トップインタビュー/伊藤忠商事専務繊維カンパニープレジデント・岡藤正広氏 厳しい環境こそチャンス
2008年04月22日 (火曜日)
小売段階での販売不振、原燃料高などで厳しい環境に置かれている状況を「常態と受け止めている」と岡藤正広専務繊維カンパニープレジデント。それを逆に「チャンス」ととらえ「川下へのシフト」「東京市場の開拓」で、新規ビジネスの構築を模索する。苦戦するアパレルOEM(相手先ブランドによる生産)製品では顧客との取り組みを深めるとともに、ブランドビジネスではグローバル化を推進。可能性を秘めた業際分野でのビジネス構築を視野に入れながら、事業の拡大を進める。
付加価値型ビジネスを追求
――繊維マーケットは天候不順などで依然として芳しくありません。
いつも言っていますが、これまでずっと繊維は環境が悪いと言われ続け、自分自身そういった環境のなかでビジネスに奔走してきました。そのようなアゲンストの風が吹くなか、どのように業績を上げていくかを考えなければいけません。
むしろ景気が悪いときこそ事業の“真価”が問われます。ヨットではないですが、前からの風でも前進するくらいでないと。このところ資源インフレに見舞われていましたが、景気の減速からこれも沈静化してくる可能性があります。そのときこそ事業の値打ちが決まってきます。予算を立て、それをこつこつとやり遂げる。そうした努力によって本物の実力が培われると思います。
――前期の見通しは。
当初の見通し通りに増益を確保できそうです。
――今期の方針は。
まず、「現場主義の徹底」と「付加価値型ビジネスの創造」を重点課題に掲げ、消費者により近いマーケットでのビジネスを深耕したいと考えています。そのためにも「川下へのシフト」と「東京の市場開拓」の2点を実践していく必要があります。大きな組織改編は見送りましたが、アパレルOEM事業では当社が持つ機能を切り口に顧客との取り組みを深めるとともに、東京市場での対応力を強化します。東京は他の都市と違って情報量の多さが違う。
具体的には大阪本社で「ランバン」を軸にブランドビジネスを展開していたブランドマーケティング第二部第八課を東京にある同第三部に人員ごと移管し、安定収益基盤の上に立って東京での新しいビジネス開発に結びつけようと考えています。さらに同じ第三部で扱っていたスポーツメーカーのOEM事業を、ファッションアパレル第二部へ移し、ブランドマーケティングで培った新しい発想のOEMを根付かせます。
「川下へのシフト」と「東京の市場開拓」という方向性に終わりはありません。伸びている分野をもっと攻めていこうと考えています。
ブランドビジネスを世界へ
――もっと攻める分野とは。
まだ詳しいことを明かすわけにはいきませんが、アパレルOEMなど、従来型のビジネスモデルは過当競争などとともに陳腐化するスピードも速いことから、もっと伸びる可能性を秘めた業際分野でのビジネス構築が今期の課題になってきます。そういった従来の分野とは違う分野で仕組みを整え、M&A(合併・買収)の投資も積極的に進めながら、連結での利益をしっかり確保していこうと考えています。先端技術やブランドビジネスのようにM&Aもしながら、将来を見据えてちゃんとした道筋を作る。新しい土地を耕す屯田兵みたいなものです(笑)。
――OEM製品ビジネスは今後ますます厳しくなりそうですか。
“ファッション”は難しい側面があります。我々商社はどちらかと言えばレディースよりもメンズの方が強い。これはメンズがファッションのトレンドのなかでもベーシックな部分が多いためであって、レディースはファッション性が強いからこそ商売が難しい。商社にとって、あまりにファッション性の強いものは、大きな商売ととして結実しにくいとも考えられます。
OEM事業は、例え規模が小さくても在庫や倒産、コンプライアンスなどリスクが大きい。しかし、ブランドは小さければ小さいほど、単に市場を伸ばすだけですからリスクは少なくなります。もちろん、OEM事業をやめることはありません。ただ、我々のビジネス、機能を評価していただけるところと真剣に取り組む。つまりお客さんは我々を選ぶし、我々も選んでくれたお客さんを大事にする。そういった関係を構築しながら事業を展開していくことになります。
――どういったところとの取り組みになりますか。
SPA(製造小売業)形態もそうですし、アパレルでは年商30億~50億円くらいの中堅・中小規模の企業を支援するビジネスができるところが一番いいのではないでしょうか。スポーツやインナーなど素材から組み立てられる当社の機能を切り口にできるような取り組みです。
――ブランドビジネスの進ちょくは。
今期は、ブランド事業へのM&Aを本格化した、1999年から培ったノウハウを生かしながら、グローバル的な市場の開拓を進めていきます。中国をはじめとした東南アジア市場に力点を置く考えで、アジア市場に力を持つ海外有力企業とのコラボレーションも検討しています。
今年度も市場環境は厳しいと思います。しかし、繊維産業は戦後一貫して厳しい状況を潜り抜けてきたしたたかさが持ち味だといえます。繊維収益はブランド事業のM&A、とくにこの4年間で450億円の新旧資産の入れ替えが効果を表してくるはずです。それに加え、果実が実り始めた先端技術、機能素材など新商材が貢献する繊維原料、テキスタイル分野の健闘などが見込まれ、決して先行きは暗くありません。
(おかふじ・まさひろ)
1974年伊藤忠商事入社。2004年常務執行役員繊維カンパニープレジデント、同年常務、06年から専務。
世の中にカツ!/地球温暖化にカツ!
「地球温暖化も繊維業界の環境悪化の一因」と岡藤さん。このまま温暖化が進めば、衣料の売れ行きはますます悪くなる。もちろん、それだけでなく今後、花粉症などの病気の蔓延、耕作地の荒廃など様々な問題が生じる可能性が高い。同社では子会社のインクマックスを通じて無水染色事業を本格化するなど環境関連事業に力を入れている。それが温暖化防止への貢献に「少しでもつながれば」。一人ひとりの小さな取り組みも重要。だからこそ「個人の意識ももっと高めていく必要がある」。