ワイパー/開発力で市場を拡大
2000年09月29日 (金曜日)
ワイパーは家庭用、産業用、業務用とすそ野が広いだけに、不織布の用途の中で最も新市場を創造する可能性が高い。花王の家庭用ワイパー「クックルワイパー」はその代表格だろう。このため、SL(スパンレース不織布)や化合繊短繊維各社は重点用途に掲げているがその分、競合も激しい。SLでは既存メーカーの増設、新規参入も相次ぎ供給能力が急増し、これがレーヨン短繊維使いを中心にスパンレース不織布の単価下落にも結びついた。単価下落で市場を広げたのは間違いないが、それだけではない。SL中心とするワイパー市場は開発力こそ勝負だ。
ワイパーの中で最もメジャーな存在はユニ・チャーム、ピジョンが圧倒的に強いベビーウエット(赤ちゃんのお尻拭き)だが、それ以外のウエットワイパーも拡大している。
業界推定によるとウエットワイパー市場は年間約一万二千トンだが、化粧雑貨や介護用品などにも広く使われ始めた。拭くだけで車のワックスかけができるソフト99の「フクピカ」などもその応用技術から生まれたといえよう。
クラレの高岡光彦生活資材事業本部長は「価格が下がっただけではなく、機能性が評価されてきた証」とSLの将来性に自信を深める。
ドライワイパーではポリエステル短繊維使いSLを使用する花王の「クイックルワイパー」が代表格だ。しかも、「クイックルワイパー」は世界戦略商品に位置付けられ、提携先の米SCジョンソン社が米国を含む世界百三十カ国(花王が従来販売する国を除く)で発売を始めた。
花王の不織布使い製品の売上高は実に千二百億円に達する。「クックルワイパー」以外にも紙おむつ、クッキングペーパー、「ビオレ毛穴すっきりパック」など化粧雑貨、ペット用の「ブラッシングシート」など実に幅広い。紙おむつを除き、新商品として発売されるものの大半はSLがベースとなる。
花王はその一例に過ぎないが、拭く作業における不織布の認知度が高まっていることは間違いない。SLメーカーがワイパーを中心とする生活資材の開拓に躍起になる背景はここにある。当然、新用途を生み出すには開発力がポイントになろう。
大手SLメーカーであるダイワボウは今年七月、子会社のダイワボウレーヨンの益田工場に隣接する形でSL新設備を立ち上げた。設備投資額は約二十五億円で、年産五千トン(三・五メートル幅)とSLでは大型設備で、毎分百二十メートルという高速カードも導入した。
量産体制に入るのは十一月からだが、田村紀男常務は「レーヨン短繊維使いの開発商品に主体を置く」とあくまでも新商品、新用途開拓のために増設したことを強調する。「ウエットワイパー用だけなら半分の投資で済んだ」ともいう。今回の増設は開発重視の表われでもあるようだ。
ダイワボウと並ぶ大手SLメーカーのクラレは全社的に開発重視の姿勢を貫いているが、SLを中心とする「クラフレックス」でも同じ。今年一月、生産部門を分社化したのは開発のスピードアップを図る狙いもある。
中期計画で不織布売り上げ五〇%増を計画するとともに、SLとメルトブロー不織布の増設を検討する同社の特長はレストランなど外食産業用ワイパー「カウンタークロス」を中心に製品事業が売り上げの五〇~六〇%、原反ベースで三〇%と高い点。この拡大を図る意味もあり、スペースの空いたサーマルボンド不織布設備を改造することを決めた。
製品展開は不織布メーカー各社が指向するところ。ダイワボウでも「新商品ではユーザーの要望に応じて製品化も考えていきたい」(田村常務)とする。
こうした大手二社に対し後発でも独自色を強めながら製品シフトに動いている。最後発の部類に入るオーミケンシはウエットワイパー向けの原反販売を減らし、製品、半製品の拡大に取り組む。
光沢感のあるレーヨン短繊維を使った贈答品用包装材料、農業資材のマルチシート、化粧雑貨、ブラインド、壁紙などでも製品展開を進める考えだ。
各社が製品指向を強めるのは市場のニーズをつかみ易く、それを次の開発にフィードバックできるためである。それが新市場を創造することにつながるとの判断からだ。
