特集/ウールは飛翔する

2008年12月18日 (木曜日)

 ウールに元気がない。最近では“ウール離れ”といった言葉までささやかれる。とくに今年は、年初から原毛価格が高騰、そのため糸・生地値も上昇したことが需要の縮小に拍車をかけた。とくに婦人服でこの傾向が顕著だ。一部では「ウールには、機能性など価格に見合う付加価値がない」といった声も聞かれる。だが、こういった認識自体が、素材特性に対する無知、あるいは誤解から生じたものと言わざるを得ない。そもそもウールは、天然の機能素材である。また、風合い面でも他の素材をしのぐ。だからこそ長い歴史のなかで、ウールは他の繊維素材とは“格”が違う頂点素材として君臨してきたのだ。そういった基本に立ち返ることが重要だ。折りしも昨年10月、AWIとザ・ウールマーク・カンパニーが統合され、今期から大々的なプロモーションを実施する。また、素材メーカーの革新素材や最高級素材も充実する。そこで今回の特集では「ウールは飛翔する」と題して、他素材とは“格”の違いを見せつけるウールの新しいステージを切り開くべく飛翔への胎動をまとめた。

天然のマルチ機能強みに

 機能素材といえば、合繊の独壇場と思われがちだが、どっこいウールこそ天然のマルチ機能素材である。ウールには大きく分けて6つの機能がある。

 まずは撥水・吸放湿性だ。ウールは繊維表面が疎水性の表皮、スケールで包まれており、内部は親水性のコルテックスで構成される。しかもスケールの間には細かい溝が存在する。このため水滴は表面のスケールがはじくが、水蒸気は溝を通ってコルテックスに吸収される。また吸収した水分も、逆のルートで速やかに発散される。だからムレたりベトついたりしない。

 断熱性にも優れる。ウールは単繊維1本1本が倦縮構造を持つため、糸・生地にすると繊維が複雑に絡み合い、60%もの空気を含む。このため内部の空気層が外気温の影響を抑える。ウールの服が、冬暖かく、夏涼しい理由だ。しかも、もともとウール自体の熱伝導率も低い。合繊の約5分の1、他の天然繊維の2分の1である。

 難燃性もある。ウールは内部に多くの窒素や水分を含むからだ。このため着火しても自然鎮火して燃え広がらない。また溶融せずに炭化するだけなのでやけどの危険性も低い。有毒ガスも発生しない。スチュワーデスの制服やレーシングスーツなどにウールが使われている理由だ。

 防シワ機能もある。ウールは繊維がらせん状の分子鎖で構成されているため弾力性に優れる。このためシワになりにくい。ウールのスーツなども、ハンガーで吊るしておけば自然とシワが取れる理由である。

 染色性の良さもウールの特徴だ。ウールは内部に染料が浸透しやすく、しかもウールを構成する19種類のアミノ酸が染料と広範に結合する。このため発色性と染色堅ろう度が高い。だから学生服やフォーマルスーツなど濃色が求められる用途でウールが活躍する。

 そして防汚性。ウールは繊維表面をエピキューティクルという薄膜に覆われている。これが水をはじく。このため汚れが付きにくい。また、水分量が多いので静電気の発生も少ない。このためちりやほこり、花粉などが付着しにくい。クリーンで衛生的な繊維なのだ。

 こういった天然の機能素材であるウールだが、風合い面でも他の繊維とは一線を画す。とくにスーパーファインウールと呼ばれる極細繊度ウールの風合いの素晴らしさは、モノによってはカシミヤをしのぐほど。やっぱり、ウールは他の繊維とは“格”が違うのである。

ニッケ/組織改編、テキスタイル強化

 ニッケは、中長期ビジョン「NN120」に沿って12月に組織を改編、衣料繊維では紡績、テキスタイル、ユニフォームの3事業本部体制を一体化させた。同時に同社では初めてとなる「海外営業部」を新設、グローバル市場開拓への強い意志を示した形だ。

 組織の一体化の狙いは「ニッケが持つ“強み”の発揮」(迫間満執行役員衣料繊維事業副本部長販売統括)。その強みとは技術力を背景にしたモノ作りや品質などに対する“安心感”だ。実際、スクールユニフォーム向けに濃紺だけでも9000色、糸染めの柄も4万色あるなかで小ロット・多品種・短納期対応できるという強みは「顧客にも評価してもらっている」と言う。

 ニッケの強みの一つは「プルミエール・ヴィジョン」などの海外展示会を通じて、欧州のトップブランドにも認知度が高まりつつある点だ。例えば「MAF」シリーズのなかでも15・5ミクロン以下の原毛だけを厳選し、ニッケの紡績・織布・染色整理技術の粋を結集して開発した「ゴールデンMAF」は海外でも高い評価を得た。

