特集/抗菌防臭素材/環境変化で高まるニーズ
2009年02月20日 (金曜日)
いまや欠かせない定番素材
日本は世界に冠たる機能加工大国だ。とくに抗菌防臭加工は最先端を走る。その古くて新しい抗菌防臭加工のニーズが改めて高まってきた。背景には社会環境の変化、ライフスタイルの変化がある。例えばインナーやスポーツ分野。近年、若い女性の間でフィットネスやウェルネスがブームだが、その際に着用するウエアは、汗で汚れることが避けられない。そこで洗濯をするのだが、いまの時勢を反映して、若い女性が衣類を天日干しすることはなく、ほとんどが部屋干しだ。日光消毒ができないため、通常の素材では、どうしても臭いが気になる。このためスポーツインナーやウエアを中心に抗菌防臭素材のニーズが高まる。
また、医療機関などでは院内感染などが問題となって久しい。ここから抗菌加工を高度化させた制菌加工への注目が高まる。こうした背景から、いまや抗菌防防臭加工は、欠かすことのできない定番素材となっている。一方で、輸入品を中心に機能不十分な商品が市場に出回るということも跡を絶たない。これが抗菌防臭素材のブランドイメージを悪くしていた。この問題を解決するのが公平な第三者機関による品質チェックと認証制度だ。日本では、繊維評価技術協議会(繊技協)のSEKマーク認証がこれに当る。しかも、繊技協では認証制度の高度化を進めている。
これらを踏まえ、今回の特集では、改めて日本の素材メーカーの抗菌防臭、制菌加工に焦点を当てると同時に、繊技協の取り組みの現状を追った。
紡績/後加工技術で機能高度化
日本の紡績は、これまでも優れた後加工技術を開発してきた。その代表格が抗菌防臭加工である。綿やウールといった天然繊維の優れた風合いや物性を生かしながら、機能性を付与するというコンセプトは、とくにインナーや寝装など、直接肌に触れる分野で強みを発揮する。最近では、天然由来加工剤を使用したものも注目が高まっている。
ダイワボウノイは、抗菌防臭素材に関してSEKマークを取得したものだけで10種類以上という豊富なラインアップを誇る。そのベースになっているのが「ミラクルセット」だ。とくに白度の高い加工反が可能なことから寝装用途で評価が高い。SEK青マーク取得で静菌活性値も6と高い。またヨモギ・シソ・アロエなど天然由来の抗菌加工剤を使用した「ハーブトリート」、人体に優しいリン脂質ポリマーを使用した「レイポリー」も抗菌性に加えてSR性能などにも優れる。ヒノキ由来の抗菌加工剤を使用した「ヒノキフレッシュ」、キチン・キトサンによる抗菌性が特徴の「キトリーナ」もユニークだ。
シキボウはSEK赤マークを取得する制菌加工「ノモス」が好評。加工布が細菌の細胞壁、細胞質膜に作用し、細菌細胞内の酵素を変性させることで不活性化させる仕組みだ。医療機関などで問題となるMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)の増殖やVRE(バイコマイシン耐性腸球菌)に対する抗菌性能も確認されていることが画期的だ。病院向けシーツや白衣用途を中心に、同社の機能加工素材では売り上げナンバーワンを誇る。靴下向けに抗菌防臭糸加工「ノンスタック」も用意。近年のニーズを反映して部屋干し対応の抗菌防臭・消臭素材「ルームドライ」もユニフォームなどで広がってきた。
日清紡には、ナノテクで銀を加工した抗菌防臭加工「Agフレッシュ」がある。寝装やタオルで拡大が進む。SEK赤マークに対応した制菌加工「ピーチラボ」は、病院白衣用途が中心。これもMRSAや緑膿菌の増殖を抑える。そして昨年から販売を開始したのがプラチナによる抗菌防臭加工「プラチナシールド」。京都大学と共同開発したナノテク加工だ。従来品を越える安全性と高機能が特徴だ。シャツからスタートし、今後はユニフォームやホームテキスタイルに広げる考え。SEKマーク取得も検討中だ。
クラボウは「クランシル」「シモーネ」をラインアップする。クランシルはユニフォームや寝装では定番商品だ。静菌活性値も5以上と高い。シモーネは糸加工が多く、靴下用途で活用する。また、制菌加工「レムノセック」はSEK赤・橙マーク取得。病院用シーツや白衣用途で好評だ。同社は電子線グラフト重合加工素材「イブリック」でも抗菌加工を展開する。まだSEKマークは未取得だが、赤マークの取得が可能な機能を確認しているという。繊維を分子レベルで改質することから、半永久的な洗濯耐久性が可能である。
