インクジェット捺染 導入相次ぐ
2009年02月23日 (月曜日)
インクジェット捺染機の導入が相次いでいる。小ロット短納期対応が可能であるという特徴が現在の状況に合致。セーレンなど一部を除きこれまで中小の染色加工場が多かったが、大手でもインクジェット捺染機を導入するケースが増えている。その背景にはヘッドを中心とする装置の進化や染料、顔料ともインク開発も少なくない。スクリーン捺染などに比べエネルギー消費が少ないという環境面もある。インクジェット捺染機の今を追う。
装置、インク開発進む
昨年9月、長繊維染色大手の小松精練が9月に参入した。「既存のインクジェット捺染と一線を画す高水準の素材」と自負する製品はデジタルプリントファブリックとして、海外では「ウスタモックML」、国内は「モナリザ」ブランドで展開している。「海外ではデジタルプリントが普及しているが、前処理工程と後加工による差別化で独自性を打ち出している」ことから今月ミラノで開催した10春夏商談会や仏プルミエール・ヴィジョンでも「欧州にはない素材」として高い評価を得ている。
日本では屋外屋内広告などのサイン業界が多いインクジェット捺染だが、同社が指摘するように欧州では先行している。イタリアではファッション衣料も含めて2割以上がインクジェット捺染と言われるほどで、日本でも急速に広がりを見せている。
急速に広がる可能性大
大手企業ではインクジェット捺染機を導入しているのはセーレンを筆頭に、前述の小松精練、平松産業(石川県能美市)、艶金興業(愛知県一宮市)、東海染工、和歌山染工(和歌山市)など。インクジェット捺染機ではないが、その前処理加工を行う企業も少なくない。
ミツヤ(福井市)はその一社で、サイン業界用ではカンボウプラス、平岡織染も前処理布を展開している。インクジェット捺染は前処理も重要なポイントで、その良しあしは色に大きな影響を与えると言われる。
このところ大手企業の参入が目立つのは一昨年、独で開催されたITMA2007で、従来機の2・5倍の処理能力を持つ装置がメーカーから発表されたことも大きい。
さらにインクの開発も進んでいる。染料・薬剤もインクへの関心は高い。同時に前処理剤への引き合いも強まっている。
将来的にはインクに機能剤を混ぜてインクジェット捺染で機能性を付与する手法も検討されている。
中小企業でもインクジェット捺染は増加傾向。京都では今年「振袖の3分の1がインクジェット捺染になるかもしれない」との声もある。
京美染色/インクジェットで構造転換 ナッセンジャー4台を活用
捺染加工の京美染色(京都市上京区)は約10年前にコニカミノルタIJのインクジェット捺染機「ナッセンジャー2」を導入。同機3台と2年前に設置した「ナッセンジャーV」の合計4台のインクジェット捺染機を有するが「長期的にはインクジェット捺染へ集中的に投資していきたい」と大塚晴夫社長は言う。そして「マーケットは確実に広がっており、商機はある」と手ごたえも示す。
同社は1939年創業で今年70周年を迎えた。京友禅など和装用が落ち込むなかで「若い人が意欲を持って仕事が出来る」という点に加え、中国にはできない、小ロット短納期対応、そして京都という都市部での立地ながら事業化しやすい点、さらに友禅で培った意匠力が生かせると判断。インクジェット捺染に参入した。導入当初は苦労したが、インクジェット捺染導入によって、和装以外の販路の開拓に成功。事業構造転換のキッカケになったと振り返る。
現在のインクジェット捺染事業は分散、反応染料インクを使い、和装5割、資材用(スカーフ・ネクタイも含む)3割、衣料用2割の構成だが、衣料製品販売(OEM含む)にも力を入れる。現在、自販事業は全売上高の2割弱。これをさらに引き上げていく。
経済産業省の自立化事業にも採用され、衣料製品販売にも参入したことがある。人材面から1年間はホームページも含めた自社での製品販売を休止していたが「今年から再開し、将来的な柱に育成したい」と言う。
同社は京都府亀岡市の工場で手捺染とインクジェット捺染の前処理加工も行う。
同社が導入するインクジェット捺染機を販売するコニカミノルタIJは今春から世界最速機を発売する。512の高速駆動ノズルヘッドを24個搭載し、最高で時速210平方メートルの高速プリントを実現した。この速度はナッセンジャーVと比べ3倍弱のスピードと言う。
クラボウエレクトロニクス事業部システム開発部企画開発課長・成田 裕氏に聞く/インクジェット捺染の今
――染色加工業界を取り巻く環境が急変している。
昨秋以降、衣料品の買い控えが顕著であり、末端消費は2~3割減と言われ、早期回復も見込めないことを2009年は覚悟し、それにいかに対応するかが重要になっている。従来品を安く作り販売するという発想では消費者は振り向かないだろう。
――そのなかでインクジェット捺染機の導入が相次いでいるが。
小ロットで安価に生産するというコスト削減のためにインクジェット捺染機を導入するのは誤りだ。インクジェット捺染機はあくまでもツールであり、スクリーン捺染に出来ないものができるという提案、マーケティング、プロモーションが重要になる。当社も装置販売だけでなく、ソフトウエアも含めた支援に力を入れていく。
――大手染色工場でもインクジェット捺染機が導入しているが、その背景は。
リードタイムが短いという短納期対応だろう。スクリーン捺染では難しい柄の表現も強みだ。そして“デジタル”というブランド力もある。
同時にハード面での技術水準が高まったことも大きい。解像度向上、スピードアップなどヘッド部分はかなり進歩した。また、インク開発や前後工程を含めたデータなど染色加工場の質的向上もある。
逆に色使いにおいてデジタルの限界もある。スクリーン捺染と同じではなく、そこをいかに改良するかが業界全体の課題となる。
――具体的には。
スクリーン捺染の大胆な色使使いなどインクジェット捺染で現在、表現できないものはある。点描のための粒状感を無くすこともその一つで、その解決のため淡色インク使いによる手法は進んでいる。
――インクジェット捺染はのぼり・旗など資材が多いが、衣料用も含め染色加工の主力となるのか。
その技術をアパレル、消費者が受け入れるかどうか。環境対応も訴求点の一つだが、まだ過渡期。顔料では堅ろう度の問題が残っており、反応・分散染料でも発色には蒸気を必要とする。このため、インフラがある染工場しか事業化できないとも言える。
――無地での活用は。
均一性やなど捺染以上に難しい。下地、後処理などトータルでの技術的な課題は残されている。