その代表格が旭化成のベンベルグ長繊維不織布「ベンリーゼ」だろう。「ベンリーゼ」は工業用ワイパー、ガーゼが主力用途で、両分野はそれぞれ「ベンコット」「ハイゼガーゼ」のブランドで製品展開する。
かつてはウエットワイパーにも展開していたが、レーヨン短繊維使いSLの競争激化から「機能が認められるものは維持するが、半値以下のSLとの競合はしない」(高橋光治ベンリーゼ・コルドン営業部長)と安値ゾーンからの脱却を明言する。
一方で「ベンコット」「ハイゼガーゼ」は機能が認められた商材として需要を拡大している。「ベンコット」はクリーンルーム用ワイパーとしては七割近いシェアをもつ。
業界推定で、クリーンルーム用不織布ワイパーの市場は年間千五百トン。昨今はIT関連産業の伸びもあって市場は拡大。「ベンコット」の販売量も今上期は二〇%増となった。アジアでの生産増に伴い輸出も拡大しているという。
SL各社も同分野を虎視耽々と狙うが、短繊維使いではリント発生の問題が残るだけに、価格は一〇~一五%安で提示ながら「ベンコット」の優位性は揺るいでいない。
SLとは一線を画す「ベンリーゼ」の思想は湿式スパンレース「コルドン」でも継承されている。アクリル極細原綿使いの高性能ワイパー「シャレリア」(レーヨン短繊維SLの四~五倍の値段)と二次電池セパレーターに絞り込んだ。これが効を奏し、七〇%稼働でも採算が乗る体制を構築している。
絞り込みと製品化と言えば綿100%使いSLもそのひとつだ。日清紡「オイコス」とユニチカ「コットエース」はレーヨン短繊維SLと競合する商品だが、高価格でありながら独自市場を創造した。おしぼりや女性のパンティライナーはじめコットンへの引き合いは強く、両社とも増設意欲をみせる。
ユニチカの「コットエース」は他素材混の生産が追いつかないこともあって、中国の不織布メーカーと提携し、綿レーヨン混SL(工業用)の輸入販売を試験的に始めるほどだ。
これにより、国内の垂井工場は品質要求度の高い対人用綿100%に絞り込み展開し「商品開発、用途開発の目途が付き次第、増設を行う」(峰田喜彦執行役員スパンボンド事業本部長)。
価格ばかりが先行しがちなSL市場ではあるが、それだけではない証しだと言える。ダイワボウレーヨン(約一〇%)、東邦レーヨン徳島(キロ二十円)は十月出荷分から、原料となるレーヨン短繊維の値上げを打ち出したが、原料メーカーの置かれた状況も考慮してSLメーカーも受け入れるべきだろう。高くても売れる商品を作ることはできるはずだ。
<工業資材/伸びる電池隔離板用途>
工業資材の中で成長用途のひとつが二次電池セパレーターだ。二次電池は日本企業が世界の八〇%を握る市場であり、とくにトヨタ「プリウス」、ホンダ「インサイト」などエンジンとモーターとを併用するハイブリッドカーに使用するニッケル水素電池需要は拡大を続ける。そのセパレーターに不織布が使われる。二次電池というハイテク産業、そして環境に配慮したハイブリッドカー。不織布は二十一世紀に求められる素材であることは間違いない。
ニッケル水素電池セパレーターで圧倒的なシエアを握る日本バイリーンは今年五月、東京工場に約十四億円を投じて専用設備を導入した。生産能力は年産三千万平方メートル(製品幅二メートル)と既存設備(年産六百万平方メートル、幅一メートル)に比べ約五倍の能力で、同社のニッケル水素電池セパレーターにかける意気込みを感じさせる。
衣料芯地メーカーのイメージが強い同社だが、次代を担うのはセパレーターなどを電材事業の可能性が高く、?電材の日本バイリーン?と呼ばれる日は遠くない。
ニッケル水素電池の年間生産量は約八千八百万個。日本の携帯電話は軽量なリチウムイオン電池が主流なため、海外の携帯電話用が八四%を占め、その他は家電用九%、パソコンや工具七%で、今後はデジタルカメラの需要増も見込まれるが、やはり、市場としてはハイブリッドカー向けへの期待は大きい。