富士紡ホールディングスは、「シルタイル」加工が定番的に売れている。とくにTシャツ用途が多い。静菌活性値6以上という効果の高さも特徴だ。綿100%だけでなく、得意の精製セルロース繊維「レクセル」混やHWMレーヨン「モダール」混でも展開する。また、人間の脂肪酸に含まれる成分が黄色ブドウ球菌の増殖を抑える働きに注目し、同じメカニズムの天然由来系加工剤を使用した「ケアトリナチュレ」もイチ押し。コラーゲンと抗炎症作用のあるグリチルリチン酸ジカリウムを配合することでさわやかな着心地を実現する。
もともと消臭機能を持つウール。しかし近年ではユニフォームを中心に抗菌防臭素材のニーズが高まってきた。とくに学生服は、頻繁に洗濯するわけにはいかないからだ。ニッケは「サニアップG加工」でSEK青マークを取得する。特殊加工で洗濯耐性を高めたことが特徴。学生服では実績のある素材だ。また、SEKマークは未取得だが、近年注目が高まる光触媒抗菌加工も用意。豊田通商が展開する光触媒加工剤「V―CAT」を使用し、ニッケ独自のナノテク加工「ナノミラクル」を活用した。
合繊/練り込みで耐洗濯性高い
後加工だけでなく、練り込みなど素材自体に抗菌防臭、制菌機能を持たせることができるのが合繊の魅力だ。とくに医療用白衣で高度な機能をもった素材が多数ラインアップされている。
「院内感染を防がなくてはいけない」という考えが広がるなか、東レの制菌加工素材「マックスペック」が白衣用途で広がりつつある。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)や病原性大腸菌O―157などの細菌に対して優れた制菌性を発揮、SEKマークでは赤ラベルにまで対応できる。繰り返し工業洗濯後の制菌効果も従来品の3~5倍に向上。白衣だけでなく介護衣料、寝装用途でも使われている。制菌機能は不要だが、抗菌防臭といった機能が必要な顧客に対してはSEKの橙、青ラベルまで対応できる「セベリス」を提案する。
クラレは、スポーツや学販、介護衣料、白衣などユニフォームへ幅広く展開する抗菌防臭素材「サニター」シリーズを打ち出す。通常の抗菌防臭機能があるサニターと、制菌加工でSEK赤マークまで対応できる「サニターEX」、短繊維の「サニター30」の3種類をラインアップし安定した供給量がある。練り込み型であることから、機能は長期間持続し、日光や熱、湿度の影響もほとんどない。洗濯を繰り返しても性能は基本的に維持され、酸や有機溶剤、各種消毒剤にも耐久性がある。
とくに高い機能があるサニターEXでは枯草菌、緑膿菌、肺炎かん菌、大腸菌、サルモネラ菌、腸炎ビブリオ菌、白せん菌、黄色ブドウ状球菌など、幅広い菌に対応ができ、白衣用途での引き合いが多い。他にもスポーツ衣料用途に浸透し始めたのが消臭抗菌防臭素材「シャインアップEX」。芯がポリエステル、鞘がナイロンの芯鞘構造で、鞘部分に金属含有セラミックス系特殊薬剤を練り込んでおり、光触媒と化学的中和という2つのメカニズムで効果を発揮する。織物の目からホコリが侵入しにくいことから防塵衣としても優れる。
帝人ファイバーは、10年前に開発した制菌加工素材「バリュー」が医療用の白衣用途に定着しつつある。バリューは黄色ぶどう球菌、肺炎かん菌、メチシリン耐性黄色ぶどう球菌(MRSA)、大腸菌、緑膿菌、O―157などの毒性の強い細菌の繊維上の増殖を抑える制菌加工で、特殊技術により制菌成分を繊維内に吸着させていることから、耐久性が大幅に向上している。厚生省令第13号に準拠した工業洗濯(80℃×10分)150回後でも制菌効果が持続する。
また、メラミン樹脂などを使用しないノンホルマリン加工により、人体に安全で環境にも影響を与えず、繊維評価技術協議会(繊技協)が定める安全基準をすべて満たす。燃焼した場合も有毒なダイオキシンをほとんど発生させないといった優れた特徴を持つ。SEK赤マーク対応可能。医療用白衣を中心に引き合いが多く今年度は約3万平方メートルの販売を予定する。