が悪い。赤字事業を解消するとともに、資本回転率を高めるために絞り込みも行い、機能衣料分野の拡大に取り組みます。その機能衣料分野も国内市場の変化を把握する必要があります。機能衣料はこれまで団塊の世代などをターゲットにしていましたが、やはり、若年層のニーズを探索することも必要です。また、機能衣料も今や当たり前になりつつあり、市場では同質化が起こっています。その中では使い方や機能と感性を一体化した分析が求められます。例えばトレッキングウエアなどは感性と機能性が生かされています。こうしたニーズをくみ取り商品力を高めることが重要です。

 当社は08年までに衣料繊維の構造改革は完了し、いち早く機能衣料分野に集中しましたが、想定した以上に日本国内の需要が伸びていません。日本の衣料消費が成熟化する中でコモディティー品が急伸し、百貨店の売上高が低迷する状態です。その面では先ほど申し上げたように国内の新たなニーズを掘り起こす一方で、新興国を中心とする海外ビジネスを創出することが重要になっています。

 これは衣料繊維で遅れていた部分です。当社は衣料繊維でもスペシャルティ化を進め、機能衣料分野にシフトしましたが、十分な収益を挙げられていない。それは日本市場を過大評価していたのかもしれませんし、海外の富裕層に向けたアクションも不十分でした。

――ところで、11年度は営業利益で微減益を想定しています。

 坂元 原燃料価格上昇分の価格転嫁が十分に進まないと見ているからです。これまでは平均70%の転嫁率でしたが、60%程度とみています。また、自動車生産台数の落ち込みによって販売面でも厳しいと考えています。ただ、中期経営計画で掲げる13年度の連結売上高4000億円、営業利益300億円という目標は変えません。11年度は原料高騰や自動車資材の落ち込みなどを織り込みましたが、中期的には緩和されると見ています。むしろ重要なのは量的な拡大よりもポートフォリオを転換できるかどうかです。そのためには新製品開発と海外展開が計画通りに進むかどうかがポイントになります。

 海外での売り上げ拡大は中期経営計画における増収部分の3分の1を占めます。これまでは自動車メーカーなどからの要請を受けて輸出あるいは現地企業への委託生産という形を取っていましたが、これからは独自市場の開拓にも取り組みます。そのために生産・販売・開発まで含めた拠点整備を行います。

 独自市場開拓における基本は強い技術を持ち、その技術に合致する市場があるかどうか。そして継続性です。この3点を前提条件に置いています。強い技術という面からは工業用接着剤「バイロン」、活性炭素繊維によるフィルター、VOC回収処理装置、海水淡水化の逆浸透膜、オレフィン系接着剤、クッション材「ブレスエアー」などがそれに当たります。

 こうした製品の拡大を図るには、マーケティング活動に開発機能を組み合わせる必要がありますので、営業担当者だけでなく、開発技術者も現地に駐在させていきます。現在は上海とバンコクに樹脂関連の開発技術者を置いていますが、拡大に合わせて他事業にも広げます。また、逆浸透膜ではサウジアラビアで合弁会社が11年下期から立ち上がりますが、大学や政府機関への派遣も検討しています。

――中国市場の開拓についてはどのようにお考えですか。

 坂元 エンジニアリングプラスチックが先行しており、中国企業での委託生産も行っていますが、VOC回収処理装置や先日、豊田通商との合弁に設立したエアバッグ布なども拡大していきます。また、年内には中国事務所を現地法人化する準備も進めています。

――現在、中国での売り上げ規模は。

 坂元 スペシャルティ事業の中国売上高は20%強ですが、中期経営計画ではその1.5倍を目指しています。エンジニアリングプラスチック、バイロン、エアバッグ、フィルター、VOC回収処理装置などで拡大を図ります。繊維では一人当たりの消費量が増加していますが、中国も沿岸部と内陸部は別と考えています。当社としては沿岸部をターゲットに東洋紡STCを含めた商社と連携しながら機能性衣料の展開を目指していきます。中国以外のアジア市場では経済成長が顕著なインドネシアもスペシャルティ事業が合致する市場になってくるでしょう。

――前期は増資も行いました。

 坂元 増資は衣料繊維を中心とする構造改革ステージから拡大ステージに入る出発点であり、新しい成長への渦を巻き起こすという意志の表れでもあります。増資によって得た資金のうち、150億円は設備投資に充てます。もちろん、資本コスト以上のリターンを得るというミッションもありますので各セグメントはスペシャルティとしてROA8%以上の事業の塊にしていきます。そして、4カ年の中期経営計画で掲げる「環境、ライフサイエンス、高機能で新たな価値を提供するカテゴリートップ企業」を確立していきたいと考えています。