トヨタでは「プリウス」に加え「エスティマ」「クラウン」でもハイブリッドカーを発売するとも言われる。一台当たりの電池セパレーター使用量は「プリウス」で、二十平方メートルに過ぎず、エンジン主体の「インサイト」は十平方メートルに過ぎない。
日本バイリーンによれば現在、ハイブリッドカー用のニッケル水素電池セパレーターは年間五十~六十万平方メートル。これが〇三年には十倍の五百万平方メートル、〇五年にはさらに二倍増の千万平方メートルと予測する。
そのニッケル水素電池を製造販売するのが、トヨタ自動車と松下電池の合弁会社であるパナソニックEVエナジーだ。ホンダの「インサイト」も同社がニッケル水素電池を供給する。
業界関係者によればリチウムイオン電池でハイブリッドカーを研究する日産自動車も、リチウムが水と反応すると燃えたり、揮発性の有機溶剤を使用するため、ニッケル水素電池も並行して開発中で、マツダも研究を進めているようだ。
ニッケル水素電池のセパレーターは細デニール(一・一T)のポリプロピレンショートカットファイバーが原料だけに「高強力タイプ?シムテックス?が八月から本生産に入った。これも武器にセパレーターには力を入れる」(宇部日東化成)とポリプロピレン短繊維メーカーも紙おむつに次ぐ、重点分野と位置付ける。
このポリプロピレン短繊維を湿式(紙すき)でシート化し、ウォータージェットで絡合させる湿式スパンレース不織布をベースに、親水加工を施したものがニッケル水素電池セパレーターとなる。
湿式でウエッブを形成するのは均一性が求められるためである。また低目付化が進んでおり、従来は一平方メートル当たり七十~八十グラムであったが、今や六十グラム。二年後には五十グラムの可能性もあると言われる。
低目付で、かつ均一性のある不織布とするには湿式スパンレース不織布が最も適している。また、親水加工(ポリプロピレンはそ水性)は電解液が水酸化ナトリウムを使用するため行うもので、これを効率的に行えるかどうかが大きなポイントにもなる。
現在、日本バイリーンのほか、ダイワボウ、旭化成がニッケル水素電池セパレーターを手掛けている。旭化成は唯一、ナイロン66を原料とする。
現在のところ日本バイリーンが高いシェアを握る。橋口俊治電器材料本部長は「電池セパレーターは開発のスピードが早く、それに対応すには技術、品質管理の蓄積、ノウハウが必要」と自信を示す。電器材料本部は連結ベースで今期六十億円、二〇〇五年度には九十億円の売り上げを計画するが、ハイブリッドカー向けの拡大を見込んでいる。
次世代カーのエンジンとして期待される燃料電池が登場すれば、ニッケル水素電池に置き換わると見る向きもあるが「燃料電池は瞬間的に出力を出すことが難しい。このため、二次電池を使用することになろう」と橋口本部長は見通す。
また、電動スクーター、光ファイバーケーブル化に伴なう非常用電源用などもニッケル水素電池の新市場として商品開発が進められており、まだまだセパレーター需要は衰えることはなさそうだ。
ただ問題は電池の価格。松下電池、三洋電機が二分する市場だが、リチウムイオン電池の価格下落(この五年で半値)に伴い、ニッケル水素電池も五〇%以上も値下がりした。セパレーターへの値下げ要請も厳しいが、日本バイリーンでは「今後、プライスリーダーとして価格は維持する」構えだ。
ハイブリッドカーも今のところスタートしたばかり。日本バイリーンも「スペシャル品番をスペシャル管理で供給している。これをルーティン作業でも行うことが課題」にあげる。
<自動車資材/低コスト対応が課題>
不織布は自動車と切っても切れない仲にある。内装材はもちろん、各種部品に不織布が使われるており、その比重は高い。主力はニードルパンチ不織布(NP)で、全体三〇%を自動車資材で占める。多いところでは実に六〇%を自動車資材依存している。それだけに、自動車業界の再編、海外生産シフト、そして従来にも増して強まるコストダウン要請にいかに対応するか。不織布メーカーに課せられた課題は多い。
