08秋冬ウール素材特集 ウールは“繊維の王様”/本物追求と新領域開拓へ

2007年12月14日 (金曜日)

人類とともに歩むウール/日本企業の底力みせる

 人類にとってウールの歴史は古い。紀元前8000年ごろのメソポタミア文明で、すでにウールが使われていたといわれ、紀元前3200年ごろの古代シュメール人の都市では、紡績工場と毛織物工場があったことが記録に残る。

 歴史だけでなく、素材特性的にもウールは特別な繊維だ。羊毛のスケール(表皮)は2枚の親水性キューティクルが、1枚の疎水性エピキューティクルを覆う構造を持つ。このため撥水性を持ちながらも吸放湿性に富む、天然の“呼吸する繊維”である。やはりウールは“繊維の王様”だといえるだろう。

 そのウールだが、近年は干ばつなど自然災害を背景とした原毛の生産量減少や、それによる価格高騰など素材メーカーを取り巻く環境は厳しさを増している。一方で、市場では一段と本物志向が強まる。環境配慮といったニーズもますます高まってきた。これに対して、素材メーカーでは、獣毛を含む高級素材を充実させる動きを強める。また、ウールの新領域を開拓するような野心的な新素材も登場する。

 今回の特集では、本物志向の追求や新領域の開拓を進める毛紡績の最新素材動向をまとめた。また世界を代表する毛織物産地である尾州を中心に、毛織物企業の最新トレンドを紹介する。ウールという優れた素材と、ジャパンテクノロジーの融合により日本繊維産業の底力を示す。

日本毛織/“本物志向”に対応

 日本毛織は、08秋冬紳士素材として「テーラードシック」「ラグジュアリータッチ」「ユーティリティカジュアル」の3ラインを打ち出す。ニュージーランドエクストラスーパーファインウール「MAF」をベースに、高級獣毛素材もふんだんに使いながら、多彩な要素の組み合わせで豊かな素材感を演出する。

 テーラードシックは、MAFを中心に異型断面ウール「オーディン」などとの組み合わせで、テーラードテーストにレリーフ効果やムリネ効果を加えた素材群。上質な光沢感も演出する。ベースとなるMAFも、これまでのスーパー110(18ミクロン)中心から、スーパー130(17ミクロン)にグレードアップさせた。

 ラグジュアリータッチは、ホワイトカシミヤやアンゴラ、シルクなど高級素材をぜいたくに使った最高級素材群。ビーバーやベルベット、ソフトツイードなど織り組織にもこだわり、上質なつや、光沢、生地表情を全面に出すことで、市場の“本物志向”に対応した素材群だ。

 これらに綿や合繊を複合することによりナチュラルなカジュアル感を出したのがユーティリティカジュアル。ニット調ツイードなどで“バルキー&ソフト”をキーワードに据える。

 加えて、新素材「エアロツイン」が登場した。梳毛糸でありながら、紡毛糸の膨らみ感を持つ。これにより、従来品比較で20%軽量の織物が可能になり、近年ますます高まる軽量志向にマッチした素材である。これもカシミヤやアンゴラと混紡することで上品さとしなやかさが加わり、メンズスーツの多様なニーズに対応できる。

クラボウ/革新素材で新領域開拓

 クラボウは、好評のオゾン処理防縮加工ウール「エコ・ウォッシュ」を08秋冬でも引き続き前面に打ち出す。加えて、住友商事と共同開発した革新ウール紡績糸「ニューヤーン」と合わせて、ウールの未開拓領域に打って出る考えだ。

 エコ・ウォッシュは、塩素を使わずに繊維表面のスケールを生かしたままで防縮加工を施すことから、環境に優しく、羊毛本来の風合いを引き出す加工として好評を得てきた。それに加え、ここにきて製品染め・製品洗いや反染めなど「エコ・ウォッシュならではの商品の知名度が高まってきた」(繊維事業部の藪雅次副事業部長繊維第二部門長)。大手アパレルからの引き合いは多く、数社が採用する見通しだ。とくにこれまでウールが参入しづらかったカジュアル分野で伸びる。

 ここに、住友商事のニュージーランド子会社、サミットウールスピナーズ社の紡績技術を導入して共同開発した革新ウール紡績糸ニューヤーンが加わる。かさ高性、軽量性に富むうえに、原料にスケールが温存されたエコ・ウォッシュ原毛を使うことで、200番手以上の極細番手紡績が可能だ。直接肌に触れてもチクチクしない特徴から、インナーやスポーツといった新領域の開拓が可能になった。

 「肌の近くに。暮らしのそばに。そんなウールに」をスローガンに掲げるクラボウの繊維事業部繊維第二部門。ウールでカジュアルやインナー、スポーツといった新領域を開拓するための戦略素材が、エコ・ウォッシュとニューヤーンである。

三甲テキスタイル/紡織染一貫体制を構築

 三甲テキスタイルは、大垣新工場の竣工により国内での紡績・織布・染色整理の一貫体制を構築した。これを生かし、保温素材「エアーウール」、世界の原毛を活用する「ウールファームズコレクション」、他繊維との複合素材「マリッジアルファ」を打ち出す。

