高機能繊維特集/将来性は揺るぎない/スーパー繊維 環境・安全対応する素材

2009年10月01日 (木曜日)

 高強力・高弾性が特徴のスーパー繊維が苦戦している。アラミド繊維に代表されるスーパー繊維はこの数年、右肩上がりの成長を続けてきたが、昨秋以降の世界同時不況から需要が減少。2ケタ%の落ち込みを余儀なくされている。しかし、各社ともスーパー繊維の将来性には自信をみせる。環境・安全など時代のニーズに変わりはないからだ。今後、ますます軽量化などのニーズは高まる。そこには高強力・高弾性のスーパー繊維は不可欠。今次不況の落ち込みは一時的なものに過ぎない。

クラレ/欧州会社に専任担当者 品種拡充し新用途開拓

 クラレは高強力ポリアレリート繊維「ベクトラン」(年産1000トン)の欧州販売を強化するため、6月からドイツのクラレ・ヨーロッパに専任担当者を置いた。クラレ・アメリカのベクトラン担当者を常駐させ、繊維資材を担当する日本人3人と合わせて拡販を目指す。

 5月、ドイツ・フランクフルトで開催されたテクテキスタイルにもベクトラン中心に出展。100件を超える来場者があり、現在アプローチしている。

 ベクトランは今上期、「次のステップに向けて身軽にする」(天雲一裕執行役員繊維資材事業部長)ため、在庫整理などもあって収益は苦戦。生産量も15~20%落ち込んだ。下期に向けては需要家の在庫調整も完了し、引き合いは増えており、上期よりは改善させる計画を組む。

 ただ、「好調時の8割までしか戻らない」と見て、用途開拓を加速する。ベクトランの特徴を生かしたプリント配線基板用の織物、パルプ、さらに短繊維による紡績糸など新商品で新市場を掘り起こす。

 また、ポリマー改質による品種も拡充する。現在、高強力、高弾性の2タイプだけだが「耐熱性タイプを年内には発表する」(梶田栄機能素材部長)と言う。

 当初、計画していた年産3000トンへの増設は現中計中には行わないなど戦略を転換。まずはフル生産に持ち込むことを当面の目標に据えるが、むしろ「市場環境が変わった。量を戻すことよりもベクトランが貢献できる用途を探索することに重点を置く」(天雲執行役員)。

帝人/機能向上で成長に備える 北陸など川中とも連携

 帝人はパラ系「トワロン」「テクノーラ」、メタ系「コーネックス」のアラミド繊維事業で、次の成長に向けた開発に取り組む。「機能性を向上するとともに、加工度も高める」(帝人テクノプロダクツの高須良弘社長補佐兼アラミド営業部長)考えだ。

 トワロン短繊維にゴムとなじむ薬剤を付与した「サルフロン」やパルプの新製法であるジェット・スピニング、さらに燃料タンクの補強材としての開発も進む。テクノーラはトワロンと異なる独自製法による耐薬品性などの特徴を生かし、コンクリート補強材や特殊ロープでの開発を強化。自動車用FRPでの開発にも取り組む。コーネックスは新製造プロセスの開発が課題となる。

 また、加工度を高める一環として、北陸産地企業など川中企業との連携も強化。「今後は最終需要家と共同で川中企業にも積極的にアプローチしていく」と話す。

 同社のアラミド繊維事業も世界同時不況下で苦戦を強いられているが「軽量化など自動車を中心に2~3年内に再成長に向かう」とみている

東洋紡/土木建築で開発強化 来年の増設は慎重に

 東洋紡は高強力ポリエチレン繊維「ダイニーマ」(年産1600トン)は土木建築資材などに重点を置いた開発に力を入れ、新たな柱分野に育てる。

 ダイニーマは釣り糸、ロープ・ネット、防護衣、手袋などが主力。今上期は自動車の組み立て工場で使用する手袋が大幅に落ち込んだ。大型タンカーなどの係留索(ホーサー)、加工品の主力、ヘルメット向けも苦戦。横ばいと健闘する釣り糸などでカバーできず、売り上げ、利益は前年比15%減と「この数年では初めて前年実績を割り込む」(佐野茂樹機能マテリアル事業総括部長兼スーパー繊維事業部長)見通しだ。

 世界同時不況で販売は落ち込んでいるが、5~10年後を見据えながら、新用途の開発に取り組む意向。既存用途では釣り糸で世界市場を見据え、コンバーターの拡大を図り、増販につなげていくほか、防獣ネット用の拡大などにも取り組む。

 生産設備は前上期、供給不足から在庫が枯渇していたためフル稼働中。しかし、10年1月に計画する増設(1600トン)は合弁相手の蘭DSMと協議し、慎重に進める意向だ。

東レ・デュポン理事ケブラー事業部門長・平井 陽氏/新用途開拓を推進

 東レ・デュポンのパラ系アラミド繊維「ケブラー」。6月にケブラー事業部門長に就任した平井陽氏に、今後の方針を聞いた。

――不況の影響は。

 昨年後半までフル生産だった。タイヤも、他の主だった分野も売れていた。しかし、その後在庫調整場面となり、1~3月は大底となった。4月から回復基調にある。とはいえ、元の需要に戻ったわけではない。

――現在の用途は。

 タイヤコード、手袋を含めた防護衣料、光ファイバーケーブル、コンポジット、ブレーキパッドなどだ。グローバルにみると、防護関連の需要に元気がない。自動車関連も落ち込んでいたが、ここにきて一部に回復の兆しが見られる。

――不況下での対応策は。

 これまでは糸売りを中心にしてきた。しかし、今後は糸以降でいかに加工して使うか。その提案力を強化していく。新しい用途開発だ。タイヤコードでもいろんな糸との組み合わせも考えたい。コンポジットの分野でも同様だ。ケブラーには、優れた高強度・高弾性率、軽量、耐熱性、耐衝撃性、耐切創性、非研磨性、非導電・非磁性などの特徴がある。こうした特性を生かす用途はまだ多い。

 東レとデュポンにはそれぞれオートモーティブセンターがある。また、東レの合繊クラスターもある。そうした外部との連携で用途開発を進める。

――下期の課題は。

 既存のビジネスを広げて、売り切る。将来に向けて顧客の要求を整理する。さらにどこに商機があるかを精査し、新用途開発を推進する。これはチームで進めたい。