日本自動車工業会によると、九九年の自動車生産台数は九百八十万台と遂に千万台を割り込んだ。これはピークに比べ三〇%近い落ち込みだ。
今年一~七月の自動車生産台数は前年比四・二%増の六百六万七千五百台(乗用車は五・五%増の五百万九千二百六十四台、トラックは一・九%減の百二万五千八百六台、バスは一三・八%増の三万二千四百三十台)とモデルチェンジ効果もあって増産に転じたが、一方で、日系メーカーの海外生産は一~七月で一〇・八%増の三百二十一万八千四百五十四台を記録。間違いなく、海外生産は増えている。
自動車資材として不織布の主力用途は内装材だ。中でもカーマットは大型用途のひとつだが、バブル崩壊後、高級車の売れ行き不振、売れるのは軽自動車や一〇〇〇CC~一三〇〇CCクラスの小型自動車ばかりとなる中で、カーマットのNP化は一気に進んだ。大半の車種にNPを採用するところも多く、NP化率は六〇%とも七〇%とも言われる。
NPシフトはタフト製カーマットの需要減につながり、これは基布を供給するポリエステルSB(スパンボンド)メーカーに影響を与えた。ユニチカ、東洋紡が市場を分け合う、年間千五百~千六百トン規模の市場だが「需要は減少するとの前提で戦略を立てざるを得ない」(川﨑幸雄東洋紡SB事業部長)状況にある。
低目付化も進む。熱成型性が求められるカーマットでありながら、すでに基布の目付は一平方メートル当たり百グラムに達した。同時にコストダウン要請は一層、強まっている。
一キロ五百円台は維持しているようだ「技術面での問題は残されるものの、低目付化しないと利益が出ない」(峰田喜彦ユニチカ執行役員スパンボンド事業本部長)。タフト製カーマットを使用するのは高級車か輸出車、高級車は売れ行き不振、輸出は減少する方向にあるだけに、タフト製カーマットのビジネスの先行きは厳しそうだ。
NP製カーマットも楽観できない。同じく低目付化(ピークに比べ半分の三百五十グラム)、価格も半値以下にまで落ち込んでいる。つまり、自動車資材はいかに安く、品質レベルの高いものを供給できるかがポイントになる。
カーマットでは成型工程のスピードアップ、それに伴なう温度上昇に伴い、使用素材が原着ポリプロピレンから、帝人、日本バイリーンの子会社である小山化学、高安などが生産する原着ポリエステル短繊維にシフトした。これもコストを重視した表われだ。
これにより、原着ポリプロピレン短繊維の市場は急速に縮小。チッソが原着ポリプロピレン短繊維販売から撤退するに至る。三月からユーザーに説明を始め、今夏には生産を中止した。
今や、ポリプロピレン短繊維使いはトランクルームかドアトリムなど使用部位に過ぎず、同社の生産量もピーク時の月千トン以上から十分の一になっていた。
つまり、環境問題に熱心な自動車メーカーは軽量でリサイクルし易く、焼却しても有毒ガスがでないポリプロピレンよりもコストに勝るポリエステルを選んだということだ。自動車資材はコスト最優先ということなのだろう。ここ数年、NPメーカーが狙いを定めた天井材も同様だ。日本バイリーン、金井重要工業、ダイニック、オーツカ、呉羽テックなどが扱う分野だが、採算的には厳しい。表皮だけに品質管理が厳しいにもかかわらず、単価が低いためだ。
こうした品質、コストに対応できるかどうかで、不織布メーカーの成否が決まると言って過言ではない。
そして、売れる車に採用されるかどうかも大きい。
SBとは異なる独自製法の長繊維不織布生産するユニセルはエンジンルームの防音材で高いシエアをもつ。トヨタ以外全てに採用されるが、日産自動車などのリストラの影響が出始めたという。各社がトヨタ、ホンダの勝ち組みを目指すのはこのためだ。
もう一つの課題は自動車の海外生産シフト、部品の現地調達への対応だろう。
すでに、米国にはエアフィルター用を生産するトウヨウボウ・スターンズ(年産三百万平方メートル)、天井材を生産するフロイデンベルグ・バイテックリミテッド・パートナーシップ(略称・FVLP、日本バイリーンの子会社)があり、米国の好景気に支えられ好調に推移する。