 エアーウールは、紡績方法の工夫により繊維に多くの空気を含ませた特殊糸を使った素材。保温性に加え、柔らかさ、軽量性に富む。

 ウールファームズコレクションは、ウールのほか、カシミヤやアルカパ、モヘアなど獣毛を含む世界の原毛をそれぞれに応じた紡績方法で特徴を引き出したシリーズだ。現在は南米、南アフリカ、豪州、ニュージーランド、英国の原料を採用している。

 マリッジアルファは、ウールにレーヨンやシルク、綿などを混紡・交撚・交織することで、ウールの良さに他素材の風合いや機能を付与した。日本独自の秋冬素材として提案する。

 同社のキーワードは“インテグレーション(統合)”。国内に生産基盤を持つ紡績としての強みを生かし、紡績から織布、染色整理までの技術と他素材との複合などで“ウールの総合力”を前面に打ち出している。また、毛糸も色糸のストック販売を行っており、こちらも多彩な色を用意することが強みだ。

東亜紡織/グループ全体でエコ追求

 東亜紡織は、トーア紡コーポレーション全体として、羊の育成から羊毛加工、製品化、流通、販売、使用、廃棄までの履歴を明らかにし、トレーサビリティーを確立した「グリーンウール・ラベル」の浸透に注力する。

 グリーンウール・ラベルとは、ウール製品の安心を表すシンボルマークだ。トーア紡を中心に、ウール産業に携わる有志企業が「グリーンウール・ラベル会」を発足。・トレーサビリティーの確立・科学的かつ合理的な基準の設定・透明性が高く、経済的で実現可能な基準の設定――などを実現させることで、環境と人に優しいウール関連製品を生産し、消費者へ供給。製品試験は日本繊維製品品質技術センター(QTEC)が実施し、原毛から製品に至るまでの各工程で、残留物質や使用する有害化学物質を制限する。

 グリーンウール・ラベルのトレーサビリティーは、購入した製品の下げ札から確認することが可能だ。下げ札の裏面に記載されたホームページへアクセスすると、牧場までの各工程をさかのぼって生産工程を確認することができる。また、この下げ札はコットンなどの自然素材を使用。ブックマークとしても活用することができ、付随品を含めたエコロジー活動を展開する。

 「健康、安全、安心の実現」を目指したウール関連製品の市場展開も積極的だ。9月には伊勢丹新宿店でグリーンウールフェアを開催。環境や消費者の健康に優しい製品の浸透を図り、グループ全体としてエコを追求する姿勢を示す。

 東亜紡織のメンズウエアとしては、ニュージーランドのメリノ社とイタリアのシュナイダー社が共同開発した高級素材「オーセンティコ」を主力展開する。そのほか、軽量素材ではマイクロファイバーポリエステルの細番手使い「エスタージュ」を提案。クールビズ対応素材だが、綾組織にすることで秋口にも対応した息の長い商品となるよう、バリエーションの拡大に意欲的に取り組む。

 さらに、機能面では高度撥水撥油加工の「ナノ・ペル」をイチ押しする。防シワストレッチ、防菌防臭、花粉防止、ウオッシャブルなどの機能を付加し、08春夏でも継続して展開。高級素材と機能素材の両面からウール素材の可能性を追求する。

尾州産地/ウールの先端素材を開発

 先月、機業を中心に紡績、染色整理、石油関連企業を交えた有志13社が合同で、毛織物価格の値上げ要請について、異例の会見を開いた尾州産地。原燃料や豪州羊毛の高騰、日本での生産縮小と厳しい環境が続くものの、開発面では先端を行く。先日開かれた「ジャパン・クリエーション(JC)」の出展素材を通じ、08秋冬向けの素材開発の最新動向を追う。

 08秋冬向けテキスタイル商談は、地球温暖化と原料高の影響で、秋冬素材でも薄地・軽量化が一段と進んでいる。ウールを使わない梳毛調テキスタイルなども登場し、若干のウール離れが見られるものの、きれいめ、エレガントというトレンドのなかではやはりウールは欠かせない。

 中外国島は、かつてイタリアからシルクロードを通って中国にやってきた商人「マルコ・ポーロ」のブランド名で展開するシルク使いの素材を多数そろえた。キャメルのソフトで膨らみ感とシルクの光沢を持たせたシルク・キャメルの混紡糸とウールとの交織素材は、シルクロードにある地名「疏勒(そろく)」と名付け販売、海外から仕入れた糸を使って、他社にはない素材を追求する。

 JC春夏展でシルク・ウールの上品な光沢感を引き出したテキスタイルを展示した長大は今回、ウール・ナイロンの「トライスピン・ブークレ・メルトン」や、ウール・ポリエステルの楊柳ダブルフェースなど合繊混素材を多数打ち出した。

 ウールだけでなく獣毛関係の素材も充実する。早善織物は上質志向のキャリア・ミセスに訴求するスーリーアルパカの単糸、双糸、タム、ループを使った素材群を充実させた。同社オリジナルのカシミヤ・アンゴラの起毛素材「ハヤゼン・マストロ」では、肉薄からダブルフェース、ジャカードなどを幅広くそろえる。

 エコ意識の高まりで環境に配慮した開発素材も生まれている。

 岐阜の機業10社が集まって結成する「チーム・ギフ」では、三星染整、京浜化成、日華化学、花王の協力で石油由来の薬剤を避け、天然油脂由来の薬剤で整理、仕上げをした素材群を「エコ・ライン」と名付け、来秋冬向けから展開する。従来の石油由来に比べても見劣りせず、表面感もいいことからJCでは注目を集めていた。