 海外営業部に直結するミラノオフィスでは、これまで情報収集が主な任務だったが、本格的な営業活動を開始する。

 より高品質なモノ作りを手掛けるため、印南工場(兵庫県加古川市)のエアジェット織機を入れ替え、来年6月までにエアージェット織機10台を増設。生産体制の強化を図りながら、グローバル市場へ前進する。

クラボウ/「エコ・ウォッシュ」拡大

 クラボウは、特殊防縮加工ウール「エコ・ウォッシュ」の拡大を進める。すでにパタゴニアのウールインナーに採用された。肌当たりのチクチク感がないことが高評価の理由だ。

 エコ・ウォッシュを原料にした特殊紡績糸「ニューヤーン」も、別の海外アウトドアブランドが採用に動いており、こちらは連携するスミテックス・インターナショナルが生地でデリバリーする予定だ。極細番手紡績が可能なことから、カットソーでも風合い面で評価が高い。これも国内の大手アパレルが婦人カットソーで採用に動いている。

 そのほか、ミルド仕上げや圧縮ジャージなど加工での差別化も同社の強みであり、婦人ワンピースなどで大手アパレルに採用されている。

 同社では今後、エコ・ウォッシュやニューヤーンなど独自素材の拡大で苦戦するウール事業のばん回を目指す。

AWI/「スーペリア・メリノ」/新ブランドで差別化加速

 AWI(オーストラリアン・ウール・イノベーション)は今年度から、従来の「ウールマーク」「ウールマーク・ブレンド」に加え、新たに「スーペリア・メリノ」と「スーペリア・メリノ・ブレンド」を展開している。加工プロセスの認証と、牧場からファッション製品までのトレーサビリティー(生産履歴追跡)を盛り込むことで、ウールマーク・ブランドの差別化につなげる方針だ。

 差別化ブランドのキーワードは、「ナチュラル」「クリーン」、そして「手の届くぜいたく品」。これらのブランドイメージを具現化するため、「メリノ」の名称を前面に打ち出し、従来のイメージの刷新を試みる。

 スーペリア・メリノの特徴は、これまでのウールマークが最終製品の品質証明のみにとどまっていたのに対し、サプライチェーンの品質証明を行う点にある。トレーサビリティーを確立することにより品質の一貫性を保証。消費者のみならずライセンシーが望むクリーンでハイファッションなイメージを表現している。

 さらにスーペリア・メリノの強みを生かし、トップメーカーから紡績、ニッター・織布業者、製品メーカー、小売店までを対象にした「スーペリア・メリノ・クラブ」を設立。B2B戦略を通じてオーストラリア・メリノ・ウール・ブランドの育成、拡大を今後の課題に掲げ、同ブランド商品の小売販売増加に取り組む。

三甲テキスタイル/“Jスタイル”を提案

 三甲テキスタイルは残暑や暖冬など最近の日本の気候風土に適応したウール素材トレンド“Jスタイル”を提案中だ。純毛素材だけでなく、ウール・レーヨン混やウール・綿混など複合素材を充実することで、快適性や軽量感などを訴求することが狙いだ。

 また、軽量素材のニーズが依然として高いことから、09秋冬では空気を多く含ませることで膨らみ感と軽量感を両立した特殊梳毛糸使い「エアロウール」も用意した。ユニークなところでは椿(ツバキ)油加工素材「椿」がある。旧カネボウ時代に研究開発していたもので、このほど新たにラインアップした。まずはメンズに先行投入し、“艶っぽい男”を演出する。

 一方、ロードサイド向けでは、景況悪化による需要減退の可能性が高いというのが同社の見方。こうなると、これまで以上にユーザーに“お買い得感”を感じさせる機能素材の充実が重要になる。このため09秋冬からダイヤモンド微粒子を触媒に使った抗菌防臭素材「ナノ・トレンド・ダイヤモンド」シリーズに温度調節機能素材を新規投入するなど、バリエーションを拡大した。

 同社は大垣新工場で紡織染一貫生産体制を持つ。近年、国内生産を評価するユーザーが増加傾向にあることから、国内生産の安心感を訴求しながら、営業の精度を高めることで売り上げの拡大を目指す。

東亜紡織/「オーセンティコ」主力に

 天然素材ウールで「高品質」なモノ作りを追求する東亜紡織のテキスタイル営業部は、2009年秋冬対応の取り組みを得意先と進めており、個々のニーズに応じながら太いパイプ作りを推進する。同営業部はメンズ対応が8割近くを占め、販売チャネルは郊外専門店チェーンを主力に百貨店アパレルや量販店など。