トウヨウボウ・スターンズは日系部品メーカー以外にもアフターマーケットを拡大。FVLPはゼネラルモーターズやダイムラー―クライスラーで採用が決まったことから増設を決定。約十二億円を投じて、年産千四百万平方メートルの第2ラインを新設し、〇二年には総生産能力を千八百万平方メートルに拡大する。米国ではトリコット使いが大半を占める天井材だが、不織布化が進展しているようだ。
カーマットでも海外生産に対応が模索する動きがある。すでに、サンケミカルは中国に伊藤忠商事や現地企業と合弁会社による上海申陽藤汽車紡織内飾件(年産二百五十万平方メートル)をもつが、中国のファミリーカー構想、トヨタ自動車の進出を決定などフォローの風が吹き始めた。カーマット用NPを生産するフジコーでは海外生産を検討し始めた。
「自動車メーカーに追随していく」(椋梨秀道呉羽テック常務)との考えは各社共通するところ。一部を除き、これまであまり多くなかった日系不織布メーカーの海外生産は今後、具体化するのは間違いない。
<フィルター・土木建築>
フィルターは不織布にマッチした用途だろう。しかも、気体から液体まですそ野が広く、求められる特性は様々。その面では自在にその顔を変える不織布の特性が生きる用途だが、実績がモノを言う世界だけに先発企業の牙城を切り崩すのは容易ではない。
フィルターの中でも脚光を浴びるのが、都市ゴミ焼却場のフィルターバグだ。ダイオキシン問題で揺れる中、電気集塵機からフィルターバグへのシフトが進む。フィルターバグはガラス繊維織物と耐熱繊維を使ったニードルパンチ不織布(NP)が主流だが、ろ過効率の高いNP製が増加傾向にある。
実績、性能面で他を圧倒するのはフッ素繊維「テフロン」とガラス繊維の混綿したデュポン「テファイヤー」。フジコーが日本と東南アジアでの独占製造販売権をもつ。
耐熱性、耐薬品性、捕集効率に優れるという特性はもちろん、輸入販売からの長年の実績により「焼却場の操業に伴なう形状変化など蓄積されたノウハウがある。これは集塵機、プラントメーカーにとってもプラス」と山崎英夫常務営業本部長は自信満々。今上期も2ケタ%台の売り上げ増を確保するなど、対抗馬であるポリイミド繊維「P―84」(今年、東洋紡から子会社の呉羽テックに営業移管)との差を広げにかかる。
都市ゴミ以外の焼却場は様々な製造工場にあり、フィルターバグもその特性に応じた素材が使われる。メタ系アラミド繊維、PPS、フッ素繊維など耐熱繊維メーカーが主力に置く用途でもある。
スパンボンド(SB)でフィルター用途を攻めるのは東レだ。同社のポリエステルSB「アクスター」の素材特性に最も合致した用途であり、セメント工業用カートリッジフィルター向けが中心で「着実にマーケット認知されてきた」(青木隆夫アクスター事業部長)と手ごたえを感じている。
約六五%を占める輸出は今上期、前年比三〇~四〇%増。海外での実績を武器に国内の開拓にも取り組むが「基布売りではなく、製品までを熟知した上でプレゼンすることが必要。これは産業資材でのマーケティングの原点」として、マーケットインの徹底的に指向する。
フィルターは焼却場や産業用だけでなく、自動車でもあらゆるところに使われる。エンジンのエアフィルター、キャビンフィルターはそのひとつだ。
エアフィルターはトヨタが乾式不織布を使用するが、その他は湿式不織布が多い。業界推定で月産二百万平方メートルの規模にある。そのエアフィルターではコンパクト化が進む。エンジン設計後、装着部分を決めるともいわれ、エンジンルームのすき間が少なくなる中で、エアフィルターは小型化している。トヨタ「ヴィッツ」などでは一台当たり〇・三平方メートルしか使わない。
同時に廃棄処分とコストダウンの一環かもしれないが、プラスチックや金属ではなく、オール不織布のエアフィルターも増えており、前述の「ヴィッツ」では不織布成型体を採用している。
