アジア物流の新潮流/中国で拠点強化進む

2009年08月28日 (金曜日)

 今年上半期の日本のアパレル輸入は、点数では4・2%増の18億7989万点と増加したものの金額では前年同期比4・7%減の9598億円と減少した。繊維製品の輸入は、市場の低価格化による単価下落で金額ベースで落ち込んでおり、物流コストの見直しが進むなか、物流各社は厳しい収益を強いられている。

 中国からの輸入は数量で2・7%増の16億9000万点と前年同期を上回ったものの、金額では4・4%減の8044億円と減少。アセアンからは金額、数量とも増え、金額が11・6%増の692億円、数量では21・9%増の1156万点と、経済連携協定(EPA)の影響で大きく伸長した。

 今後、東南アジアでの物流拠点の開拓が課題となるが、景気後退の影響で進んでいない。ただ、現地の雲南物流産業集団が50億元(約700億円)を投じ、昆明で中国・アセアン国際物流港の建設に着工するなど、着々と中国とアセアンの物流網は拡大しており、調達で苦労している東南アジア各地の縫製工場などへの恩恵が出てくる。

 もちろん、中国も輸入金額が落ち込んだとはいえ、物流各社にとっては重要な地域に変わりない。景気回復後を見据えた日本、中国、東南アジアを結ぶ物流網の強化が各社の課題となる。

共栄倉庫/上海共栄が「お墨付き」/年々取り扱い拡大

 物流倉庫業の共栄倉庫(大阪市淀川区)は、中国での検査や流通加工など中国事業が堅調に推移している。同社は今期、世界同時不況の影響で国内事業が前期比20~25%減で推移する。しかし、中国現地法人・上海共栄泓明倉儲服務(上海共栄)の2009年上期(1~6月)の業績は前期比5%増と好調だ。

 03年に設立した上海共栄は、日本染色検査協会(ニッセンケン)と提携し補修や修整、試験などを実施できる体制を整えている。「品質第一」の姿勢がユーザーに浸透、年々取り扱いを増やし、今期は大手アパレルとのパートナー的な取り組みなども本格的に進めている。

 7月27日に上海共栄は中国の国家質量監督検験検疫総局(中国検験検疫総局)から「中国検験検疫・輸出入商品検験鑑定資格期間」の認定を受けた。

 この資格を持つ機関は、先進設備や検査機器、検査手法やデータ測定力を有すると中国当局から認定され、証明効力のあるデータとその結果を対外的に示すことができる。また、中国検験検疫総局が発行する刊行物「中国検験検疫」の専用コーナーで、広く認定機関として紹介される。

 世界的に食料品や衣類など日用品への「安全」「安心」意識が高まるなか、中国は輸出品への検査体制を強化している。今回の資格認定はその一環で、実力のある機関を認定することで検査水準を底上げする狙いがある。今回、繊維業界以外も含め、現地資本や合弁、外資の検査会社や検査機関など中国全土で27社が認定を受けた。

 上海共栄が検査機関として国から「お墨付き」を得たことで、共栄倉庫にとっては中国事業の拡大に一層の弾みがつく。

センコー/「集中通関」が可能/日中一貫物流構築に注力

 総合物流業のセンコー(大阪市北区)は近年、アパレル物流で急速に存在感を増している。同社のアパレル物流の特徴は、中国・大連を拠点とした日中一貫物流に強みを持っていることだ。

 中核となる現地物流拠点・大連三興物流(55%出資)は、通関や検品・検針、値札(バーコード)付け、店別梱包といった種々の流通加工が行え、日本における物流倉庫と同等以上の機能を有する。

 大連三興物流はアパレル物流についてほかの倉庫にはないアドバンテージを持つ。税関から特例としてアパレル製品の「集中通関」が認められているのだ(通常は精密機器などの政府奨励品目の大規模工場などに与えられる)。

 保税港区に入る際の事前通関が不要で貨物搬入後に最大1カ月分まとめて通関申告できる。本通関前にアパレル製品を検査することで不良品を返し、補修したうえで良品のみを通関できるため、ロスを減らすなど様々なメリットがある。

 同社の日中一貫物流は、中国現地拠点での流通加工から輸出通関↓海上輸送↓輸入通関↓店舗配送まで、グループ企業で完結できる。そのため、より効率的で信頼性が高い物流が可能になる。

 独自のWMS(倉庫管理システム)とSCEM(サプライチェーンイベント管理)で日中2国間の在庫を一元管理し、顧客は発注から配送までの進ちょく状況をウェブで確認できる。

 同社は10年第4四半期(10~12月)竣工予定で大連三興物流の第2期物流センターの建設工事を開始した。従来の1万平方メートルに2期分の1万3000平方メートルの新センターが加わることで、日中一貫物流の強みを一段と磨く。