 08秋冬対応では羊毛原料の高騰などで、ポリエステル混(ウール70%・ポリエステル30%)などへのシフトが見られた。それが来秋冬対応では価格も落ち着いてきたことから、再びウール回帰(ウール100%使い)ということになるのではと見ている。ただすべての販売チャネルで価格志向が強まっていることから、こだわり志向とともに価格への意識も引き続き強めていく。

 2009年秋冬テキスタイル傾向は、国内では引き続きニュージーランドメリノの最高級素材「オーセンティコ」使いを主力に展開する。しなやかで柔らかな風合いや優れたストレッチ性、クリアな発色、美しい染め上がりなどが特徴で、ここでは高級志向をさらに高度化する。

 カシミヤ混など獣毛混タイプもポイントで、ここではオーセンティックなハイクオリティー志向を具現化。このほか冬の機能性として、蓄熱保温素材などを開発中だ。

ニューヨーカー/スーツは特徴明確化

 ニューヨーカーの09春夏対応の紳士服は、主力のスーツ企画では柄を絞り込み、自社製のスーパー90's使いによる品番(3型)に販売を特化する。デザインは2ツボタン(構成比25%から50%へ拡大)にシフトする。

 具体的には(1)クールコンフォート=清涼・軽量・ストレッチ(2)トラベルコンフォート=細番手ウール+マイクロポリエステル+ポリウレタン、ストレッチ・防シワ(3)ハイグレード・クール・ウール=ウールやモヘアによる天然繊維のクオリティーを生かしながら清涼感と防シワ機能を有する。

 これらは既に実績のあるオリジナル3素材で、自社工場による一貫生産という強みを生かし、原料から吟味した品位の高いタイプ。軽量や吸湿速乾などの機能も取り入れ快適な着用感を提案する。とりわけダウXLAに注目し、新世代ストレッチ素材のバリエーションを広げている。

 このほかクールビズ対応でジャケットコーディネート提案を強化。ジャケットは3型で、ウール・シルク・リネン・XLA使いを展開していく。

フランドル×AWI/30周年でコラボ/ニットやコートを発売

 フランドルは今秋冬、創立30周年の記念イベントと絡め、AWI(オーストラリアン・ウール・イノベーション)と「ウールマーク」の共同キャンペーンを実施した。

 イメージキャラクターに女優の深津絵里さんを起用し、大規模な交通広告や雑誌広告を展開。9月下旬からは「触れて、羽織って、フランドル」キャンペーンを、10月下旬からは「今の私、フランドルのコート」キャンペーンを実施した。

 ハイクオリティーな様々な糸を使った30周年記念ニットや、アニバーサリープライスのコートを発売。買いやすい価格帯で高品質なメリノ・ウールを訴求した。

 AWI日本支社は、08年秋冬から、世界市場に先駆けて日本の消費者に向けたメリノ・ウールの販売促進キャンペーン「ジャパン・マーケティング・プログラム」(略称JMP)を開始。業界パートナーとのコラボレーションにより消費者プロモーション活動に注力している。

 JMP参加社は伊勢丹、オンワード樫山、三陽商会、フランドル、青山商事の5社。AWIが1億4000万円の予算を投入し、参加企業がその2倍を負担して店頭プロモーションや雑誌広告、ポスター、カタログなどを作製。ウールマークによる高品質メリノ商品を訴求した。

ロッキンガムペンタ「ハーディ・エイミス」/モダンブリティッシュ追求

 “ピュアな素材・ピュアな組織・ピュアなつくり”を来春夏のシーズンテーマに、モダンブリティシュを追求するロッキンガムペンタの「ハーディ・エイミス」。新シーズンは洗練されたモダンで紳士的な英国スタイルのニューモデル(細身のシルエットなど)を前面に押し出す。

 スーツの価格帯は5万9000~7万9000円。立ち上がりのシーズン前期ではスーパー100+使いで定番のシャークスキンを、トレンドカラーのグレージュ(ベージュ系の淡いグレー)を載せて提案。

 夏に差し掛かる中期にはウール100%のライトウエートのフレスコタイプをミディアムグレーのストライプなどで表現。加えてモヘア混(ウール84%・モヘア16%)のシャンブレーなどを打ち出す。後期では盛夏に向けてブルーコードストライプのリネン混などを打ち出す。

 このほかのアイテムでは、前期にジャケットはシルク混(ウール62%・シルク38%)で、上品な光沢感をクラシックな格子柄で提案。ピュアウールのスラックスは、グレーバリエーションでニューラインを展開していく。