土木建築資材は不織布メーカーが最も期待を寄せる。中でもスパンボンド不織布(SB)メーカーは紙おむつに次ぐ用途に成長する可能性を秘めるとみている。ただ、土木資材に限ればスペックが確立するまで相当の時間を擁するため、まだまだ夢の段階。しかも、この数年の不況の影響で各種商品とも荷動きは芳しくない。
土木資材はポリエステルSBメーカーのユニチカ、東洋紡、東レが得意にするが「去年よりはまだ良いが、決して芳しくはない」(東洋紡)、「得意の港湾関係の工事減で低調」(東レ)のようだ。
ただし、夢物語に終わらないのが非衣料の特長。SB各社が取り組んでいた道路の床盤補強として使われれ始めた。土木資材は施行マニュアル化されれば、必ず動く。試験施行、そしてマニュアル作りが最大のポイントで、代理店との共同作業による地道な取り組み、それが土木資材開拓に必要不可欠と言える。
三井化学はポリプロピレンSBを土木資材に展開するが、これを子会社で土木資材専門の三井石化産資(十月一日付で三井東圧建設資材と合併し、三井化学産資に)が他の資材と合せて展開する。
また、物性面で必要ならば他素材との複合も積極的に手掛け、施行方法にマッチした商材を供給する必要がある。
土木資材の強化を掲げるトーア紡はニードルパンチ不織布で土木資材を展開するが、その他設備の活用も検討するのはそのためでもある。
一方、建築資材もオフィスビル建築の減少で苦戦中。SBはビル屋上の防水などに使用する。防水用途は年間四千~五千トン市場といわれ、東洋紡が高いシエアをもつが、同社でさえ「この数年では最も悪い状況」という。
ただ、同社の場合、建築資材の防水性能を生かした橋りょう防水が好調に推移。一般住宅の屋根下材も堅調で、紙からの代替が進んでいるようだ。
建築資材ではSBによるタイルカーペット基布が最も苦しい状態だろう。ユニチカ、フロイデンベルググループの日本ルトラビルという二強に、東レが絡むが、オフィスビル需要の減少、それに伴なうゼネコンの受注競争からタイルカーペット価格が下落している。
これは好景気で需要おう盛な米国と対象的といえよう。米国では玉不足のため、独フロイデンベルグ米国会社が基布用のポリエステルSBの増設(年産一万トン)を発表したほどが、日本では需要が減少しており、さらに「不合理な価格状況」(ユニチカ)にある。価格対応のため一部では目付九十グラムも登場するに至っている。
こうした中、タイルカーペット基布をベースとしながらも他用途へ傾斜し始めた。カーペット基布に強く、台湾で生産するポリエステルSBを輸入販売する日本ルトラビルもルーフィング基布の強化に動いた。
同グループでルーフィング基布専門のF―ポリテックスからSBや乾式不織布の輸入販売を本格化したもので「数社に採用されている」という。
<衣料資材/念願の表地に挑戦>
不織布が最も苦手とするのはファッション衣料の表地である。芯地や中わたなど目に見えない資材としては必要不可欠の不織布も、ことアウター素材としては物性、品位などの面から入り込めていない。そこに独フロイデンベルグ、米デュポンという世界第一、二位の巨大不織布メーカーが参入する。既存の製法と異なる次世代不織布を開発し、未知の領域であるファッション衣料の表地の開拓に取り組む。その姿勢はまさしく需要開拓を基本にする不織布事業のそのものである。
織物・ニット生地に次ぐ、第三のファブリックとして登場して以来、不織布メーカーの最終目標は衣料用アウター素材での需要確保に置かれてきた。不織布を基布とする人工皮革ではクラレ「クラリーノ」、東レ「エクセーヌ」などあるが、これらを除いた不織布の衣料用途での展開は芯地や中綿など副資材、手術用など特殊環境の使い捨ての作業着が中心。部分的使用を除けば、通常の衣料用アウター素材への採用は皆無に等しい。
その壁を打ち破るため、巨大メーカー二社が動き出した。次世代不織布はまだ開発の域を脱していないが、二社が二十一世紀への準備を着々と進めるあかしでもある。