トレーディア/インド、中国の拠点拡充

 国際総合物流業のトレーディア(神戸市中央区)はインド、中国の拠点を拡充し、国際一貫物流を強化している。通関だけでなく三国間貿易や検品など、精度の高い物流関連の「ツールを増やす」(鈴木安雄取締役営業本部長)ことで多様な顧客のニーズに合ったサービスの提供に全力を尽くす。

 同社は昨年4月、深せんに中国・深せんに台湾系の物流企業と合弁で海盟国際物流〈深せん〉を、9月には香港に海盟国際物流〈香港〉を設立し、中国での物流拠点を拡充してきた。

 近年、季節物の家電など華南地区で生産し、香港から日本や第三国へ輸出するケースが増加しており、家電製品の物流を中心に強化するとともに、繊維製品の取扱量も増やしていく考えだ。

 また、インドも物流ルートを構築しつつあり、2007年にインド大手の物流企業OMロジスティクスと取り組み、インド国内輸送や保管、国際輸送など貨物の輸送サービスを提供する合弁を設立。現地に進出する日系自動車メーカーなどへの対応を増やしている。

 中国、インドの拠点を活用した国際一貫物流を強め、減少傾向にある国内物流の落ち込みをカバーする。

 とくに深せんや香港では、経済連携協定(EPA)を見据え、ベトナムなど東南アジアを結ぶ物流ルートの構築も進める。

 昨年10月には西日本で初めて神戸税関長から「認定通関業者」の認定を取得した。これは国際物流での貨物のセキュリティー管理とコンプライアンス体制が整備された通関業者に対して認定されるもの。顧客への信頼感を一段と強めながら、国際物流事業を拡大する。

カケン/上海・青浦区で新センター開設/支援ビジネス展開も

 検品のカケンは、5月に中国・上海市の2カ所目の検品センターとして「上海科見服装検験」(通称:上海カケン青浦検品センター)を開業した。受注増に対応したもの。同社は中国の上海(宝山)、大連、青島、北京、南通、深せんに検品センターを有し、昨年12月に新たに煙台検品センターを開設。青浦検品センターはこれに続くものだ。

 青浦検品センターは、上海市にある既存の宝山検品センターから車で約40分。江蘇省へのアクセスにも便利な上海市青浦区外青松公路華紡路に開設された。3万6000平方メートルの敷地で、建物面積は4067平方メートル。従業員は90人だが、200人規模に拡大する計画だ。

 宝山検品センターは上海周辺の衣料品や雑貨などを検品してきたが、受注が増えており、新たに検品センターを開設することになった。五十嵐俊夫社長は「納期管理や品質精度の向上と更なる利便性を高めるためのサービス強化を基本にする」と新センターの目的を語る。

 青浦検品センターには検品や検針場のほかに研修室も設けた。これは同社が中国で進める検品支援新ビジネスの一つである自社内検品・検針作業の環境作りと検品動作の指導業務を行うため。「縫製工場から検品指導の要望が多く、現場で指導するほか、青浦検品センターでも研修を行う。工場だけでなく検品工場からの研修依頼もある」と言う。

 こうした支援ビジネスには、・生産管理代行業務・縫製ラインに対する技術指導業務・現場で使用するミシン針を含めた危険物および備品等すべての管理手法の指導業務・自社内検品・検針作業の環境作りと検品動作の指導業務などがある。

近鉄エクスプレス/中国全土に充実の物流網

 近鉄エクスプレス(東京)は、アパレル業界向け物流ソリューション会社「GFWインターナショナル」を中心にアパレル物流を総合的にサポートしている。

 GFWインターナショナルは07年3月に、同社のほか検診・検品などを手掛けるジーエフ(岐阜県)と、アパレル納品代行業務などで実績を持つ3PL(サードパーティーロジスティクス)企業で百貨店納品の大手であるワールド・ロジ(大阪市)の3社合弁で設立した。

 アパレル物流で求められる最大の課題として、リードタイムの短縮とコスト削減が重要と見ている。リードタイムの短縮では、アパレル専用のシフトを組むなどの高速サービスが必要と考えている。また、全体最適の見直しで、コストの抑制を図りたい考え。

 近年は中国から日本への輸送だけでなく、中国での内販など、中国で生産した商品を、中国の他地域へ輸送するニーズも高まってきた。近鉄エクスプレスは、中国で46都市・110拠点をベースに航空・海上輸送、中国国内輸送を展開しており、こうした新たなニーズにも的確に対応できる。

 中国ローカルの物流会社は、コストだけを見れば非常に安い企業が少なくない。だが、屋根もないトラックで輸送するなど、商品管理や保険の対応などの面で、日本企業が必要とする水準に達していないことが多い。

 多くの日系フォーワーダーも、エリアごとに合弁パートナーが異なるケースが少なくない。このため、近鉄エクスプレスのように中国全土を網羅したネットワークを確立している物流会社は少ないのが実情で、納期をはじめ、商品の保全など安心できるサービスを含めると、同社は強い競争力を有しているといえる。