フロイデンベルグの「エボロン(EVOLON)」は五月に開催されたANEX2000(アジア国際不織布産業総合展示会・会議)で、フロイデンベルグの子会社である日本バイリーンのブース正面に飾られた。同会場で「エボロン」を見た繊維素材メーカーの中には「将来的に織・編み物と不織布の垣根がなくなるのではないか」との危機感を感じたという。
ドイツから取り寄せた女性用の赤無地ジャケット、紳士用チェックシャツ、白無地シャツを出品。テストプラントでの生産のためか、製品に若干の固さを感じたが、厚手商品として織・編み物に比べ極端な見劣りはしなかった。
「エボロン」はスパンボンドとスパンレースの技術を組み合わせ、ナイロンとポリエステルからなる長繊維を紡糸(日本バイリーンのメルトブロー技術を応用)、ウエッブに集積した後、高圧水流によって〇・〇五~二・五Tのマイクロファイバーに分割、繊維を交絡し不織布にする。
一貫生産であるため、生産スピードが早く、コスト的にも優れるという。フロイデンベルグが今年半ば以降にコマーシャルプラントを稼働させる。
デュポンの「ノバ(NOVA)」は今秋、ジーンズアパレルの「リーバイストラウス」がパリで開くファッションショーで発表する予定だ。
「ノバ」はフラッシュ紡糸不織布「タイベック」技術をベースに開発し、従来のポリエチレン、ポリプロピレンだけでなく、様々な樹脂を使用できるのが特長。第一弾はスパンデックス「ライクラ」原料を使用する。デュポンの繊維ビジネスの主力である「ライクラ」と「タイベック」を組み合わせただけでも興味深い。
デュポンの不織布担当者によると「ノバ」はライクラとノンウーブンズ両ディビジョンの共同社内ベンチャーとして開発されたという。
今のところ九九年にノンウーブンズディビジョンが新設したNBD(ニュー・ビジネス・ディベロップメント)が担当。様々な新プロジェクトの中で商業化が最も早いものとして位置付けられており、二〇〇二年から本格展開する目論む。
さらに、同社は新不織布も開発中で「コンセプトは『エボロン』に近い」としており、一貫生産によりバリアー性と通気性を併せ持つ不織布だという。
両社より早く次世代不織布を発表したPGIノンウーブンズは最新レーザー技術を活用した「ミラテック」を持つ。「ANEX2000」ではデニム調ジャケットやチャイルドシートカバー、ピロケースなどを展示した。
伝統的な製法であるサーマルボンド、ニードルパンチでもアウター衣料に挑戦するのは倉敷繊維加工である。「クランボンフェースフォーム」のブランドで展開。今年一月には専任部署を設け、今秋冬向けから販売を開始した。
布おむつから紙おむつなど、不織布は織・編み物市場を代替してきた。衣料で成功すれば、不織布という言葉が織物や編み物のように、一般的に浸透することは間違いないだけに期待は大きい。
不織布がアウターに挑む一方、織り・編み物の攻勢に負けた用途がある。不織布にとって稼ぎ頭であった芯地だ。不織布芯地は日本バイリーン約五〇%、倉敷繊維加工約三〇%という寡占市場だが、需要激減に対応し、両社はバブル時代に膨れ上がった品種、品番、カラーの削減にもようやく着手、収益改善に取り組む。
さらに、最大手の日本バイリーンは芯地用設備の縮小、織物芯地への参入で、芯地の落ち込みを最小限に抑える戦略を組んだ。今年から別会社で運営してきた織物芯地を本体に取り込み、総合芯地メーカーとしての姿勢をより強めている。
倉敷繊維加工では商品開発とコストダウンを進める一方「当面は現状規模を維持できるだろうが、将来的には海外縫製での現地調達が増える」(山田忠美社長)との見通しに立ち、副資材問屋と連携しながら現地調達への対応の模索を始めた。
現地調達の増加は両社にとって、量的なベースである輸出商権を失うことでもある。これをカバーする戦略をどう組み立てるかが大きな課題だろう。
不織布芯地需要の減少は原料となるポリエステル短繊維メーカーに及び、各社の不織布芯地への投入量は減少の一途にある。
日本バイリーンとの関係から芯地など衣料資材比率が二〇%と高い東レのテトロン短繊維事業部が複合原綿を増強し、産業資材や生活資材へのシフトを強める要因の一つがここにある。